5-7 女王への反逆-2
スキル名:[一筋の黄金]
消費SP:20
発生:0F
ダメージ:0
説明文:黄金の光に包まれた状態になる。その間、移動能力が飛躍的に上昇する。スキル再使用で状態を解除する。
習得方法:レベルアップによるランダム習得のみ
解説:[風纏い]と同じ様な、移動能力向上を向上させるスキル。[風纏い]と違う所は、消費SPが倍の20であることと、何と言ってもその移動能力の向上具合の違いである。
[風纏い]とは数段違うレベルの圧倒的なスピード。黄金の光というエフェクトに包まれたキャラクターが、超高速で移動していく様はまさに「一筋の黄金」である。一瞬で相手との距離を詰めたり離したりできるスキル。
[風纏い]と同じように、スキル発動中に攻撃を当てられると「カウンターボーナス」を取られてしまうが、何せ圧倒的なスピードである為、その心配はほぼ無いだろう。
その移動スピードに対応出来る者はそうそういないだろうが、使う方もそのスピードに振り回されてしまう恐れがある。もし習得したのなら、何度も練習し、そのスピードを使いこなせるようになっておくべきだろう。容易では無いだろうが。
スキル名:[極みの拳]
消費SP:80
発生:20F
ダメージ:50~10000(条件によって変動。詳細は後述)
説明文:黄金のオーラを纏った拳で攻撃する。溜め時間によりその攻撃の軌道や威力が変動する。
習得方法:最強の魔法拳闘士を決める戦いで二連覇する。
解説:「最強の魔法拳闘士を決める戦い」……つまり「グランドチャンピオンカップ」で2連覇を達成することで習得できるレア中のレアスキル。消費SPは80と当時(2038/01/10)では最高のもので、まさに最強のプレイヤーにふさわしいスキルである。しかし、単純に強いという訳ではなく、かなり癖が強い。
それが「溜め時間によりその攻撃の軌道や威力が変動する」という部分である。ボタンを押し続けて「溜める」ことでダメージが上昇していくのだが、その「溜める」時間の違いによって攻撃の方法まで変わってしまう。右フック、左ストレート、右アッパー、というように様々な攻撃方法に変化していく。
溜め時間による攻撃方法の変化は数F単位で発生してしまうので、溜め時間を正確に把握しておかないと、意図しない攻撃を繰り出してしまう恐れがあり、扱いが非常に難しい。その分、対峙する相手にとっても予測しづらいだろうが……
消費SPが高いことを利用して、[極みの拳]をキャンセルして他のスキルで「キャンセルボーナス(キャンセルしたスキルの消費SPが高ければ高いほどダメージにボーナスが加算される)」大ダメージを与える、という使い方もできる。
ちなみに、ボタンを押して離すまではノーモーションである。例えば、攻撃を食らってダウンしている間にボタンを押し続けて溜めておくこともできるし、ボタンさえ押しっぱなしにしておけば、溜めながら移動したり他スキルを使用することも可能であるので、応用は効く。使いこなされれば相当に厄介なスキルであることは間違いない。
溜め時間の上限は30分。最大溜めでの一撃は強力無比で、10000ダメージという規格外の物ではあるが、流石に30分も溜めるのは非現実的な話だろう。
12月29日。「ゴウカ」と戦った準決勝の翌日。
「SSL研究所」にて「サエ」のユニークスキルであり、戦法の中心である[一筋の黄金]と[極みの拳]の詳細について復習しておく。やはり、[極みの拳]の強力かつ汎用性に高い特徴が目立つ。[極みの拳]だけでなく、そこからの「キャンセルボーナス」付きの他スキルも警戒しなくてはならない。消費SPが高いので、例えばただのハイキックであろうと十分に強烈な攻撃に化けるであろう。
実際、「サエ」の動画を見ると、[極みの拳]による変幻自在の攻撃の他にも、[極みの拳]をキャンセルしての他スキルでの奇襲もかなり取り入れられている。……読み切るのはほとんど不可能に近くないか、コレ。
まぁ、弱音を吐いてもしょうがない。
あと、[極みの拳]の最大溜め時間……つまり30分溜めた後の一撃は過去一度だけ確認されている。
その様子は動画サイトで公開されている。もう一度、その動画を見直すことにした。
あるモンスターとの戦闘でそれは使われた。
それもただのモンスターでは無い。超巨大なゴーレムだ。
ある日……2038年の3月に、僕も行ったことのある「光り輝く草原」にてソレは突然現れた。
どこからともなく現れたその巨大ゴーレムは、とにかく規格外に強力だった。
多数のプレイヤー達が協力して討伐しようとしたものの、どれだけ攻撃を受けても一向に倒れないタフネス、その巨大な腕の一振りで多数のプレイヤーをまとめて倒してしまうそのパワーにより、プレイヤー達は苦戦を強いられた。
このままだと「光り輝く草原」はこの巨大ゴーレムによって封鎖されてしまう……そんな危機感を持ったプレイヤー達は、当時最強のスキルを持っていた「サエ」に協力を要請した。
[極みの拳]の最大溜め攻撃で粉砕する――そんな作戦を立てたのだ。
他プレイヤーが必死で時間を稼ぎ、「サエ」が巨大ゴーレムの攻撃範囲外で[極みの拳]を30分間溜め続け……そして、[一筋の黄金]から接近、跳躍して、巨大ゴーレムの頭部に溜め切った[極みの拳]を叩き込むその瞬間が動画に残されていた。
最大まで溜められた[極みの拳]は僕が実際にみたソレとはまるで規模が違った。
黄金のオーラが巨大ゴーレムの腕よりも巨大な拳を形作っていた。それを思いっきり巨大ゴーレムの頭に叩き込み粉砕するその様子は圧巻だった。
粉砕された巨大ゴーレムの残骸は今も「光り輝く草原」に残されている。僕も始めたばかりの頃、実際に見た物だ。
巨大なゴーレムすら粉砕する「サエ」の様子に、改めて戦慄する。31日にはその「サエ」と戦うことを考えると、ぞっとしない。まぁ、流石にPvPで30分間[極みの拳]を溜められる、とは思わないが。
(それにしても……)
この動画を見ていると新たな発見があった。もう一度巨大ゴーレムに[極みの拳]を叩き込んでいる場面を再生する。
巨大ゴーレムの頭部付近にまで到達するため、「サエ」は[一筋の黄金]から高速接近してからの大跳躍をしているのだが……
(少し、遠くないか?)
ジャンプした直後、[極みの拳]を発動している時の「サエ」の位置が微妙に巨大ゴーレムの頭部から遠い気がする。最大溜めの[極みの拳]が巨大だったから良かったものの、普段の[極みの拳]では空振ってしまう位置だ。
もしかしたら……
(「サエ」自身も、完全に[一筋の黄金]を制御できていないのではないか?)
そんな疑問が浮かんだ。
オフ会でのノハナ・サエとの話を考慮すると、彼女は[一筋の黄金]に相当入れ込んでいる部分がある。
試合を見ていても、ここぞ、と言う場面では[一筋の黄金]に頼っている部分が見受けられる。
もしかすると、一見派手な[極みの拳]よりも、[一筋の黄金]の方に注目した方が良いのかも知れない。
[一筋の黄金]は[風纏い]の上位互換のようなスキルだが、[風纏い]でも大概の遠距離魔法の弾速よりもスピードがあるくらいである。その[風纏い]の何倍も速い[一筋の黄金]は確かに強力だが、そのスピード故に「サエ」ですら制御が追い付いていないのではないか……?
[一筋の黄金]を発動している時はあんまり細かい動きができないのかも。
……というか、付け入れそうな要素がそこぐらいしかない。
「サエ」のプレイヤーとしての完成度は高過ぎる。僕に残された勝ち目は、あるのすらもわからないぐらいのほんの僅かな弱みを見つけ、そこを突くことだけだ。
今日はひたすら「サエ」の動画を見て過ごした。今までは憧れの感情の方が大きかったが、今は違う。この野生の獣の如き「女王」の弱みを探した。
全ては、勝つために。見上げるのはもうおしまいだ。そう、もう僕は「女王」と対等の立ち位置で無くてはならないのだ。




