5-7 女王への反逆-3
30日になった。「グランドチャンピオンカップ」決勝戦はいよいよ明日にまで迫っている。
昨日、「サエ」の動画を見続けて、勝つためのプランはできた。
何度も確認すべきことは、単純なプレイヤーとしての力量では「サエ」には絶対に叶わない。「ゴウカ」にも言った通り、「ユウ」が「サエ」に勝つ、なんてのは100回に1回ぐらいの出来事だろう。
その1回を明日に持ってくるにはどうするか?
それは、一度使ったら二度と使えないような、そんな極端で大掛かりな計画を立てること。
――最後の最後で、相手に想像もつかないような手段で、思いっきりひっくり返すこと。
そうなると、今まで一回も使ったことの無いような手段が望ましい。
タネが割れれば二度と通用しないような、振り切れた小細工。
「サエ」を倒すためだけの、「サエ」にしか通用しない限定的な攻略方法……
本番一回こっきり、練習などできるワケも無く。
外したらただ無様を晒すだけ。
一つでも想定外の事態が起きれば、あっさりと瓦解する。
今までで最高に危険な綱渡り。
SSLにログインして、いつものように「極みの闘技場」に入る。プレイヤー達の目線が一斉にこちらに向いた気がした。
「ゴウカ」を破り、ついにSSL最強のプレイヤーを決める「グランドチャンピオンカップ」の決勝戦の舞台に立つことになった「ユウ」……
まぁ、プレイヤー間では色々言われてるんだろうが、ことここに至っては、そんなものを気にする余裕も無い。
今日ここに来た理由は最後の調整だ。
明日に向けて慣らしておく程度。今になって必死に練習する訳ではない。ただなまらないようにしておくだけの、簡単な調整。
僕は「グランドチャンピオンカップ」の決勝に進出したと言っても、やはりまだまだ初めて一年足らずで経験不足である。最初よりかは大分マシになったと言っても、未だにほとんどのプレイヤーに対して経験で負けていることに気付かざるを得ない。
それでも勝てているのはひとえに[極死の太陽]のおかげである。
この「太陽」に無理矢理引きずられるようにして駆け上がってきた。
この「太陽」を生かす為の戦法を確立して、いつもギリギリで(そうは見えないかも知れないが)勝ってきた。
逆に言えば、この戦法が完全に対策されれば、僕は全く勝てなくなるんだろう。
自分は常に「敗北」と隣り合わせなのだと改めて実感する。
今の自分ではどうやっても埋められない差。それを「太陽」で無理矢理に埋めて、勝利をかすめ取ってきた。
結局、僕は[極死の太陽]ありきのプレイヤーなのだ。幸運……そう、僕はどうしようも無く幸運だ。
普通なら絶対に立てない場所に今、立っている。
ズルだと言う者は沢山いるだろう。……だったらズルしたなりに、普通なら不可能な、色々な事を達成しつくしてやるのだ。
それが僕のすべきこと……いや、やりたいことだ。
要は開き直っているのかも知れない。酷いものだ。何の努力もせず手に入れた巨大な力を欲望のままに振るっている、愚か者なのだ。
ならばこそ、愚行の限りを尽くすのだ。本気で「女王」を倒そうなどと大それたことを企むのだ。
何戦かの対戦を終えて、動きのキレを確認し終わる。問題無い、いつも通りだ。
「サエ」の力と「ユウ」の力。全てを把握し終えた。やれることはもう何も無い。
後は……決勝の舞台で思いっきりぶつかるだけ。
最後に確認しておく。
[極死の太陽]にとって[一筋の黄金]は天敵とも言える存在である。
距離を一瞬で詰められる[一筋の黄金]がある限り、戦いにおいて安全に[極死の太陽]を発動できるタイミングはほぼ存在しない。
どんな距離からでも一瞬で、潰されたり背後に回られたりするだろう。
しかし……
(それでも鍵は[極死の太陽]だ)
その考えだけは絶対だった。何せ僕にはそれしか無いようなものだ。「太陽」ありきのギリギリの戦法で今までどうにかやってきたのだ。今更「サエ」と純粋な実力勝負なんて無理だ。
小細工を尽くして、一瞬の隙を突く。
要はいつも通りである。
……あの「女王」に対してすら「いつも通り」なんて結論しか出ないことに眩暈すら覚える。
僕の心中に去来するのは諦めにも似た悟りと、それでも勝つという自棄と見分けもつかないような強烈な渇望。
明日はきっと大変な日になる。精々楽しんでやろうじゃないか。楽しんでやるということは本気でやるということだ。
どうしようもなく戦いたい。どうしようもなく勝ちたい。――成し遂げてやろうじゃないか。




