5-6 全てが燃え上がる-1
「グランドチャンピオンカップ」本戦がついに始まった。
僕は一回戦不戦勝で、大分時間が空く。
その間、ずっと他の本戦出場者の戦いを見ていた。
――やはり、レベルが高い。しかも、普段のPvPの時よりも動きが良い様にすら感じる。
流石はトップランカー、大一番で力を発揮する能力には長けている、と言った所か。
そして、改めて実感する。
僕は、本戦出場者の中では……純粋な実力だけを考えれば、一番弱い。
状況判断能力、操作の正確さ、経験……全て劣っている。
今この場に立てているのは、[極死の太陽]を前提にして、綱渡りのように危なっかしく、奇跡的に勝利を掴んできたからだ。
だからこそ、僕がここで勝つには、[極死の太陽]の力を限界まで引き立てるしかない。
結果から言うと、ベスト4に残ったのは「カイオリセ」氏、「サエ」さん、「ゴウカ」さん、そして僕だ。
「サエ」さんと「ゴウカ」さんは出場者の中でも明らかに別格だった。
「ゴウカ」さんは未だに[煉獄疾走]を隠したまま危なげなく勝利し、「サエ」さんに至っては「グランドチャンピオンカップ」史上最短の試合時間での圧倒的なスピード決着を見せ、観客を沸かせた。
僕は、初戦は不戦勝、そしてベスト8で予選で一度負けた「スノオト」氏と対峙した。
「スノオト」氏は接近戦も遠距離戦もそつなくこなし、距離コントロールの匠、などと呼ばれている凄腕のプレイヤーだ。
しかし、その対策は万全にしてきた。「スノオト」氏の最高の強みはその距離コントロール能力、つまり位置取り、移動の巧みさである。
しかし、僕は[極死の太陽]を持っている。
[極死の太陽]を封じるためには、接近しておかねばならない。つまり、僕が退けば相手はそれを追わなければならない。距離のコントロールの主導権はあくまで僕にある。
さらに、僕が戦法に取り入れた、スタン効果のある地雷を設置する[スタンマイン]は相手が動けば動くほど引っかかる可能性が高くなる。「スノオト」氏にはかなり厄介な戦法だろう。
そう考えれば、相性では完全に僕が勝っているのだ。試合では強気で相手を振り回して疲弊させて、[スタンマイン]に引っ掛けてそのまま[極死の太陽]でトドメを刺して、勝利した。
予選でのリベンジに成功したのだった。しかし――
「うわ、『ユウ』勝ちやがった!」
「マジかよ『スノオト』-!!」
「実力じゃ全然負けてねーのになぁ」
観客からはブーイング混じりにそう言われた。僕はすっかりヒール役だ。
まぁ、最初にあんなこと言っちゃったしなぁ。
「でも次は『ゴウカ』だし」
「これで『ユウ』も終わりだな」
「『ゴウカ』決勝進出確定!」
そう、これでベスト4……次は準決勝で、ついに「ゴウカ」さんと戦うことになる――
「グランドチャンピオンカップ」の今日の日程は終了した。次は28日に準決勝だ。
その間、時間は僅かしかない。少しでも次の相手……「ゴウカ」さんへの対策を進めよう。
そう思って、先ほどの控室を出ようとしたら――
「あぁ、『ユウ』さん、ちょっと待ってください」
同じように控室に居た、「ゴウカ」さんに呼び止められる。
「……何でしょう?」
「ちょっと、今から話しませんか?あまりお時間は取らせませんので」
……何だろう?やはり次に当たる相手ということで何か思う所があるのか。ここで断るのも後々気になりそうだったので……
「わかりました。どこに行きます?」
「いつも通り、『天国酒場』で」
そうして、僕と「ゴウカ」さんは二人きりで「天国酒場」で向かい合っていた。
「……まさか、ここまでやってくるとは思いませんでしたよ」
「ゴウカ」さんが口火を切る。
「自分でも、そう思ってます」
「またまたご謙遜を。最初に言ってたじゃないですか。『当然のように、勝ちます』って。いやぁ、ありゃ痺れましたよ。観客みんな圧倒されてましたよ」
「……ただ呆れてただけなんじゃないですか。始めて一年足らずの初心者が何言ってんだ、って」
「いやいや、そんな感じでも無かったですよ……で、ここからが本題なんですが」
急に空気が張り詰めたように感じた。「ゴウカ」さんの目がギラリ、と光ったように見えた。
「『当たり前のように優勝します』……そうもおっしゃっていましたよね。……それは、私にも、『サエ』にも勝利する、といういわば宣戦布告と受け取ってもよろしいですか?」
ゾクリ、という悪寒が走った。「ゴウカ」さんが放つ威圧感ともいうべき気迫が、画面の前の自分にまで届いているようだ。
今すぐ、逃げ出したくなる。だけど――
「――その通りです。勝ちたい……いや、勝ちます。貴方達二人に。[極死の太陽]なんて反則級の技があるんだ、それぐらいは目指さないとね」
「・・・・・・・・・・・・」
「……怒ってますか?」
「いや……」
「ゴウカ」さんが沈黙した。それはほんの一瞬だったかも知れないが、自分には耐え切れない程の長さに感じた。思わず、口を出そうとしたその時――
「――あぁ、もう馬鹿馬鹿しい。なぁ、『ユウ』さん。もう敬語やめていいですかね?そちらもそうしていただいて結構ですから。本気でぶちのめし合おうってお互いが思っている癖に、営業みたいに丁寧な言葉使いをするなんて滑稽にすぎるぜ、なぁ?」
空気が、一変した。「ゴウカ」さんの闘志が僕を焼き尽くすかのように向けられ、それに呼応するように僕の闘争心もむき出しにされる。
「……確かに。「ゴウカ」、お前の敬語は聞いてるとどうにも落ち着かない」
「……まぁ、結局そういうキャラじゃねぇからな。こうやってはっきり言う方が性に合ってる」
「だろうね」
「なぁ、『ユウ』。今日の最初の宣言だってそうだ。いや……前からお前の中ではそうだったのかも知れんが、なんだか俺にはお前が急に勝利に執着し始めたように見える。――何があった?」
「……うーん。理由は……何だか色々あって自分にも整理できない。でも……やっぱり例えゲームでも、本気でやらなきゃ楽しくないんだって最近特に思うんだ。勝つために死力を尽くすその感覚……それを何度でも、さらに強く、感じていたいんだ」
「へぇ。随分入れ込んだじゃねぇか。いいね、『サエ』みてぇなコト言いやがる。よし、俺は決めたぞ」
「……何を?」
「俺が[煉獄疾走]ってスキルを隠しているのはどうせ知ってるんだろう?」
「あぁ。お前に勝つ為に調べたからね」
「アレは『サエ』に対して使うつもりだった。[極みの拳]を手に入れた『サエ』はますます強くなってやがるからな。去年戦った時よりもさらに、だ。だから俺も、切り札を出来る限り温存するしかねぇって思ってた。だけどな……」
「ゴウカ」の鋭い視線がそのまま画面の前の僕を射抜くようだ。
見ている。このSSLのトップ2の「ゴウカ」が、僕をはっきり倒すべき敵として見ているんだ。
「[煉獄疾走]はお前に使うことにした」
「……っ!?」
「はっきり言ってやるよ、『ユウ』。お前は単純な実力じゃあ本戦出場者の誰よりも下だ。だけどな、お前は[極死の太陽]の力を限界まで引き出す戦法を確立し、それをカバーすることに成功してやがる」
「それは……お前や「リクワ」さん、「サエ」さんのアドバイスのおかげだ」
「確かに助言はした。だけどそこから自分の戦い方を確立させたのは間違いなくお前自身の力だ。そんなお前にはな、この俺だって出し惜しみしてたら勝てねぇって今日わかった。……全力で潰してやる。勝つのは俺だ」
「お互い全力か」
「そーいうこった」
「いいねぇ」
「あぁ、いいだろう?」
いつの間にか、僕は自分が笑っていることに気付いた。
全力で戦う相手がいるって、なんて愉快なことなんだろう。
「それじゃあな、『ユウ』。精々『ゴウカ』対策に励めよ」
「それはお前もだ、『ゴウカ』。あんまり舐めてるとその足元を掬ってやるぞ」
「本当に言うようになったなぁ?いやぁ、楽しみだぜ」
「あぁ、本当にそうだ」
そういって、「ゴウカ」は「天国酒場」を出ていった。
張り詰めた空気から解放され、ほっと胸をなでおろす。
やれやれ、いつもあんなんじゃ長生きできそうにない。
画面越しに殺されるかと思った。
アレがプロゲーマー……ゲームに、勝負事に自分の生活まで賭けた人間か。
来たる準決勝は最高に楽しいことになるぞ。
……しかしまぁ、僕はいつの間にこんな戦闘狂みたいになったのか。――いや、今はそんなことはどうでもいい。
全力で、あの「ゴウカ」を燃やし尽くしてやろうじゃないか。




