4-4 答えはあるのか-1
――今日から六月になる。
アリマにSSLを紹介されて始めたのが4月の始めあたりだから、そこからSSLの運営会社、IS社に訪問する、というまでの展開があって……それでも僅か2ヶ月程しか経っていなかったということになる。
濃いぃ……濃すぎる2ヶ月だった。
その2ヶ月で色々あって、SSLを「本気」でプレイすることになったのだが……
「……えーと……どうすりゃいいんだ?」
……具体的なプランは何一つ無かった。まずは考えを整理する必要があった。
うんうん唸りながら2ヶ月間の記憶を思い出しながら考える、考える、考える。
とりあえず……SSLに対する考えが大きく変わったのはやはり、「サエ」さん……ノハナ・サエとの出会いだったように感じる。そして、その「サエ」さんの「ライバル」になって欲しいと「ゴウカ」さんとノハナ・サエさんの妹のノハナ・ミリ社長に求められている。
と、いうことはやはり、「サエ」さんの「ライバル」を目指す、というのが、SSLで「本気」で目指す目標になる、と思う。
しかし、それはあのSSL最強のプレイヤーを決める大会、「グランドチャンピオンカップ」を連覇した相手と並ぶことを目指すことを指している。
無理。と言いたい気分だが……結局SSLを「本気」でやるとなったら、その頂点のプレイヤー、「サエ」さんの存在は無視できない。
――やってみるしか、ない。……うあー気が遠くなる……
とりあえず、「サエ」さんの「ライバル」になることを目標にしてSSLをプレイしていくことに決める。そのために必要なのは、まず、情報収集だ。
とりあえず公式HPにアクセスしてみると、何かの告知がされていた。
「第五回!グランドチャンピオンカップ開催!予選期間迫る!」
という見出しが躍っている。詳細を確認してみると、第五回グランドチャンピオンカップの概要は次のようにまとめられる。
まず、本選は例年通り、年末に行われる。本選はトーナメント形式で、予選によって決められた14人と、前回のファイナリストの「サエ」さんと「ゴウカ」さんを加えた16人で行われる。
そして、その予選の第一回目が二ヶ月後、8月に行われるらしい。
「極みの闘技場」内部に「予選専用受付」が設置され、そこで選手登録をしていると、おなじように選手登録しているプレイヤーとランダムにマッチングされ、PvPが行われる。それを、8月中に20戦行う。
予選は8月から11月までの四ヶ月間行われる。一ヶ月ごとに20戦行い、四ヶ月間の合計80戦での成績上位者14名が本選トーナメントに進める、という仕組みになっている。
「なるほど……」
「グランドチャンピオンカップ」か。これに合わせてみる、というのもいいかも知れない。本選に出場し、そこで待つ「サエ」さんと戦う……それができたら確かに「サエ」さんの「ライバル」だろう。
目の前にはっきりした目標がある、というのも良い。まずは予選突破。そう決めて取り組むのも良いだろう。
しかし……最初の予選は二ヶ月後か……間に合うかな……練習とか。
多くのプレイヤー、それもほとんどが僕より熟達している人達が参加するのだろう、相当厳しい戦いになる……
やっぱ無理。と言いたいところだが……こんな機会はそうそう無いのも事実。
二ヶ月後の予選に向けて、特訓することにしよう。どこまで行けるのか……そう、「本気」でやってみよう。
「――勝てねぇ……」
八月の予選に向けて、PvPの特訓をしようと「極みの闘技場」で戦ってみたのだが、もうびっくりするくらい勝てない。今日で20戦0勝20敗。
やはり、大概のプレイヤーが四月に始めたばかりの僕より上手く、経験がある。明らかに動きに差があり、こちらの攻撃は避けられ、相手の攻撃は的確に決まる。
スキルの数もあちらの方が多く、対応しきれない。
切り札の[極死の太陽]もアリマが公開した動画がきっかけになって対策されており、全く通用しない。
「やっぱ弱いなw」
対戦した相手や見ていた他のプレイヤーから煽られることは少なくなかった。その度に、悔しさで自分の顔が歪むのを感じる。ムキになってまた次の戦いに挑むも、また同じようにあしらわれる。
酷い時には、明らかに舐めている、というプレイングをされることがある。
ひたすらこちらの攻撃を回避し続けてみたり、初期スキルの[左ジャブ]だけで相手をされたり……
そんな挑発のような行動をされ、しかも負ける。心が折れそうになる。
一週間くらい、そんな日々が続いた。未だ1勝もできずに、敗北数は三桁を超えていた。……もう煽られても何も感じなくなってきた。勝てるビジョンが全く湧いてこない。
自分でも普通だったらもう辞めてるだろう、と思える。ほとんど意地で投げ出すのを堪えていた。
……やっぱり、僕には過ぎた夢だったんだろうか。このままじゃグランドチャンピオンカップの予選を突破することはできないだろう。今年は諦めるべきだろうか……
「[極死の太陽]さえ決まればな……」
一撃必殺の切り札は、今や完全に対策されて、全くの役立たずだ。[極死の太陽]を使おうとすれば、それを放つ前に攻撃されて潰されるか、背後に回られて躱される。
かといって[極死の太陽]を封じて戦ったところで、もっと戦いにならない。
PvPでは敗戦しても経験値は入るため、レベルアップして新しいスキルが手に入ることはあるのだが、今のところ殆ど小粒で弱いスキルばかりで、戦力になってくれない。そのため、未だに初期スキルをメインにして戦い続けていた。
そして、初期スキルなんてのは殆どのプレイヤーが使ったことのあるスキルで、対応もされやすい。
いい加減、このまま戦い続けても意味が無いような気がしてならない。今日もSSLにログインしてPvPをしていたが、全く成果が上がらない。疲れ切ってログアウト。部屋のベットに寝転がる。
「くそっ……」
――なんだか疲れた。ゲームをしていただけとはいえ、負け続けでは精神的に参ってくる。そのまま睡魔がやってくる。
明日も負け続けるんだろうか……そんな予感が胸をよぎる。正直もう疲れた……
睡魔によってゆらり、ゆらりと思考が揺れる。
一体どうすれば勝てるんだろう?敗北数が三桁超えているのに一勝も出来ていないのは流石になにかおかしくないか。それとも僕が相当下手糞で才能ってのが無いのか?
何か足りないものがあるのか、それとも始めから無理な話だったのか。その二択。
後者だともうどうしようも無い。前者ということにしておこう。
僕には、勝つのに必要な「何か」が足りていない。
で、それはこのまま戦い続けて手に入るものなのか?
……無理だろう。睡魔に殆ど侵されて希薄になっていく意識の中でそう思う。
とりあえず、明日は休もう……
そうだな、なんというか……また情報集めに戻るとか。SSLの攻略サイト、なんてものがあるかも知れないし。「SSL研究所」みたいな……PvPの攻略情報が載っているサイトとか、無いだろうか?それかひたすら掲示板を覗いてみるか……?
――そんなことを考えながら、眠りにつく。
未だ状況を打開する光明は見えない。僕の意識は逃避するように、夢の中へ消えていった。
道のりは長く、険しい。まだまだ苦しい状況は続いていくのだろう。
――そう思っていた。




