4-1 分岐点にて-2
動画サイトにアップロードされた、「とある動画」についての話題で、SSLの公式掲示板が賑わっていた。
「おい何やら面白いのUPされてるぞ、リンク貼っとくわ」
「うお、『サエ』じゃん、コレ」
「しかも相手は[極死の太陽]の『ユウ』じゃん」
その文面を読んで、一瞬頭が真っ白になった。
「え……?」
貼られていたリンク先に飛んで、動画を確認すると……
「これ……前『サエ』さんと僕が戦った時の……?」
そう、以前「サエ」さんに誘われ、初めて戦った時の様子が動画サイトにアップロードされていたのだ。
しかし、この戦いは非公開の設定にしていた筈だ。
……だから、この動画を録れるのは、当事者である僕と「サエ」さん、そして……
「アリマ……?」
あの時、一目を気にして非公開にされていたこの戦いを見れたのはこの3人だけだ。僕はもちろんこんなボロ負けした動画なんてアップロードしないし、「サエ」さんもこんなことはしないだろう。そうなると……
「ていうか『ユウ』ボロ負けじゃねーか」
「[極死の太陽]だけの一発屋だな」
「その「太陽」もあっさり回避されてるしw良いトコなしじゃんwww」
「強そうなの外見だけかよwホント分不相応だよな、コイツに[極死の太陽]なんてさぁー」
好き勝手にコメントされる。……それだって確かに気分が悪いが……それよりももっと……
「もしかして、アリマ、勝手に録画して、アップロードしたのか……!?」
友人に裏切られたかも知れない……その方が衝撃的だった。
「いやいや、待て待て、まだそうと決まったワケじゃない……!」
丁度今から大学に行く。その時にアリマに会えるだろう。直接確かめないと。
「アリマ、これ……!」
大学でアリマを見かけて、すぐに声をかける。問題の動画をホロフォ(ホログラム・フォンの略)から照射される立体映像に表示し、それを突き付けながら。
「あー……それな。……ミナリ、わりぃけど先行っといてくれや」
アリマの彼女、アマノ・ミナリさんがいたことにも気づかなかったほど、僕は焦っていた。ミナリさんは首をかしげながらも、先に行ってしまう。
アマノさんには悪いことをしたな……だけど、それより。
「アリマ、これ、お前がやったのか!?」
「あ?そうだが、それが何だよ?」
あっさりと言われ、呆然とする。
「何だよ、って……お前、『サエ』さんには確認したのかよ!?」
そう問い詰めると、アリマはヘラヘラと笑いながら答えた。
「はぁ?そんなもんしてるワケねーだろ?お前にも言ってないだろーが。それくらいわかれよ、なぁ?」
「なっ……!お前、そんな事許されると思って……!」
「許されるとか許されないとかねーだろ?あの時、別に戦いを録画してUPしちゃいけない、なんて約束してなかっただろ?」
なんなんだ、今のアリマは……今まで彼から感じたことのない……嫌味な雰囲気を感じる。
「あの戦いは非公開設定だったんだぞ……!普通に考えたらそれをこんな風に公開するなんて、おかしいと思わないのかよ!?」
アリマはニヤニヤと嫌味な笑いを顔に張り付けながら、僕の言葉を受け止めている。
……こんなアリマは見たことが無い。
アリマは悪いヤツではない……そう思っていたのが間違いだったのか?
「どうしたどうした、カギノよぉ。自分がボロ負けした様子を大公開されてご立腹か?いいじゃねーか、これぐらいよぉ。『ユウ』は[極死の太陽]だけの一発屋です、って皆にわかってもらえば、少しはみんなの嫉妬も収まるかも知れねぇじゃねぇか。つーかよぉ、これはSSLプレイヤーにとっちゃ、貴重な資料じゃねぇか。現在の『サエ』の戦い方、[極死の太陽]の詳細とその対処方法……ソレがわかるお役立ち動画だろうがよ。お前は[極死の太陽]なんてイイもん持ってんだからよぉ、これぐらいの貢献はしてもいいんじゃねぇか、なぁ?」
その口調になにやら邪悪……といったら言い過ぎにしても、嫌な、ドロドロとした感情がたっぷりと込められているようで、ソレに圧倒されてしまう。
「あ、アリマ……お前どうしたんだよ……?そんなことするヤツじゃ、なかっただろ……?」
信じられない。気の良い……と思っていたアリマがこんなことをして、問い詰められたら開き直ったような言葉を吐いてくるなんて……
「いやいや、お前に俺の何がわかるんだっていう話だろ。と、いうかさぁ、俺そんなに悪いことしたかぁ?さっきも言った通り、『戦いの様子をアップしちゃいけません』なんて約束はしてなかったろ?落ち着けよぉ、カギノよぉ。それともアレか?SSLに本気になっちまってるワケ?たかがゲームだろ?あんま熱くなってんじゃねーよ。ほれ、お前も前言ってただろ?俺等、そろそろ就活もやっていかなきゃならねぇ時期だてな。ゲームなんて本気でやってる場合じゃないぞぉ、カギノよぉ。もうとっとと辞めちまえよ。誘っておいてなんだけどよ。俺はもう辞めるからなー……あーあ、マジメに将来の為に努力しなくちゃなぁ、オイ?」
確かに、冷静に考えれば、アリマはそんな悪いことはしていないかも知れないし、こうなることが嫌だったのなら、ちゃんとあの場できっちり約束するべきだったのだろう。
だけどそれとは関係無く……このアリマの態度は何だ?嫌味なことこの上無い。今までのアリマは気の良い男だったのに……
「おい、もういいか?お前と違って俺には大切な彼女がいるんでなぁ。あんまり待たせたらヘソを曲げちまう。ゲームばっかにかまけてる余裕なんてねーんだよ。現実を見ろ現実を。お前も適当に女でもひっかけた方がいいぞ、いつまでも童貞は嫌じゃねーか?それとも『サエ』みたいにSSLに本気になって、そういうこと全部諦めて生きていく気かよ?アイツ、どうせ男いないだろ。まぁ、それどころか、現実では小汚いオッサンってこともあり得るよなぁ。ネカマ(ネットおかまの意。ネットの匿名性を利用して、男性が女性を装うこと)ってヤツ。……それにグランドチャンピオンカップ2連覇ってよくよく考えればヤバいよな、要は生粋のネトゲオタク、廃人じゃん。そういうの、恥ずかしいよなぁ……ま、お前も同じような冴えないゲームオタクになりたいってんなら止めはしねーよ。……じゃーな」
そう言って、アリマは行ってしまった。その背中に何か言ってやりたい気もしたが……何も言葉が思いつかなかった……
なんでだ、アリマ?どうしちまったっていうんだ……?
頭が真っ白になる、というのはこういうことを言うのだろうか。
僕にSSLを教えてくれた友人は、僕にその理由も悟らせないまま、遠く、遠くへ行ってしまった。




