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5-5 当然のように

 ――その時間は、どれだけの金塊を積んでも戻ってこない。

 12月の始めから、今日まで、「グランドチャンピオンカップ」本戦に向けて最後の仕上げと言わんばかりに、PvPを数えきれないほどこなし、これから戦うであろう強豪プレイヤー達の動画を見て対策を続けてきた。

 勿論、他の「グランドチャンピオンカップ」本戦出場者達も、僕と同じように本番に備えてPvPに参加している。なので、その人達とマッチングすることもあった。

 やはり、本選出場者同士ということで、互いに普段とはまた違う意識を持って向かい合うことになる。

 ――そういう時は大概、奇妙な静けさを持った戦いの展開になる。

 勿論、対戦である以上、「勝ちに行っている」ものの、本戦で対峙した時に備え、相手の情報をお互いに探り合うような、試すような手を打つことが多い。


 こうすれば、どうするつもりだ?

 こんな状況では、どう動く?

 これには、ついてこれるか?


 試し合う。探り合う。

 ……その末に、勝ったり負けたりする訳だが、勝った時でも安心はできなかった。

 

 「さっきの戦いで弱点を知られたのかも知れない――」


 そんな不安が頭を過る。

 何故なら、僕にもそのような事がわかることがあるから。


 「ゴウカ」さんや「サエ」さんともマッチングした。そして、この二人とて例外では無かった。

 こちらのことを全力で探りに来ている。

 本戦で叩き潰すために、情報をかき集めている。

 いつもとは違う戦い方。

 ……まぁそれでもしっかり勝ってくるのは流石と言う所か。

 結局、本戦までの期間、この二人からだけは一度も勝つことができなかった。

 本番でこの結果をひっくり返せるのだろうか?

 ……いや、ひっくり返して見せる。

 勝ち目はいつだって手元にある。

 [極死の太陽]――この太陽が手にある限り、勝ちの目は決して無くならない。




 そして、ついに時は来た。

 2038年12月26日――第五回グランドチャンピオンカップ本戦が、ついに開幕した。


 ミュージシャンのドームコンサートのような、円形のステージと、それを囲む観客席。

 この大会の為の専用ステージだ。

 そして、無数の話声が聞こえる。

 今回の第5回から、試験的に全プレイヤーへのボイスチャットが解禁された。

 通常では、許可した相手同士でしか使えないボイスチャット。

 それを、この専用ステージにいる全プレイヤーに聞こえるようにされている。

 そのため、さながら本物の格闘大会のような、人々のざわめき、歓声が聞こえるようになったのだ。


 「もうすぐだな!」

 「やべぇ、超楽しみ!」

 「早く始めろー!!」

 「『サエ』-!!連覇だー!!」

 「『ゴウカ』、今回はやってくれよぉ!!」


 

 「それでは!これより第五回グランドチャンピオンカップを開始致します!まずは、選手入場!!」

  

 運営のIS社の人間が担当しているのであろう、実況の声が専用ステージに響き渡ると、それに応えるような大歓声が聞こえてきた。


 ――今、僕達本戦出場者は、専用ステージに備え付けられた控室に集められていた。

 簡単な挨拶ぐらいはしたが、それ以外は誰も一言も喋らない。

 来たるべき戦いに向けて、精神を集中させているのであろう。

 まぁ、僕なんかは正直話す余裕も無かっただけなのだが。


 「では、本戦出場者の皆さん、専用ステージの方へ入場して頂きます。数秒後に、自動で専用ステージの方へ移動します……」


 そんなアナウンスが控室に響き、しばらくすると画面が切り替わった。

 そして、僕達は満員の観客席に囲まれた、専用ステージに立っていた。

 16、いや、15人の選手達が一列に等間隔に並べられている。


 「うおお!!」

 「頑張れー!!」

 「来た来たぁ!!」


 歓声に包まれて、心臓が一気に鼓動を早くした。手の平はびっしょりと汗で濡れている。

 これが、SSL最強のプレイヤーを決める大会の場……

 

 「では、ファイナルAブロックの選手から紹介致します!!最初に……」


 選手の特徴と名前が紹介され、そしてその選手自身の口から今回の意気込みが語られる。その度に、その選手のファンと思わしきプレイヤーからの歓声が上がる。そして――


 「そして、『グランドチャンピオンカップ』2連覇!!今回も頂点に立ち、前人未到の3連覇を狙う!!『サエ』選手です!!」


 実況に「サエ」さんがコールされると、今までよりも一際大きな歓声が響いた。

 大人気だ。流石、と言うべきか。「サエ」さんにはやっぱり相当数のファンがついているらしい。


 「では、『サエ』選手、今回の意気込みをお聞かせ下さい!!」

 「……必ず、勝ちます」


 簡潔だが、力強い宣言。覇者としてのプライドが、その短い言葉に込められていた。


 「『サエ』―!!」

 「三連覇見せてくれー!!」

 「かっこいいー!!」


 「では、次にファイナルBブロックの選手の紹介です!!前回『グランドチャンピオンカップ』ファイナリスト!!去年は惜しくも優勝を逃しました……しかし!!彼は今年に向け、その牙を磨いていた!!今回こそ、優勝なるか!?『ゴウカ』選手です!!」


 「ゴウカ」さんがコールされた。「サエ」さんに負けず劣らず、大歓声で迎えられた。


 「では、『ゴウカ』選手にも意気込みを……」

 「ああ、はい。まぁ、負けないんじゃないですかね?今回勝つのは私ですよ」

 

 気の抜けたような、余裕たっぷりの口調で宣言する。流石、プロゲーマーと言ったところか。


 「今回はお前だ!!」

 「やってくれー!!」

 「優勝だー!!」


 ……さて。


 コールの順番はトーナメントの並びに準拠しているらしい。

 そうなると、最後にコールされるのは僕になる。

 トーナメント表の一番端なのだ、「ユウ」は。

 「ユウ」はSSLで何かと嫌われ者になっている。最近では認めるような発言もでてきたものの、まだまだ少ない。となるとまぁ、コールされたときどういう反応をされるのかは大体想像がつく。しかもだ。


 「えー次に紹介するのは『アバドン』選手の予定でしたが……『アバドン』選手は今回出場できないことになってしまいました……」


 そうアナウンスされる。――そう、掲示板にも本人のコメントが投稿されていたのだが、トップランカーの一人、「アバドン」選手は急遽仕事の予定が入ってしまい、この大会に出場できなくなってしまったのだ。

 そして、その「アバドン」選手は、本来僕の最初の相手だったりするのだ。……これにより、「ユウ」の一回戦不戦勝が確定したのだ。

 それに対する反応は……

 

 「『アバドン』出ないのかー残念」

 「仕事だったらしょうがないな……」

 「これ『ユウ』一回戦不戦勝ってこと?」

 「あーあ、[極死の太陽]といい『ユウ』って運良すぎじゃね?」

 「ホント気に食わねえなぁ」

 

 ……となる。僕悪く無いんですけど、と思うのだが、元々嫌われてたせいでこんな事を言われている。理不尽だ。……まぁ、そんなこと言っても始まらない。嫌われるのにはもう慣れた。一回戦を不戦勝で勝ててラッキーだ、とでも思うしかない。


 「そして、最後の選手です……ある日突然、規格外のスキルを手に入れ、ここまで勝ち上がってきた今大会最大のダークホース!!死を極めた太陽を掴んだ者、そう、『ユウ』選手です!!」


 と、「ユウ」がコールされた瞬間、観客席が震えた。歓声ではない。いや、多少は「頑張れ!!」なんて声も聞こえるが、ほとんどは……ブーイングだった。


 「え、えーと……じゃ、じゃあ『ユウ』選手にも意気込みを……」


 実況が狼狽したように歯切れの悪い口調で問いかけてくる。

 全く、こんなことでいちいち慌ててるんじゃない。

 いや、僕もここまで露骨に悪い対応されるとは思ってなかったけどさ。

 正直、今心臓バックバクよ。自分が気に食わない人達が観客席を埋め尽くしていて、それに囲まれている。

 何だか息苦しくなってくる。ブーイングはまだ続いている。

 完全にアウェイだ。

 だけど……そんなこと、わかってた。

 僕は、結局は[極死の太陽]をこんな風に偶然手に入れられなかったらここには絶対立ってないようなヤツだ。

 [極死の太陽]があったからこそ、色んな人と出会い、強くなれた。

 本来、ここに立つ資格なんて無いんだろう。それでも、僕は……

 勝ちたいと願ってしまったんだ。「ゴウカ」さんや「サエ」さんに憧れ、超えることを夢見てしまったんだ。

 何故か?……そんなことはっきりと言葉で説明できるとは思えないけれど。

 ――だけど、遊びってのは、本気でやらないと面白くないんだ。


 「意気込みですかー……そうですねぇ」


 一端言葉を切って、一気に語り掛ける。僕を気に入らなく思っている、全ての人達へ。


 「私は……凄く運が良いと思うんですよ。[極死の太陽]しかり、一回戦の不戦勝しかり。だから……これだけ有利なら、優勝して当然だと思います」


 そう、言ってやった。

 

 すると、観客達が一瞬、静寂に包まれた。それから少しして、ひそひそ話があちらこちらから聞こえてきた。


 「あ、あいつ何て言った?」

 「優勝して当然って……」

 「一体何考えてんだ……?」


 ……全く。ひそひそ話してないでハッキリ言えよ。

 

 「――皆さん、思ってるんでしょ?『ユウ』は運が良過ぎるって。ズルいって。全くもって、その通りです。私は最高に恵まれている。疎ましがられる程に恵まれている。だから、当然のように、勝ちます。全員ぶっ倒して、当たり前のように優勝します。以上です」


 しぃん……と観客席が静まり返った。彼らは僕の言葉をどう受け取っただろう?まぁ、なんでもいいけど。


 

 ――さぁ、もう後戻りはできないぞ。言ってしまった言葉は無かったことにできない。

 恵まれた全てを尽くして、目の前の敵は全て粉砕する。

 誰にどう思われようが、どうだっていいんだ。

 どうしようもなく勝ちたいから、本気で勝利を求める。それだけだ。



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