3-3 《!ノハナ・サエ!》-4
「えっと、ログインして……キャラクターを作って……」
私の腕のホロフォから映し出されれる立体映像。そこには、「スキルシーカーズリンク」の画面が表示されていた。
画面の説明に従って、ゲームを始める準備をしていく。
「……ゲームなんてほとんどやったこともないのに……」
まったく、面倒なことだ。だけど、仕方が無い……
祖父と妹がこのゲームの中での戦いに、私の命を繋ぎとめるようなモノがあると、信じて、賭けている。無責任に死のうとしている私でも、それを試しもしないのはなんだか居心地が悪い。
今までの人生でゲームなんてほとんどやったことが無いのだけれど、まぁ、人生最後の暇つぶしということで。不慣れなことをやるのも一興だろう。
「私の命……繋ぎとめられるっていうんなら、やってみろよ」
目の前の画面に独りごちる。自分の分身となるキャラクターは、出来るだけ自分の容姿に似せて、キャラクターネームも自分と同じ「サエ」にした。
適当でいいや、と思ったのも事実だけど、本当にこのゲームが私の望むような「戦い」の場だとしたら……「『ノハナ・サエ』はまだここで戦っている」と主張したい……そんな気分も少しはあった。
結局、私も祖父や妹の本気にあてられて、少しだけ期待していたのだろう。
それも、藁にすがるように。
そりゃ、死なずに済むんならそれが一番いい。だけど……このゲームでの「戦い」がしょもないものなら、結局私は死を選ぶんだろうな。
戦っていないと、生きていくことに耐えられないんだ、私は……
プレイヤーキャラクターを作り終わって、「スキルシーカーズリンク」の世界に飛び込んだ。
私の「サエ」が降り立ったのは中世ファンタジーのような城下町だった。
遠くに大きな城が見える。
「これをおじいちゃんが作ったのか……」
素人目線ながら、なんだかすごいな、なんて間延びしたことを考える。
まぁ、ゲームを沢山プレイしている人間からすれば、大したことには思えないのかも知れない。
さっさとゲームを進めなければ。
このゲームでの「戦い」とやらを体験して、その「戦い」に生きる価値を見出すか否か、それを決めるのだ。
「チュートリアル」をこなして、一通りの操作を覚え、軽く慣れるために、「初心の草原」と言う場所で「ゴブリン」というモンスターを相手に戦ってみる。
相手がこちらの動きを学習して、その動きを変えていく……というシステムにはちょっと驚いたが……
「そんなの、実際の『戦い』じゃあもっと高レベルでやってくるよ……」
ほかのゲームがどうなのかよく知らないが、とりあえずモンスターとの戦闘だけでは、「やっぱりたかがゲーム」という印象だった。
何度も戦っていく内に、自分の思ったように、[ジャブ]、[ストレート]といったスキルを使いこなせるようになってきて、上達していくことや、レベルアップでランダムにスキルを入手して、自分だけの戦略を立てていける……というコンセプトは確かに面白いかも知れないが……
私は今まで、それを自分の体で行ってきたのだ。画面越しに自分のキャラクターが動いていたって、以前の興奮には敵わない……
――大体慣れてきた。ゲームに不慣れな自分でも分かりやすいシステムだったので、それは助かった。
「ゴブリン」が数体で襲い掛かってくる。それらの攻撃を躱しながら、画面の中の「サエ」が、私の思い通りに動いて反撃する。あっさりと「ゴブリン」達が沈黙していく。
「こんなもんか」
こんなもんなのか?確かに実際の格闘をよく表現できているけれど、私の「生きる理由」になるほどの「戦い」じゃないぞ、こんなの。
「ゴブリン」相手に戯れるのにも飽きて、最初の城下町に戻る。
「なんで、おじいちゃんやミリは、このゲームに『賭けて』いるんだろう……」
正直、まだわからない。良くわからないが、確かにゲームとしてはよくできているのかも知れないが……
「この『スキルシーカーズリンク』は……ワシがそれこそ命を削って作ったゲームなんだよ。とんでもないぞ、これは……自分で言うのも何だけどね。」
「『賭けてみたい』と思える程には『スキルシーカーズリンク』は凄いゲームだと思う」
――祖父とミリの言葉がフラッシュバックする。
「なぁ、こんなもんじゃないんだろう……?」
無意識に独りごちる。このゲームには、私がまだ見つけていない、何かがあるんだ。というか、無いと、困る。
「このままだと、私、死んじゃうわよ……」
何度言ってもいいが、本当に、死なずに済むのならそれでいいんだ。
城下町を「サエ」がフラフラと当ても無く歩く。その横を他のプレイヤー達が通り過ぎていく。
そういえば、これはオンラインゲームだった。
私の周りのキャラクターの殆どは、私の「サエ」と同じように、実際の人間が操っているのだ。
「ふぅん、仮想現実、ってやつかしらね」
そのことがこのゲームの世界を現実みたいにリアルにしていくのだろうか。
この仮想の現実で、生きていく価値を見出せと言うのだろうか。
……だったら私は最初から現実の方がいいけどなぁ……
まぁ、確かに、今私は、「サエ」を通して自分の足でこの世界を歩いている。
それは確かに、現実ではもうできないことだった。
そう言えば、さっきのように戦うことだって、現実ではもう不可能なことだろう。
――そう思えば、確かに慰みにはなるかも知れないけれど……
「最初はいいかも知れないけれど、何だか途中から虚しくなりそう」
やっぱり私は……この画面越しの「サエ」じゃなくて、現実の「ノハナ・サエ」として戦いたい……
その思いが自分の中でどんどん膨らんで、耐え切れないくらい膨らんで、いつか弾けて、そうして自分の体がバラバラになるような想像が頭をよぎった――
その時だった。
「……?ここは……?」
「極みの闘技場」……その建物はそういう名前らしい。
どうやら、フラフラと歩いていたらいつの間にかここに辿り着いたらしい。
何だか、古代ローマのコロッセオみたいな見た目だった。
「闘技場……」
その単語に、心がざわめく。
調べてみると、ここでは、実際のプレイヤー同士の対戦が出来ることがわかった。
「……ねぇ。もしかして、ここなの?ここで……私の生きる理由になるような、『戦い』が出来るの?」
さっきのモンスターとは違う、実際の人間との戦い……
今まで格闘家として生きてきた私のその感性が、この「極みの闘技場」から何かを感じ取っている。
それは本当に微かで、小さい……期待、だった。
私は「サエ」を動かして、「極みの闘技場」に足を踏み入れた。
その瞬間――熱気が画面を通して私の体に到達してきた……そんな、不思議な感覚になった。
「行け!そこだ!」
「盛り上がってきたねぇ」
「ビビんなー!攻めろー!」
「落ち着け落ち着け!じっくり行け!」
チャットによって表示された言葉が画面を賑わせる。
「極みの闘技場」内にはいくつかのスクリーンがあって……そこにそれぞれ、プレイヤーの二人が戦っている様子が映し出されていた。
「うおっ、何だあのスキル!」
「やべーな、アレどうすんだ!?」
「上手い!完璧に決めやがった……」
「反応早えー!!」
熱気がこの場には充満していた。
ソレは、何だか慣れ親しんだようで、なおかつ新鮮な……
――まだわからない。何故このゲームに祖父と妹は「賭けて」いるのか……
……だけど、その答えはもしかしたら、すぐ近くにあるかも知れなかった。




