5-8 《!闘争の極み!》-3
「……っ!くそっ!」
激しさを増し続ける「サエ」の攻撃がついに「ユウ」にヒットした。[極みの拳]をスキルキャンセルした、「キャンセルボーナス」つきの光を纏ったハイキックが「ユウ」を捉える。慌ててユウヒは追撃を回避しようとするが、サエの冷酷な判断から繰り出された[極みの拳]による左ストレートを直撃させられる。
「ユウ」の体が吹き飛び、地面に叩きつけられる。
その瞬間、大きく会場が沸いた。
「試合開始より約20分!ついに試合が動いた!『サエ』選手の強烈な2連撃ぃ!!」
実況が興奮気味に告げると、観客のプレイヤー達が爆発したように騒ぎ出した。
「来た来たぁ!!」
「やっぱ『サエ』最高!!」
「いつまでも逃げられるワケねーんだよ!!」
「一気に崩しちまえー!!」
「『ユウ』諦めろや!!」
避けきれなかったことによる焦りがユウヒを襲う……しかし、観客達の声を聞いて、意地で持ち直す。
「うるせぇ、黙って見てろ!!」
そう毒づく。まだユウヒは諦めない。
一方、サエはついに決まった攻撃に興奮が抑えられなくなっていた。
「ははっ、捕まえたぁ!!」
弱ったシマウマを見つけたライオンのような勢いで追撃に向かう「サエ」。
しかし――
「…っ!?」
立ち上がった「ユウ」が繰り出したのは、またも[ロングスピアジャブ]だった。
突っ込んできた「サエ」に完璧なタイミングで繰り出されたソレは、サエの不意をつくことに成功していた。
「こ、この期に及んでまだ……!?」
ダメージを取り返したいであろうこのタイミングでまたしても[ロングスピアジャブ]という小技を繰り出す……そのユウヒの精神力に思わず背筋が震える。
「こ、このっ!!」
[極みの拳]を繰り出す「サエ」。しかしそれは。
「甘いっ!!」
ユウヒが画面の前でニヤリと笑う。[カウンタ―:ヘルファイア]……僅かなタイミングのズレも許されないカウンタ―技を、「サエ」の[極みの拳]に、この大舞台で決めた。黒い炎に包まれる「サエ」。さらにそこに[スマッシュ:ヘルファイア]を叩き込む。
「なっ!?」
一気に追い込みたいこのタイミングで、サエは思わぬ反撃を食らってしまった。
HPでは僅かに「サエ」が有利だが、それ以上に精神的なダメージが大きかった。
(崩れてない……!)
20分にも及ぶ攻防の末に叩き込んだ2連撃。並みのプレイヤーならここで一気に崩れ、「サエ」に押し切られてしまうところのはずなのだが……
――ふと、サエは気づく。
呼吸が荒い……しかも全身汗だらけになっていた。
「……っは」
思わず笑みが零れた。サエは自身が思った以上に消耗していることに気付いた。まるで自分自身の体を使って戦っているようだ。
「ユウ」の徹底した回避と要所要所の[ロングスピアジャブ]、さらにちらつかされている策の存在……
それと対峙しながら攻め続けることは、サエにとって予想以上に消耗することだったようだ。
知らない内に、随分と疲弊していたらしい。その結果があの迂闊な攻撃。
「くそったれ……!!」
そう言いながらもサエはまたニヤリと笑った。
サエと同じように、ユウヒもまた同じように消耗していた。まるでサエの鏡合わせのように、呼吸が荒く、汗まみれな男がそこにいた。
「元からいつまでも逃げ切れるなんざ思ってねぇよ……!!」
自分でも驚くような精神力で、サエの攻撃に見事な反撃を合わせられた。
もしここで崩れていたら勝負は決まっていたかも知れない。
「くそったれ……!!」
これがノハナ・サエ。絶対の女王……その強さを肌で実感させられる。だけど何故か、彼女も自分と同じくらい消耗しているのが、ユウヒにはわかった。
「まだだ、まだやれる……!!こうなったらとことん付き合ってもらうぞ!!」
ユウヒは画面の向こうのサエに届けるような気持ちで、吠えた。
(ここで退いた方が負ける!!……勝つのは私だ!!)
手痛い反撃を食らったにも関わらず、「サエ」は猛攻を再開していた。それに応えるように「ユウ」が回避し続ける。
[カウンタ―:ヘルファイア]と[スマッシュ:ヘルファイア]を食らった事で、さらに警戒すべき対象が増え、サエのメンタルを責め立てるが、それでもサエは攻め続ける。
その顔には凄まじい笑みを浮かべていた。ほとんど狂気に侵されているような、普段のサエが絶対に見せないような表情だった。
「楽しいねぇ、最高に楽しいねぇ!!産まれて初めてだよこんなのは!!カギノ・ユウヒぃ……!!ぶっ倒してやるよ!!」
ユウヒは、サエの気迫が自分に迫ってきているのを感じる。まるでユウヒ自身に殴りかかってきているような錯覚を覚える。
「……っ……あぁ……」
一瞬、恐怖に囚われる。その一瞬の間にまたも[極みの拳]による攻撃が「ユウ」にヒットする。
打ち下ろすような軌道のパンチを食らい、その場に叩きつけられる。さらに踏みつけ攻撃が迫る。
「ユウ」は転がるように踏みつけから逃れる。
「バケモノめ……!!」
いよいよもって目の前の相手が怪物にしか見えなくなってくる。
それでも戦えているのは、ひとえに自分の切り札、[極死の太陽]への信仰と言っても良い程の強い思いがあるからだ。
(諦めない限りは、勝てる可能性があるんだ!この「太陽」なら、最後の最後でひっくり返せるぞ……!!)
その為には今は耐えなければ。常に後退しながら戦うことで、[極死の太陽]の存在をちらつかせながら、相手の隙を誘う。
(アンタは攻める。僕は守る。さぁ、我慢比べだ……!!)
凄まじい戦いが繰り広げられていた。
「サエ」は攻め続け、「ユウ」は避け続ける。
正反対の動きをしている二人だったが、その心のありようは同じだった。
その様子は、見ている者全てに訴えかけていた。
二人の気迫、闘争心、覚悟……「相手を叩きのめす」――その強烈なエネルギーが観客達に伝染していく。
目の前の光景に誰もが魅入られていた。
興奮の叫びを上げ続ける者、打ちのめされたようにただ沈黙する者……反応は様々だったが、その戦いから目を離さないことだけは共通していた。
ことここに至っては、野暮な野次は飛んで来なかった。
「ユウ」を貶していた者達すら、この戦いの壮絶さに圧倒され、「サエ」には勿論「ユウ」にも畏敬の念を抱き始めていた。
今や見ている者達全てが理解していた。
どちらも全てを尽くして、今ここで戦っているのだ。
「サエ」が打ち崩すか。「ユウ」が最後にひっくり返すのか。
ノハナ・サエもカギノ・ユウヒも限界を超えたパフォーマンスを発揮していた。
そして、戦いは最終局面に突入する。




