4-4 答えはあるのか-4
「よし、んじゃあ『ユウ』さん、私からのアドバイスです。……どれだけ強くなったとしても、やはり人対人の戦いではイレギュラーな要素が絡んで、負けてしまうことはあります。プロゲーマーの世界でも、たまにあるんです、そーいうのが。大会の優勝候補が予選で偶々不調になって敗退してしまう、なんてことがあります。勝負の世界は……シビアです」
プロゲーマーをやっている「ゴウカ」さんが語り始める。勝負事を仕事にしているだけあって、それについて語る口調には説得力が感じられる。
「ましてや『ユウ』さんは初心者だ。今だって負け続けとお聞きしましたし、これから私達のアドバイスを参考にして鍛えたとしても、最初から連戦連勝とはいかない。異常な程の才能でもない限り、必ずと言っていい程、負ける時はやってきます」
重い言葉だ。暗に道は険しいぞ、と言われているのだろう。
「だからこそ……『負けた時にどうするのか』が重要です」
「負けた時に?」
「その通り。敗北を完全に避けることは非常に難しい。私だってSSLのPvPで一日通して負け無し、なんて日はそうそう無い」
「ゴウカさんでも……?」
「平然と今日は全勝でしたー、とか言えるのなんて、ここの『サエ』くらいですよマジ。ホント、イヤミな程才能の塊なんですから……」
「……『ゴウカ』。『ユウ』さんの前で嫌な言い方しないでくれる?」
「ホントのことじゃん」
「もう!」
「ははは……」
「サエ」さんレベルの才能が無いと負け無しなんてそうそう無理、ってことか。
多分自分には……そんな才能は無いだろうなぁ……
「んでまぁ、そんな中で私ら凡人に出来ることは、『敗北から学ぶこと』なんですよ。見たことの無いスキルに倒されたのなら、それについて調べてみるとか、試合での動きを落ち着いて振り返ってみる、とか。『なんで負けたのか?』を徹底的に洗うんです。負けたらムキになりがちですけど、一回落ち着いて、二度と同じ状況で負けないように分析するんです」
「あー……確かに……負けるとついつい浮足立っちゃうというか……そういうのはやってなかったです、確かに」
「ええ、負けた試合、なんてもうどうにもならないことについて考えるのは苦痛かも知れないですけど、上手くいった時のことばかり考えても上達しないんですよ。負けた時こそ、それを糧にして強くなるチャンスなんです。私感ですが、『強くなる』ってのは、壁を一個一個乗り越えていく感覚に似ています。壁を乗り越えるのは、厳しい。だけど、だからこそ強くなれる」
うぅん、うすうすわかってはいたが、厳しい。強くなるって大変だ……
「やっぱり簡単には強くなれないですね……」
「そうですねぇ、ゲームとはいえ、相手も人で、勝とう勝とうって、貴方同様に考えてるんです、当たり前だけど。相手の『勝ちたい』を乗り越えて勝つこと、ってのはやっぱ難しい。今でも難しいと思います。勝負事ってのはいつだって厳しい。勝ちたいのは自分だけじゃないっていうその一点だけで、それは証明されてるんです」
プロゲーマーの勝負への哲学。重い。ひたすらに重い。
「でもだからこそ、楽しいんですよ、勝負ってのは」
「え?」
「自分と相手の勝利への欲望がぶつかり合うその瞬間は堪らなく楽しい。……だからこそ、私はプロゲーマーになったんですがね。負けるかも知れないからこそ、楽しい」
「……マゾヒストみたいな発想ね」
「変な茶化し方すんなよ『サエ』!」
「前から思ってたけど、『ゴウカ』は負けた時でも楽しそうにしてる。負けることが好きなのかもって思える」
「いや流石にそこまでは思ってないけどよ。……ごほん、とにかくですね、『ユウ』さん、勝負事は厳しいしキツイし難しい。だけど――」
そこで言葉を切る。考えを整理するような一瞬の沈黙。
「……だけど、SSLのPvPってのは、そんな厳しい勝負事だけと、同時に『ゲーム』でもあります。『ゲーム』ってのはざっくり言っちゃうと人が楽しむ為にあるモノです。勝った時は喜んで、負けた時は『これでまた強くなれる』って思えるように出来てるんですよ。負けたら全部おしまい、ってワケじゃないんだから、負けてもそこから強くなれるって考えて、楽しんで上達していくのが強くなるための秘訣ですよ」
「楽しむ……」
「そう。勝負って厳しいから、ついつい忘れがちになっちゃいますけどね。楽しい、好きだ、だからこそやる、ってのが一番強くなれるんですよ。人間、好きな事をやるのが一番上手くやれるんです。負けた時に、ちゃんとやるべきことがわかっていれば負けが嫌にならない。ゲームの楽しさを忘れずに済む。嫌々やるのが一番ダメです」
楽しい……楽しい、か。負け続けだったから、最近どうもそんなこと考えなくなってたな……
そのせいでますます勝つことから離れてしまったのかも知れない。
「ま、要約すれば、勝負事であるゲームを楽しんでやろう、って言ってしまえば当たり前のことなんですけどね。でも負け続けになるとついついソレを忘れてしまう。だからこそ今、負けた時にどうすべきか、ってのを説明したワケです。敗北すらも糧になるとはっきりわかってれば、負けても楽しめるんです。そして、楽しんでやってれば、強くなれるんです」
「すごい納得できます……ありがとうございました、『ゴウカ』さん」
「いえいえ、ちょっとでもヒントになれば幸いですよ」
流石プロゲーマー、というところだろうか。要はモチベーション維持の方法の一つを教えてくれたのだと思う。
楽しんでやる。思えば当たり前のことだけど、忘れてしまっていたな。
そうだ、SSLはゲームなんだ。ただのゲーム。だからこそ本気で、楽しまないとな。
「さぁて、私からは以上です、『ユウ』さん。んで、お待たせしました!ラストを飾るのは『グランドチャンピオンカップ』2連覇、『サエ』選手です!さーあどんな素晴らしいアドバイスを授けて頂けるのでしょうか!?」
「うぅ……!茶化さないでよ!」
「うはは、期待してるぞー」
「僕も期待させて頂きますかねぇ。天下の『サエ』さんがどんなアドバイスをするのか……いやぁコレは気になりますねぇ」
「『リクワ』まで……んああ、もう!なんか緊張してきたじゃないの!」
「サエ」さんが動揺してる……声が震えてるぞ、大丈夫だろうか。
「どんな奥義を伝授するのかねぇ」
「『秘伝の書』みたいなのをくれるのかも知れませんよ」
「や・か・ま・し・い!」
「あ、あの……そんな気負わなくても大丈夫ですから……」
「ゆ、『ユウ』さん、大丈夫です、大丈夫!もー私のアドバイスがあれば今日から勝ちまくりです、ええ!」
大丈夫かなぁ……
「ん、ごほんごほん!」と声を整えている「サエ」さん。なんだかその様子だけ見てるとちょっと頼りないんだけど……強いんだよなぁ、この人。
全く、ホントどうやったらこの人の「ライバル」になれるんだろうか。
ノハナ・ミリ社長も無理言うよなぁ……
「え、えーと……そう!PvPと言うのは当たり前ですが人対人!で、人である以上その『心』というのは無視できません!『心』、というか、ここではもっと正確に言うには、『その人がその瞬間に何を考えているのか』……それをテーマに話したいと思います、ハイ!」
「うおお、コレはマジでサエ流読心術伝授とかか!?」
「『サエ』さん、普通の人間にはエスパー能力は無いんですよ、無茶です!」
「そこの二人、うっさい!」
「ゴウカ」さんと「リクワ」さんが茶々を入れまくる。
「サエ」さんって実はイジラレキャラなのか?
見た目クールそうなのになぁ……この何故か漂う残念感……
「……えーと、もちろん心を読む、なんてのは普通無理です。……まぁ、PvPという枠組みの中では絶対無理、というワケではありませんけど……」
「どういうことですか?」
「んー……なんというか、経験を積んでくると、『今相手はこんなことを考えてこのスキルを出したんだなー』ってことはなんとなくわかるようになってきます。でもまぁ、それは正直どうすれば身につくか、って言うと、やっぱり数をこなして、知識を身に着けて……って感じでそんな短期間にできるようになることじゃないです」
「やっぱそうですよね……」
そりゃ相手の心なんて読めれば勝てるに決まってるもんな……
そんな技術が簡単に手に入るワケが無い。
「あ、あわわわ……そんな気を落とさないでください、『ユウ』さん!今から教えたいのは相手の考えを読む方法、なんてものじゃないんです!『相手に考えを読まれないようにする』方法です!」
「『相手に考えを読まれないようにする』……?」
「はい!例えば……モンスターとの戦いを思い出してくれるとわかりやすいと思うんですけど……SSLのモンスターって、こっちが同じように攻めてたら相手がそれを学習して対応するようになるから、通用しなくなるでしょう?これ、人との戦いでも同じなんです。ずーっと同じパターンで動いてると、あたかも考えを見通されたかのように対応されてしまう……そんな経験はございませんか?」
「あ、あります……」
言われた通りだった。攻撃は最初からこっちが何を繰り出すかわかっていたかのように躱され、逃げようとすれば先回りされていたり……そんな体験は少なくない。
「それっていうのは結局、ほとんどの場合『その状況で毎回同じ行動を取っている』って相手に思われちゃってるから起こることなんですよ。同じ状況でも、色々な行動パターンを選べるようになると、相手に動きを読まれることも少なくなりますよ!」
「な、なるほど……」
「そうですね……『ユウ』さんは私との戦いで[スタンタックル]から距離を取って[極死の太陽]を決めようとされてましたよね。それ、ほかの人と戦う時にも同じようにしてませんか?」
「う、うぅ……してます」
「そうやって同じ行動ばかりしてると、どれだけ強力でも冷静に対応されてしまうんです。そうですね、この例……タックルが決まった後の行動パターンにバリエーションを持たせるとすれば……『一旦距離を取る』、『そのまま追撃する』、『一旦距離を取ったと見せかけて再度突撃する』、『距離を取って、慌てて追いかけてきた相手を迎撃する』とか、ですかね。そうやって行動のバリエーションを増やすことで相手に読まれないようにするんです。最適解だけでは勝てないですよ」
同じ状況下でも色んな行動をすることで相手に読まれないようにするワケか……
「このゲームだと特に、スキルが沢山ありますから、行動のバリエーションを増やすことは難しくないですよ。まずは相手に簡単に予測させないことですね!」
「ふむふむ……」
「『ユウ』さん、PvP……人対人の対戦って、激しいコミュニケーションでもあるんですよ。相手の動きからその心情を必死になって読み取り、こちらの考えは読まれないようにする、という駆け引き……まぁこればっかりはもしかしたらセンスも必要になるかも知れませんが……普段から行動にバリエーションを持たせることを意識していけば、だんだん鍛えられていくものですよ……多分!」
「多分ですか……」
苦笑しながら「サエ」さんの言葉を聞く。
「対戦……勝負ってついついムキになって冷静さを失いがちになっちゃいますよね。だからこそ、意識しないと動きにバリエーションを持たせるのは難しいです。でも、コレができるようになってくると、凄く有利になりますよ!同じスキルでも使うタイミングが違うと不意をつけたりしますからね!」
「へぇ……」
「戦いというのはコミュニケーションなんです!それこそ言葉を交わすことよりも濃密で深くなることもあるくらいです!ただ攻撃し合って回避し合って、という観点だけで考えるんじゃなくて、相手の考えや自分の考えを考慮した動きが出来るときっと勝ちに近づけますよ!」
「コミュニケーション……ですか」
「……え、ええと……わ、わかりづらかったですか?」
「い、いやそんな。ただ今までPvPに抱いていた印象と全然違う発想だったので、凄い驚いてます……そんな考え方があるんですね……」
「あ、あはは……ま、まぁあんまり参考にならないかも知れませんけれど……」
「いや、『サエ』は良い事言ったよ」
「ゴウカ」さんが口を挟んだ。
「『戦いはコミュニケーション』か……いや、全くそうだと思う。思考と思考のぶつかり合いなんだよな。そういう観点がありゃあ確実に戦いは変わるぞ」
「僕も同意ですね。人対人の戦いでは凄まじい量のお互いの情報が交換されている……」
「リクワ」さんも「サエ」さんの考えに賛成らしい。
正直、まだ僕には実感できていないけれど……この3人が3人とも同じ考えというのは、かなり重要な気がする。
「ありがとうございます、『サエ』さん」
「い、いえいえ……お、お役に立てましたかね……?」
「立ててみせます」
「う、嬉しいです……ふふふっ」
「どうだい、『ユウ』君。参考になったかな?」
「リクワ」さんに問われる。答えは、考えるまでも無い。
「もちろんです。皆さん、本当にありがとうございました、わざわざ丁寧教えてもらって……決して無駄にしません」
「ははは、あんまり気負わないよーに、ですよー」
「ゴウカ」さんが穏やかに言ってくる。
「『ユウ』さん……また戦いましょう。――楽しみです」
「サエ」さんがそんなことを言ってくる。
――全く、無茶を言ってくれる。だけど……
「ええ。いつか、必ず」
僕はそう答えた。
僕は本当に恵まれていると思う。行き詰った時、こうやって助けてくれる人がいる。
立ち止まっていられない。動き出さないと。いや……
動き出したくて、堪らない。




