5-6 全てが燃え上がる-4
「ゴウカ」に真っすぐ、最短のルートで突撃する。その途中に[煉獄疾走]でできた黒い炎が道を塞ぐように燃え盛っていたが、そのまま突っ切る。ダメージを食らいながら、それでも進む。
さらに、放たれた[煉獄円斬]を最小限の動きで回避して、「ゴウカ」に一気に肉薄する。
今までずっと後手に回っていた癖に、今になって一気に攻勢をかけた僕の動きに虚を突かれたのか、「ゴウカ」の動きがほんの一瞬だけ、鈍る。
「そこだっ!」
[スマッシュ:ヘルファイア]でそのまま殴りかかる。が、「ゴウカ」はそれに対応して[ステップ]で避けようとする。しかし――こんなものが当たるとはこっちも最初から思っていない。[スマッシュ:ヘルファイア]を[スタンタックル]でキャンセルして突撃して追撃する。
だが、これも決まらない。またも「ゴウカ」は[ステップ]で躱し、さらに[スタンタックル]の隙に攻撃を合わせようと腕を振りかぶる。
「っ!」
まだだ。この程度で「ゴウカ」に攻撃を当てられると思っていない。ここまでは想定内。「ゴウカ」の反撃を[ジャンプ]で跳躍して躱す。着地地点は、丁度「ゴウカ」の真後ろ――!!
空ぶった「ゴウカ」の反撃によってできた隙を狙うように再び[スタンタックル]を放つ。
――さぁ、ここが賭けだ。
押しも押されもしない経験者、誰もが認める上級者の「ゴウカ」にはまだとどかない。この[スタンタックル]も躱してくる筈。
集中しろ――この一瞬。この一瞬だけ、「ゴウカ」の動きを完璧に読み切れ!!
極限の集中状態に僕は最後の力を振り絞って突入する。「ゴウカ」の動きがスローモーションで見える様だ。そう、そうだ――ここだ!
右に[ステップ]した「ゴウカ」……それに磁石でもついているかのように、僕も同じ方向に[ステップ]をしていた。完璧だ。読み切った――!!
その時、「ゴウカ」の動揺が画面越しに確かに伝わった……そんな気がした。「ゴウカ」と「ユウ」の距離はほんの僅か、目の前だ。そんな状況で、「ゴウカ」は僕の決死の攻勢によって確かに一瞬その冷静さを失った。動きが、止まる。
そこに、僕は間髪入れず[鉄山靠]を叩き込む。モロにそれを食らった「ゴウカ」の体が孤を描いて吹き飛んだ。[鉄山靠]には相手を吹き飛ばす効果があるのだ。
[鉄山靠]の命中を確認した僕は、すぐさま[極死の太陽]を発動する。
しかし、いくら[鉄山靠]で吹き飛ばした、と言っても[極死の太陽]が発動するまでの時間、距離を稼いでくれる程では無い。
「『ユウ』選手、ついに[極死の太陽]を発動!!しかし……この距離では潰されてしまうぞ!?」
そう、普通なら。
しかし、吹き飛ばされたその地点に丁度、[スタンマイン]が設置されていた。「ゴウカ」がスタン状態に陥る。
――全く、これまで必死に[スタンマイン]を置き続けて良かった。しかも、[鉄山靠]で吹き飛ばしたその地点は……特に[スタンマイン]を多く置いていた密集地帯だ。
ここまで上手くいくとは思わなかった。元々、[極死の太陽]の発動に「ゴウカ」が焦って接近してきた時に、そこら中に設置した[スタンマイン]に引っ掛ける、というプランだった。[鉄山靠]で吹き飛ばした落下地点に丁度[スタンマイン]があって、さらにその周りは同じく、[スタンマイン]が大量に設置してある密集地帯だった、なんてとんでもない偶然、出来過ぎな幸運だ。狙ってはいたが、それを狙って行うのはほとんど不可能だと思っていた。
対人戦では常にお互いが動き回る。そんな中で狙った位置に相手を動かすなんて、そんなことができれば奇跡だ。
だが、どうやらその奇跡とやらは本当に起こったようだ。これ以上ない最高の状況で、[スタンマイン]を仕掛けながら[極死の太陽]に繋げるというプランが実行できた。
スタン状態から回復して、動こうとした「ゴウカ」の動きがピタリと止まった。その周りには[スタンマイン]が大量に設置されていて、容易に脱出することはできないことに気付いたのだろう。もし不用意に動いて、また[スタンマイン]に引っかかれば[極死の太陽]を潰すことには間に合わない。かといって動かなければ勿論[極死の太陽]に焼き尽くされて終わりだ。
勝った――
そう確信した……その瞬間だった。
「ゴウカ」……プロゲーマーの最後の鬼気迫る意地をその目で見たのは。
ほんの一瞬……戸惑っていた「ゴウカ」は、すぐに持ち直したのか[煉獄疾走]を発動させると、僅かに曲線を描くような軌道でこちらに接近しようとしてきた。
その軌道は丁度[スタンマイン]の場所を避けるように。
まさか、この男……この状況でまだ[スタンマイン]の位置を完全に把握していると言うのか。そうやって、[スタンマイン]の密集地帯を抜けてくるつもりなのか。
この土壇場でのその凄まじいプレイング、最後まで諦めないその闘志に、確かに僕は戦慄していた。
もう[極死の太陽]は発動してしまった。これを潰されれば、もう手が無い。僕は精神からぽっきりと折れてしまうだろう。
「ユウ」が人差し指を天に向けて、その指先から「太陽」を創り出している。
「ゴウカ」がそれを潰そうと設置された[スタンマイン]を避けつつも接近している。
まずい。早く、早く、早く!
いつもより[極死の太陽]が発動するのが長く感じた。もどかしくて仕方がない。早くしてくれ。じゃないと、潰される――!!
もう祈るしかない。[極死の太陽]が先か。[ゴウカ]が先か。
「ゴウカ」がついに[スタンマイン]密集地帯を抜けた。そこからは一直線に「ユウ」に突撃してくる。
「ユウ」の[極死の太陽]は発射寸前だ。
どちらが……早いのか。
「ゴウカ」が飛び蹴りを放ってくる。
「ユウ」が指を振り下ろそうとする。
その全ての動作が、どうしようも無くゆっくりに見えた。
思わず、目をつぶった。耐え切れない……というよりも、全てをやり切ったが故の、半分諦めのような、悟りのような、そんな気分だった。
もう、出来ることは何もない。単純に、早かった方が勝つのだ。
僕は全力で時間を稼ごうとして――
「ゴウカ」は全力で僕の時間稼ぎに対抗しようとした。
どちらが勝ったのか、どちらが早かったのか。
……目を、開けた。
そこには――
「ゴウカ」の姿があった。戦いの鬼のようなその姿。
その体が、ゆっくり、ゆっくりと倒れ伏した。
周りは、見慣れたようで、それでも未だに心がざわつく、「太陽」が通った後の炎が支配する世界になっていた。
「し、勝者……『ユウ』選手……『ユウ』選手です……ついに、ついに、ついに……『ゴウカ』選手が倒れました……あぁ、あぁ!!この激戦を紙一重で!!『ユウ』選手が制しました……!!」
実況がその事実を告げた。
観客は水を打ったような静寂に包まれていた。しかし――
しばらくすると、歓声と好き勝手な言葉が飛び交う混沌へと突入していった。
「『ゴウカ』が、負けた……?」
「『ユウ』やりやがった!!」
「嘘だろ、こんなのあり得るのか!?」
「やるじゃねぇか『ユウ』!!」
「クソ!!俺は認めねーぞ!!」
「最後『ゴウカ』微妙に動きおかしくなかった!?」
「完全に直線じゃなかったような……」
「あのまま一直線に行けば間に合っただろ!?」
「……そうか、[スタンマイン]だ!!あれで動きを制限してたんだよ!!」
「じゃあ『ユウ』はそこまで計算して……!?」
「すげえ!!凄過ぎるぜ『ユウ』!!」
「はぁ!?偶然に決まってんだろーが!!」
「上手く行き過ぎだって!!」
ぎゃあぎゃあと騒ぎ出す観客達。
大パニックに陥っている。
それを僕は、妙に落ち着いた気持ちで眺めていた。
いや、実は僕が一番パニックに陥っているのかも知れない。夢の中にいるような、とても現実の中にいると信じられないような、そんな感覚だった。
――最後の「ゴウカ」の[スタンマイン]を避けながらの接近には、圧倒された。
上手く行き過ぎなくらい、僕の計画は上手くいった筈だった。
[スタンマイン]の密集地帯に[鉄山靠]で吹き飛ばすことに成功するという完璧な展開だった筈だ。しかも吹き飛ばされた落下地点に丁度[スタンマイン]が設置されていて、「ゴウカ」をスタン状態にできたという奇跡。
その密集地帯は、[ジャンプ]では飛び越せないほどに広く、それより高く飛ぶ[ハイジャンプ]では高く飛び過ぎて[極死の太陽]を放とうとする「ユウ」に攻撃を届かせることができない。遠距離魔法の類もそれが届く頃には[極死の太陽]がギリギリで発動している。
そこで「ゴウカ」が選んだのが、[煉獄疾走]による遠距離魔法よりも早く「ユウ」に到達するであろう、高速移動によって[スタンマイン]を最小限の動きで避けながらの接近だったのだ。
不可視の地雷、[スタンマイン]に引っかからずになおかつ高速で密集地帯を突破する……まさしく、神業だった。
完全に、実力では負けているのだ。今までも、試合中でも何度も実感させられてきたその事実が改めて重く僕にのしかかってくる。
しかし、それでも。立っているのは僕だった。「ユウ」だったのだ。
勝ったのだ。前回「グランドチャンピオンカップ」のファイナリスト、そしてプロゲーマーであり戦いの鬼とも言えるその男、「ゴウカ」に、「ユウ」は確かに勝ったのだった……




