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4-1 分岐点にて-1

 僕は相変わらず、SSL(スキルシーカーズリンクの略)をプレイを続けていた。

 今日は砂漠の広がるフィールドで、二本足で立っているトカゲのようなモンスターと戦っている。

 「デザートリザードマン」というそのモンスターは、個体によって、剣や斧、槍……といったように持っている武器が異なり、それぞれ違う動きを見せる。

 動きもそれまで僕が戦ってきたモンスターより、細かい動きと正確な攻撃をしてくる。

 ――しかし。


 「ギィィィッ!!」

 

 僕のキャラクター……「ユウ」の繰り出した、[スタンタックル]で隙を作ってから[ラッシュ]でトドメを追撃する、というよく使うコンボを食らい、「デザートリザードマン」はあっさりとその場に崩れ落ちた。


 [スタンタックル]はぶつかった相手をひるませて隙を作るタックルで、[ラッシュ]はボタンを押しっぱなしにすることによって、嵐のような連続パンチを繰り出すスキルだ。[ラッシュ]は発動している間SPが少しずつ減っていく。SPが尽きてしまえばパンチも途切れてしまうが……それでも相手の隙に一気に叩き込む決め手として、活躍していた。

 ここ数日で、かなり上達したように思える。以前なら苦戦していた相手も、楽に倒せるようになっていた。

 やっぱり、強い人と実際に戦った経験が生きているのだろうか。

 僕のキャラクター……「ユウ」の逞し過ぎる女性、という外見に見合った強さになってきただろうか? 


 「……ふぅー……」


 スキルの使用によって減少したSPの自動回復を待つ。自動回復のスピードはかなり早いので、そんなに長い間待つことは無い。

 SPが完全回復すれば、また探索を再開する予定だ。




 先日行われた「サエ」さん……その正体は数年前に活躍した「ノハナ・サエ」さんだった……その人とのオフ会。

 彼女のSSLにかける思いを直接聞いてから、それが頭から離れない。

 SSLでの「戦い」に「生きる理由」なんて大げさなものを見出している彼女の話は、衝撃的だった。なんとコメントすればいいかわからず、その時は曖昧な口調で濁してしまったが、その意味については今も頭にこびりついている。

 あそこまで、「ゲーム」に本気で取り組んでいる人がいる、というのを実際に見て感じて、少なからず僕のSSLへの意識は変わったように感じる。


 例えば、小説なんかで。

 負けたら死ぬ、とか、ログアウトできなくなってゲームの世界に閉じ込められる、とか、サイバーテロが発生している、とか、「オンラインゲーム」を舞台にした物語は多数存在するし、読んだことも何回もある。人気のジャンルの一つだ。

 そりゃ、そんなシリアスな状況ならゲームだろうがなんだろうが、本気で取り組まざるを得ないだろうけど……

 しかし、僕がプレイしているこのSSLにはそんなことは一切無い。本当に、ただのゲームなのだ。

それなのに……

 そんな「ただのゲーム」に本気で向き合っている人がいるその事実……それを完全に理解することは、できない。少なくとも、今は……

 だけど、「リクワ」さんや「サエ」さん、僕の友人である「ジクト」も恐らく……本気でSSLに取り組んでいる人達を思うと、何だか心がざわつくのだ。

 僕も……SSLの世界で僕ただ一人が使えるスキル、[極死の太陽]を持つ自分のキャラクター、「ユウ」に対する愛着は日々深くなっているように感じる。

 将来的には、僕も彼らのように、本気でこのゲームに向き合っているのだろうか?

 そう考えたりもするけど、結局「たかが」ゲームじゃないか、というようなことも正直、考えたりする。

 「リクワ」さんは、SSLは、オンラインゲームは、「たかがゲーム」とは言い切れないものだと言っていた。その時はそれに同意したが……

 「サエ」さんがSSLにかけるその思いは、「それにしたって」と言いたくなるようなものだと思う。


 ――結局、そんな普通なら絶対合わないような人やそういう人の考えを知ることで、今までの僕の認識とはまるで違う「ソレ」に……僕の頭はクラクラしているのだと思う。




 「サエ」さんとオフ会をしたその後日のこと……

 SSLにログインしたある日、ある人から「会って話したい」という内容のダイレクトメッセージを見つけた。

 

 「ゴウカ」氏……「サエ」さんの話でも聞いた、彼女の親友で、SSLのトップランカーの一人、前回の「グランドチャンピオンカップ」で「サエ」さんと激闘を演じたその人からだった。


 「今度はこの人か……もう何が起こっても驚かなくなってきたな」


 SSL内で唯一にして、最大のスキル、[極死の太陽]は、色々な人間を色々な形で惹きつける、というのはいい加減理解していたので、あまり驚かなかった。

 そのダイレクトメッセージに返信し、「極みの闘技場」で待ち合わせすることになった。




 「こんにちは。『ユウ』さん、ですね」

 「こんんちは、『ゴウカ』さん」


 「サエ」さんの話の通り、見た目と違って丁寧な話し方をする人だった。


 「急に呼び出して、すみませんね。『サエ』とオフ会、したんですよね?彼女から聞いてます。まぁその話を聞いて……というよりも前から気にはなってたんですけど……一度会ってみたいと思いまして」

 「あぁ、『ゴウカ』さんって『サエ』さんと仲が良いんですよね」

 「えぇ、大分長い付き合いですよ。……まぁ、それはともかく、突然で申し訳無いんですけど、一戦お願いできますか?」

 「……なんとなくそんな気はしてました……」

 「ははは、やっぱ気になる相手とは一度は戦っておきたいものなんですよ」

 「わかってると思いますけど、僕はまだまだ初心者ですからね。貴方相手じゃほとんど何もできないでしょう」

 「そんなお気になさらずに。まぁ、『サエ』から貴方のことは聞いてますし、期待していない、と言ったら嘘になりますが、ね……」


 そうして「ゴウカ」さんと僕の戦いが始まった……




 「……まぁ、勝てる訳も無し」


 ホログラムディスプレイの前で呟いた。

 やはり「ゴウカ」さんは圧倒的で、終始彼のペースで試合は進んだ。

 試合終盤になんとか一発返し、そこから[極死の太陽]を狙ったが、その発動前に素早い飛び蹴りを食らって潰され、そのまま敗北した。


 「すみません……やっぱ、何もできなかったですね、僕……」

 

 そう「ゴウカ」さんに謝る。しかし――


 「いやいや!やっぱ『サエ』の言った通りだ!なんというか、ガッツがありますよ、貴方には!楽しかったですよ!」

 「……テキトー言ってるんじゃないんですか」

 

 失礼を承知でそんなことを言ってしまう。


 「ははは、いやいや、やっぱり貴方には[極死の太陽]について特別な思い入れがあって、それを持つ自分のキャラクターにも同様に思い入れがある、というのは伝わってきましたよ!なんというかね、何度も戦っていると、そういうのがわかるようになってくるんです。『戦い』というのは凄まじいコミュニケーションの手段だ、と『サエ』は言っていましたが、まさにその通り。だから、やめられないんですよねぇ……」


 ……やっぱり、そういうことを感じられるのは、このゲームに本気で取り組んでいるからだろうか……


 「……どうして、『ゴウカ』さんはSSLにそんなに入れ込んでいるんですか?」

 「うーん、そりゃ、やっぱり、楽しいからですね、単純に」

 「プロゲーマー、なんですよね、『ゴウカ』さんは。その職業を選んだのも同じ理由ですか?」

 「ははは、『サエ』はそこまで話していたんですかぁ。まぁ、有り体に言えば、そうです。とにかく人と戦うのは楽しい……それがゲームだとしても、ね」


 彼もまた、本気でただのゲームに取り組む人間だった。

 やっぱり、わからない……どうしてそこまで、本気になれるのか……



 「『ユウ』さん。私は思うことがあるんです……『サエ』はなんというか、危うい……上手く言えませんが、ちょっとつついただけで彼女の心は崩れてしまうのではないか、と思う事がある……」

 「……?」


 急にそんな事を言い出す「ゴウカ」さん。


 「『ユウ』さんは『サエ』が格闘家を引退してから、SSLのプレイヤーになるまでを詳しく聞いたんですよね?」

 「ええ……」

 「私は、その辺のことは実はあまり詳しく聞いてないんですよ。『サエ』とは、ただ純粋なライバルとしての関係でいたい。『サエ』にとってもその辺りのことは、あんまり話したくないことだと思います」

 「……でしょうね」

 「それでも、貴方に話した、ということは、『サエ』なりに貴方に伝えたいことがあったんでしょうね。……多分、『サエ』は……貴方に本気でこのゲームに向き合ってほしいんじゃないか、と思います……まぁ、それに応えるかどうかは、完全に貴方次第ですが」


 本気、本気、か……正直、まだそんなことは考えられないんだよな……


 「正直、わからない……貴方や、『サエ』さん……ゲームに本気で取り組んでいる人のことが……どうしても、本気になってまでやるほどのものなんだろうか、と僕は考えてしまうんです」

 

 プロゲーマー、なんて職業をやっている人に対する言葉としては、失礼な言葉だったかも知れないが、「ゴウカ」さんは答えてくれた。


 「それが普通ですよ、恐らく、ね。『サエ』のようにゲームの中の戦いに「生きがい」なんてものを感じたり、私のようにゲームを仕事にする人間の方が、珍しいと思いますよ。ゲーム……つまり、遊び、ですからね、結局は。ただ……遊びだろうが何だろうが、本気でやらなければ極めることも、本当に楽しむこともできないんですよ。それがわかってくれば、『ユウ』さんもゲーム……SSLに本気になれるかも知れませんよ?」


 本気でやらなければ、楽しめない……その言葉が、響く。




 「おっと、もうこんな時間だ、『ユウ』さん、そろそろ私は失礼します」

 「ああ、はい、お疲れ様でした。本日はありがとうございました」

 「……『ユウ』さん、これは『サエ』の友人としてのお願いなのですが……」

 「はい?」


 「SSLに……すぐに本気になれ、とは言いません……ただ、いつか、『サエ』の前に立ちはだかって欲しいんです。さっきも言ったように、『サエ』はどこか危うい。ライバルが私だけでは、いつか『サエ』がSSLの戦いに飽きてしまうんではないか、という不安があるんです。だから、貴方も彼女のライバルになって欲しい……そういう形で、彼女を支えて欲しい……なにせ、貴方は数少ないであろう彼女の詳しい事情を知る人でもありますし……」

 

 あの圧倒的な、「サエ」さんのライバルに……それは、僕にも本気でSSLに取り組んで欲しいということだろう。

 しかし、本気になったとしても、できるのか。あのグランドチャンピオンカップ2連覇の、全てのSSLプレイヤーの頂点である「サエ」さんのライバルに、なんて……


 「正直、そんなことができるかどうか……わかりません。ですが……考えてはおきます」

 「……ありがとうございます。ではでは」




 それ以来、ぼんやりと考え続けている……このゲーム、SSLとどんな風に向き合っていくのかを……

 そりゃ、「サエ」さんのあんな話を聞かされれば、何か力になりたい、なんてことも考えはするけれども……

 

 「本気、か……」


 本気で何かに取り組む、ということは、それ以外の何かを犠牲にしなければならないイメージがある。少なくとも、時間は犠牲になる。

 本気で取り組んだ結果、振り返って「一体自分は何をしていたんだろう?」なんて思うような目には遭いたくない。



 きっとここが僕とSSLの関係にとってのターニングポイントなんだろう。

 本気で「サエ」さんのライバルになることを選ぶのか。

 それとも全部無かったことにして適当に付き合っていくか、あるいはやめてしまうか。

 

 思いもよらず、その悩みはすぐには解決せず、ぐるぐると頭の中を回る。


 そんな中でも、事態はさらに展開していく。

 これも[極死の太陽]に引き付けられたのか。

 まったく、この太陽は本当に手に負えない……



 最初に起こったのは、僕の友人……アリマ・サイとの関係の変化だった。



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