表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/79

5-1 《!人でなし!》-1

 彼は、「力」こそ全てだ、という思想を持っている。

 彼の考える「力」、というのは、単純に腕力や喧嘩の強さだけを指すものでは無い。

 例えば……

 どれだけ勉強ができるか、だとか。

 どれだけ運動ができるのか、だとか。

 どれだけコミュニケーション能力に長けているか、だとか。

 どれだけ容姿が整っているか、だとか。

 どれだけ権力があるのか、だとか。

 その人物が持つ長所、特にそれが世間に通用するようなものをまとめて「力」と考えている。

 

 彼は高校の2年生だ。学校と言う場では特に、勉強や運動ができたり、言動でクラスの人気者になれるような人間が得をする場である。彼にとってはわかりやすく、それら「力」こそが全てだと思える場でもある。

 学校と言う場では、何の「力」も持っていない人間には人権が与えられない。彼自身は、運動神経も良く、勉強も問題無く、クラスの人間とそつなく会話に花を咲かせることが出来る人間だ。しかし、彼は見ている。しっかりと観察している。

 勉強についていけない、運動もまるで駄目、かといってクラスの人気者になれるような話術すら持っていないクラスメイト。そいつがどんな扱いを受けているのか、知っている。

 

 「お前にこんなものがあったってしょうがない」


 そう言われ、教科書を燃やされていた。


 「お前がいてもしょうがない」


 そう言われ、体操服をゴミ箱に捨てられていた。


 「お前が役に立てることなんてこれぐらいしかない」

 

 そう言われ、パシリをやらされていた。


 「お前なんか臭い」「お前なんかキモイ」「お前なんか邪魔」「お前なんかオカシイ」「お前なんか糞」「お前なんか調子乗ってない?」「お前なんか生きてる価値あんの?」「お前なんか必要?」


 「死ねよ」「帰れよ」「辞めろよ」「ウザいよ」


 ――きっと、別に大して珍しいことでも無いんだろうな、と彼は思う。ざっくり言ってしまえばいじめ、というヤツだ。その内容はほとんど、人に対して行われるものとは思えない。そいつには「力」がない。恐らく、「力」が無いからこそ「人権」も与えられないのだ。そいつは人では無いのだ。 

 そいつを見ていると、彼は「力」こそ全てである、という自信の考えに対して、確信めいたものを感じる。「力」が無い人間は人間では無いのだ。




 ある日のこと。彼はSSL(スキルシーカーズリンクの略)に出会った。彼はゲームは人並みに好きで、今時VR技術を使っていない、という変わった特徴に興味を覚えて、軽い気持ちでSSLを始めた。

 そして、気まぐれにPvP……人対人の対戦に参加した。

 初めての相手は、102勝26敗という中々の勝率のプレイヤーだった。

 彼は、「ああ、これは流石に敵わないだろうな」と思いながら、試合に臨んだ。

 しかし……勉強でも運動でも人間関係でもその才を発揮してきた彼には、ゲームの才まであったらしく……

 戦績の上では遥か格上の相手にあっさりと勝ってしまった。

 彼にとっては、その初めての相手は馬鹿にしか見えなかった。

 なぜそのタイミングで攻撃する?

 なぜその方向に回避する?

 なぜその状況で反撃しようとする?

 何もかも噛み合っていない、理解していない。

 初心者の自分にすらわかることをこいつはわかっていない。

 ――「力」が、無い。

 匿名の壁に守られた状況で、彼の「力」こそ全てという思想は暴走する。

 

 「お前どんだけ弱いんだよw俺PvP初めてなんだけどwもう辞めた方がいいんじゃない、おザコさんw」


 彼は、SSLという匿名性に守られた場所で、「力」が無い、と思った者に対して、暴言を吐くようになった。

 正直、暴言の内容自体は特に深く考えていない。自分でも幼稚だと思うこともある。だが、相手は「力」の無い「人でなし」。いちいち深く考えるのが馬鹿らしく感じたのだ。

 それに、負けた相手を貶すことには快感を感じた。「人でなし」を貶めることで、自分が「力」のある人間であることに喜びを感じていたのだ。

 その喜びに嵌まり込み、その喜びの為にSSLを続けるようになった。

 キャラクターの容姿を、棘のような装飾のついた革ジャンに虹色の髪色のモヒカンという馬鹿みたいなものに変えた。そんな容姿のヤツに煽られたら相手はさぞ嫌な思いをするだろう、という考えからだった。

 彼の才はそれからも衰えることは無かった。殆どの戦いは勝利できる。負けることもあるが、その時は相手が「サエ」や「ゴウカ」を始めとする名の知れたトップランカーである場合が多い。流石にそれはしょうがない、と彼は割り切っている。

 トップランカーで無いプレイヤーに負けたとしても、その場合、彼は同じ相手には二度は絶対に負けなかった。一度戦えばそいつの癖や戦法は大体分かるくらいの才があったからだ。だから二度目以降は必ず勝ってきた。そして……


 「ただのケチな初見殺しだよな、アンタってwまぁ所詮そんなとこだよ、二度と負けねえわw」


 そうやってまた煽る。


 そんな彼も、SSLを楽しんではいたのだ。いつかトップランカー達にも勝てるぐらいに技術を磨き、彼らに対しても煽ってやることを想像すると彼の中で俄然やる気が湧いてくるのだ。

 ゲーム内の粗暴な言動からは想像できないが、理由はともかく彼は練習熱心だった。

 



 ――そして、時は「第五回グランドチャンピオンカップ」の8月予選の時期になる。

 彼もこの予選に参加することにした。

 今の自分の実力なら、本選出場も夢では無いし、もっと鍛えれば本選自体でも勝てるようになる……そう彼は思っていた。

 そろそろ、トップランカー達を叩きのめして、彼らに心無い言葉でかけてそのプライドをへし折るといった快感を味わいたい。

 そんな歪んだ思いを抱いて、今日も彼は「極みの闘技場」へ向かう。

 8月になってから、通常の受付カウンターのすぐ横に、「予選専用受付」が設置された。

 そこで選手登録をすることで、同じく「予選専用受付」で選手登録しているプレイヤー同士でマッチングされ、PvPが行われるのだ。

 予選は8月から11月までの四ヶ月間行われる。一ヶ月ごとに20戦行い、四ヶ月間の合計80戦での成績上位者14名が本選トーナメントに進める、という仕組みになっている。

 

 この予選、相当な数のプレイヤーが参加するので、本選トーナメントに進む為には殆ど全勝するぐらいの成績でないと厳しい。

 しかし、彼にはそれを達成する自信があった。

 今まで技術を磨き続けていたし、最近は特に調子が良い。自分がさらに強くなっているのを感じる。

 準備は十分。いまやトップランカー達相手にも勝ちの目があると彼は考えていた。

 そう、誰も怖くない。誰だろうと、油断せず戦えば勝てる……

 ――ただ一人を除いては。

 ……そして、これも運命なのだろうか……その「ただ一人」とマッチングしてしまった。通知が画面に表示される。


 「グランドチャンピオンカップ予選PvPマッチングが完了しました。対戦相手は「ユウ」さんです。一分以内に画面上部の『戦闘開始』ボタンにタッチしてください。戦闘の様子はスクリーン6で公開されます」


 

 彼……SSL内で「ヒルマ」という名である彼は、苛立ちに顔を歪めた。

 よりにもよって、こいつが。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ