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5-2 世界が君を-1

 「やぁ。調子はどうだい?」

 「――ぼちぼちですよ」

 「謙遜するねぇ。8月の予選、全勝だって?」

 「そういう情報ってどこから仕入れてくるんですか」

 「いやぁ、色々なトコで噂されてるよ、キミ。掲示板は大騒ぎだ」

 「……運が良かっただけです。トップランカー勢と当たらなかったのは大きかった」

 「それでも本来、キミには厳しい戦いだった筈なんだけど。なんせ、予選に参加しているプレイヤーのほとんどが、キミより長くやっている経験者だろうからね」


 8月の終わり頃。

 僕は、「グランドチャンピオンカップ」の8月の予選20戦を全勝で終えた。

 丁度そのすぐ後、「リクワ」さんから「天国酒場」に誘われて、今に至る。


 「戦績はどうなった?」

 「215勝202敗になりました」

 

 そう言うと、「ふはっ」と声を上げて「リクワ」さんが笑った。


 「勝ち越してるじゃないか!……いや、それ以前にどれだけ試合してるんだ、キミは。この短期間にソレって異常じゃないか?」

 「学生なんですよ。丁度夏季休暇で。時間は有り余ってるんですよ。ずーっとSSLでPvPやってました」

 「学生だったのか。いいねぇ、夏休み。貴重だよ……社会人には夏休みなんてないからねぇ。その貴重な時間をSSLに使ってもいいのかい?」

 

 試すような口調だった。――だけど、答えは決まっていた。


 「その事が好きで……本気でやっているのなら、なんだろうが有意義だと思います。……いや、有意義じゃなくても構わない。大事な事は、そういうことじゃないんです、きっと」

 「ふぅん……何だか雰囲気が変わったねぇ、『ユウ』君。それは、ここ最近キミが急激に強くなったことと関係があるのかな?うん……興味深いね」

 「さぁ……勝てるようになった、というより、貴方や『サエ』さんや『ゴウカ』さんのアドバイスで、勝負の舞台に本当の意味で立てた、というのが大きいんだと思います。それまでは、何もわかってなかったし、何も考えちゃいなかった。ただ負けに行っていただけだった……でも今は、少しは人対人の『戦い』の事が分かるようになったし、色々考えるようになった。そしたら……『戦い』がどうしようもなく楽しいものなんだな、っていうのがわかるようになって」

 「そりゃアドバイザー冥利に尽きるね」

 

 茶化したようにいう「リクワ」さん。……だけど、本当にアドバイスしてくれた3人には感謝してもしたりない。ここ最近は、彼らの言葉に手を引かれて、どんどん上に昇っていく感覚だった。

 そうしたらいつの間にか……僕は勝てるようになったし、なにより……


 「――どれだけ楽しいことでも、『本気』でやらないと楽しくないんですよね。遊びだから、ゲームだからって言って適当に扱っていると、ただ時間を無駄にするだけなんだと思います。何というか、今は、この経験が将来何に役立つのか、なんてわからないですけど……それでも決して無駄じゃないと思うし……例え無駄だったとしても後悔はしない……気がする」

 「悟りを開いた仙人みたいな雰囲気になってるよ、『ユウ』君」

 「――『リクワ』さんって意外と茶化してきますよね」

 「ごめんよ、癖なんだ。なんというか、あまりにも迷いの無さそうな人間を見ると、からかってみたくなるんだよね」

 「うーん……いや、迷いが無い、って感じでも無いんですけどね。さっきみたいに、口では何とでも言えるし、理屈では納得してるんですけど、やっぱりふと『こんなことしてていいのか』って思う時はあります。何の理由も無く」

 「へぇ、そうなのかい。それこそ意外だねぇ」

 「まぁとりあえず、行けるとこまで行ってみますよ」

 「行けるとこ、ねぇ……『グランドチャンピオンカップ』本選かい?」

 「さぁ……そこまで上手くいきますかね」

 「8月予選全勝しておいて、何言ってるんだい。十分可能性はあるから、頑張りなよ」

 「……ありがとうございます。……そういや、『リクワ』さんは出場しないんですか?『サエ』さんにも認められるくらいの腕みたいですけど」

 

 「SSL研究所」の管理人であり、『サエ』さんの話によると「殆ど全てのスキルのデータがその頭に入っている」とのことだったが……


 「いやぁ……『サエ』さんは妙に僕の実力を好意的に解釈しすぎだよ。僕なんか、データばっかり気にしてて頭でっかちで、ちょっとセオリーから外れた行動を相手に取られるとすぐに浮足立っちゃうし。まぁ実は過去の『グランドチャンピオンカップ』の予選に参加したこともあったんだけどね。負けらんないってプレッシャーで緊張しちゃってさ。ほとんど何もできずに負けちゃったよ。そういう大舞台に弱いんだ。大舞台って言っても予選だけど。本当にただの普通のPvP戦じゃないとどうもちゃんと動けないんだよね」

 「緊張とかするんですか。それこそ意外なんですけど」

 「ははは、失礼だなぁ!まぁそんなこんなで、PvPで上に行くのは諦めてるのさ。それよりも僕は、フィールドを探索したり、スキルを集めたり、その検証をしたり、っていう科学者気取りなスタンスの方が性に合ってる、ってことで。今は『SSL研究所』の情報を出来る限り豊富にしていくことに夢中かな」

 「それもある種の『戦い』ですよね。『リクワ』さんはそれに『本気』なんだ」

 「んー……そこまでちゃんと考えてはいなかったけど。まぁそうなの、かな?」




 会話が弾む。SSL内で友達、なんてのがほぼいない僕には新鮮な体験だ。他のプレイヤーからは言われるのが野次、誹謗中傷がほとんどだし。貴重だよなぁ。


 「公式HPの掲示板は見てるかい?」

 「まぁそれなりに」

 「そろそろスレッドの名前が、『[極死の太陽対策]』から『「ユウ」対策』に変わってもおかしくないね」

 「ご冗談を」

 「いやいや、案外あり得るよ」


 「サエ」さんや「ゴウカ」さんを始めとするトップランカー達を倒すことを目指すプレイヤー……要は、「本気でやっている」プレイヤーも一部存在する。

 そんな彼らは、例えば「『サエ』対策」などと言ったスレッドを立てて、そこで情報を共有して何が何でもトップランカーを倒そうと躍起になっている。

 個人に対しての対策を話し合うスレッドが作られる……それがトップランカーの証、みたいになっている。


 「自分はトップランカーなんかじゃない。[極死の太陽]ありきで毎回ヒィヒィ言いながら戦ってるんですよ」

 「[極死の太陽]ありきだからなんだっていうんだい。このゲームじゃ手に入れたスキルを徹底して活かす為の戦術を考えるなんて当たり前だ。[極死の太陽]が規格外過ぎてその当たり前が意識しにくいかもしれないが、キミは真っ当に[極死の太陽]を軸にした全く新しい戦術を自分自身の手で産み出したんだ。もうキミに勝つには[極死の太陽]だけを対策してればいい、なんて簡単な話では無くなった。だったら、『ユウ』対策だろうよ。総合的に考える必要が、キミを倒さんとする者にはある」

 「……いや、勘弁して欲しいですね。できるだけ油断してくれた方が良い」

 「勘が良いヤツは既に気づいてるよ。『ユウ』君、キミに勝つのは例えトップランカーでも容易では無い。キミは経験の浅さを[極死の太陽]を軸にした戦法でカバーすることに成功しているんだ。掲示板でもそう主張する者が少しずつ増えているのはわかるだろう?」

 

 公式HPの掲示板、「[極死の太陽対策]」のスレッドは、ここにきてまた盛り上がりを見せていた。


 「おい、[極死の太陽]だけ対策してればいいんじゃないのかよ!」

 「なんか強くなってねぇ、『ユウ』って」

 「ここの情報に騙されたわ」

 「いやソレお前らが下手糞なだけw」

 「馬鹿じゃねぇの、そろそろ現実見ようぜ」

 「『ユウ』はもう[極死の太陽]だけじゃないって……」

 「あり得ないからw[極死の太陽]だけだって。俺前勝ったし」

 「嘘つけ。動画出せよ、それなら」

 「前っていつよ。『ユウ』が勝ち始める前、とかいうオチじゃねーだろうな」

 「それでも初心者には変わらん!油断しなければ勝てるし!」

 「ホントかぁ?」

 「最近あいついっつも見るぞ。ずっとプレイしてるんじゃね?それだともう経験不足って弱点も……」

 「あーうざいうざい!とにかく『ユウ』はザコ!」

 「そんなこと言ってるから『ユウ』が最近勝ちまくるようになったんじゃないのか!?」

 「そろそろスレッドも作り直すべきだろう。『[極死の太陽]対策』じゃない、「『ユウ』対策」だ」

 「はー!?wおい、アイツがトップランカー並みだっていうのかよ!?w」

 「実際戦った俺から言わせてもらうと……もう『ユウ』に勝つのはトップランカーでも一筋縄じゃいかないだろう」

 「だーかーら!それお前が下手糞なだけなんだってw」

 「いい加減現実見ようぜ……アイツの戦績、最近どんどん良くなってる……勝ち越しも近いんだよ」

 「ザコばっかりと戦ってるんだよw」

 「おめでたいなーお前」

 「『ユウ』が[極死の太陽]を中心にした新しい戦法を開発したんだ。それを検証して、対策しないと」

 「化けの皮を剥がしてやろうぜ」

 「考え過ぎだろw」

 「お前は考えなさ過ぎw」


 認められてきている、のか?相変わらず僕の事を甘く見ているプレイヤーも大勢いるが、段々本気で「ユウ」に対策しようとしているような発言もある。

 そうなると、これからの戦いはもっと厳しくなるのだろうか。


 

 それは少し怖い。

 ――怖いのだけど、ちょっと楽しみな自分もいたりする。


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