5-3 挑戦者は今日も足掻く-2
「あ、あと、『サエ』さんの動画も見たよ!」
そう切り出すアマノさん。彼女の目にはあの人はどう映ったんだろうか?
「そうなんだ。どうだった?」
「……すっごい強い。上手いって言うより、強い。なんかもう、怖いくらい。SSLに人生でも賭けてるみたいな、苛烈さ」
「怖い、か……」
「でもそこがいい」
「いいんだ!?」
「うんうん、画面越しでもわかるくらいの気迫で戦ってるあの姿見ると、『うあー超カッコいいー!!燃えるー!!』ってなる!もう一発でファンになっちゃった!」
「そ、そうかい……」
目をキラキラさせながら語るアマノさん。……まぁでも僕も、前回の『グランドチャンピオンカップ』の動画の「サエ」さんを見た時は結構熱くなったけど。
アマノさんは意外にこういうのが好きなのかな。
「あの人に似てるの!ほら、数年前くらいかな?凄い強い格闘家の人がいたじゃない!?ほら、女の人の!すっごい目つきが鋭くてカッコいい人!」
ギクリ、とした。
「……ノハナ・サエさん?」
「ああ、そうそうそんな名前だった!ってあれ?サエって……『サエ』さんと同じ名前じゃん!!もしかして……同一人物!?」
うわ、マジかこの人。
大正解です。……言わないけど。あんまりリアルのこと言い触らすのもマナー違反だと思うし。
「カギノ君、何か知ってる!?」
「い、いや、何も知らない。『サエ』さんとリアルのこと、あんま喋んないから……」
「そっかー……そういえば、あの人って事故に遭っちゃって格闘家を引退しちゃったんだよね……はっ!そうかっ!」
「え?」
「格闘家を引退することになってしまって失意に暮れるノハナ・サエ……しかし彼女はある時、SSLに出会った!新たな戦いの場を得た彼女は、そこでメキメキと力をつけて、ついに『グランドチャンピオンカップ』2連覇という偉業を達成したのだ……っ!みたいな!?」
エスパーかこの人は。
「え、えーと……どうかな……」
「んー……まぁそんな漫画みたいな話は無いかなー……あーでもホントにそうだったら……あたし、どうしよう!ますますファンになっちゃう!キャー『サエ』様ー!」
「あ、あははは……」
うーん……この人、こんなに愉快な人だったか。知れば知るほどワケわからん。「君の存在が漫画的だよ」とか言っちゃいそう。
ついていけそうにないので、少し、話題を変える。
「なぁ、アマノさん」
「ん、何?」
「僕は……『サエ』さんに勝てるだろうか?」
「……カギノ君は、『サエ』さんを目指してるんだ?」
「まぁ、一応ね。そのために、今『グランドチャンピオンカップ』の予選に参加してる」
「あー、公式HPに載ってたね、そんなこと。そっか。予選があるんだ」
アマノさんに予選について簡単に説明する。
「ほうほう……そこで成績上位14名の中に入れば、本選に出れるんだ」
「そう。本選に出れれば、SSL最大の舞台で『サエ』さんと戦えるかも知れない」
「燃えるね」
「まぁ、まだ出れるかどうかはわかんないけど……」
「『わかんないけど』って言えるぐらいの所にはいるんだ?」
「うん。……多分」
「凄いじゃん!」
「ありがとう。……でも、予選を突破しただけじゃあ、駄目なんだ。『サエ』さんに勝ちたい」
勝ちたい。口に出して言ってみると、妙に馴染んだ。
そうか、僕は「サエ」さんに勝ちたかったのか。
いつの間にかそんな事を考えるようになったのか……確かに、「ライバルになって欲しい」みたいなことは「ゴウカ」さんやノハナ・ミリ社長から言われてはいたけど。
「ライバル」どころか「勝ちたい」か。随分な事を考えるようになったもんだ。
「そうだなー……むー……あたしには正直よくわかんないなー」
「まぁ……そうだよね。始めたばっかだもんね」
「うん……でも、動画を見る限りでは、やっぱり『サエ』さんは強いと思う……」
「だよね。やっぱ難しいか」
「でもさ。『ユウ』はね、新しい動画と古い動画を見比べるとわかるんだけど、どんどん強くなってるんだよね」
「え。そ、そうかな?」
「そうだよ。全然動きが違うよ。あたし結構『ユウ』の動画見まくったんだけど、毎回別人みたい」
「そ、そこまでかなぁ?」
そりゃ自分が上手く、強くなってる感覚はあるけど……
「本選っていつだっけ?」
「年末」
「まだ時間はあるね……『ユウ』が……カギノ君が、これまで通りもっともっと強くなるんなら、もしかしたら……勝ち目があるかも」
「・・・・・・・・・・・・」
「ま、あくまで始めたばっかの初心者の意見だけどさっ!」
「いや、ありがとう。ちょっと希望が持てた」
「……もしかして、カギノ君って自分の試合の動画は見てないの?」
「うーん……自分の見るくらいなら、他の強豪プレイヤーの動画見て、勉強して対策した方がいいかなって」
「……余計なお世話かも知れないけどさ、自分の動画も見てみたら?自信つくと思うんだよね。それに、反省点とかもわかるかも知れないしさ」
「……なるほど」
それは盲点だった。自分の試合を見返すのも意味があるのかも知れない。
「ありがとう。アドバイスとして、受け取っとく」
「え!?ホントにやるの!?あたし、ただの初心者なんだけど!?」
「いや、自分の戦いの動画を見るっていうのは、僕も気づかなかったし。……アマノさん、将来は凄いプレイヤーになるかもよ?」
「……いやーそうかなぁー……えへへへ。あたしも『サエ』さんみたいになれるかなー……」
ニヤニヤと笑うアマノさん。その様子を見てると、こっちも笑顔になってきた。
アリマよ、逃した魚は大きいぞ。
家に帰ると早速、有名動画サイトにアクセスして、自分の……『ユウ』の動画を片っ端から見てみた。
アリマが勝手に公開した、「サエ」さんとの最初の対戦。
PvPを始めたばかりの、下手糞だった頃の対戦。
「サエ」さん達からのアドバイスを実践して、勝ち始められるようになった頃の対戦。
予選の動画も公開されていた。8月、9月、10月……
見てる間、その当時の思いが蘇ってきて、なんだか感慨深くなってきた。
僕は、確かに強くなっていた。
本気で取り組んできたその成果が、そこにはあった。
こんな動きができるようになったんだ、こんな相手に勝てるようになってきたんだ。
――僕は、「サエ」さんや「ゴウカ」さんに近づけているだろうか?
最後に、SSLのトップツーの二人の最新の動画を見てみた。
……やはり、上手い。強い。
だけど、新たな発見があった。
この二人と、今の自分との差が、はっきりと見える。
もちろん、この動画がこの二人の限界とは限らない。特に、「ゴウカ」さんは新しく手に入れたスキルを温存しているし。
「よし……!」
決意は固まった。この11月が勝負だ。予選全勝は勿論のこと、この差を、この11月で埋めてやる。
そして、『グランドチャンピオンカップ』本選で……二人に、勝つ。
はっきりした思いが心を満たしていく。視界がクリアになっていく様な感覚。
いてもたってもいられない。今すぐ、動き出そう。




