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4-1 分岐点にて-3

 「[極みの拳]は「SSL研究所」のデータ通りみたいだな、毎回攻撃パターンが違う。これ読むのはキツイな」

 「ほぼ毎回『ユウ』の動きを先回りして当ててるなぁ……『サエ』はこんな難しいスキル使いこなしてるのかよ、バケモンだなやっぱ」

 「まぁ『サエ』がどんだけ[極みの拳]を使いこなしてるかがわかっただけでも収穫か」

 「やっぱ『サエ』は本物だわ、流石チャンプ。勝ち目が見えねー」

 「[極死の太陽]だけの『ユウ』とは違うってことだよなw」

 「その[極死の太陽]も対処方法がわかっちまったな、背後に回り込めば当たらねぇってことか」

 「つーことは常に距離を詰めながら戦えば良いワケだ。いつ[極死の太陽]を発動されても潰したり背後に回れたりできる距離に常に居れば良い」

 「どれだけ強力でも決めさせなければどーってことねーな」

 「壁を背にされたらどうすんだ?背後に回れねーぞ」

 「だから、その時は攻撃で潰せば良いんだよ、要は距離を詰めてりゃ問題無し」

 「この動画だと『ユウ』は[スタンタックル]で隙を作ろうとしてたみたいだが……」

 「それでも[一筋の黄金]の移動スピードには敵わなかったワケか」

 「コレ[一筋の黄金]じゃなくて[風纏い]でも出来るかな?」

 「いけるんじゃね?スタン食らった後即反応できればちゃんと背後に回れそう。[一筋の黄金]の移動スピードなら余裕だろうが、[風纏い]でもギリ行けると思うぞコレ。結構[極死の太陽]って発動に時間かかるっぽいし……」

 「無敵っぽかった[極死の太陽]も化けの皮がはがれてきた感じだな」

 「『ユウ』ザマァw」



 アリマに公開された動画は公式HPの掲示板の皆に詳細に検証され、少なくとも「ユウ」の[極死の太陽]の対策については完璧にされてしまったようだ。

 [極死の太陽]を僕が持っていることに嫉妬する人は多くいて、その人たちはきっとどこかで[極死の太陽]が大したものではない、ということを示す証拠を求めていたのかも知れない。

 ……そして、そんな人は決して少なくなかったということなんだろう。


 「[極死の太陽]って結局PvPじゃゴミスキルだったワケねw」

 「脳無しのモンスター相手にする用の脳死スキルだな」

 「なーんだ、大したことなかったなー」

 「派手なだけの能無しスキルだな」

 「おい可哀想だろ『ユウ』さんがよw」

 「まぁ世の中そう簡単にはいかないってことだよな」

 「もし『ユウ』がまたPvPに来たらボコるw」

 「初心者らしいしなw」

 「まぁ生意気だしなwPvPの厳しさ教えてやろうぜw」

 「早くボコりたいなー、『ユウ』また来ないかなーw」

 「動画でも序盤ボッコボッコにされてるしなぁ、プレイヤー性能はゴミだろw」

 「おいお前ら!弱いものいじめはやめたれ!でも気持ちはわかるわw」

 「つーか『ユウ』もここ見てんじゃね?」

 「だとしたら絶対来ないなー残念。わざわざ恥晒しに来るとは思えん」

 「いやいや、顔真っ赤にして来るかもしれんぞ」

 「怖えーw」


 [極死の太陽]とそれを持つ「ユウ」に対しての誹謗中傷のような言葉が掲示板を埋め尽くしていく。他のオンラインゲームでもたまにはこういう事を言われたことはあるけれど、今回は特に酷い。

 ネットの世界ではその匿名性故に、こういう言葉を目にすることは多い。いちいちこういう事で傷ついていたら何もできない……けれど、今回は正直堪えた。

 ……自分にしか使えない[極死の太陽]とそれを持つ「ユウ」は、僕にとってただのゲーム内のデータ、というもの以上のものになっているからだ――




 「はぁ……」


 ほとんど惰性でSSLにログインする。ダイレクトメッセージを確認すると、さっき掲示板で見たような誹謗中傷が書かれたメッセージが大半で、気が滅入った。


 「なんなんだよ……」


 もう辞めてしまおうか……そんな思いがよぎりそうになる。


 「ゲームなんて本気でやってる場合じゃないぞぉ、カギノよぉ。もうとっとと辞めちまえよ」

 「冴えないゲームオタクになりたいってんなら止めはしねーよ」


 さっきのアリマの言葉も頭をグルグル回っている。

 こんな胸糞悪い思いしてまで続けるべきなんだろうか……しかし。

 「リクワ」さんや「サエ」さん、「ゴウカ」さんの言葉も引っかかっていた。

 特に「サエ」さん……ノハナ・サエさんには他の人にほとんど話さないような事情まで話してくれたのだ。それを思うと、このまま逃げるように辞めていいのだろうか、とも思う……


 「ったく、なんでゲームを続けるかどうかでこんなに色々考えなきゃならないんだ……」


 SSLにログインしたはいいものの、何をすればいいか、わからなくなった。

 今の自分には、適当にも本気にもSSLをプレイすることができなくなっていた。

 しばし茫然と立ち尽くす。

 ……とりあえず、PvPは無しだろう。だからと言って今までのようにフィールドに出てモンスターと戦うのも今となっては逃げのように感じてしまう。


 「あー……もういいや、今日は。ヤメだヤメ……」


 どうしてもやる気が起こらない。何もやっていないが、もう今日はログアウトしてしまおう。

 この騒ぎもしばらくすれば収まるかもしれないし。

 しばらく休止しようか。

 なんとなく、そのままフェードアウトしそうな予感もするが。


 今まで出会った人たち……「リクワ」さんに「サエ」さんに「ゴウカ」さん……みんなどこか僕に期待しているみたいだったけれど、それに応えるのは僕の自由の筈だろう?

 ゲームなんだよ。遊びなんだよ。やりたいようにやって、やりたくなくなったらやめるだけの話だろ。

 

 そう自分に言い聞かせる。何故か心がチクチクと痛むように思えるけれど、きっと気のせいだろう。


 結局、今日は「ユウ」を一歩も動かすこと無く、ログアウトすることにした。

 こんなことは、SSLをプレイし始めてから初めてのことだった……




 「……うえ。今度は何なんだよ……」


 思わずそうぼやいてしまったのは、ホロフォ自体のメール機能に、ある一件のメールが届いていたからだった。

 SSLの運営会社……IS(Infinite System)社からのメールだった。

 SSLをプレイする為にアカウントを登録した際に、メールアドレスもIS社に送っているため、メールが届くこと自体は不思議では無いのだが……


 件名に「カギノ・ユウヒ様へ」の文字が入っていることから、よくあるユーザー全員へのお知らせ、というものでなく、僕個人に向けたメールであることがわかり、何だか嫌な予感がした。

 格式ばった形式の文章で書かれたメールを読み解くのは、今の僕にとってかなり面倒なことだった。

 そりゃ僕もSSLというサービスの顧客の一人なワケで、IS社側からしてみれば失礼の無いようにしなければならないんだろうなぁ、とは思うけれど……

 丁寧過ぎる文章ってのは時にわかりづらくてイライラする……



 ――何とか読み切った。

 重要な点と言えば……


 一つ目は、このメールはIS社社長自らが書いたモノだということ。IS社の社長と言えば、ノハナ・サエさんの話でも聞いた、サエさんの妹だ。メールの最後に、ノハナ・ミリと署名が入っていた。

 社長自ら一人のユーザーに向けてメールするなんて、なかなかあることじゃないとは思うが、今の自分には面倒くさいな、としか思えなかった。まぁ驚いたと言えば驚いたが。

 ノハナ・ミリ氏は僕とサエさんがオフ会をしたことも知っていたらしく、「姉がお世話になった」ということも丁寧な表現でメールに書かれていた。


 二つ目は、今の僕の状況に対して、運営側で対処できていないことに対する謝罪。

 ……これはちょっとよくわからない……何故運営という立場が、今の僕の状況を知っている上で対処できていないのか?そもそも、[極死の太陽]なんてぶっ飛んだスキル、明らかにゲームのバランスを壊しているものに対して、何の対処もされていないのはよくよく考えれば不自然だ。

 運営側ならデータをいじくって、[極死の太陽]みたいな突出し過ぎているものに対して修正したりして対処することも簡単にできるのではないのか?

 他の数多のスキルと同じような設定に抑えておけば、こんな風にユーザー間で混乱が起きたり、それを手に入れた僕に対して嫉妬や誹謗中傷が向けられることも無かった筈だろう。

 謝罪するくらいなら、さっさと修正して[極死の太陽]を特別でも何でもないスキルにして欲しい……今更ながら、そんなことを考えた。


 そして三つ目は……詳しい説明をするために現実で直接会いたい、ということだった。

 ……まったく、一体何だと言うのか。一つの会社の社長とどこにでもいる学生が顔を突き合わせるなんて。暇なのか、この社長は。

 「SSLのシステムを詳しく知る権利がこの混乱に巻き込まれた貴方にはあると思われます」……そんな事も書かれていた。出来ればIS社の本社で、そのシステムとやらを実際に見せながら説明したいらしい。幸いIS社の本社はここからそんなに遠くない。以前サエさんとのオフ会を行い、僕の住む街でもある七ノ蘭から電車で一時間程だ。京奈草駅、という駅の周辺にIS社本社ビルはある。

 可能ならば、そこまで来て欲しい、ということだった。もっとも、来るかどうかはこちらの自由意志に完全に任せる、ということも書かれていたが。


 メールを読み切った時には、僕はグッタリとしていた。コレって結構凄いことじゃないのか?SSLのファンにしてみれば相当魅力的な誘いのように思える。IS社の社長と直接会える、なんて……

 しかし、今の僕にとっては正直面倒だ。大体何でまた社長なんて人が出てくるような大げさな話になっているんだ?

 ……だから、現実で会うのは断ってしまおうか、とも考えたが……

 何だか断ったら断ったで、後々「何だったんだろう」と気になるのも嫌だったので、結局OKの返事をしてしまった。


 それから、日時の確認のメールのやり取りをして、一週間後に会うことになった。

 ……何だかどっと疲れた。



 全く、今度は一体何が起きるっていうんだ?はっきり言って、もうウンザリだ……

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