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5-8 《!闘争の極み!》-1

 2038年は今日で終わる。12月31日。この日、SSLで最強のプレイヤーが決まる戦いが行われる。

 第5回グランドチャンピオンカップ、決勝戦。

 満員の観客席に囲まれた円形の専用ステージで、両者は向かい合った。


 ノハナ・サエのプレイヤーキャラクターで、前回の覇者、「サエ」。

 カギノ・ユウヒが操る、初心者からここまで這い上がってきた「ユウ」。


 全く違う容姿、経歴、技を持つ二人が、同じ場所に立って、お互いに決着をつけようとしている。

 

 「サエ」は白いローブのような服に黒く美しいロングヘア―が目を引く。

 「ユウ」のとても女性のキャラクターとは思えない筋肉質で大きな肉体は強烈な威圧感を放っている。


 しかし、サエもユウヒもお互いのキャラクターの容姿よりも、その向こう……実際にそのキャラクターを操っている人物の姿の方をより意識していた。この二人がゲーム外で一度実際に会っているせいだろうか?


 ユウヒは回想する。サエの「サエ」そっくりの美しいロングヘア―と、鋭い印象の目つき。その割に抜けた所もある性格……あの頃はこうなるとはとても思えなかった。感慨深い……が、その思い出ばかりを思い出している場合では無い。今から戦う相手には、極限まで集中していなければ、とても勝てない。

 すぐに頭を切り替えて、ただこれから始まる戦いにのみに集中を向ける。


 サエもまた、初めてユウヒと出会った時の事を思い出していた。

 SSL内でのキャラクターとあまりにも異なっていたので少し驚いた。

 ユウヒは、まさに「中肉中背」と呼ばれる平凡な体型で、容姿的に目につくところは何も無い、至って普通の青年だった。

 今までサエが格闘家として対峙した相手には、皆何かしらの特徴があった。戦いの場に立つ為に厳しい鍛錬をしてきた者特有の、その人それぞれの独特な雰囲気。

 そんな人間ばかり目にしてきたサエには、ユウヒの容姿や雰囲気は至って普通、何の特徴も無いように見えて、正直少し拍子抜けてしまった。

 しかし、そんなどこにでもいるような者が今、自分とSSL最強のプレイヤーの座を賭けて戦おうとしている。それがどうにも不思議で、夢の中にいるような気分から抜け出せない。

 しかも、今の「ユウ」は、サエが戦ってきたプレイヤー達、いやそれどころか格闘家として現役だった頃に対峙した者全てを含めても、今までで一番の難敵であるような予感すらしている。

 

 (本当に、どこにでもいるような人だったのにね……)


 ユウヒから発せられる強烈な闘気が直接自分の所まで届いているような感覚に、体がぶるっと震えた。

 怖いのでは無い。むしろ嬉しくて仕方が無いのだ。武者震い、というヤツだ。――今までに無い、相手。

 

 (よくぞ、ここまで化けたものね……!)


 経験したことの無い興奮が得られるであろう、戦いの予感に自分は狂ってしまうのではないか、と感じる。

 サエはやはり場慣れしている。興奮しつつもリラックスした様子で、周囲の観客達の声も聞き取れる。


 「『サエ』!」

 「『サエ』!!」

 「『サエ』!!!」


 純粋に自分を応援する声。


 「流石にコレはやるまでも無い」

 「ここまで結果が見えてる決勝戦も史上初だな」

 「『ユウ』が勝てるワケない」

 「[極死の太陽]ありきだしな、結局。確かに『ゴウカ』には勝ったけど、あんなまぐれは二度も起きないだろ」

 「『サエ』には絶対に通用しねー。棄権しろや、『ユウ』!!」


 「ユウ」は初心者だった頃に偶然、[極死の太陽]というSSL内で最大規模のスキルを手にした。

 所詮は偶然の産物。そこに何の努力も無い――そんな思いを抱くSSLプレイヤー達の反感を買っている。

 「ユウ」がPvPで勝ち始めてからは、彼を認める者も現れ始めたものの、「ユウ」の戦い方が[極死の太陽]を主軸に置いたものであったが故か、さらに反感を強くする者もいた。

 その結果、今のように「ユウ」を馬鹿にしたような発言をするプレイヤーも多くいる。


  [極死の太陽]ありきの、運が良いだけのプレイヤー。


 ――それが、「ユウ」反対派の主な主張だ。弱い癖に、たまたま手に入れた強力なスキルで卑怯にも勝ち上がった……要は「不公平じゃないか」という、見も蓋も無い言い方をすれば、嫉妬。

 しかし、サエは思うのだ。[極死の太陽]ありきでも構わないじゃないか。不公平、大いに結構。

 戦いとは、そういうものだ。不公平なのが当たり前だ。実際の格闘技なら、持って生まれた運動神経やら体格やら……なんの努力もしないで手に入る「才能」というものを各々持っている。

 それで自分が不利になったとしても、それでも立ち向かうのが戦いというものの本質だ。

 自分の使えるモノを各々最大限に活かし、潰し合うのだ。

 ノハナ・サエには格闘家時代の経験や[一筋の黄金]や[極みの拳]がある。

 カギノ・ユウヒには[極死の太陽]がある。

 どちらも、自分の持つモノを最大限に活かして戦ってきたのだ。

 だからサエは、ユウヒを非常に真っ当だと評価している。運が良いだけだの、卑怯だの不公平だのとは全く思わない。むしろ、与えられた[極死の太陽]をここまで上手く活かしていることに感心すらしている。


 確かに、カギノ・ユウヒはこのグランドチャンピオンカップの出場者の中では、単純な実力では一番弱い。

 しかし――


 (「強い」というだけでは、勝てない)


 ――ノハナ・サエの戦いの哲学だ。グランドチャンピオンカップも、「最強のプレイヤーを決める大会」と銘打たれているし、プレイヤーからもそう思われている。しかし、ただ強さを測るだけならそもそも戦う必要などない。それこそ、持っているスキルの数やらレベルを見て決めれば良い。

 それでもこの場で戦うのは、勝敗というものが単純な強さだけで決められるものではないからだ。

 妙な言い方だが、「強い者」が勝てるのでは無い。「勝てる者」が勝てるのだ。

 ユウヒはここまで勝ち進んで、「勝てる者」であることを証明してきた。

 去年のファイナリストの「ゴウカ」に勝ったのは、ユウヒが「ゴウカ」より強かったからではない。「ゴウカ」よりも「勝てる者」だったからだ。

 そういう意味では、サエは今までで一番の難敵と対峙していることになる。

 「ゴウカ」以上の「勝てる者」。

 

 そう思うと、顔に広がる壮絶な笑みを抑えることができない。

 今までで最高の興奮の中に、サエはいるのだ。

 経験やスキルの数を考慮すれば、強いのは間違いなくサエの方だが……


 (勝敗はやってみないとわからない……!来い、「ユウ」!私の足元をすくって見せろ――!!)



 「さぁ、ついに今日、第5回グランドチャンピオンカップの王者が決定します!!現在グランドチャンピオンカップ2連覇中、絶対の女王、『サエ』か!?それとも強敵をその『太陽』で焼き尽くしてきたダークホース、『ユウ』か!?果たして勝利の誉れを手にするのはどちらだ!?」


 実況が囃し立て、観客達はヒートアップしていく。

 そんな果ての無いような興奮に包まれた場の中心に、『ユウ』と『サエ』は立っている。

 カギノ・ユウヒとノハナ・サエの集中力が研ぎ澄まされていく。お互いに、お互いの姿しか見えなくなる程に。

 二人の闘争心は戦いの始まりが近づくにつれて、高まって、熱くなっていく。まさに、爆発寸前――


 「泣いても笑ってもこれで最後!!第5回、『グランドチャンピオンカップ』ファイナル!!――レディー……ファイッ!!!」


 

 ゴングの音が鳴る。二人の闘争心はついに爆発する。目の前の相手を、叩き潰し、勝つ――!!

 純粋な衝動に全てを任せ、『ユウ』と『サエ』はお互いに向かって一直線に突進していった。


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