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5-2 世界が君を-2

 「あれから『ゴウカ』さんや『サエ』さんとは戦ったのかい?」

 「ええ、何度かマッチングしました」 


 前回の『グランドチャンピオンカップ』のファイナリストである二人は、予選に参加しなくても今回の本選に出場できるので、予選で戦うことは無いが、本選に向けての調整か、最近たまに通常のPvPで出会うことがある。

 

 「勝てた?」

 「まさか」

 

 勝てるようになった今だからこそ……彼ら二人の凄さが分かる。正直、まだ勝てるビジョンが全く湧かない。

 『ゴウカ』さんはもう人間の限界に達しているのではと思えるぐらい状況判断能力に長けている。それに加えて的確で正確な操作で、真っ当に強すぎる。

 しかも最近、新たにユニークスキルを手に入れたらしい。

 [煉獄疾走]という[風纏い]の亜種で、移動能力の上昇に加え、効果中は移動の度にその軌道上に燃え続ける炎を出現させる、という厄介そうなスキルだ。

 その炎の威力も決して低くないらしく、移動の補助と攻撃の補助を高いレベルで両立してこなせるスキルらしいが、未だにPvPの場で使用したことは無いらしい。

 本選の時の切り札にするつもりでは、というのが公式HPの掲示板のスレッド、「『ゴウカ』対策」での論調だ。


 『サエ』さんに対しては、『ゴウカ』さんと真逆の強さを持っているのでは無いか、と最近思う。

 『ゴウカ』さんが人間の限界ならば、『サエ』さんは野生の獣のようだ。

 格闘家だった頃に培った戦闘勘やセンスを存分に振るっているのか、奔放で大胆な動きで猛攻を仕掛けてくる。

 [極みの拳]と[一筋の黄金]というユニークスキル二つを最大限に使いこなした、凄まじい、としか形容しようの無い野性的な戦い方で相手を圧殺する。

 オフ会や普段のちょっと抜けた感じの『サエ』さんからは想像もつかないが、この人は間違いなく「グランドチャンピオンカップ」を連覇した凄腕のプレイヤーなのだ、と戦っていると嫌でも実感させられる。


 「キミもそろそろ掲示板の『「ゴウカ」対策』とか『「サエ」対策』とか見た方がいいんじゃない」

 「……まだ気が早いですよ……予選を勝てるかどうかもわからないのに。今は他のトップランカーの対策を優先してます」

 

 「ゴウカ」さんと「サエ」さんがツートップ、というのは事実だが、他にも強いプレイヤー……トップランカーと言われ、他のSSLプレイヤー達から畏敬の念を持って見られる人物はいる。


 接近戦では「ゴウカ」さんや「サエ」さんに次ぐのではないか、と言われている「アーヴァン」氏。

 遠距離からの魔法による苛烈な攻撃が特徴的な「カイオリセ」氏。

 接近戦も遠距離戦もそつなくこなし、距離コントロールの匠、などと呼ばれている「スノオト」氏等々……


 彼らに関しては予選でも当たる可能性はある。特に初心者の自分では、対策でもしておかないと勝ち目は無い。

 動画を見た限りでは、そんな印象だ。


 「へぇ、そうかい。でもまぁ、今から『ゴウカ』さんや『サエ』さんの動画だけでも見とくといいんじゃない?対策、とまでいかずとも、参考になる部分はあると思うよ?」

 「それもそうですね……そうします」




 大学の夏季休暇は、高校までと比べると妙に長い。9月の中旬までは休みだった。

 休暇期間中は相も変わらずSSLでPvPの腕を磨いた。

 そして、休みの最終日に、9月予選の20戦目を終えた。

 今月も全勝という出来過ぎな結果だ。20戦目を勝利した時、思わず画面の前でガッツポーズをしてしまっていた。随分入れ込むようになったものだ。

 後は10月と11月で各20戦。残り40戦だ。

 学校が始まって時間がこれまでより取れなくなるが、その分集中して取り組んで、予選を突破しよう。

 そう気持ちを新たにし、夏季休暇後初の大学へ登校した。

 

 休暇を挟んでも、僕の大学での過ごし方は変わらなかった。

 通学中や休み時間中はホロフォ(ホログラムフォンの略)からネットに繋いでSSLの攻略サイトや動画サイトを巡り、授業中も基本的にはSSLについて考えている。

 とりあえず、テストだけはギリギリで合格できるように、最低限の注意だけ払って日々の授業をこなす。

 資料だけはきっちり整理し、教授が特に強調して話している部分のみ頭に入れておく。

 ある意味、大学生の鑑ではないだろうか。

 すっかり不真面目になってしまったなぁ。

 友人や知り合いとの交流も相変わらず殆ど無い。SSLに本気になってからはずっとこんな感じだ。だけど寂しさを感じる暇も無い。僕は今本気でゲームを遊んでいるのだ。

 ……まぁ、たまになにやってんだろ、とは思ったりもするけれど、今更引き返せない。

 行けるとこまで行って、そこから見える景色を見るまではやめられないんだ。


 ――そんな他人とのコミュニケーションが疎かになっていたのを本格的に後悔することになったのは、大学が始まって3週間後、10月の始め頃のことだった。

 いつも通り、大学の授業が終わったら即家に帰り、SSLをプレイしようと校門を出ようとしたその時だった。


 「カギノ君、カギノ君!ちょっと待って……っ!!」


 周りにいる他の学生が一斉に注目するほどの大声で呼び止められた。振り返ると、息を切らして走ってくる一人の女性を見つけた。


 「え、アマノさん?どうして……?」

 「ごめん、話は後!お願いだから、ついてきて!お願い!」


 「お願い」がかぶってるぞ、とツッコむ間も無く、手首をひっつかまれてグイグイ進んでいく。

 どうやら随分緊急の用事のようだ。


 「わかった、わかったから引っ張らないで欲しいな、アマノさん。どこへ行けばいいの?」

 

 そう聞くと、放課後は使われていない教室の名前を告げられる。

 内緒の話、ということだろうか。

 もう何を言っても聞いてくれ無さそうなので、おとなしくついていくことにする。



 この女性はアマノ・ミリさん。僕にSSLを教えてくれた……今はほとんど話してくれない僕の友人(だった?)アリマの恋人である。

 ――以前、アマノさんとアリマが恋人になる前……アマノさんはアリマにアプローチするために、その頃はいつも一緒にいた僕に相談してくることが多々あった。

 彼女は長く伸ばした茶髪とロングスカートという出で立ちをしている。

 僕がアマノさんに頼まれて、それとなくアリマの好みを聞いて、それをアマノさんに報告してから、この姿になったのだ。それ以前はジーパンに黒髪で眼鏡をかけていた。現在はコンタクトだ。

 まぁ、好きになった相手の好みに合わせて自分の容姿を変える、なんて努力をするほど、彼女は一途で誠実で献身的な女性である。僕もそんなアマノさんを信用して、アリマとの仲を取り持つため、相談に乗ったりして協力していた。

 恋が成就してからは、あまり話すことも無くなったのだけど、それでも時々感謝される、ぐらいの関係であった。

 それが今、急に以前に戻ったようにアマノさんは僕と話そうとしているらしい。

 何の話だろう?まさかアリマとの関係が悪くなったとか?

 以前アリマはアマノさんをほっぽってSSLにハマっていたということもあったし。

 ……だけど、今の僕がアリマとの関係性について相談されたとしても、ほとんど力になれないだろう。

 アリマが僕と「サエ」さんの最初の動画を公開したあの時から……僕とアリマは一言も口を聞いていない。

 アリマはSSLを辞めてしまったようだった。その態度の急激な変化の理由がわからずに、釈然としない思いを抱いてはいた。

 だけど、僕の周囲では(主にSSL関係ではあるが)色んな出来事が立て続けに起こり、いつの間にかアリマの事を考えるのを僕は忘れてしまっていた……




 そんなことを悶々と考えていると目的の空き教室に到着していた。

 扉を開け、アマノさんは奥の方の席へ移動していく。

 それに僕も追従する。

 僕達は椅子に腰かけ、向かい合った。


 「ねぇ、カギノ君」

 「うん?」


 アマノさんの真剣なまなざしが僕に向けられる。


 「あたし、サイ……アリマ君と別れようと思う」

 「……へ?」


 

 あまりにも唐突に、そんなことを言われて、間抜けな声を出してしまった。

 一体、何が起こったっていうんだ……?


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