4-6 いつか陽は昇る
――「極みの闘技場」に入っていく。ここにいるのは、前までのただ闇雲に戦って無様に負けてきた「ユウ」では無い。そう自分に言い聞かせる。
「極死の地獄」で手に入ったスキルをSSLの公式HPで確認すると、やはりというかなんというか、二つとも僕がSSL内で初めて発見したスキルのようだった。
まぁ当たり前と言えばそうだけど。なんせ、唯一僕しか手に入れていない[極死の太陽]が無いと入れない「スキル・フィールド」で条件を満たして手に入れたスキルなのだから。
それを受けて、公式HPの掲示板にもそのことに関する書き込みがされていた。
「悲報:『ユウ』がまたしてもユニークスキル発見」
ユニークスキル、というのはそのゲーム内でただ一つだけ存在するスキル、という意味である。まぁ、他の入手方法が判明すれば、「ユニークスキル」とは言われなくなるが。今のところ発見者は僕だけなので、[極死の太陽]も今回手に入れた[スマッシュ:ヘルファイア]と[カウンタ―:ヘルファイア]もそう呼ばれているようだ。
「まだユニークって決まったワケじゃないから。『SSL研究所』のリサーチ待ち」
「今度は誰にでも手に入るものならいいなぁ……」
「つーかまた『ユウ』かよ。コイツホントムカつくな。弱い癖に」
「落ち着けよ、[極死の太陽]だって派手なだけで結局産廃スキルだったじゃん。今回もそんなモンだろ」
「てかあんだけPvPでボコられてまだ辞めてなかったのかw」
……もう何言われてもあんまり気にならなくなってきた。
それから「リクワ」さんに連絡し、[極死の太陽]の時と同じように[スカウター]で検証してもらった。
その結果、どうやら真っ当に強力なスキルである、ということが判明し、僕は胸をなでおろした。
安心して戦法に取り込める。
あの二つのスキルの入手条件はやはり、「『極死の地獄』で全種類のモンスターを倒すこと」だった。
そして、その条件はすぐに「SSL研究所」にて公開され、それを受けて掲示板にも新たな書き込みが加わった。
「『極死の地獄』ってどこだよ?」
「『スキル・フィールド』じゃねぇの……」
「まさか[極死の太陽]のか?うわマジ萎える」
「クッソだわ。これ実質また『ユウ』がユニークスキル手に入れたってことだろ」
「しかもかなり強いらしい」
「うざっ……」
「いやいや、いくら強力でも『ユウ』みたいな下手糞に使いこなせるワケねーよ」
「それもそーだw」
「これで勘違いして『極みの闘技場』に戻ってきたら儲けだろ」
「カモが戻ってくるー!w」
――確かに、使いこなせなければ意味が無い。[スマッシュ:ヘルファイア]はともかく、[カウンタ―:ヘルファイア]は確かに強力だが、扱いも難しいスキルだった。
なので、モンスター相手にしっかり練習した。
もうカモとは呼ばせない。今度は必ず勝つ――!
そうして、「極みの闘技場」に戻ってきた。受付カウンターにて登録して、対戦相手とマッチングするのを待つ。
「あれ『ユウ』じゃね」
「ホントに戻ってきたよw」
「よくやるわぁ……」
僕に対する野次がチャットログに表示される。こんなの、もう慣れた。いくらでも言わせてやれば良い。
ただ今は来たるべき戦いに集中しないと……
――心臓の音がうるさい。やっぱり、緊張する……
ここまでして、前と同じだったら?
そんな思いが浮かんでしまう。
(理屈で考えろ……!どれだけ準備してきたと思ってる!)
PvPから離れて、今の間までずっと準備してきた日々を思い出して、なんとか落ち着こうとする。
しかし、気が静まる前に対戦相手のマッチングが終わり、戦いが始まる通知が表示されてしまった。
「PvPマッチングが完了しました。対戦相手は「ヒルマ」さんです。一分以内に画面上部の『戦闘開始』ボタンにタッチしてください。戦闘の様子はスクリーン8で公開されます」
「極みの闘技場」にあるいくつかのスクリーンの中の8番目に、目を向ける。
「ヒルマ:563勝102敗 VS ユウ:0勝182敗」
周りのプレイヤーもそれに気づき、チャットログが賑わう。
「キター!w」
「はいザコさん一名入りまーす」
「『ユウ』www頑張れwww精々頑張れwww」
「マジで0勝なんだ、ヒクわw」
「久しぶりに『ユウ』様の勇姿が見れるぞw全員集合!」
全く、清々しい程煽ってくれる。
半ば諦めの境地で、『戦闘開始』のボタンにタッチする。
PvP専用フィールドに移動する。こちらの丁度向かい側に、今回の対戦相手「ヒルマ」がいた。
「お久しぶりでーす、またボコらせて下さいねーw」
チャットで早速煽ってくる。僕はコイツが苦手だった。
トゲトゲの装飾のついた革ジャンに虹色の髪色のモヒカンが目を引くプレイヤーだ。
以前にも3回くらい対戦して、ボコボコにされている。
しかも無茶苦茶煽ってくるのだ。
「弱っw全然ザコじゃないっすかw」
「マジで[極死の太陽]だけじゃんwまぁそれも通用しないけどw」
「あー今回も勝っちまったわー。つぅかそろそろ辞めたら?才能無いよ、アンタw」
負けた時に煽られることはそう珍しく無かった。しかし、この人は特にねちっこく暴言を吐いてくるのだ。その内容は幼稚だったが、負けた時に聞くとやっぱり堪える。
しかも、戦績は良く、技術は確かなので余計にタチが悪い。
毎回こっちの動きを小馬鹿にするかのように読んで、的確に攻撃、反撃してくるまごうこと無き実力者だ。
復帰後初の相手がよりにもよってコイツなんて……
なんてツイてないんだろう。
もう、いいや……そうだなぁ。いつもと同じように、「ヒルマ」は試合開始直後から、[極死の太陽]を封じるために[風纏い]を使いながら接近してくるだろう。だから……
溜息まじりのような、半分諦めに近い心境で作戦を立てた。もうヤケクソだ。
――そして、戦いの始まりを告げるゴングが鳴り響いた。
一瞬。
自分の目を疑った。
嘘だろう?
――こんなにうまくいくなんて……
自分の立てた作戦は、特攻。
[風纏い]を使って高速で突っ込んでくる相手に向かって、こちらも敢えて[風纏い]を使って高速接近する。
そこから、[スタンタックル]を叩き込む。
[極死の太陽]を持っていて、それを決める為には距離が必要だと相手に知られているからこそ、急接近からの奇襲攻撃。
僕が思い描いていた戦法の一つだ。
だけど、正直こんなもの、通用するかなんて思っていなかった。奇襲効果はあるかも知れないが、経験のあるプレイヤーに完全に攻撃を当てるには不十分だと思っていた。特に今回のようなヤケクソな特攻なんて当たるわけが無いと思っていた。
期待したのはその奇襲効果によって、相手の動揺を誘うこと。そこから[ロングスピアジャブ]や初期スキルといった小技で慎重に立ち回りながら、スタン系のスキルに繋いだり、隙を見て[スマッシュ:ヘルファイア]を叩き込んだり、[カウンタ―:ヘルファイア]を使って反撃したりして、HPを削っていく。
[極死の太陽]は決定的な隙を見つけた時にだけ使う。それが僕の思い描いた大まかな戦法だった。
しかし今――
試合開始直後の「ヒルマ」の[風纏い]からの接近に合わせた、こちらからも[風纏い]で接近し[スタンタックル]を放つ、という一連の行動は、非現実的な程に上手くいった。
「ユウ」のタックルが「ヒルマ」を完全にとらえ、「ヒルマ」は大きく怯んで隙を晒す。
ほとんど反射的に[スマッシュ:ヘルファイア]で追撃する。
[スマッシュ:ヘルファイア]は黒い炎を纏った拳で大振りに殴りつけるスキル。当たれば大ダメージだ。
吸い込まれるように「ユウ」の拳が「ヒルマ」に叩き込まれる。
画面上部に表示された「ヒルマ」のHPが大きく削られる。
「……うっそぉ」
思わずそう呟いていた。これは夢か。ちょっと思い通りに行き過ぎではないか。
攻撃を叩き込まれた「ヒルマ」は、呆然としたように動きを止めた。
無理も無い、完全な格下からあれほど見事に奇襲を決められたのだから。
一瞬、二人とも完全に動きが止まっていた。
「いやいや、まだ終わってないから!」
ハッとして独り言を言いながら僕は操作を再開する。[風纏い]を使いながら後退していく。
隙あらば[極死の太陽]を放つ為だ。
それを見て慌てたように追ってくる「ヒルマ」。その様子を見て、「リクワ」さんの言葉を思い出していた。
「相手の心を読む、なんてそうそう出来るモンじゃないが、キミに関しては一つ、絶対に読める心情がある。『[極死の太陽]を撃たせてはならないから、対策しよう』……当たり前の事だけど、それだけでもキミは有利な立場にいるんだ。キミが実際に[極死の太陽]を使うか使わないかは関係無く、ね」
そう、こっちが後退したら絶対に相手は僕を追わなくてはならない。
――読める。なんて、わかりやすい。
[ロングスピアジャブ]で迎え撃ってやる。この技は発生が速く、リーチも長いが、消費SPが多く、ダメージもそれに見合わない低さだ。だから、SSLプレイヤーの評価は低い。
だけど、あくまで本命は別、と考えれば、そんなに悪いスキルでは無い、と思った。
[極死の太陽]を代表とする大技までの繋ぎと割り切って使う。
それに、いくらダメージが低くとも、当てやすいこの技でチクチク攻撃されたら相手はいい気分はしないだろう。焦れて相手が隙を晒してくれることも期待しての選択だった。
その[ロングスピアジャブ]も決まる。それを受けた「ヒルマ」はそこからは怒涛の攻撃を仕掛けてきた。
雷を纏った蹴りや変則的な軌道のパンチ等を使い、ガンガン攻めてくる。
だけど、どこか浮足立っているのを感じる。
僕は[ステップ]などの回避スキルを使いながら攻撃を躱し続ける。
時折一気に後退してみる、等のゆさぶりを使ったりしていると、面白いぐらい思い通りに焦ったように動いてくれる。慌てて甘い動きをした瞬間に、[ロングスピアジャブ]を打ち込んでやる。
基本的に、こちらからは攻めない。[極死の太陽]という一発逆転が狙える技があるのだから、チャンスを辛抱強く待つスタイルを冷静に貫く。
[極死の太陽]がある、という事実だけで、相手の動きはある程度コントロールできるのだから、決して不可能では無い。
もし、[極死の太陽]を撃つほどの決定的な隙が無くても、今の僕には「極死の地獄」で得た強力な攻撃用と反撃用のスキルがある。そのままそれらで倒してしまっても良いのだ。
時間が進むごとに「ヒルマ」は焦りを見せ、甘い動きが目立つようになってきた。
効いている。僕の戦法が通用している。
そろそろ状況を動かしてみるか……!
甘く撃ち込まれた蹴りに、スキルを合わせる。[カウンタ―:ヘルファイア]だ。
この技は、発動中に相手の攻撃を食らうと、自動で反撃するスキルなのだが、いかんせんそのタイミングがやたらと難しい。スキル発動時に一瞬だけ使用者の体が赤く光る。その一瞬に相手の攻撃を受けないと、反撃が発生せず、そのまま攻撃を食らってしまうのだ。
タイミングが命だ。だからこの技は、モンスター相手に何度も練習した。
それでも人対人のPvPで完璧に合わせられる自信は無かった。
そう、今みたいに、甘い攻撃でも来ない限りは。
カウンタ―が無事に発動し、「ヒルマ」を黒い炎が襲う。そのスピードもまた一瞬。ほぼ回避不可能だ。
炎に怯む「ヒルマ」に、[鉄山靠]で追撃してやる。
背中からぶつかる体当たりだ。相手をふっ飛ばす効果がある。
そうして、距離が大きく離れる。
[極死の太陽]を封じたいであろう「ヒルマ」はすぐに、[風纏い]で再び接近しようとする。
――その動きも、甘い。
愚直に、ただまっすぐに突っ込んでいるだけだ。
もはや、完全に読めていた。
[スタンボール]を放つ。弾丸のように放たれるソレは、当たればスタン効果、つまり当たると怯んで大きな隙が出来るのだ。
しかも、距離が離れた状態で、だ。
ただまっすぐ突っ込んできただけの「ヒルマ」に、ただまっすぐ飛んでいくだけの[スタンボール]が吸い込まれるように当たる。
普段なら絶対に当たらないであろうソレは、「ヒルマ」が焦っていたお陰で、完全に命中した。
「ヒルマ」の動きが止まる。距離は十分。
これこそ……「ユウ」の最大の切り札を使える程の「決定的な隙」……!!
迅速に僕の手が動き、[極死の太陽]を発動する。
「ユウ」が人差し指を天に向ける。その指先から「太陽」が創り出されていく。
その「太陽」はとてつもなく巨大だ。この場を埋め尽くすほどに。
放てば最後、絶対に避けられない、死を極めた太陽。
スタンから復帰した「ヒルマ」が慌ててこちらに接近してくるが――
もう、遅い。
それよりはやく、「ユウ」の指が振り下ろされた。
――そして、その場は炎が支配する世界になった。
この世界は、僕だけが創り出せる。
その世界に、「ユウ」は立っていて……それを倒さんと向かってきた敵は焼き尽くされて倒れている。
「勝者:ユウ」
誰がこの戦いに勝利したのか。それを示すこれ以上なく端的な通知が表示される。
「勝った……」
ついに、勝った。初めて勝った。
その衝撃に頭は真っ白……だけど、それでも、そこには確かに――
勝利の実感があった。
PvP専用フィールドから「極みの闘技場」に戻ってくる。さっきの戦いが流れていた8番目のスクリーンの前には、プレイヤーが大勢集まっていた。
しかし、大勢集まってる癖に、誰も、一言も発していなかった。
今までのような、僕への誹謗中傷の発言は無い。
不思議な感覚だ。彼らの心情が読めるようだ。
ただただ、呆然ってところだろうか?
静寂だけがその場にあった。
だけど、僕の心はそれに反するようにごうごうと音を立てて燃え上っていた。
さぁ、次は誰だ。僕はもっと強くなる。誰とでも戦って、勝って、負けて、もっともっと強くなる。
だから、誰でもいい。かかってこい……!




