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5-6 全てが燃え上がる-3

 試合開始と同時に、僕は[スタンマイン]を設置した。今回の戦いではこれが鍵になるだろう。一応、どうやって[極死の太陽]に繋げるか、そのプランはある。

 しかし、「ゴウカ」の展開は今回に限って異常に早かった。

 

 「なんと、いきなり[煉獄円斬]です!『ゴウカ』選手、速攻狙いか!?」

 「うそぉ!?」


 [煉獄円斬]は「ゴウカ」にしか使えないユニークスキル……真っ黒い炎に包まれた円盤を放つスキルだ。しかも、標的に当たるまでどこまでも追いかけてくるという厄介な飛び道具だ。さらに――


 「『ゴウカ』選手、自分も突っ込んだ!……これは……!?」


 一瞬で黒い炎に包まれた「ゴウカ」が、高速で突っ込んできた。そこから放たれた飛び蹴りと、[煉獄円斬]をステップでぎりぎり避ける。


 [こ、これは!?『ゴウカ』選手が通った場所から黒い炎が噴き出している!まさかこれが――」


 [煉獄疾走]か。「ゴウカ」が通った軌跡をなぞるように、黒い炎が噴き出している。

 移動能力の上昇は[風纏い]と同じくらいみたいだが、この黒い炎はかなり邪魔になる。

 動き回らせればそれ程、こちらの逃げ場が無くなっていく。

 これと[煉獄円斬]の両方を避けながら「ゴウカ」自身の攻撃まで捌かないといけない。……そんなこと、相当困難だ。


 「っ!!こんなモン、初っ端から出すなよな……!」


 自然、防戦一方になる。反撃など全く許されない怒涛の波状攻撃だ。どこまでも追ってくる[煉獄円斬]、[煉獄疾走]で追いかけまわしながらこちらに向かって攻撃をガンガン放ってくる「ゴウカ」。無茶苦茶だ。

 [風纏い]と今まで手に入れた回避スキルをフル活用してなんとか避け続ける。……駄目だ、今は「待ち」しかない。相手をよく見て、一瞬の隙を狙って[スタンマイン]を設置するぐらいしかできることが無い。


 「これは『ユウ』選手たまらない!回避を強いられ続けています!一瞬の隙を見て[スタンマイン]を設置してはいるようですが……」


 [スタンマイン]に引っかかってくれればいいのだが……「ゴウカ」はこれだけの猛攻をしながら、僕の設置した[スタンマイン]の位置を完璧に記憶しているらしく、絶妙に設置個所を避けながら動き回ってくる。

 それでも今回はコイツ頼りだ。攻撃の途切れたその一瞬にひたすら[スタンマイン]を設置する。

 下手に反撃しても「ゴウカ」に返り討ちにされるだけだ。今は布石を打ち続けて、待つしかない。

 決定的な瞬間を。


 そんな僕の動きは消極的に見えるらしく、観客からは大きなブーイングが聞こえる。


 「逃げてばっかじゃねぇか!」

 「今更ビビったかぁ!?」

 「おい、攻撃しなきゃ勝てねぇぞ臆病者!!」


 ――何とでも言え。勝って黙らせてやる。……にしてもコイツは、キッツイな……!


 [煉獄疾走]による黒い炎はどんどんその範囲を広げていく。[煉獄疾走]で動き回りながらの攻撃がここまでの圧力があるとは。逃げる場所もどんどん少なくなっていく。

 [煉獄円斬]と同時に「ゴウカ」の炎を纏った正拳突きが迫ってきた。もう避ける場所がほとんど無い。僕は、[煉獄円斬]や正拳突きを食らうよりはマシか、と考えて自分から[煉獄疾走]による黒い炎のある方向へ[風纏い]を併用した[ステップ]で回避する。しかし――

 

 「げっ!?こんなに減るのかよ!?」


 スキル動作中の「カウンターボーナス」もあるとはいえ――500あったHPがこの黒い炎に突っ込んだだけで50も減ってしまった。意外にダメージが高い。この手のスキルにしては破格だ。例えば、[スタンマイン]なんて精々20くらいだし。

 こうなるとこの黒い炎を無視するのは得策じゃない。となると――

 またも[煉獄円斬]と炎を纏った前蹴りという、同時攻撃が放たれた。避ける場所はまたもほとんど無い。

 覚悟を決めた。[煉獄円斬]だけを紙一重で避け、前蹴りに気合でタイミングを合わせた[カウンタ―:ヘルファイア]を合わせて反撃する。一瞬タイミングがズレれば前蹴りが突き刺さっていただろう。この状況で狙うのは怖かったが、今回は何とか成功した。黒い炎が「ゴウカ」を襲う。それに怯んでいる間にまたも[スタンマイン]を設置する。


 「決まった!![カウンタ―:ヘルファイア]!!しかし追撃はしないようです、『ユウ』選手は[スタンマイン]を設置し一旦退却です」


 これでHPだけ見れば逆転したが……予断は許されない。カウンタ―を決められたのにも関わらず、まったく臆せず攻撃を再開してくる「ゴウカ」。鉄の如き精神力だ。


 「『ゴウカ』選手は攻勢をかける姿勢を崩しませんねー。『ユウ』選手はどうしても後手での対応を強いられることになりそうです。カウンタ―技が肝でしょうか」


 実況が解説する通り、「ゴウカ」の猛攻にはもうカウンタ―技で割り込んでいくしかない。

 ――あとは、「決定的な瞬間」が必要だ。その為には[スタンマイン]と……「ゴウカ」を一瞬でも怯ませるような動きが必要だ。

 やはり、「ゴウカ」は強い。恐ろしい程に強い。一瞬たりとも気が抜けない。

 こっちも覚悟が必要だ。ギリギリのギリまで耐え抜いて、最後の最後で……状況をひっくり返す。


 その時こそが、「ゴウカ」に勝てる最初で最後の勝機だ。


 


 「試合開始から30分以上経過しています――!!『ユウ』選手、『ゴウカ』選手の猛攻によく耐え続けています!!」


 ひたすら「ゴウカ」の波状攻撃の隙間を縫って[スタンマイン]を設置し続ける。もう相当数の[スタンマイン]が設置されている筈だが、未だに一回も引っかかってくれない。こんなことがあり得るのだろうか。あんなに動き回っているのに……全て紙一重で避けている。本当に全部記憶しているとでも言うのだろうか。――記憶しているんだろうな。「ゴウカ」……プロゲーマーという職業につき、勝負の世界でしのぎを削ってきた男。嫌でも実力差を思い知らされる。

 辺り一面の黒い炎。どこまでも追ってくる黒い炎に包まれた円盤。何よりも、「ゴウカ」自身の攻撃。

 自分の精神が疲弊するのを強く実感してしまう。このままでは集中が途切れてしまう。いや……そろそろもう限界だ――

 [煉獄疾走]による黒い炎があまりにも多く、画面が見づらくなってきた。視界を遮る――そんな効果もあるのだと実感する。これが「ゴウカ」が隠してきた切り札。彼自身もこのスキルの有用性には自信があったのだろう。確実に追い詰められて、画面の前の僕は季節外れにも全身汗だらけになっていた。いつしか息も荒くなってきた。ここまで黒い炎の熱が伝わってきたかのようだ。

 

 一瞬、意識が朦朧とした。


 「く、くそっ!!」


 毒づいて気合で精神を立て直そうとする。しかし、その一瞬の心の隙を逃してくる「ゴウカ」では無かった。

 黒い炎の中から突然姿を現した「ゴウカ」の掌底がついに「ユウ」を捉えた。

 

 「しまった……!!」


 黒い炎はその主である「ゴウカ」にはダメージを与えないらしい。それを利用した奇襲だ。そこから足払いを食らって転倒させられ、さらにサッカーボールキックのような強烈な蹴りを叩き込まれる。さらに、吹き飛ばされた「ユウ」に追ってきた[煉獄円斬]まで直撃する。

 起き上がった「ユウ」を待っていたのは[煉獄疾走]で高速で背後に回ってきた「ゴウカ」の裏拳だった。咄嗟に[カウンタ―:ヘルファイア]を合わせようとしたが、「ゴウカ」の裏拳がピタリと止まった。


 「罠……っ!」


 裏拳はオトリだったのだ。この状況で一気に攻め込まず、こんな絡め手を使ってくるところが「ゴウカ」の練度の高さをうかがえる。[カウンタ―:ヘルファイア]は空振り。無駄にSPを消費する結果になってしまった。

 「スキルキャンセル」だ。ゴウカは裏拳の途中で別のスキルを発動して裏拳をキャンセルして、本命のスキルを当てようとしているのだ。上級者ならよく使われる「スキルキャンセル」……いつもなら僕でも反応して回避できるのだが、こちらは精神的に疲弊しているのと、「ゴウカ」の絶妙なタイミングにより、対応が出来なかった。炎を纏いながらの回し蹴りが「ユウ」の腹に深々と突き刺さり、思いっきり吹き飛ばされる。

 

 「完璧に決まった!!これは痛い!!『ユウ選手』、一気にピンチです!!このまま押し切られてしまうのか!?」


 実況の言う通りだ……今のは痛かった。HPがごっそり減った。これでは――


 「よっしゃあ『ゴウカ』ぁ!!」

 「これ決まった!!」

 「『ユウ』ざまあねえな!!」

 「『ゴウカ』!」

 「『ゴウカ』!!」

 「『ゴウカ』!!!」


 「ゴウカ」が一気に優位に立ったことで観客がヒートアップする。「ゴウカ」の名前が何度も叫ばれる。

 ……「ユウ」を応援してくれる者は誰一人いない。いや、いたとしてもこの「ゴウカ」コールにかき消されるだけだ。

 どうしようもなく、孤独を感じた。

 

 ――だけど、それでも、諦める訳にはいかない。今更他のSSLプレイヤーに認められようなんて思ってない。

 勝ちたい……例えどれだけ勝ち目が薄かったって。いや、それ以上にまだ終わってないのに諦めることがどうしようもなく気に食わない。


 もう「ユウ」のHP以上に僕自身の精神が限界だ。それでも、それでも、あと一度だけ。

 集中力を振り絞るようにして「ゴウカ」を見据える。

 見ろ、カギノ・ユウヒよ、見ろ!アイツを見るんだ、「ゴウカ」の隙を見逃すな――

 

 何だか「ゴウカ」の動きがスローモーションのように見える。あの予備動作は、[煉獄円斬]だ。

 いよいよトドメの攻勢をかけてくるつもりだ。


 対して僕は……これだけ長い時間をかけて布石を打ってきたつもりだ。ロクに反撃を狙わなかったのも、ギリギリまで時間を稼ぎ続けたのも、ひたすら[スタンマイン]を設置し続けたのも……今から行う()()()()()で相手の動揺を誘うことを狙っているからだ。

 「ゴウカ」のあまりの「崩れなさ」にこんなこと意味があるのか、なんて思ってしまうが……相手だって人間だ。一見わからずとも、集中力が途切れてきていることを期待したい。

 この奇襲が失敗すれば、もう本当に勝ち目が無い。


 

 [煉獄円斬]を放とうとする「ゴウカ」に向けて、[風纏い]を使いながら、決死の突撃を決行した。

 ――ここまで仕込んでやったんだ。これぐらい……捌き損じろ……!!


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