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3-3 《!ノハナ・サエ!》-5

 「ゴウカ:20勝0敗 VS ギンラ:13勝5敗」


 「極みの闘技場」内のいくつかのスクリーンの一つにそんな表示がされている。

 

 「あのゴウカって人調子良いみたいですね」

 「20勝0敗とかやべえ」

 「一つ頭抜けてるな」


 「スキルシーカーズリンク」はサービス開始したばかりのゲームだ。そんな中で、この「極みの闘技場」でのPvPで、真っ先に台頭してきたのがこの「ゴウカ」というプレイヤーだった。


 「ゴウカ」氏と「ギンラ」氏の戦いが始まる様子がスクリーンに映し出される。

 開始の合図と共に両者が相手に向かっていく。

 攻撃と回避の応酬が展開される。

 未だ無敗という「ゴウカ」氏の動きは流石、というべきか、的確な動きであっという間に「ギンラ」氏を追い詰める。

 何発かの「ゴウカ」氏のスキルの直撃を食らった「ギンラ」氏のHPはそろそろ危険域だ。

 最後は焦って「ギンラ」氏の繰り出した[ストレート]を紙一重で「ゴウカ」氏が躱し、炎を纏った踵落としを叩き込み、倒れたところに踏みつけ、そしてサッカーボールキックのコンボで決まった。


 「おお~!!」

 「安定してるなぁ」

 「あのコンボヤバいな、どんだけ減るんだよ」



 その他にも色々な戦いをスクリーンで眺めていた。


 「スキルシーカーズリンク」の特徴として、レベルアップで取得する「スキル」の種類がランダムである、というのがある。故に……


 「なんだあのスキル!?」

 「見たことねぇ」

 「ランダム取得ってのはマジだったのか……」

 「皆戦い方違うなー……」


 そう、どのプレイヤーも自分にランダムで与えられたスキルから個別に戦術を組み立てている。

 「ゴウカ」氏の様に強力な格闘技による接近戦を仕掛ける者。

 遠距離からの魔法による攻撃を主とする者。

 機動力の高いスキルを使い、ヒット&アウェイの戦法を使う者。

 サービス開始からそこまで時間が経っていないにも関わらず、「スキルシーカーズリンク」の対人戦での各プレイヤーの戦法はかなり多彩だった。


 何戦見ていても飽きない。みんなが自分に与えられた武器を、最大限にその力を発揮するために戦術を考察しているのがわかる。

 ……それはある意味、実際の格闘にも通じる要素だった。

 自分の強みを生かすための戦術を考え、それを実行するために考えて動く。

 しかも、「スキルシーカーズリンク」での私達の設定は「魔法拳闘士」……魔法、という実際の戦いにはない要素が、実際の戦いよりも、その戦術のバリエーションの多彩さを産み出している……

 

 みんながそれぞれ違う「スキル」を持っていて、「戦術」を持っている。それぞれ違う特徴を持つプレイヤー同士の戦いは、毎回新しい発見がある。新しい刺激がある。

 だから、プレイヤー達はそのことに興奮しているらしい。


 「あんな戦い方があるのか!?」


 試合がスクリーンで映し出される度、興奮した様子のチャットが行われる。

 

 その興奮に背を押されるように……


 (私も……戦ってみたい……あの中で……)


 ふとそんなことを考えていた。


 「サエ」を移動させて、「極みの闘技場」の受付カウンターに向かう。そこで「選手登録」をすると、同じように「選手登録」していて、この「極みの闘技場」にいる他のプレイヤーとランダムでマッチングが行われ、対戦カードが決まる……という仕組みらしい。


 受付を済ませ、しばし待つ。

 その間、ドクン、ドクン、と心臓が高鳴るのが分かる。

 一体どんな人と、私は戦えるのだろう。

 この頃には不思議と確信していた。

 

 これが、妹や祖父がこのゲームに「賭けている」理由はここにある、と。

 

 やがて、ピロン、という通知音が聞こえた。

 

 「PvPマッチングが完了しました。対戦相手は「ゴウカ」さんです。一分以内に画面上部の『戦闘開始』ボタンにタッチしてください。戦闘の様子はスクリーン2で公開されます」


 そんな通知が画面に表示され、その通知の通り、画面上部に「戦闘開始」と書かれたボタンのようなものチカチカと点灯しながら表示されていた。

 さらに、2番目のスクリーンには、


 「ゴウカ:29勝0敗 VS サエ:0勝0敗」


 と表示されていた。


 「うわーこれはえげつないw」

 「こりゃやる前から決まってるわ」

 「『ゴウカ』対初心者とかw」

 「まだこのゲーム始まったばかりだろ、みんな初心者だろ」

 「それでも『ゴウカ』は一つ頭抜けてると思うね」

 

 好き勝手なチャットがされている。


 どうやら、いきなりあの「ゴウカ」とかいう強い人とマッチングされてしまったらしい。

 ゾクっとした感覚が全身を駆け巡る。

 しかもその戦いの様子はこのスクリーンで公開される……

 格闘技を辞めてから久しく味わっていない、緊張感。それに押しつぶされそうになる。


 (一体自分に何ができるというのか……)


 どうしようもない、という無力感。

 さっきの「ゴウカ」氏の戦いが脳裏に浮かぶ。どうすればいいのか……なぜよりによって最初の相手があの人なのか……

 チカチカと「戦闘開始」のボタンが急かすように点灯している。仕方無く……震える手でボタンをタッチした……



 ――すると、画面が切り替わった。ここがPvP専用フィールドのステージ……周りにいたキャラクターは皆いなくなっていて、代わりに、ステージの丁度私の立っている位置の対面に、その人は立っていた。


 「ゴウカ」氏だ。威圧的な紋様の描かれたボロボロの真っ黒い道着、非人間的な肌の色、鬼のような形相の顔、逆立つ白髪、真っ赤な目……そんな恐ろしい容姿の男と、私のキャラクター、「サエ」はこのステージで、二人きりで対峙していた……


 スクリーン越しで見るより、「ゴウカ」氏は威圧的で、恐ろしく見えた。今からあんな男と戦うと考えると……


 (落ち着け、落ち着け……たかがゲームなんだから……実際に痛い目に遭うわけじゃないし、殺される訳でもない……)


 そう考えても、さっきから手の震えが止まらない。ドクドクと心臓が高鳴る……



 ガァン、というゴングの様な開始の音が響き渡る。それと同時に、「ゴウカ」氏が突進してくる。


 「う、うわっ!」


 突進から繰り出された飛び蹴りを覚えたばかりの[ステップ]で何とか回避する。現在レベル3の「サエ」が新たに取得した2種のスキルの一つだ。しかし、追撃の攻撃が次々と撃ち込まれてくる。私はそれに対して、必死に回避するしかなかった。


 「あーこりゃやっぱ圧倒的だわ」

 「おい、避けてるだけじゃ勝てねーぞw」

 「反撃しろー!!」

 「やっぱ『ゴウカ』の勝ち確だな、これで30勝無敗かー」


 観客のチャットにより表示される野次。それに腹立たしく思いながらも、「ゴウカ」氏の攻撃を避けていく。

 しかし、私の回避のパターンを見切ったのか、だんだんと攻撃が躱せなくなってきた。

 的確な打撃が、「サエ」のHPを削っていく。


 「反撃……反撃しないと……!」


 焦った私は「サエ」に[右ストレート]を出させる。が、あっさり躱される。

 

 「もうヤケだ、こうなったら!」


 さらに[右ハイキック]を放つ。しかし……あまりにも迂闊だった。

 あっさり躱され、反撃の炎を纏った踵落としを食らい、倒れたところに踏みつけ、そしてサッカーボールキックのコンボ、というさっきも見た連続攻撃を受けてしまう。


 「う、ううう……」


 もう「サエ」のHPは残り僅かだ。


 「決まったなー」

 「まぁしょうがない」

 「はいはい『ゴウカ』強い強い」


 完全に観戦者達は「ゴウカ」氏の勝ちを確信している。


 「次の一撃で、終わりだな」


 そんなチャットされた文字を眺めていると、不意に……妙な感情が湧いてきた。


 (……終わり?もう?何も出来ていないのに?)


 それが、何か……


 (……この私が……ノハナ・サエが、「戦い」の場で……いくらゲームとはいえ……何も出来ずに?)


 何か……悔しいような……まだハッキリしない。


 (それは……嫌だ。嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ……!)


 気づけば、「ゴウカ」氏が殴り掛かってきていた。トドメをさすつもりだろう。しかし……


 ハッキリしない、ぼんやりした頭……だけど、それでも、このまま終わるのが嫌で。


 「サエ」は「ゴウカ」の拳を受けながしていた。そして――


 「おおっ!?」


 ――流れるような蹴り。[パンチ:カウンタ―]……相手の腕による攻撃にタイミングを合わせて入力すると、カウンターの蹴りを食らわせる、これも覚えたてのスキルだ。

 急な反撃に動揺しているであろう「ゴウカ」氏に、ほとんど勘で[左ストレート]を放つ。今度は完璧に命中する。

 「ゴウカ」氏は、状況をリセットしようと、一旦後ろにバックステップして、距離を取る――


 ――ということは、何故か私にはわかっていた。

 

 [ファイアーボール]を先読み気味に放った。丁度バックステップした直後に火の玉が「ゴウカ」氏を襲い、これも命中する。


 「うおおお!」

 「何だ何だコレ!」

 「さっきとは別人じゃねーか!」


 観客が驚いている。だけど、まだだ。まだたった三発しか食らわせていない。


 「ここからだ、『ゴウカ』さん……」


 ハッキリしない。どこかボンヤリとしているが……


 「私は負けず嫌いなんでね……!」


 

 それは、それだけは、ハッキリしていた。「戦い」には負けたくない。それが、たかがゲームだろうが。


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