1-1 2038年にもなって-4
「カギノぉ、『キー・ボード』は出してるか?」
「うん。まぁゲームやるんなら必須だと思ったから……」
「うしうし。んじゃあ話は早い!」
メニュー画面を開き、「スキル」の項目を選択する。今使えるスキルの一覧がずらりと並んでいる。
[ジャブ][フック][ローキック][ハイキック]等々……これを使って攻撃するということか。
「おう!『キー・ボード』の好きなボタンに『スキル』を設定すれば、そのボタン一つで設定した『スキル』が発動するんだよ。わかりやすいだろ!」
確かに。他には、[回避行動]、[ジャンプ]といった直接攻撃には使いそうにないものもあったり、[ファイアボール][サンダーボルト]と言ったありきたりな魔法もありそうだった。
「さっきも言ったがよ、このゲームでの俺等は『魔法拳闘士』ってやつなんだ。その名の通り、魔法と格闘で戦っていくんだよ」
「なるほど……で、ちょっと気になった事があるんだけど」
「なんだよ?」
まぁ、[アイススピア]とかのよくゲームで出てくる「魔法」はわかりやすいのだけど、[ストレート][アッパー]とかの格闘技にちょっと気になる点があった。
どれも、右手か左手か、右足か左足か、という感じで2種類あるのだ。
「こういうのいちいち分ける意味あるの?何か違いがあるの?っていうか細かすぎるだろ、どっちの手足で攻撃するかなんて」
「……ふっふっふ……」
そう問うとアリマが気持ち悪い笑いを返してくる。
「これがまた結構重要なんだよなー!まぁカギノよ、とっとと『キー・ボード』のボタンにスキルを設定しちまえ。とりあえず全部使えるようにしとけ。な!」
「……うん、とりあえず、そうするよ」
『キー・ボード』の各ボタンに『スキル』を設定していく。
ちなみに、VRでは無い3人称視点のゲームなので、移動や視点の変更にもボタンを設定することもできるらしいが、アリマの勧めでこのゲーム画面……「スキルシーカーズリンク」を映している立体映像に直接タッチして移動や視点変更を行うことにする。その方がやりやすい、というアリマの談だ。
片手は自由に、その逆側は『キー・ボード』に、というスタイルが一般的らしい。
「『キー・ボード』のボタンは『スキル』に全部回しちまった方が得だぜ。ゲームが進むとどんどん『スキル』が増えて使うボタンも増えるからな!まぁそれで増えすぎてワケわからんくなるってことがあるが、そこは整理したり練習したりで克服すりゃあいい」
……よくわからないが。とりあえず、「スキル」の設定を終えた。
本当に必要かわからない、「右ジャブ」「左ジャブ」と言った右左だけの差の「スキル」もちゃんと分けて設定した。
「終わったよ」
「おっしゃ、んじゃあ戦闘だ!……なぁカギノよ、今まではぶっちゃけ、『VR使ってないってだけでまぁ普通のゲームだよな』って思ってんだろ?」
「うん、まぁ……」
「くっくっく、そう思ってられるのも今の内だぜ!んじゃあ、あの扉から『初心の草原』に出るぜ!ついてきな!」
今までアリマと僕のキャラクターがいた場所からすぐ近くに大きな扉があって、そこから「初心の草原」とやらに出られるようだ。この今いる中世ファンタジーな城下町の出口の一つらしい。
「初心の草原」なんて名前からして初心者用の場所なのだろう……
扉を開けると、そこは予想通り、ただただ何の特徴も無い草原だった。日が射しているエフェクトや影の具合、風で草花が揺れる、と言った細かい工夫が凝らされているが、今までVRのゲームをやってきた身としてはそんなに感動的な光景では無い。
無い、が……すごく丁寧に作られてるなーなんて玄人みたいな感想が思い浮かぶ。
そして……その草原には何かがうろついていた。
「……?なんかここ、何かいないか?」
「そりゃいるぜぇ、『モンスター』がよ!ま、ここは初心者向けだからそんなヤバいヤツはいないから安心しな!」
アリマの話によると、ここにいるのは「ゴブリン」というこれまたファンタジーものではベタベタな緑色の肌をした子鬼のモンスターがうようよいるらしい。
アリマのキャラについていくと、間もなく、その「ゴブリン」が目の前に現れた。
「えーっと……戦うんだよね、アリマ」
「よーっし……ついに最初の戦闘だな、『ユウ』!」
「……どしたの、急にキャラクターの名前の方で呼んでさ」
「いやーテンション上がってきたからなぁ!おい、俺の方もアリマ、じゃなくて『ジクト』の方で呼んでくれや!これはMMO、オンラインゲームだぜ?俺とばっかり遊ぶわけじゃねえ、知らねえ誰かと組むことだってあるんだよ!……つーことで、いまから俺のことは『ジクト』と呼べ、『ユウ』!」
「はぁ……はいはい」
MMO……オンラインゲームで本名を名乗ることはほぼ無い。みなそれぞれ作ったキャラクターに名前を付けている。
僕のは、「ユウ」。自分の名前の「ユウヒ」からとった安直な名前だ。他のゲームでも名前を設定させられることはよくある。僕はソレが一々考えるのが面倒で、いつもこの「ユウ」にしている。
アリマのは、「ジクト」。何か由来があるのか、と聞けば、
「あ?ねーよそんなの。でもなんかカッコいいだろ!?」
とのこと。まぁテキトーにつけたんだろうな。
「じゃあジクト、僕はどうすれば良い?」
「おう!ま、ここにはゴブリンが沢山いるけどな。攻撃力は大したことねーし、普通にやってりゃ死なねーよ。まずはテキトーに、一体ずつ『スキル』つかって攻撃してみな!……ま、何体かやってみりゃあこのゲームの戦闘の奥深さがわかるからよ……!」
「はいはい。んじゃ、やってみるかね……」
僕は、「ユウ」を動かしてゴブリンの前に移動させ、そのまま[左ジャブ]を目の前のゴブリンに打ち込んだ……