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5-7 女王への反逆-1

 「いやぁ、完全にやられた!大したモンだよ、お前は!」


 ――試合後、「ゴウカ」から声をかけられた。


 「いや、実力では負けてたよ。……それを、さっきの試合で嫌という程思い知った。この勝ちは、奇跡みたいなものだよ」

 「そう謙遜するなよ!その実力差を埋める為の戦略を考え付いたのはお前だ、そこは間違いないんだ、胸張れよ、『ユウ』。この『ゴウカ』に勝ったんだ、決勝戦……あのバケモノの退治はお前に任せたからな!んじゃ、頑張れよ!!」


 「ボイスチャット」での会話だった。明るい調子で僕を励ましてくれているのが良く分かった。

 ただ……「ゴウカ」と本気で戦った後だからこそ分かったのだろうか……彼の声は微かに震えていた。そこから、「ゴウカ」がどれだけ僕に負けたことが悔しかったのか、分かってしまった。

 今更言うような話でも無いが、彼もまた本気でSSLに向き合っていたプレイヤーの一人なのだ。

 それでも、僕に何の恨み言も言わず、それどころか励ましてくれた「ゴウカ」には感謝の気持ちしかない。

 間違いなく、偉大な「プロゲーマー」なのだ、彼は。




 「ゴウカ」の言う「バケモノ」から連絡を受けたのは、丁度「グランドチャンピオンカップ」の専用フィールドから出て、いつもお馴染みの城下町に出たすぐのことだった。


 「お時間よろしければ、今からお会いしませんか?」


 その一言だけの「ダイレクトメッセージ」。「サエ」さんからだ。そう、決勝戦で僕と戦う、SSLプレイヤーの頂点に位置する人からだ。

 試合を終えて緩んでいた気持ちが一瞬で引き締まるような思いだった。

 何の用なのかは、何となく察することができる気がする。


 「いいですよ、どこにしますか?」


 そう返信するとすぐに返事が返ってきた。


 「添付した『スクロール』を使って下さい。行き先は、[一筋の黄金]の『スキル・フィールド』です。ここなら、通常誰にも入ることはできません。お待ちしております」


 「ダイレクトメッセージ」には、アイテムを添付して送る機能もある。確認すると、確かに使用すると指定の場所に行ける「スクロール」だった。行き先は、「黄金神殿」。

 二人きりでじっくり話したい、ということだろうか。

 早速、使用して「黄金神殿」に移動した。


 


 「――ようこそ、『ユウ』さん」

 「どうも……」


 移動した先は、巨大な神殿の目の前だった。丁度同じ場所で、「サエ」さんが待っていた。すぐに「ボイスチャット」を使用する。


 「どうです、ここは?」


 その神殿は黄金でできていた。しかし、それにしては「派手すぎる」とも「下品」とも感じられなかった。何というか、絶妙な色合いの黄金なのだ。それが夕暮れに照らされているのは、ただただ神秘的で、息を呑む程美しかった。


 SSLのフィールドでも、「綺麗だな」と思うところは色々あるが、ここまで圧倒されるのは今まで無かった。


 「なんというか……凄い」


 間抜けな感想しか言う事ができなかったが、それでも十分に伝わったらしい。


 「ふふ、ありがとうございます。綺麗な所でしょう?ここにはモンスターが出ないんですよ。私、落ち着きたい時はいつもここに来るんです。折角ですから、中に入りましょう?」

 

 中も黄金だらけだった。しかし、余計な装飾は無く、むしろ極限までそぎ落とされたような印象を受ける。確かに、妙に落ち着く空間だった。外からの夕暮れの光が差し込んでくる演出も良い感じだと思った。


 「はぁ……」


 思わずため息をついてしまう程の美しさに目を奪われた。

 「神殿」の名の通り、まるで本当に神の存在を身近に感じてしまうような錯覚をしてしまう。


 「急に呼び出してしまってすみません」

 

 「サエ」さんが口を開く。


 「いやいや、こんな凄い所に招待してくれるなんて思ってもみませんでした。これだけでも来た甲斐があるくらいです。だからお気になさらず」

 「ふふふ……ありがとうございます」

 

 穏やかに笑う「サエ」さん。

 

 「それで、お話、とは?」

 「大体お察しされているのでは?」

 「まぁそうなんですけど」

 

 画面の向こうのノハナ・サエさんがニヤリ、と笑った気がした。


 「決勝進出、おめでとうございます。正直、ここまでやってくるとは思いませんでしたよ。まさか『ゴウカ』まで倒してしまうとは」

 「『サエ』さん、『ゴウカ』と戦いたかったんじゃないですか?見ればわかったと思いますけど、単純な実力では『ゴウカ』の方が上ですし」

 「おや、『ユウ』さん、いつの間に『ゴウカ』を呼び捨てにされるようになったのですか?」

 「『ゴウカ』とも丁度こんな風に試合前に話していたんですよ。……『本気でぶちのめし合おうってお互いが思っている癖に、営業みたいに丁寧な言葉使いをするなんて滑稽にすぎるぜ、なぁ?』なんて言われまして。それからこんな感じです」

 「ああ、『ゴウカ』らしいですね……」


 画面の向こうの笑みがさらに深くなったような気がした。――野生の獣のような狂暴な笑みを向けられるのを感じる。


 「――いや、全くその通りよねぇ、『ユウ』」


 穏やかな雰囲気から一転。張り詰めた雰囲気が「黄金神殿」を支配した。


 「……っ」


 静かで、しかし圧倒的な闘志がむき出しになって僕に向けられていた。まるで画面の前の僕の首を絞めに来ているような、そんな殺意にも似た、強烈な感覚。


 「腹割って話そうよ、『ユウ』」

 「……そのおっかない雰囲気、やめて欲しいな、『サエ』」

 「ごめんごめん、つい昂っちゃってね……正直、貴方はまだ『ゴウカ』には勝てないと思ってたんだけど。よくもまぁ、ひっくり返してくれたわね。ぞっとするような成長速度ね。初めて会ったのがまるで遠い昔のようだわ」

 「まぁ、自分でも信じられないくらいだけど。……確かに、勝ったのは僕だ」

 「で、そのままこの私も叩き潰すってワケ?」

 「……当然だ」

 「言うようになったわねぇ、『ユウ』。本当に。あぁ、私は嬉しい。本当に嬉しいよ」

 「余裕そうだね」

 「まさか。一つ間違えれば足元をすくってきそうなおっかない相手よ、貴方は。余裕なんて……ある訳ない。取り繕う余裕なんである訳ない。だけど……だからこそ、楽しくて楽しくて仕方が無い。大したダークホースっぷりじゃないの、『ユウ』。新しい強敵、なんて燃えるわね」

 「……この戦闘狂め」

 「貴方も大して変わらない。違う?」

 「・・・・・・・・・・・・」

 「ふふっ!」


 ノハナ・サエ……SSLに「生きる意味」のようなものを見出す程に入れ込んでいる女性。

 彼女には、この世界はどう見えているのだろう。


 「……『サエ』、アンタはこう思ったことは無いか?……以前話して、アンタがSSLに尋常じゃなく入れ込んでいるってのはわかった。でも、それも長く続けていると、『なんでこんなことやってるんだろう』、なんて考えたりはしないか?」

 「・・・・・・・・・・・・」

 「この前、って言っても大分前だけど。アンタの妹……ミリさんに会ったんだ。今のアンタにはSSLがある。だけど、逆に言えばSSLしかない、とも言える。そんなことを言って、心配してた。『ゴウカ』にも、アンタのことは危うく見えるみたいだ」

 「そう……」

 「今、アンタはSSLに対してどう思ってる?『グランドチャンピオンカップ』2連覇、なんてとんでもないことを達成して、SSLに対して……そうだな、『飽きた』、とかは……」

 「――それを聞いてどうするつもり?」

 「別にどうも」

 「ははっ、何それ」

 「ただの興味本位だよ。なんていうか、ミリさんも『ゴウカ』も、僕にアンタのライバルになって欲しい、なんて言ってたからね。SSLに繋ぎとめる一つの要素としての役割を担って欲しいようなんだ。まぁ……それだけ、とは言わないけど、僕がここまで来れた一つの理由として、ソレがあるからさ」

 「私の、ライバルに、か……」

 「うん。それを、目指してたんだ」

 「だとしたら、それはもう達成してることになるわね。こうやって『グランドチャンピオンカップ』の決勝戦で戦うことになったのだから」

 「まぁ……そうなるのかな?」

 「なるほどね。……感謝した方が良いのかしら。ライバルになってくれてありがとうって」

 「……どっちでも、いいけど」

 「じゃあ感謝しておくわ。ありがとう。でも手加減しないからね」

 「……当然」


 そこで「サエ」が言葉を切った。さっきまでの張り詰めた雰囲気とはまた違う、静寂が支配する場になっていく。「サエ」は言葉を整理しているように感じる。なので、それをじっと待つことにする。


 「……そうね。『なんでこんなことやってるんだろう』……そう考えることはあるわ。結局、今の私って無職な訳だし。SSLに辛うじてこの世に繋ぎとめられている、しょうもない存在だと思うことはある」

 「そうか……」

 「でもまぁ、格闘技を始めとするスポーツも、ゲームも、『普通は人生に役に立たない』娯楽であることには間違いないのよ。世の中、社会に広く認められているかどうかってだけの違い。私の持論だけど、人間っていうのは生きているだけじゃ満足できない生き物なのよ。だからこそ、役に立たない娯楽にも時間を割く必要がある。……人生なんて、生きているだけで地獄のようなもの……って前言ったかしら。だから、生きているだけじゃなく、何か、何かが必要なの」

 「・・・・・・・・・・・・」

 「私にとってはソレが前は格闘技で、今はSSLってだけの話よ」

 「今でも、SSLはアンタにとって大事なモノなのか」

 「そりゃあ、勿論。もうずっと夢中よ。確かに、『グランドチャンピオンカップ』2連覇、なんてしちゃった時はもう続ける必要ないんじゃないか、って少し思ったけど、『ゴウカ』とは相変わらず戦ってたら楽しいし、他のプレイヤーでも楽しいって思える時は偶にはあるし。何より、貴方が現れた」

 「僕?」

 「そう……[極死の太陽]なんて化け物スキルを引っ提げて、颯爽と現れたじゃない。実際戦ってみて、凄く見込みがありそうだったから、凄く興奮したわ。この人がSSLに本気になって、強くなったらどうなるんだろうってドキドキした……でも、それってずっと後のことだと思ってた。でも……」


 また、「サエ」の闘争心がむき出しになって僕に向けられる。


 「こんなに早く、ここまで強くなるだなんて。完全に想定外。ますますやめられなくなっちゃうじゃない。ねぇ、正直に言うよ。格闘家だった頃でも、こんなに戦いの前に興奮したことなんて、初めて。貴方は、私に何を見せてくれるの?」

 「アンタが負ける場面だ、『サエ』」

 「……あぁ。いい。最高。貴方最高よ、『ユウ』。なら私は、貴方を今までで一番の難敵として扱うことにするよ。私の全力を持って……叩き潰してあげる」

 「ノハナ・サエにそこまで言われるなんて、光栄だ」

 「ねぇ。『ゴウカ』やミリに言われたことは、決勝戦では忘れて。私の事を案じたりしないで。貴方は貴方の為だけに、私は私の為だけに、戦いたい」

 「勿論。正直今は、アンタに勝ちたいってだけで、ここにいるんだ」

 「上等。……時間取らせて悪かったわね。決勝戦、楽しみにしてるわ。期待してるんだから、裏切らないでね」

 「ああ、ご期待に応えて、アンタを王座から引きずり降ろしてやる……!」



 そうして、僕等は別れた。多分僕は今、最高に昂っている。「サエ」にとってもそうなんだろう。

 このSSLでの最強のプレイヤーを決める、その場であの「女王」と全てを尽くしてぶつかり合う瞬間――どうしようもなく、待ち遠しい。


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