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3-3 《!ノハナ・サエ!》-3

 祖父の葬式が執り行われた。


 祖父の顔はなんだか満足気で、「やり切った」と言わんばかりの印象を私に抱かせた。


 「……ミリ。本気なの?おじいちゃんの作ったオンラインゲーム……その運営会社の社長になるって」


 葬式には私の妹……ミリも来ていた。同じ家に住んでいたけれど、私は事故に遭ってからほとんど引き籠りのような状態になっていたし、稀に部屋から出たとしても母ともミリとも殆ど口をきかなかった。話すような気分じゃなかったからだ。

 だから、何だか久しぶりに……ミリと話す気がする。

 祖父の遺体を眺めながら、隣にいたミリに話しかけた。


 「まだ正式には決まっていないけど。その予定だよ、お姉ちゃん。あたしの入社するIS社はおじいちゃんの作った会社で……おじいちゃんは、もう既に4月にあたしを社長として迎えるよう、IS社の社員全員に伝えてある。お膳立てはもう済んでいるの。……まぁ、それを反故にされたとしても……ただの平社員としてでもIS社に就職するつもりだよ」

 「ミリ。あんた3月までただの学生なのよ?そこからいきなり、4月から社長、なんて務まるもんなの」

 「……ねぇお姉ちゃん。あたしが優秀だってこと、知ってるよね。必死に勉強してきたんだから……これくらい、こなしてみせる。……もちろん、学生からいきなり社長なんて、普通は上手くいかないだろうけど。IS社はおじいちゃんが作った会社で、その社員もおじいちゃんが集めた信頼できる、優秀な人材ばかりだよ。社長のあたしのこと、しっかり支えてもらう予定だから。だから、大丈夫」

 「だからって、ねぇ……そんだけ優秀なら、そんなリスキーな選択肢とること無いじゃない。いきなり社長になれる、って言ったって、IS社はまだ何の業務もしていない……『スキルシーカーズリンク』とやらのサービス開始のための準備をしてただけの、無名の会社でしょうよ」


 ゲーム業界に詳しいわけじゃないけれど、何かの業界に新規参入する、なんて大変な事に違いないし、そんなことを無名の会社の社長としてやっていく、なんて相当に厳しいことに違いない。


 「あんたの学歴ならもっと……安定した将来ってヤツがあるでしょうよ。……それとも何?やりがい、なんて感じちゃってるのかしら。それか、『おじいちゃんに頼まれたから』仕方無くやってるってこと?」

 「勘違いしないで、お姉ちゃん。別におじいちゃんに強制されたわけじゃない。おじいちゃんの作ったゲーム……『スキルシーカーズリンク』は間違いなくとんでもないゲームだよ。きっと成功する。そう信じているから、この話乗ったんだよ」

 「……ミリ、あんたゲームなんてやらないじゃない。ゲームの良し悪しなんてわかるの」

 「うん。ゲームなんてやったことないあたしでも分かるくらい、おじいちゃんの作った『スキルシーカーズリンク』は凄いよ。『命を削った』って言っただけある」

 「……たかがゲームによくもまぁ……そこまで入れ込めるわね」


 正直、未だに信じられない。おじいちゃんの作ったゲームが、ミリを……ある種の賭けに誘えるぐらいのものだとは……


 「……それだけじゃない。お姉ちゃん、『スキルシーカーズリンク』やってくれるんだよね」

 「……仕方ないじゃない。あんたも、おじいちゃんも、そのゲームを私にさせたいんでしょう……そんな大変な思いをしてまで。流石に無視できないわよ」

 「そっか。ごめんね、無理強いみたいになっちゃって」

 「別に無理強いされたとまでは思ってないわよ」


 そう。別に無理矢理やらされるワケではない。ただ、あまりにも、ミリもおじいちゃんも「本気」なものだから……試しもしない、というのは不誠実過ぎるだろうから……


 「あんたも……本気で思ってるの。『スキルシーカーズリンク』が、そこでの『戦い』が、私の生きる理由になるって」

 

 そう聞くと、少しだけ考えるような素振りをして……慎重に、言葉を選ぶように……答えてきた。


 「……うん。信じてはいる。だけど、そうだね。お姉ちゃんがやってきた『戦い』がどんなものか、それについてどう感じていたのかが、おじいちゃんやあたしに完璧に理解できている、なんて保証はどこにも無いから……理屈で考えれば、結局『スキルシーカーズリンク』での『戦い』ではお姉ちゃんの生きる理由にはなれると保証されているわけじゃない……ただの空振りに終わる可能性だってあるんだろうと思う」

 「だったら……」

 「――それでも……『賭けてみたい』と思える程には『スキルシーカーズリンク』は凄いゲームだと思う。それに……これ以外の方法で、お姉ちゃんが、お母さんみたいに死んじゃうのを止められるとは思えない……」

 「ミリ……」

 

 ふぅ、と溜息をつきながらミリは言葉を繋げる。

 

 「お姉ちゃん。見てればわかるよ。このままだと、死んじゃうんでしょ。――そんなの、あたしは……嫌だ。どうしようも無く、嫌だ。あたしね、お姉ちゃんのことが大好きなの。戦ってるお姉ちゃんはすっごくカッコよくて。――でも、あの事故でお姉ちゃんが戦えなくなって、お姉ちゃんがどんどん元気を無くしていったよね。それを見てると、すっごく辛いの……」

 

 そう言う妹の姿は悲痛に満ちている。痛々しくて、見ていられない。

 特に、そんな妹のことも考えられなくなって、死のうとしていた私には。


 「……だから。お姉ちゃんが生きてくれる可能性があるのなら、それに賭けるし、すっごく大変な務めがあろうが、こなして見せる。あたしは、お姉ちゃんが自分で死ぬことを選んでいる姿を……どうしても見たくない。だから、お姉ちゃんの言う『たかが』ゲームに賭けて、それを一つの会社の社長として支えることに、何の迷いも無いよ」


 ……とんでもなく姉思いな妹を持ったものだ。だけど……


 「ごめん。それでも私は、その『賭け』にミリと……おじいちゃんが負けたら、死ぬと思う」

 「……うん、わかってる」


 泣き出しそうな顔をしながら、そう答える妹、ミリ。

 

 ――なんで私は……ここまでしてくれる妹を残して、死にたい、なんて考えているんだろう。

 「戦えなくなった」……ただそれだけで、生きる気力を無くしている私を、私はどうしようもなく弱いと思う。

 そして、それが分かっている癖に死にたがっていることが腹立たしい。


 「とにかくあたしは……『スキルシーカーズリンク』での『戦い』が……お姉ちゃんをこの世に繋ぎとめることを、祈ってる……」


 その言葉は震えているけれど、とても強い。

 そう……ミリは、とても強い子なんだと感じさせられた。




 ――そして、4月がやってきた。

 ミリは本当にIS社の社長になった。IS社は社長のミリを中心とし、「スキルシーカーズリンク」のサービスを開始する。

 


 そして、私は……祖父と妹に導かれ、「スキルシーカーズリンク」の世界に飛び込むことになったのだ。

 祖父と妹。私の命の行く末を決める……彼らの「賭け」が始まったのだ。


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