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5-3 挑戦者は今日も足掻く-1

 なんというか、そうそう上手くいかないものだ。

 10月の下旬になった。「グランドチャンピオンカップ」の10月の予選、僕の成績は……


 「2敗、か……」


 18勝。8,9月が全勝だったから、これまでが上手く行き過ぎだった、とも言えるだろうけど……

 予選の成績でふるい分けられて、本選に進む14人を決めるワケだけど、予選には膨大な数のプレイヤーが参加するワケで、自然と基準は厳しくなる。恐らくその14人にはほぼ全勝でもしなければ選ばれないだろう。この2敗で、もしかすると本選出場に大きく遠のいてしまったのかもしれない。


 2敗した相手は、トップランカーの「カイオリセ」氏と「スノオト」氏だ。この二人はトップランカーということで有名だったので、対戦動画を見たり、掲示板で情報収集したりしたのだけど、やはりトップランカーの壁は厚かった。

 [極死の太陽]を持っている、という事実のおかげで、何とか勝負にはなっていたし、次戦えばもしかしたら勝てるかも知れない、ぐらいの内容ではあったけれど……予選に「次」は無い。負けたらそれは確実に本選出場の可能性を低くする。

 精々、この2敗が許容範囲であることを祈るしかない。




 11月。今月の予選は全勝以外では本選出場は絶対にあり得ない……かどうかは良くわからないが、そのつもりで戦うつもりだ。とりあえず、11月の前半から中盤くらいまでは通常のPvPで調整だ。


 そんなことをボンヤリ考えながら、大学の食堂でカレーライスを頬張っていたら、思いっきり肩を叩かれた。


 「痛っ!?」


 誰だ?今や僕に話しかけてくる学生なんていないはずなのに。

 もしかして教授とかか?何か粗相をしたっけか。まぁ授業はあまり真面目に聞いていないが、そんなの僕だけじゃないぞ。

 そう思いながら振り向くと……


 「あ、アリマ……」


 ――ずっと口も聞いていなかったアリマが、そこに立っていた。

 その顔は見たことが無いくらい険しい。……どうやら仲直りに来た、という感じでは無いらしいな。


 「お前……ちょっと付き合えよ」


 これは……アリマ、怒っているのか?怒りのあまり、口数が少なくなっているらしい。無言で襟首を掴まれ、無理矢理引きずるようにどこかへ連れていかれそうになる。


 「……どこ行くんだよ。そんな引っ張らなくてもついていってやるから、離せよ」


 アリマの乱暴な態度に引きずられるように、こっちも険悪な口調になってしまう。


 「……どこでもいいだろうが。黙ってついてこい」


 襟首から手を放し、ずんずんと有無を言わせない雰囲気で歩いていくアリマ。

 どうも、僕は今から相当気分の悪い目に遭うらしい。




 食堂に一番近い空き教室に僕達は入った。どうやらアリマは、初めから場所を決めていた訳では無く、とりあえず他の人間がいないところならどこでも良かったらしい。そんな部屋の選び方だ。


 「おいお前」

 「……何?」

 

 駄目だ。アリマは嫌悪感をむき出しにしている。こんな人間に対して穏やかに対応できる程、僕は大人じゃない。できれば関係を修復したいのに、ぶっきらぼうな口調になってしまう。


 「……童貞野郎の癖してやるじゃねぇか、ん?人の女横取りするなんてなぁ……」

 「……は?」

 

 人の女って……アマノさんか?横取り?

 全く身に覚えがありませんが。


 「とぼけんじゃねぇぞクソオタク野郎!テメェがミナリに手を出したんだろうが!」

 「えーと。全く意味が分からないんだけど」


 思わず間抜けな口調になってしまった。

 そういや、前に話した時、アマノさんはアリマと別れたがっていたっけ。


 「なに、フラれたのか、アリマ?」

 「っつ……!」


 アリマの顔が醜くぐにゃり、と歪み、顔色も真っ赤になる。


 「テメーのせいだろうが!」

 「だ・か・ら!それがわかんないって!身に覚えが無いんだけど!?」

 「はぁ!?んなワケねーだろぉがぁ!!」

 「……どうしてそう思うんだよ?」


 すると、アリマは大声で喚き散らした。


 「ミナリがSSLを始めた、とか言ってきやがったんだよ!!」

 「……あー……」


 そう言えば、アマノさん言ってたっけ。


 「というかもういっそあたしもSSL始めてやろうかなぁ……そんでアリマにその事言うの」

 「どんな顔するかなー……というか、なんか純粋に面白そう、SSL!」


 実行に移しちゃったかー。


 「だから言ってやったんだよ、『お前、そんな今時VRでも無い骨董品みたいなゲーム、カギノみたいな根暗オタクしかやらねーぞ』ってな!そしたら、そしたらなぁ、ミナリがキレやがったんだよ!『カギノ君の事を悪く言うな!』なんてな!そっからは散々だったぜ!無茶苦茶に喧嘩する羽目になっちまった!!結果、別れ話まで切り出してきやがったんだ、あの女!!」

 「ああそうかい。で?」

 「で?じゃねぇだろぉがぁ!!」


 教室の机を癇癪を起したように蹴りつけながら、アリマは僕に詰め寄ってきた。


 「あの女、テメエとデキてたんだろう!?じゃなかったら俺にべったりだったあの女が俺に逆らうなんてあり得ねーだろうが!!テメエの悪口を言った途端、豹変したみてぇにぶちギレやがった!!だったら()()()()()()に決まってるだろうが!!」

 「……なんかその考え方、むしろお前が童貞みたいだな」

 「あぁ!?んだと!?」


 なんだかうんざりしてきた。心が急激に冷えていく。


 「アマノさんがお前に逆らう筈が無い?馬鹿じゃないの」


 アマノさんはそんなヘタレじゃない。


 「仮にも付き合ってきた癖に、そんなこともわからなかったのか、お前。……もう帰っていいかな?」

 「あぁ……!?糞野郎、シラ切るつもりか!?」

 「シラ切るも何も。別にアマノさんと僕がデキてるとか、そういう話じゃないんだよ、わかんない?大体アマノさんは裏でこそこそ浮気するような人じゃないよ。お前にウンザリしたら、お前が実際に体験したように、ハッキリ言う人なんだよ、最初からな」

 「……っ!!んなわけ……んなわけねぇ!!テメエがミナリを唆したんだ!!SSLをダシにでもしたんだろ!?」

 「……何をどう考えたらそんな奇想天外な発想が出てくるかな、馬鹿じゃないの?いやむしろ天才……?」

 「あああぁぁぁうぜえうぜえうぜえ!!ぶっ殺してやる!!」

 「殺すのは勘弁してくれないかな、知っての通り社会不適合者でゲームオタクでSSLにしか興味が無い童貞野郎なんだ、僕は。で、今SSLで大事な時期でさ。死ぬわけにはいかないんだよね」

 「知・る・かっ!!」

 

 アリマは、本当に殺しに来るんじゃないのか、というぐらいの形相をしていた。

 なので、即逃げることにする。

 目の前まで詰め寄ってきていたアリマの股間を蹴り上げてやった。


 「ぐおおおっっっ!!?」

 「自分の大切な人の事もちゃんとわかろうとしないヤツなんて、去勢しちまえっ」


 あまりに馬鹿馬鹿しい。今のアリマはちょっとびっくりするぐらい馬鹿だ。

 投げやりな捨て台詞と共に、股間を抑えて悶絶するアリマを尻目に、さっさと退却した。


 


 教室を飛び出し、走って逃げる。

 ……もう今日は午後の授業は自主休講して帰ってしまおうか。疲れた。

 うん、そうしよう。出席日数を単位が取れるギリギリのラインを狙って減らすのも大学生の義務である。タブン。

 そのまま大学を飛び出す。あ、しまった、カレーライス残したまんまだ……もういいか。食堂のおばちゃん、ごめんなさい。

 すると、丁度良いのか悪いのか、大学を飛び出してすぐの所にアマノさんの後ろ姿を見つけた。


 「アマノさーん」

 「あ、カギノ君。どしたの?」

 「アリマに殺されそうになったから、金的を食らわせて逃げてきた」

 「あはは、何それ!」

 「とにかく、アリマが追ってくるかも知れない。アマノさんは今から帰るの?」

 「うん。ちょっと疲れててね。自主休講」

 「奇遇だね。僕もアリマとの戦いで疲れた。一緒にアリマから逃げよう」

 「大丈夫。アリマが来たらあたしが[左ジャブ]→[右ジャブ]→[左ハイキック]のコンボでぶっ倒してあげる」

 「……ホントにSSL始めたんだ。アリマに聞いたよ」

 「うん、私戦うゲームってやったこと無かったからどーかな、って思ってたけど、結構楽しくやってるよ」




 結局、アマノさんと一緒に帰ることになった。アマノさんとは電車が途中まで一緒だ。

 アマノさんと僕は、SSLを話題にしょうもない会話に興じた。


 「アマノさんはどんなキャラクター作ったの?」

 「うーんと、『魔法少女』ってわかる?日曜の朝あたりにテレビでやってたんだけど。小さい頃凄い好きだったんだ。だから、それに似せて作ったよ。すごい可愛いよ」

 「へぇ。じゃあ戦い方は魔法主体?」

 「いや、マジカル格闘術。マジカルと言う名の物理攻撃で相手をボコボコにするの」

 「魔法使おうよ……魔法少女なんでしょ……」

 「ギャップがあって見てて面白いよ。幼女がストレートで『ゴブリン』を粉砕するの」

 「そ、そう……ヨカッタネ」

 「カギノ君の『ユウ』はカッコいいよね」

 「あれ、知ってるの?」

 「動画で見た。すっごいマッチョなお姉さん。ビックリしちゃった」

 「ああ、作ってるうちに悪ノリしちゃってね……」

 「あと、[極死の太陽]。――あんな有名になっちゃうんだね、特別なスキルを手に入れるのって。そこから『ユウ』のことに辿りついて、知ったし……あのスキルも凄いカッコいい。ぐわーっておっきくなって、どーんって向かっていくやつ」

 「テキトーな説明だなぁ」

 「あとさ、『ユウ』って凄い強いんだね」

 「……そう見える?」

 「うん。素人目にも『あ、この人強い』ってわかるもん。カギノ君、『本気』でやってるだけあって凄いんだな、って」

 「そっか。ありがとう」 



 ゆったりとした時間だった。しばらく色々な面倒なことを忘れて、僕達はしょうもなくも落ち着く、そんな会話に花を咲かせていた。


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