1-1 2038年にもなって-6
「『ユウ』、経験値はどうなってる?確認してみろよ、『ステータス』に表示されてるからよ」
そう聞かれた僕は、メニュー画面を開いて「ステータス」を選択、表示する。
HP、SP、魔力の数値が表示されているその下に、「経験値」の項目が表示されている。そこには、「90/100」と表示されている。その事を伝えると、
「そーかそーか、あと一体だな、『ユウ』!あと一体ゴブリンを倒せばレベルアップだ!」
「ふぅん、そしたらどーなるんだ?やっぱりHPとかSPとか魔力とかが増えるのか?」
「いーや、このゲームではその3つはさっき言ったように1500ポイント分は自由に割り振れるけれど、その最大値はいくらレベルアップしても増えることはねぇ」
「え、えぇ?このまんまなの?」
「心配すんな、その代わり、レベルアップしたら必ず一つ、新しい『スキル』が手に入るんだよ!」
どうやらこのゲームでは、単純にキャラクターが強くなる、ということは無いらしい。新たなスキルを手に入れることで、戦術の幅が広がる、と言う意味でキャラクターを強化していくらしい。
「ジクト」の話によると、このゲームで『スキル』を手に入れる方法は大きく分けて3つ。
まず、今から僕もそうなるであろう、レベルアップだ。レベルが一つあがると新しい『スキル』が一つ手に入る。どのスキルが手に入るのかはランダムらしい。だから、レベルアップする毎に、何が手に入るかわからない、という楽しみがある。
二つ目が、アイテムの使用。ある特定のアイテムを使えば、スキルが手に入る。
三つ目が、特定の条件を満たす行動を行うこと。
例えば、「静寂の洞窟」に出現する「ゴースト」にスキルの[ファイアーボール]を20回当てると、[ファイアーストーム]というスキルが手に入る……らしい。
「急に『スキル』が手に入ることもあるんだよなー!すっげえビックリするけど、これがまた楽しいんだよなあ、全然予測がつかねえんだよ!」
その「特定の条件」というのが様々で、「ある時間帯にゲームを開始する」、「ひたすらキャラクターをぐるぐる回すように動かす」、「ひたすらキャラクターにジャンプさせる」等々……
何がきっかけで新しいスキルが手に入るかわからない。そのきっかけを探す楽しみが「スキルシーカーズリンク」のプレイヤーを夢中にさせ、彼らは色々な行動を試す。完全にただの奇行のような行動でも、スキルの習得という結果が出ることもあり、それがこのゲームの大きな売りの一つらしい。
例えば、さっき例にだした「ひたすらキャラクターをぐるぐる回すように動かす」ことを試したプレイヤーは[旋風]というスキルを手にしたらしい。
その「スキル」の数は膨大で、今も全てが判明しているわけがない。今このゲームで発見された「スキル」は83200個。これからもまだ増えるであろう。
発見された「スキル」は「スキルシーカーズリンク」の公式HPに最初に発見したプレイヤーのキャラクターの名前と共に、掲載される。
「自分が新しいスキルの第一発見者になれるかも知れない」そんな思いが、プレイヤーを引き付けるのだ……
というのが「ジクト」の説明。
――「スキル」の数がそんな多いとは思わなかった。とんでもない奥深さを持ったゲームなのかも知れない。
「さぁ、『ユウ』!あと一体ゴブリンぶっ倒して、初の新スキルゲットだ!いけいけー!」
「……うん、わかった」
正直、ちょっと楽しみだった。レベルアップ時に手に入れられるスキルはランダム。それ故に……低レベル時でも急に強力な「スキル」を手に入れられることもあるらしい。
――僕は今回、どんな「スキル」を手に入れられるんだろう?
そうやって、レベルアップでランダムに「スキル」を手に入れていって、「自分だけの戦い方をするキャラクター」を作っていく面白さがこのゲームにある……というのが「ジクト」の談。
……アリマが「今回はマジ」というだけはあるみたいだ。
――だけど、どうなんだろう?やっぱりVRじゃないっていうのは現代のゲームとしては大きな弱点だと思うし、僕は元々ゲーム自体に飽き気味だ。
果たしてこれからもこの「スキルシーカーズリンク」を続けていくんだろうか。
そんな思いが少しだけ頭をよぎりながら、現れた「ゴブリン」に向かっていく。
こちら側……プレイヤーの動きを学習する、というさながら人間のような性質、それ故なのか……どうやらこのゲームのモンスターは「初見の攻撃」に弱い傾向がある、と僕は感じ取っていた。
なので、今まで使ったことのないスキル、[ファイアーボール]を使ってみる。
「ユウ」が手の平をまだ距離の開いている「ゴブリン」に向ける。そこから、小さな火の玉が飛び出した。
「ギィッ!?」
初めての攻撃に戸惑う「ゴブリン」は、その火の玉をモロに食らった。
その身が炎に包まれる。
「ギギギギギギィッ!!」
悲鳴を上げて悶える「ゴブリン」。初見の攻撃ならこんなに簡単に当たってくれるのだ。レベルアップしてもステータスは上がらない、と「ジクト」は言ったが、その代わりにスキルが増えるのなら、今のように初見の攻撃で戦いは大分有利に進められる。それが実感できた。
炎に悶えているその隙をついて、[ジャンプ]のスキルを使って跳躍する「ユウ」。その着地点は丁度「ゴブリン」の真後ろ。
そして、そこから[左フック]からの[右フック]の連携で、「ユウ」がその剛腕を振るい「ゴブリン」を殴り飛ばした。
「ゴブリン」は、先ほどの奴らと同じように断末魔を上げながら倒れ、煙のように消えていった。
そして、「LvUP」の表示が「ユウ」の上に出現した。
「よおし、やったな、『ユウ』!そら、スキルの確認だ!」
「……う、うん」
メニュー画面を開き、「スキル」の項目を選択する。「スキル」の数は初期状態でさえ、10を超えている。そこからレベルアップなどでスキルがどんどん増えるため、普通なら自分がどんな「スキル」を習得したかわかりづらくなってしまいそうだが、「ソート、フィルタ機能」というものがあった。
ソート……並び替えたり、フィルタ……設定した項目毎に習得した「スキル」を表示できる機能だ。
今回は「習得順」ソートを使い、確認してみる。そして、スキルの一覧の一番上を見てみると……
「なんだコレ……[極死の太陽]?『ジクト』、コレ知ってる?」
「いや知らね……もしかしてレアなスキルなんじゃね!?詳細見てみろよ!」
スキルの[極死の太陽]の項目を……ホログラム・ディスプレイのその辺りをタッチして、調べてみる。
「えーと……『触れる者全てをその灼熱で死に至しめる太陽を創り出し、発射する魔法』……なんかヤバそうだな……」
「オイオイなんだそりゃ!?――オイ……『ユウ』、『消費SP』を見てみろ!そのスキルに使うSPの量で大体そのスキルのヤバさがわかるから。強ければ強い程、基本使うSPの量は増えていくからよ!」
初期に使えるスキル……[ジャブ]、[ストレート]、[ファイアーボール]等は、それに使うSPは一桁を超えない。今の「ユウ」の総SPは1000、しかもこのゲームでは、SPは結構なスピードで自己回復するので普通に戦っていればSPが底をつくことは無い。しかし。
「[極死の太陽]……消費SP、500……!?」
「――な、は、はぁ!?500、だぁ!?」
「……これって、ヤバい?」
「ヤバい、だろ……俺も公式HPで今まで発見されてきたスキルを見てきたが……一番消費がデカいスキルでも、80だった……」
……何やら、とんでもないものを習得してしまったらしい。
それも、今までこの「スキルシーカーズリンク」のプレイヤーが見つけてきた中でも、未発見かつ最大級の「スキル」を……
何が何やらわからない。
だけど、この瞬間確かに、自分の心臓はドクン、ドクンと音を立てていた……