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5-1 《!人でなし!》-2

 彼は、トップランカーを除いて、一度負けた相手には二度と負けない。……しかし、それにも例外が最近できてしまった。

 「ユウ」というプレイヤーだ。


 そいつの容姿はかなり異様だ。身長と筋肉量を最高の設定にしているのであろう、逞し過ぎる身体。

 顔は凛々しく、鋭い印象があり、そこに無数の傷がついている。一応女性のキャラクターなのだが、一見とてもそうは見えないほど厳つい。

 髪は真っ赤でボサボサのロングヘア―で、さらに、ビキニアーマーというやつだろうか、露出度の高い、猛獣の牙の様な装飾が施された鎧を着ている。

 馬鹿みたいに大きくて、冗談の様に筋肉質で、過剰な程威圧的な女性。それが「ユウ」だった。一体どういうセンスをしていればこんなキャラクターを作ろうと思うのか。まぁ、それは彼が言えたことでは無いかも知れないが。


 この「ユウ」というプレイヤーとは過去6戦戦っている。「ユウ」は初心者の頃に偶然[極死の太陽]というSSL内で最大規模のスキルを手に入れていた。

 彼にはそれが生意気に見えた。

 

 「初心者の癖に……」


 実際、最初の3戦は彼、「ヒルマ」の圧勝だった。[極死の太陽]は完全に封じ、容赦なく叩きのめしてやり、散々煽ってやった。

 しかし、4戦目からおかしくなった。3戦目から少し空いて対峙した「ユウ」は、それまでの3戦と違い、スキルをしっかりと準備し、戦法を確立させていた。

 3戦目と同じように楽勝だ、と油断していた彼は、「ユウ」の変化についていけず、無様に倒されてしまった。しかもそれが「ユウ」のPvP初勝利だった、という屈辱的なオマケ付きだった。

 しかし、彼はすぐに立ち直った。もう「ユウ」の戦法は見切った。今回もいつも通り、二度は負けない。

 今回は油断していただけ。今度マッチングしたらまた圧勝してやろう。そう思っていたのだが……


 「ユウ」との5戦目は彼に油断は無かった。4戦目より落ち着いて動けていたし、調子も悪く無かった。

 しかし、「ユウ」は粘り強く戦った。そして、一瞬の隙をつかれ、またもや負けてしまった。

 そして、6戦目に至っては……ほとんど「軽くあしらわれた」と言っても過言では無いほど、簡単に負けてしまった。


 どういうことだ。流石に彼も、「ユウ」に対して異常を感じ始めた。技術自体は特段劣っているとは思えない。なのにどうして勝てないのか。

 彼が弱くなった訳では無い。むしろ、その頃は絶好調で、「ユウ」との戦い以外ではほぼ全勝という調子の良さであった。彼は、研ぎ澄まされていた。成長していた。

 だったら何故?まさか、「ユウ」の成長スピードは彼を追い越す程になのか?まさか。

 「ユウ」は今年の4月頃に始めたと言われている。それからこのたった数ヶ月でトップランカー並みの強さになったとでも言うのか?あり得ない。

 どうしても認められない……しかし、事実彼は「ユウ」に三連敗を喫している。その理由が未だに掴み切れていない。

 恐らく、「ユウ」のプレイングが偶々、彼のプレイングと相性が悪いだけなのだろう。

 そう考えるのが精一杯であった。もしこれから「ユウ」とマッチングされ、また戦うことになれば、もう適当にやれば良い。「ユウ」に勝つのは「捨て」だ。

 ――そのように彼は割り切った。苦渋の判断だった。




 しかし今、負けを極力避けたい「グランドチャンピオンカップ」の予選で、「ユウ」とマッチングしてしまった。


 (くそが……どうする……?)


 もうさっさと負けてしまうか。しかし……


 (いや、今の調子は悪くないんだ……案外勝てるかも知れない)


 はっきりしない理由を根拠に、この予選で簡単に負けてしまうのはうまくない。


 (もう一度……もう一度だけ本気で相手してやろう)


 それで見極める。もし勝てたらまた散々煽って悔しがらせてやろう。


 (そうだ、落ち着いて、油断しなければ勝てる……勝てる、勝てる!あんなモン偶然だ!)


 自らを無理矢理振るい立たせて、画面に表示された「戦闘開始」ボタンにタッチした。

 その手は、微かに震えていた。




 PvP専用フィールドに移動する。向かい側に立つ「ユウ」の姿を見て、何故か体がぶるっと震えた。


 (な、なんでだ……?くそ、やっぱこいつウザい!苦手だ……!)


 「ユウ」の見た目の威圧感に気圧されでもしたというのか。


 (見た目だけだ、見た目だけ!中身はザコのハリボテなんだよ……!)


 そう思っていても、何故か……今まで6戦も戦い、見慣れた筈の「ユウ」の姿に、あろうことか、「強者」のオーラのようなものを感じる。

 ――錯覚だ、と彼は無理矢理自分を納得させ、これから始まる戦いに集中する。




 (――よし、いける、いけるぞ!落ち着いてる、このまま……!)


 実力者としての意地を見せた、という所か。

 試合開始直後に、「ヒルマ」が連続攻撃を決め、優位に立った。

 それからも落ち着いた立ち回りで、少しずつ「ユウ」のHPを削っている。

 

 (しかし、こいつはこの状況でいつまでこんな産廃スキル使ってんだ……?)


 「ユウ」は3戦目から変わらず、[ロングスピアジャブ]を使った立ち回りを見せている。

 この技は発生が速く、リーチも長いが、消費SPが多く、ダメージもそれに見合わない低さであり、はっきり言えばパッとしないスキルだと彼は評価していた。……いや、彼だけでなく、SSLの殆どのプレイヤーが低評価をしている。

 

 (確かに当てやすいだろうが……そればっかじゃ状況は変わらねーぞ?)


 避けきれなかった[ロングスピアジャブ]が数発「ヒルマ」に当たっているものの、今回の彼はそれでは崩れない。


 (このまま押し切る!)


 一気に距離を詰めて猛攻を仕掛けようとした、その時だった。


 「ヒルマ」の前に、無数の拳の連打が立ちはだかった。


 (うおっと!?)


 慌てて急ブレーキをかけて寸前で止まる。


 (今度は[ラッシュ]だと!?ふざけやがって!)


 「ユウ」の放ったスキル、[ラッシュ]は、ボタンを押しっぱなしにすることで拳の連打を繰り出すスキルだ。

 押しっぱなしにしている間ずっと連打し続けるのだが、SPもそれに伴い消費する。

 この拳の連打は、一発当たれば[ラッシュ]を使っている側のプレイヤーのSPが尽きるまでずっと当て続けることができるので、一見有用そうに見えるのだが、実はこのスキル、与えるダメージが小さすぎて、何発も当ててもそうそう相手を倒しきれない。大抵その前にSPが尽きてしまう。

 故に、このスキルもSSLプレイヤーから低評価を受けている。


 (クズスキルばっか使いやがって……)


 ――そこで、油断してしまったのが彼の運の尽きだった。「ユウ」が唐突に[ラッシュ]を止めたと思うと、彼の一瞬の油断を読み取ったかのように、[スタンボール]を放ってきた。


 (――しまった!)


 と思ってももう遅かった。回避が間に合わず、[スタンボール]が「ヒルマ」に直撃し、スタン状態……怯んで隙を晒した状態になってしまう。


 (やべぇ!何が来る!?[スマッシュ:ヘルファイア]か!?)


 身構えた彼はスタン状態が解除されるのを待つ。そのほんの少しの時間が異様に長く感じる……

 しかし、それに対する「ユウ」の行動は不可思議なものだった。

 ぐるり、と体を反転して、「ヒルマ」に対して背中を向けたのだ。


 (は、はぁ!?)


 もうただ隙を晒しているようにしか見えなかった。スタン状態が解除され、動けるようになった「ヒルマ」は、「ユウ」の背中に向かって突撃した。

 その瞬間、「ヒルマ」の目の前から「ユウ」があたかも消えた様に見えた。


 (え?)


 「ユウ」の背中に「ヒルマ」が襲い掛かるその瞬間……「ユウ」が飛んだ。

 バック宙だ。「ヒルマ」を飛び越すように、前に向かって「ユウ」は飛んだ。

 現実の人間にはあり得ない、飛距離と高さのバック宙だった。

 そのまま、「ユウ」は「ヒルマ」から遠ざかっていく。


 ([バックフリップ:EX]だと……!?)


 [バックフリップ:EX]は、本来後方に飛んで一気に距離を離すためのスキルだ。

 確かに、「ユウ」は「ヒルマ」との距離を離すために[バックフリップ:EX]を使った。

 しかし異常なのは、わざわざ相手に背を向けてまでして、前に向かって飛び越すように使ったことだ。


 (そんな使い方があったのかよ!?)


 その驚きに完全に操作の手が止まっていた。そして、その間に、「ユウ」はさらにもう一度[バックフリップ:EX]を使っていた。しかも、[風纏い]を併用してさらに速度を上げていた。


 (あ、あぁ……)


 その結果、膨大な距離が「ヒルマ」と「ユウ」を隔てていた。

 距離がある、ということは……


 (間に合わねぇ……)


 「ユウ」の最大の切り札、[極死の太陽]を封じられない、ということだった。

 この瞬間、彼は完全に戦意を消失した。


 (遠い……)


 遥か向こうに、「ユウ」が[極死の太陽]の予備動作に移ったのが見えた。

 ふと彼は、この距離こそが、今の彼と「ユウ」の差のように思えた。


 (なんでなんだろうなぁ……)


 ぼんやりと彼は考える。

 どうしてまた負けてしまったのか。

 初めに出会った頃はまるで敵では無かったのに……

 

 (「力」の無い「人でなし」の筈だったのに……)


 今や、「ユウ」は彼の手の届かない存在になってしまった……そう認めざるを得なかった。


 (――「人でなし」でもそこから這い上がれるヤツもいるんだな……)


 彼はいつになく素直な気持ちで、そんなことを考えていた。

 


 そして、「ヒルマ」は太陽に焼き尽くされた。

 その時、彼はそれが画面越しの出来事であるにも関わらず、自分まで太陽に焼き尽くされたような錯覚に陥った。


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