5-3 挑戦者は今日も足掻く-3
11月の「グランドチャンピオンカップ」の予選。
――さらに腕を磨きをかけて、鍛え上げて臨んだ。
その成果もあったのか、今まで予選19戦中19勝。あと一戦勝てば全勝、というところまでこぎつけた。
アマノさんの言葉に従って、自分の戦いの動画を見た事がまた上達のきっかけになったのかも知れない。
戦う時は、自分で戦いの動画を録画するようになった。そして、勝っても負けても、一戦毎に確認するようになった。
負けた時になぜ負けたのか自分なりに分析することは「ゴウカ」さんに言われてからやっていた。
ただ、実際の動画を確認しながら、とまではしていなかった。
そのおかげか、以前より負けた原因を深く分析できているような気がする。
自分がどんどん強くなる、という快感。それが以前より強く感じられる。
――あと一戦。それに勝てば、今月の予選は全勝だ。
その一戦の相手は……
「ここで当たるのか……」
この大事な場面で、出会ってしまった。
トップランカーの一人、接近戦のスペシャリスト、「アーヴァン」氏だ。
「アーヴァン」氏との戦いは苛烈を極めた。
接近戦では「サエ」さんや「ゴウカ」さんに次ぐ、なんて言われるだけある。
明らかに他とは一線を画す接近戦の技術を見せてきた。
――僕は、この戦いではそれでも絶対に勝ちたかった。
そのため、本選まで取っておこうと思っていたスキルを解禁した。
それは、[スタンマイン]というスキルだ。最近、レベルアップで習得した。
要は地雷を設置するスキルだ。当たればスタン効果。隙を作れる。
設置時に一瞬隙ができてしまうので、使いどころは注意しなければならないが、設置できてしまえば、例え当たらなくとも相手にプレッシャーを与えられる。
[スタンマイン]を相手の動きを注意深く見ながら要所要所で設置していく。複数設置できるので、できるだけ多く設置する。
相手の動きを地雷によって制限すること。それは、僕が、[極死の太陽]を持っている事実によって相手に接近を強いるというもうおなじみの戦法と上手くマッチしている。
動かなければ、接近しなければ[極死の太陽]を防げない。しかし、動けば[スタンマイン]に引っかかる確率は高くなる。ダブルバインドを強いる……なんていったら大げさだろうか。
相手は[スタンマイン]を設置された位置を記憶しておかねばならないが、その記憶を対戦中に維持するのはそうとう負担がかかるだろう。
そういうもろもろの理由で、僕の中で[スタンマイン]は裏の切り札、とでも言えるような存在になっていた。
この戦いも誰かに録画されて、公開されるだろう。「ユウ」の試合は最近では毎回、「極みの闘技場」のスクリーンにて公開される様子を録画されている。だから、この[スタンマイン]を使った戦法は隠しておきたかったのだけど……出し惜しみをして負けるわけにはいかない状況だ。
その判断が功を奏した。暴風雨のような「アーヴァン」氏の接近戦をギリギリでしのぎながら、[スタンマイン]を設置していく。それを繰り返し、数を増やしていくと、「アーヴァン」氏の動きが[スタンマイン]を警戒したのか動きに思い切りがなくなり、鈍くなっていく。
その一瞬の隙を突き、[スタンボール]を命中させることに成功し、そこからの[極死の太陽]でトドメを刺し、激戦を制した。
「……っよっし!」
思わず声を上げてしまった。トップランカーを初めて撃破することに成功した。これで11月予選全勝……!
8月から11月の4ヶ月間。一ヶ月につき一人20戦を戦い、合計80戦を戦う予選がついに終わった。
戦績は、10月に2敗したので、78勝。
普通なら好成績に思えるが、この予選に参加しているプレイヤー数は膨大だ。
その中で上位14名となれば、ほとんど全勝することが必要だろう。
そう考えると、やっぱり10月に2敗したのは痛かった。本選出場は、微妙なラインか……
しかし、時間は巻き戻せない。もう祈るだけだ。やれるだけのことは、やった。
予選の結果の発表は、12月1日の20時。今から落ち着かない時間を過ごすことになりそうだ……
――そして、結果発表当日。今日ばっかりは、SSLにログインしなかった。一日中、予選の結果が気になって全く落ち着けない。発表の20時まで部屋の中をウロウロしていた。今日は一日外には出なかった。大学は授業が無かったし、こんな状態で外に出たら挙動不審過ぎて通報でもされかねない。
時間が過ぎるのが遅い。もう一秒だって耐えたくない。ここが地獄か。
19時55分。心臓の音がうるさい。
56分。変な汗が出てきた。
57分。意味もなく部屋のベットを殴りつけた。
58分。「うあー!」と叫んだ。隣の部屋の住人に「ヤバいのがいる」とか思われたかも。
59分。もう何も考えられない。
59分10秒、20秒、30秒、40秒、50秒……あぁ、時間が進むのは遅い。遅すぎるぞ。
51、52、53、54、55……ってごめんなさいちょっと待ってください、心の準備ができてません。
56……ううう。
57……あああ。
58……ぎぎぎ。
59……うん、もうどうにでもしてください。
20時。公式HPにアクセスする。表示された「『グランドチャンピオンカップ』予選結果発表」の文字を震える手でタッチする。
1位から14位のキャラクターの名前が表示される。
1位から順に確認していく。
1位から5位。ネットで何度も見たトップランカー達の名前が連なる。
5位から10位。特に変わりなし。見知った名前ばかりだ。つまりトップランカー達が順当に名前を連ねている。「ユウ」の名前は、まだない。
11位。やはり知った名前。
12位。知ってる名前。
13位。…………
14位。知らない名前……ってちょっと待て。
13位に表示された名前を限界まで顔を近づけて、確認する。
――13位:「ユウ」
目をごしごしとこすってみても、頬をつねってみても、そこに表示された文字が変わることは無かった。
「――ふ、は……」
自分の口から空気の抜けたような音が鳴った。
名前、載ってるよ。13位だよ。マジだよ。予選突破だよ。本選出場だよ。
本選出場しちまったよ、おい。
「う、へへへへへ」
変な笑い声が出てきた。夢じゃないのか。夢じゃないらしい。
そのままベッドに倒れこんだ。すると、一気に睡魔が襲ってきた。
今の僕にそれに対抗する術は無く。――すぐさま意識が途切れた。もしかしたら今日は、いい夢でも見られるのかも知れない。




