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5-6 全てが燃え上がる-2

 12月28日。「グランドチャンピオンカップ」の準決勝の日だ。

 観客席は今日もプレイヤーで一杯。目の前の戦いに魅了されている。

 「サエ」さんと「カイオリセ」さんの試合だ。


 「なぁ、『ユウ』よ」

 

 今まで口を開かなかった「ゴウカ」が唐突に声をかけてきた。

 ここは選手の控室だ。


 「あれをよーく見とけよ」


 控室にはモニターが備え付けられており、戦いの様子が見えるようになっている。


 「……あの『カイオリセ』ってヤツはな、知ってると思うが遠距離戦のスペシャリストだ」


 「カイオリセ」氏が炎の弾丸を雨あられと撃ちだす。その全てを「サエ」さんは紙一重で避けていく。


 「遠距離戦っていうのはな、自分の安全は確保しやすいんだが相手に攻撃を当てにくい。まぁ当然だがな。距離がある分、攻撃してから回避するまでの時間が相手に多く与えることになるんだからな。だけど、『カイオリセ』は魔法の撃つタイミングや種類を上手く使い分けることで相手を追い込む。そうした技術は凄え高いんだよな。追い込まれた相手へのトドメの一発……それがもう吸い込まれるみたいに相手に当たるんだよ。恐らく、遠距離戦ってことに限ればSSL一のプレイヤーだな」


 氷の槍を撃ち出し、

 無数の雷を落とし、

 風の刃を繰り出していく「カイオリセ」氏。


 「あそこまでに至るまで、どれだけ努力してきたんだろうなぁ。……そんでもって、そんなヤツがまるで噛ませ犬に見えちまう程の……『サエ』の技量ってのはどうなってんだろうな?」


 全ての魔法攻撃を何でもないように回避しながら、「カイオリセ」氏に向かって「サエ」さんは接近していく。


 「……『カイオリセ』の接近戦対策は万全だ。相手の動きを徹底的に観察し、先回りして魔法を撃って相手の動きをせき止める。天才的だ」

 「じゃあ、その天才をあっさり超えてる『サエ』さんは一体何者だ?」

 

 そう聞くと、「ゴウカ」は溜息混じりに、こう言った。


 「――バケモンだろ」


 ついに「サエ」さんが「カイオリセ」氏の目の前に到達した。「カイオリセ」氏は慌てて離脱しようとするが、そこに黄金のオーラを纏った拳が突き刺さった。「サエ」さんの[極みの拳]だ。

 そこから先は一方的な展開だった。反撃を許さない猛攻。逃れようとすれば先回りして食らいつくようにそれを阻止する。

 「カイオリセ」氏は、その圧倒的な攻撃についに屈する。その身体が崩れ落ちた。


 「な、なんと……「サエ」選手、またもや『グランドチャンピオンカップ』史上最短試合時間で決着をつけてしまいました……!!先日の自身の記録をさらに上回るスピード!!」


 実況がそう告げると、観客達がそれに応えるように大歓声を上げた。




 「あーあ、なぁ、『ユウ』。俺達二人の内、勝った方があのバケモノとやりあわなきゃならねぇ。まったく、たまんないよなぁ……」

 「…………」

 「お前も大体勘づいてると思うが。今SSLじゃあ俺と『サエ』のツートップ、なんて言われてるが、実際は違う。アイツがぶっちぎりなんだよ。この『プロゲーマー』の、ゲームで飯食ってる俺ですらアイツには10回に1回勝てるかどうかだ」

 「『ゴウカ』でそれなら、『ユウ』じゃあ100回に1回ぐらいだろうな」

 「……それでも、諦めるつもりはねぇ。俺のプロゲーマーとしてのプライドに賭けて、アイツに勝って見せる。――お前はどうだ?」

 「何でそんな事を言う?何でそんな事を聞く?」

 「お前がどれだけの覚悟なのか確認したいんだよ」

 「相手がどれだけ強かろうと、どれだけ勝ち目が無かろうと、無理矢理にでも勝って見せるつもりだよ」

 「――それが聞けて良かった」


 そう言うと、「はははっ」と「ゴウカ」は笑った。


 「それぐらいのヤツじゃなけりゃ、『サエ』と戦う前の最終調整の相手にはなれねぇからなぁ」

 「……まず目の前の相手をどうにかすべきじゃないのか?」

 「それもそーなんだが。やっぱし勝つんなら『サエ』の圧倒的強さにも屈しないやつが良いし、負けるにしても安心して『サエ』の相手を任せられる相手が良いんだよ」

 「…………」

 「お前には、そういう心配はいらねぇみたいだな」

 「あぁ。自分がお前に勝ったら『サエ』さんにも勝ってやるよ」

 「いいねぇ。それで良い。……『サエ』に敵がいなくなる、なんて俺は嫌なんだよ。アイツが孤独になっちまいそうで。アイツには、死に物狂いで噛みつきに来る『ライバル』ってのが必要なんだよ。今のままじゃあ、俺ですらその役割をいつか果たせなくなっちまう。だから……『ユウ』。同じように『サエ』に噛みつこうとしているお前を倒して、俺は強くなる」

 「そりゃ、無理だな」

 「ふはははっ!!」

 「勝つのは、『ユウ』だ」

 「無いね。俺だ」

 「意見が割れたな。どうする?」

 「そりゃ、手段は一つだけだ。いつだってな」

 「事実を持って証明する」

 「そういうことだ。――さて、そろそろ時間か」

 「楽しく潰し合おう、『ゴウカ』」

 「あぁ、受けて立ってやるよ」


 「準決勝第2試合が開始されます。数秒後に、専用ステージに移動します」


 通知が画面に表示される。そして、数秒後には……


 観客席に囲まれた、専用ステージに僕達は立っていた。


 向かい側に「ゴウカ」がいる。

 一面に威圧的な文様が描かれた真っ黒いボロボロの道着を着て、非人間的な肌の色、鬼のような形相の顔、逆立つ白髪、真っ赤な目という恐ろしい容姿……今や見慣れた「ゴウカ」のその姿が見える。

 その威圧的な容姿が、彼の猛々しい闘争心を表現しているようだった。

 戦場で、戦う相手として対峙する彼の姿はとにかく恐ろしい。今にもその拳が画面の前にいる自分にまで届きそうだ。全身を季節外れの汗が流れる。

 怖い。怖い。怖い。逃げ出したい……だけど。

 それ以上に、僕はお前を倒したい――!!


 「これより準決勝第2試合を行います!!『ゴウカ』選手対『ユウ』選手!!さぁ、果たしてどちらの炎が勝るのか!?それが今――明らかになります!!」


 実況が観客を煽ると、「ゴウカ」への声援と、「ユウ」に対するブーイングがこだました。ここにいる観客にとっちゃあ、「ユウ」には勝ってほしくないんだろうが。

 悪いね、勝たせてもらうよ。


 「さぁ、『サエ』選手への挑戦権を得るのはどちらか!?始めましょう!!――レディー……ファイッ!!」


 ゴングの音が鳴り響く。

 「ゴウカ」……まさに戦いの鬼のような男。そして、同時に自分を助けてくれたこともある男。


 

 助けてくれたことへの感謝。勝利への執念。その二つの感情が混ざり、僕を戦いに駆り立てる。

 始まる……「女王」への挑戦権を賭けた、戦いが。


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