5-4 嵐の前
いつの間にか眠って、起きたら正午を過ぎていた。
随分長く眠っていたようだ。
のそのそと起きだして、歯を磨いて顔を洗う。
――どうしようもなく腹が減っている。
しかし、わざわざ料理をするのが面倒で、近くのコンビニで弁当でも買うことにした。
外へ出る。最近随分肌寒くなってきた。冷たい風が頬を撫で、微かに身体がぶるっと震えた。
「そういや、もう12月か……」
風の冷たさが、頭を寝ぼけた状態から徐々にはっきりさせていくようだ。
「……本当に、やったんだよな?」
それだけでは他の人には絶対に意味がわからない独り言を呟きながら、コンビニに入る。
弁当のコーナーを見て、普段は絶対買わないような、高めのものを手に取った。
――昨日の記憶が確かなら、奇跡の様な出来事が起きたはずだ。
ちょっとぐらいの贅沢は許されるような、そんな気がした。
部屋に戻り、温められたコンビニ弁当の封を開ける。
「上質!カルビ弁当」と書かれている。本当に「上質」なのかは知らない。まぁ今の僕にはそんなことは関係無かった。
気づけばほとんど飢えた獣のような勢いで弁当にがっついていた。そんな必死にならんでも弁当は逃げない。そうはわかっていても何故か追い立てられる様なスピードで手と口を動かした。
まるで溶けたかのように跡形も無く、我ながら凄まじいスピードで弁当を食らい尽くした。
全然足りないような気がしてならない。
あと1、2個くらいは全然いけそうだ。
……まぁ、とりあえずは落ち着いたので、いいか。
ほとんど無意識にホロフォを起動すると、着信履歴が何件も入っていた。が、全部無視してネットに接続する。
SSLの公式HPだ。昨日の「『グランドチャンピオンカップ』予選結果発表」をもう一度確認する。
――うん。やっぱりあるわ。夢じゃなかった。夢だとちょっと思ってた。
13位に「ユウ」の名前が確かに刻まれていた。SSLでは既に存在している同名のキャラクターは登録できないことになっているから、同じ名前の他のプレイヤー、ということは無い。
確かに僕だ。僕が……SSL最強のプレイヤーを決める、「グランドチャンピオンカップ」の本選に出られるのだ。
……と言う割に自分のリアクションが薄いのは、実感が持てないからか、それともあくまで本選で勝つことが目的だからか。
昨日は詳しく見ていなかったが、予選突破した14人と前回ファイナリストの「ゴウカ」さんと「サエ」さんを含めた16人のトーナメント表まで公開されていた。もう誰が相手か決定しているのか。
右と左のブロックに分かれた、一般的なトーナメント表。
その両端に「ゴウカ」さんと「サエ」さんの名前がある。
下馬評通りに行けば、この二人が再び決勝で戦う、ということになるんだろう。
僕は、「ゴウカ」さんがいる方のブロックにいた。当たるとすれば、ベスト4、つまり準決勝、という位置にいた。
「サエ」さんとは決勝にまで勝ち進まないと戦えない。
まぁ、その前に、ベスト4まで勝ち進まないと意味が無い。
このトーナメントの全員、純粋な実力では僕に勝るだろう。
ほとんどがトップランカー……経験豊富なプレイヤーなのだから。
同じ側のブロックに、僕が予選で負けた「スノオト」氏の名前もある。
14位の「ハイリ」氏も名前は知らなかったが、少し調べてみると、油断のならない相手だとわかった。
動画を調べてみると、その立ち回りの正確さはトップランカーにも劣らないように見えた。
実はかなりの古参プレイヤーらしく、今まで芽が出なかったものの、今回でようやく「グランドチャンピオンカップ」の予選出場を決めた、努力家のプレイヤーだ。
掲示板を覗いてみると、「『グランドチャンピオンカップ』予選結果発表」の話題で持ち切りだ。
「この『ハイリ』って誰?」
「結構古くからやってるプレイヤーだよ。話したことあるけど、礼儀正しくて良い人だった」
「やっと報われたんだな……おめでとう!」
「応援するわ」
「他のメンツは……」
「やっぱトップランカーばっかだな」
「まぁ順当だな」
「……てかさぁ。『ユウ』がいるんだけど」
「うっわまじかよ……」
「いや最近強くなったから」
「[極死の太陽]のおかげだろーが」
「実力じゃねーよな」
「いやもう認めてやれよ……予選突破なんてそうそうできるもんじゃねぇって」
「そりゃあ……なぁ?」
「でもどーせ一回戦負けとかだろw」
「お前知らねえの?『アーヴァン』に勝ったんだぜ、『ユウ』は」
「あぁ動画公開されてたな」
「『ユウ』は本物だ、とか言うつもりか?ばっかじゃねぇのwww」
「俺は『ユウ』優勝もあり得ると思う」
「ねーよw」
「やっぱ本命は『サエ』!」
「[極みの拳]手に入れてからさらに強くなったしな」
「いや今回は『ゴウカ』!」
「まだアイツ、[煉獄疾走]隠してるしな」
「やっぱその二人のどっちかかな……」
「『サエ』が勝ったら3連覇だぜw」
「そうなったらいよいよ手がつけられんわ……」
――そう言えば、大量の着信履歴の事を忘れていた。まぁまずは公式HPで再確認しないといてもたってもいられなかったし、しょうがないよね。
なんて思っていたら、その着信履歴の全てが、アマノさんからのものだったので、少し後悔した。
早く出てあげるべきだったか。
早速かけ直すと――
「おっそい!今まで何してたの!?」
と開口一番大声で怒鳴られた。
「うわっ!ご、ごめんごめん!」
「まったく、あたしは大騒ぎだよホント!もう見た?アレ見た?見たに決まってるよね!?」
アレって。まぁわかるけれども。
「……うん。見た」
「リアクション薄い!あああ、とりあえず!本選出場おめでとう!やったねーこのこの!」
「……あー……うん。ありがとう。うん」
「…………はぁ」
「……どしたの?」
「……あたしさ、実は男の子よりも女の子の方が好きなの」
「はぁ」
「性的な意味で」
「ふむ」
「もっと言えばロリとか最高」
「へぇ」
「あたしの部屋には勢い余って誘拐した幼女が沢山いるの」
「そっか」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「カギノ君……」
「……ほえ?」
「ほえ?じゃねーっつぅのっ!!」
「うおっ」
「あたしが目を覚まさせてあげようと衝撃の告白をしたっていうのに!!レズでロリコンで誘拐犯っていうヤバ過ぎな!!まぁ嘘だけどね!!」
「嘘だったの」
「当たり前だっ!!」
「いや、何というか今は、『何が起きても変じゃねぇなぁ』って気分なんだよ。奇跡だよ奇跡。僕が予選突破とか。あり得んって。そんなあり得んことも起きたんだから、アマノさんが実はレズでロリコンで誘拐犯ってのも……」
「あり得るかっ!!あり得てたまるかっ!!」
「いやわかんな」
「わかるっ!!あああもう!!いい加減にしろぉカギノ君!!君はね、やったんだよ!!予選突破したの!!でもね、それで終わりじゃないでしょう!?」
「そりゃあ、まぁ」
「だったらしっかりしろーーーっっっ!!!」
「ギャー!!鼓膜が、鼓膜がっ!!」
「そんなボケっとしてたら本番ですぐ負けちゃうよ!!いい!?今からでもやれることはいっぱいあるんだから!!本選までにきっちり仕上げて、『ゴウカ』さんだろうが『サエ』さんだろうが勝てるようになっとくんだよ!!だから呆けてないで今すぐ動け!!」
「い、イエスマム!」
「よし!……『ユウ』は強いんだから。絶対勝てるよ、頑張れ!!」
――それはまさしく暴風雨のようであった。
アマノさんは毎回予想を超えてくるなぁ……
しかし、まぁ……なんか最近になって急にアマノさんに励まされているような気がする。
これもSSLで得た繋がりの一つ、というやつだろうか。
「リクワ」さんや「ゴウカ」さん、ノハナ・サエさんやミリさん……
アリマみたいに、SSLが原因で潰えてしまった繋がりもあるけれど……
その代わりのように、今になってアマノさんが猛烈に応援してくれるようになったりもして。
何というか、その繋がりにかけて……
みっともない戦いはできないな、と急にそんな思いが浮かんできた。
「グランドチャンピオンカップ」の日程は、12月の26日にベスト4までトーナメントを進め、28日に準決勝、そして31日に決勝戦、という流れになっている。
――残された時間は少ない。
本選まで隠そうと思っていた[スタンマイン]を使った戦術も公開されてしまったし、もう正面勝負だ。
ただただ全てのスキルを使用した全力全開の戦術を、残された期間で磨き上げよう。
もう一度トーナメント表を見た。予選で負けた、や「スノオト」氏とは同ブロック。今度は絶対に負けられない。
下馬評では「ゴウカ」さんと「サエ」さんが圧倒的だ。決勝戦はこの二人の戦いになるという予想が多い。
だけど、そうはさせない。
この二人は他のプレイヤーにはそうそう負けないだろう。僕が勝ち進めばどうしたって当たることになる。
「ゴウカ」さんを準決勝で倒す。そして、「サエ」さんを決勝で倒す。
――僕が、勝つんだ。
「ユウ」が、「グランドチャンピオンカップ」の覇者になるんだ。




