3-3 《!ノハナ・サエ!》-7
「へぇ、じゃあ本当に初PvPだったんですね、『サエ』さん。なるほど、それで、序盤は緊張されてたんですねぇ……そこから立ち直ってあそこまで追い込んでくるとは……もしかして、こういうゲームに慣れてたりします?」
「いえ……ゲーム自体コレが初めてで……なんというか、付き合いというかなんというか……それで始めただけなんですけど」
「ええ……本当ですか、ソレ。自信、無くすなぁ……というか『サエ』さんの才能が凄いだけ?」
「いえいえ……そんな」
「ゴウカ」氏は見た目は怖いが、チャットの口調はむしろ優しそうな印象だった。凄いギャップ。こういうのも面白いな。
「ゴウカ」氏と1:1チャットでしばらくお喋りしてみた。こういうのもオンラインゲーム……MMOの面白い所なんだろうな。全然知らない人とふとしたことで関わりが出来て、コミュニケーションが出来る、って言うのは。
「いやホント、『サエ』さん、貴方には才能ってヤツがあるんでしょうね。あの読みに反応……並みじゃないですよ」
「そんな……そこまで褒められるようなことでは……『ゴウカ』さんなんてまだ無敗なんでしょう?」
「まぁ、確かにそうですけど……なんというか、『サエ』さんが本気でSSLに取り組み始めたらすぐ抜かれそうな気がしますね。さっき対戦で私が勝てたのも、最後はほとんど賭けですよ、賭け」
「賭け……?」
「いや、『サエ』さんの反応と読みが凄すぎて、浮足立った私じゃ正攻法では勝てないと思いまして……一点張りしただけなんですよ。『次は蹴り技が来る』ってヤマ張って、蹴り技に対するカウンター技を構えてただけなんですよ。ヤマが外れたら、多分負けてましたね」
あぁ……そうだったのか。あのさっきの戦いの「ゴウカ」氏の「諦め」のような、「悟った」ような、あの感じ……そういう背景があったのか。玉砕覚悟の賭け……もしかして、そんな事をさせられるくらい、私って結構いい所まで行ってたのか。
ただ、まぁ……それはそれで凄いけれど。あの状況で賭けに出られるようなメンタルは凄い。なんせ外れたら私に一気に崩されてたはずだし。
「いや、そこで賭けに出られて、しかも勝つってそれはそれで相当勝負強いですよ……やっぱり強いんですね、『ゴウカ』さんって」
悔しいけれど、認めるしかなかった。
「まぁ、私にはちょっと経験がありましてね。そのお陰ですかね……『サエ』さん、『プロゲーマー』って職業、ご存じですか?」
「え、ゲーマーで……プロ?……すみません、よく知りません……」
「あぁ……やっぱこの国じゃまだまだマイナーなんだな……もう少なくとも30年以上前には成立している職業なのに……」
聞いたことのない話だった。ゲーマーでプロ?ゲームのプロ?どういうことだろう?
「まぁ、ゲームの大会に出て、その賞金で稼いでいるって考えてもらえばいいです」
「ゲーム大会の賞金で生活してるってことですか……?そんなこと、出来るんですか?」
「いやまー、そりゃ誰でも出来るって訳じゃないですけど。でも、海外のでっかい大会の優勝賞金なんて億越えしますし……」
「億!?そんな大規模なんですか!?」
「まぁ海外ではねぇ……国内じゃまだ全然ですよ。未だになんやかんやでゲームに対する風当たり強いですし、この国……それで、実は、私もその『プロゲーマー』なんですよ」
「へぇー……だから、ゲームが得意、ってことですか……」
そんな人と戦っていたのか……ゲームが仕事の人とゲームで戦うとか……無謀だった……
「えぇ。だから、SSLは始まったばかりのゲームだけど、プロゲーマーとして世界で戦って、鍛えてきた私の実力と経験があれば、PvPは楽勝……なんて、自惚れてたんですけどね……そこに、貴方が現れた」
「私……ですか?」
「反応と読みに関しちゃ、正直完敗でしたよ……まぁ聞きたいのはそこです。『サエ』さんってなんかやってました?格闘技とか……」
「総合格闘をやってました……もう4年前くらいの話ですが……」
「なるほど……そこで鍛えた反応と読み、ですか……目の当たりにすると、凄いですね」
プロゲーマーと格闘家……どちらも「勝負」という場で活躍する者同士、共通点があるのかも知れない……そんな風に思えた。
「『サエ』さんは、このゲームのシステム……スキルのランダム取得について、どう思います?」
それからもずっと話続けていると、唐突にそんなことを聞かれた。
……うーん。ゲームのシステムかぁ……そんなこと言われても……
「すみません……よくわからないです……他のゲーム、やったことないですし……珍しいんですか、こういうの」
「えぇ、珍しいと思いますね。こんなに、プレイヤー間で持っているスキル……強みが違う、っていうのは中々無いですよ。まぁそこに惹かれて始めたんですけどね、私も」
「えっと……何で惹かれたんですか?」
すると少し考え込んでいるのか、チャットが止まった。しかし、しばらくすると言葉がまとまったのか、「ゴウカ」氏は一気に言葉を紡いできた。
「何と言うか……このシステムって、みんな同じモノが手に入る訳じゃなくて、はっきり言って不公平なんですよね。でも……みんな、自分に与えられたスキルを活かすため、必死に考えて、戦っている。みんなそれぞれ、違う考え方で、懸命に自分に与えられた手札で最強の戦い方を探してる。それで、みんな違う戦い方で、ぶつかり合ってて……なんというか、『戦い』ってまさにソレって感じがするんですよ。自分の強みを理解して、相手の強みも理解して、一瞬で情報を交換し合いながら、ぶつかり合うその感じ……それって、言葉を使って話し合うより、何だか相手のことがわかった感じになる……すみません、なんかよくわからないですよね……」
……なんとなく、分かる気がする。確かに、言葉にしようとしても、上手くいかないけれど……「戦い」というのは壮絶なコミュニケ―ジョンなんだと思う。
「SSLのランダムでスキルが手に入るっていうこの不公平にも思えるようなシステム……だけど、なんていうか、いいよなぁ、って思うんですよ、私は。まぁ始まったばっかですから、まだまだ様子見ですけど」
「確かに、私も……楽しかった、かも知れません……」
そう、そうだ。今思い返せば、「ゴウカ」氏との戦いは楽しかった……まるで、以前の格闘家時代に戻ったみたいに……
自分に出来ることを懸命に把握して、相手の出来ることを必死で読み取って、全力でぶつかり合ったあの感じ……まさに、「戦い」だった。
「『サエ』さん、もし良ければ……」
そう言って、「ゴウカ」氏が言葉を切ったかと思うと……
「『ゴウカ』さんからフレンド申請をされています。了承しますか?」
という通知が画面に表示されていた。
「これは……?」
「『サエ』さん、これからも私と戦ってくれませんか。さっきは本当に楽しかったですし……私もまだまだだって思い知らされた良い機会になりました。私はもっと、このSSLのPvPを極めてみたくなった……『サエ』さん、貴方も一緒に、どうですか?」
フレンド……友達。いや、ライバルかな、この場合は?
いいなぁ……そういうの。私はニヤリと笑って、了承した。
「……これからもよろしくお願いします、『ゴウカ』さん」
「ええ、こちらこそ!」
――「ゴウカ」さんと私は、それから何度も戦って、腕を競い合った。他にも沢山の人ともひたすら戦い続けた。戦いの度に新たな発見があり、私はそれに夢中になっていった。
私の抱えていた死への願望は、その内に、いつの間にか少しずつ薄れていった。
「戦い」が私の世界に……戻ってきたのだ。




