5-2 世界が君を-3
窓の外は夕暮れ。オレンジ色の光が教室を照らしていく。
そんな恰好の舞台演出がされた様なこの場所で、アマノさんは……
「あたし、サイ……アリマ君と別れようと思う」
うんうん。なんというか、このシチュエーションと相まってなんだか映画のワンシーンみたいですねー。
夕暮れの教室で別れ話(友人?の)なんてねー。青春ですよねー。
ってそうじゃねぇ。
「あーっと……なんで?」
これが映画で、僕が役者ならば、監督は僕を即クビにするんじゃないだろうか。
すっごい間抜けな返し。しかも直球。デリカシーとか無いんですかね。
でもしょうがないだろう。こんな話いきなりされてもねぇ。恋愛事には不慣れなもので。
「最近アリマ君、すっごい感じ悪いの」
「それは……アリマがアマノさんに対してかまってやれてないとか……それとも浮気とか?」
「そういうのじゃなくて……何というか、単純に性格が悪くなったの」
「はぁ」
「最近、アリマ君と話してる?」
「いや、実は全然なんだ。理由はわかんないけど。嫌われた?っぽいんだ」
「やっぱりそうなんだ……」
はぁ、と溜息をつくアマノさん。
「アリマ君って……友達多いじゃない?」
「うん、そうだね……」
「休み時間はいつも大勢で楽しくお喋りしてるんだよね」
「うんうん、そんな感じだ、アリマは」
「前はその中にカギノ君もいた」
「たまにだけどね。僕自体はそんなに大勢の人とつるむのは苦手なんだ」
「でもアリマ君は、カギノ君と居る時が一番楽しそうだった」
「不思議だよね。まぁ今はそんな感じじゃないけどね」
「……あっさりしてるね」
「いや、嫌われたっぽい直後は結構堪えたよ。だけど、それからすごく忙しくなって、落ち込んでる場合じゃなくなってさ。まぁ、こんなの言い訳にもならないだろうけど。正直、アリマの事はわかんないけど……考えてもわかんないから、ついつい放置しちゃってたんだ、ごめん」
「いや、謝らなくてもいいけど……そのさ」
「うん?」
「その、忙しくなった、っていうのって……『スキルシーカーズリンク』っていうのが関係してる?」
一瞬、金槌か何かで、頭をガン、と殴られたような衝撃を覚えた。
何でアマノさんがSSLを知っているのか……っていうのはあんまり不思議ではないけれど。どうせアリマから聞いたんだろうし。
何だか、アマノさんの口からそれを問われると、自分がゲームにかまけて友人関係を大切にしなかった、という事実を目の前に突き付けられたようで……何だかとても落ち着かない。
「……それは、アリマから聞いたの?」
「……うーんと……別にあたし自体は、興味が無かったんだけど……アリマ君が最近その名前をよく出すから。――大抵、カギノ君の名前と一緒に」
「アリマが?最近……僕の事を?……どういうこと?」
「言ってもいいけど……あのさ、あんまりショック受けないでね。悪いのはアリマ君だと思うし……」
「悪口でも言ってたの?」
「……うん」
「……いや、別にさ、なんというか……今僕とアリマの仲が良くないのは、僕にも責任があるかも知れないしさ。――アリマに酷い事言われてても、しょうがないって思えるよ。だから、詳しく聞かせてよ。僕も、アリマと何があったのか……アマノさんが知りたいんなら教えるしさ」
そう言うと、アマノさんはもの凄く悲しそうな顔をした。
思い出すのも辛い、といった面持ちだ。
アマノさんは、優しい。
「アリマ君……前はあんな感じじゃなかった」
「うん」
「人の事を馬鹿にしたりしないし、何か知らない、分からないことはまず受け入れる、って感じで、そこが凄い良いな、って思ってた……」
「……うん」
「でも、今は……カギノ君の事、馬鹿にしてるの。しかも、それを大勢の人に言いふらしてるの。『アイツは気持ち悪いゲームオタクだ』とか『リアルよりネットの方が大切っていう社会不適合者なんだよ』とか……他にももっと酷い事言ってたりも、する」
「……そっか」
「……最近、カギノ君っていつも一人だよね」
「そりゃ、僕が自分から話しかけにいかないからさ」
「ううん、違う。アリマ君がカギノ君の事を悪く言ってるからなの、それ……多分みんながみんな、アリマ君の言うことを信用してるとは思えないけど……」
「まぁ、僕に話しかけるようなヤツは、アリマによく思われないだろうね。アリマは知り合いや友達が多いから、そのアリマに悪く思われたら面倒な事になる……そう考えてるんじゃないかな?」
「……多分、そんな感じ」
「なるほどね」
「でもあたしは!カギノ君がアリマ君の言うようにそんな悪い人だとは思えない!」
「……なんで?」
「沢山、あたしの相談に乗ってくれたじゃん……カギノ君は良い人だよ」
「うーん……でもなぁ。実際今の僕はゲームオタクで社会不適合者なんだよ、きっと。『スキルシーカーズリンク』に夢中でさ。現実の事を疎かにしてる馬鹿野郎なんだよ」
すると、アマノさんはカッと目を見開いて、ほとんど叫ぶように言った。
「ゲームオタクが何よ!社会不適合者が何よ!童貞が何よ!そんなの、何も悪くないじゃない!それより人の悪口言いふらしてるクソ野郎の方がよっぽどタチ悪いわよ!」
「お、おおう」
アマノさんがキレた……てかアリマよ、「童貞」とまで言ったのか。ちょっと容赦なさすぎじゃないんですかね。気にしてるんだから。
「教えて!」
「う、うん?何を?」
「さっきカギノ君が言ったんじゃん!カギノ君とアリマ君、二人の間に何があったの!?教えて!!」
「あ、ああ、それね。うん。わかった、話します」
思わず敬語になってしまう程のアマノさんの剣幕にビビりながら、出来る限りわかりやすく説明した。
「スキルシーカーズリンク」の事。
[極死の太陽]の事。
「サエ」さんとのこと……
自分でも、何故アリマとの仲が悪くなったのかが分からない。だから、関係ありそうなことは全部話した。勿論、アマノさんは「スキルシーカーズリンク」のことはよくわかっていないから、苦労したけれど……根気強く説明した。
「――ハッ」
説明し終わったアマノさんは小馬鹿にしたように笑った。
――誰を馬鹿にしてるんだろうか。僕だろうか。そうかもな。
「……ごめん。くだらないよな、僕って。もうちょっと上手く立ち回れれば、アリマがああなることは……」
「違う。馬鹿なのはアリマ」
君が取れちまったよ。
「要は嫉妬でしょ、結局。[極死の太陽]、だっけ?それを手に入れたカギノ君が羨ましかったのよ」
「そんな簡単な話なのかな……」
「簡単よ。[極死の太陽]の事と、『サエ』さんにすげなくされた事で、カギノ君への嫉妬心が爆発しちゃって、あんな格好悪いことになっちゃった、ってことでしょ。くだらないわ」
あんまりボロカス言うので、もうなんかアリマが可哀想になってきた。
「いや、なんというかねアマノさん。アイツも多分、SSLに本気だったんだよ。だから……」
「本気だったって言うんなら、[極死の太陽]にも『サエ』さんにもくじけずにやり続ければ良かったのよ。他人の事ばっか気にしてどうこう言いながら本気だ何だ、って馬鹿みたい」
フォロー失敗。
「まぁ、これでわかったよ、カギノ君。ありがとう、遅くまで」
窓の外を見ると、すこし暗くなり始めていた。
そんなに話してたのか。
「ごめんね、カギノ君。今その……SSLに本気なんでしょう?時間とらせちゃってごめん」
「いや、いいよ……ゲームにばっかかまけてたんだ。これくらい……」
「自分の事卑下しちゃダメ!」
「……え?」
「ゲームだろうがなんだろうが、本気でやってるんならそれは誇れることだと思うよ、あたしは。学校の休み時間にも、ずーっとSSLの事調べてるぐらい努力してるんでしょ?確かにセケンテキにーとかシャカイテキにーとか言ったらあんまり良くないことって言われるかも知れないけど、そんなの本人がその事に本気で取り組んでいることに比べれば大したことないよ。立派だよ、カギノ君は」
「……そうかねぇ」
「そうなの!」
「そうか……」
「そう!」
……何か今日のアマノさんは強引だなぁ……アリマが心配になってくるぞ。今のアマノさんとアリマが対峙したらアリマはボコボコにされそうだ。言葉の拳で。
「というかもういっそあたしもSSL始めてやろうかなぁ……そんでアリマにその事言うの」
「マジデスカ」
「どんな顔するかなー……というか、なんか純粋に面白そう、SSL!」
「ソウデスカ」
……とりあえず、もう少し様子を見たらアリマも落ち着くかも知れないから別れるのはもうちょっと待ってあげて、とはアマノさんに言っておいた。
「なんで?あたし、もう今すぐ別れてやるって感じなんだけど」
「アリマは元々悪いヤツじゃないし……時間置いて冷静になるのを待った方が良いと思う。……それくらいは、してあげてくれないかな?」
「やっさしいねぇカギノ君は。……ま、いいよ。もう少しだけ待ってあげることにする。でも絶対アリマにはカギノ君に頭下げさせてやるんだから」
「あー……あんま無茶苦茶やんないでね……」
アマノさん……意外にパンチのある性格をしていらっしゃる。これアリマとの関係が修復したら、アマノさんはアリマを尻に敷くんじゃなかろうか。
「んじゃあまた!カギノ君、SSL頑張ってね!」
「うん。それじゃ、また」
ブンブンと手を振ってアマノさんは帰っていった。
なんだか、不思議だけど、アマノさんと話してたら少し元気になった気がする。
自分のやっていることがあれだけ力強く肯定されるっていうのは、貴重だと思う。
ちょっと遅くなったけれど、今から家に帰ればSSLでPvPを何戦かやれるだろう。
なんだか今日はいつもより調子が出そうな、そんな予感がする。――さぁ、「本気」で遊ぼう。




