3-2 その人は女王様-2
「――どうしても気になるって顔ですね」
心を読まれたように言われる。
「え!?い、いやぁ……そういうワケでも……」
「思いが顔に出ちゃうタイプですね、『ユウ』さんって」
「……そうですか?……すいません」
そんなに「気になる!」って顔してたんだろうか、僕は。しかし……
「すいません、確かに気になりますけど……言いたくないんだろうし、聞きません」
「……うーん。今の『ユウ』さんの様子見てると、このまま事情も話さないでいると、折角のオフ会なのに、あんまりちゃんとお話しして下さらなさそうなんで……うん、別に今は気にしてないですし、良いですよ、私が何故、格闘家を引退してからSSLのプレイヤーになったのかを、ご説明しますよ」
「え、そんな感じに見えるんですか!?」
「ええ、もう心ここにあらずって感じですよ?ふふふ……」
なんか相当に恥ずかしい……そんなに顔に感情が出てるんだろうか。
でも気になるのは確かで……
というか、どうなってるんだ。
SSL有名プレイヤー、「サエ」さんと急にオフ会することになったと思ったら、「サエ」さんの正体が、昔僕が憧れていたノハナ・サエだった……とか。
現実感というものが無い。まるで創作物の中のような、ご都合主義というか、あまりにもハマり過ぎているというか……
あまりにもドラマ的過ぎる。頭がついていかない。
「自分で語る、というのも気恥ずかしいですが……そうですね、やっぱり、事故に遭った時から話すのが良いですかね。……うん。なんだか、いざ話すとなると、緊張しますね」
「そういうもんですか?」
「……はい。こういう話って、ほとんどしたことが無いんです。そうですね、妹が一人いるんですけど……彼女くらいですね」
「……そんな話を、出会ったばかりの僕が聞いていいもんなんでしょうか?」
そう言うと、ノハナさんはこちらを安心させるように微笑んだ。
「――良いんですよ。別に秘密にしたい訳でもありません。それに、今日のオフ会では、とにかくお話をしたかったんですよ。『ユウ』さん、貴方と」
「……今更なんですけど、何で僕を誘ってくれたんですか?」
ただ話をするだけなら、顔を突き合わせて会わなくてもゲーム内で十分だ。それこそ前やったみたいにボイスチャットでも使えば良い。
わざわざオフ会で直接会う……その必要性というのは、どこから出たのか?
「――きっかけはやっぱり、貴方が、[極死の太陽]という規格外のスキルを手に入れたこと、ですね」
「やっぱり、アレですか……」
「私は……SSLプレイヤーにとって、『自分だけのスキル』というのはとても重要なものだと考えています。それは、私達SSLプレイヤーにとって、大げさに言うと、『誇り』に成り得るモノなんです」
「誇り……」
「ええ。あの世界で自分だけが使える……そのことは、そのスキルをとても大切に思えるようになる要因だと思います。私も、私だけが使えるスキルを二つ、持っています。その二つのスキルについて私は……凄く誇りに思っています。何だか、自分の象徴のような……そんな気がします」
確かに……自分も、[極死の太陽]に関しては、ただのゲームのデータ、ただのスキルの一つ、と割り切れてない部分があると思う。
あの世界……SSLの中で「自分だけが」使える、[極死の太陽]。特別な感情があるのは、否定できない。
「そして……そういったスキルの中でも、最大級のモノを手に入れた、貴方……その貴方はどんな人なんだろう、とどうしようもなく気になりました。だから、実際に戦って確かめたくて、あんなメッセージを送ったんです」
「――その確かめた結果は、どうだったんですか?正直、僕は、貴方に対して何もできなかったな、としか思えませんでした……」
そう、惨敗だった。あの[極死の太陽]さえ対処されて、完全に負けた。それだけだと思っていた……
「何もできなかった……ですか?私は、そうは思いませんよ。何だかあの戦いで貴方のことがなんとなくわかったような気がします……」
そこでじーっと僕の方を見つめてくる。
……うぅ。凄い目力だよ……てかあのノハナ・サエに見つめられてるよ僕どうするよオイ。
というかやっぱり綺麗な人だよなぁ……テレビに出てた頃から7,8年は経ってるけど今でも全然変わらないなぁ。いや変わらないというより大人の魅力が出てきたというか何というか……僕は何を考えているのだろう。恥ずかしい……
「あ、あのー……」
ずっと見つめられているのに耐えかねて、なんとか話しかけて流れを変えようとする僕。
「……はっ!す、すいません!つい……私ったら、気になるといつもこうなっちゃうんです……周りが見えなくなるというか……」
「い、いえ……」
もにょもにょと言い訳してるような口ぶりで謝ってくる。何というか、気が強いんだか弱いんだか、厚かましいんだか遠慮がちなのか、よくわからない人だ。
「と、とにかく!あの戦いでですね、『ユウ』さんの事がもっと気になっちゃて!もう気づいたら直接お会いしたいなーって感じになっちゃいまして!ハイ!」
「そ、そうですか……そ、それはどうも……――あの、ところで」
「は、はい!何でしょう!?」
「『ジクト』……あの時一緒にいた僕の友人……彼はどうでした?」
そう聞くと、ノハナさんは急に白けたような顔になった。
……あれ、なんか地雷踏んだ?
「……つまらなかったです」
そう一言。
何でだろう……僕よりよっぽど戦いになってたのに……
前もあからさまに「ジクト」に対して冷たかったし。
「何と言うか、ただのミーハーって感じですよね。戦ってる時も、『本気で勝つ』って思いが感じられませんでしたし。なんか、『どうせ駄目だろうけど、記念に』って思いの方が強いみたいで。そういう対戦ってつまんないんですよね。『勝てる』ってことはあり得ないから、『どこまでやれるのか』ってのを知りたいだけって感じでした。あの人は」
ふぅ、とそこで溜息をつくノハナさん。
「対戦っていうのは、戦う両者が、『絶対勝ってやる』って思ってやらないと、面白くないんです。真剣にその戦いに向き合っていないと、すぐに負けちゃうんですよ。あの人だって、ちょっと私が苦戦してるように演技したら、攻撃が単調になっちゃったでしょう?あんな風になっちゃうのって結局、その戦いに集中して、『絶対負けない』って思いながら必死に相手のことを見ていないからなんですよ。そういう人に対しては、その不注意につけこんで、一気に追い詰めちゃえばそれだけで勝てちゃいますから。ええ、つまらないですよ、ええ」
不機嫌になりながらぐわーっと持論を展開するノハナさん。この人……自分の得意分野になると話が止まらなくなる……やっぱり、「オタク」っぽいというか。
そこで不意にハッとした表情になるノハナさん。
「う、うあ……またやってしまった!す、すいませんすいません!『ユウ』さんのお友達に対して何てことを!?すいませんすいません、忘れてください忘れてください!私のわがままですから、ええ、そうです!」
そう言いながら頭を思いっきり下げてくるノハナさん。その勢いで思いっきり頭をテーブルにぶつけてしまった。
「あいたっ!」
……なんか、何かのキャラクターなのか、この人は。こんな愉快な人、そうそういないぞ。
「だ、大丈夫ですか……」
「だ、大丈夫です!あぁ、私そういえばあの時も『ジクト』さんに冷たい態度を取ってしまった気が!ゆ、『ユウ』さん!どうでしたかあの後!『ジクト』さん、怒ってたりしてませんでした!?」
「……大丈夫ですよ、そんな感じじゃなかったと思います……」
ここで「ちょっと不機嫌になってた」とか言ったらもっとパニックになりそうだし……
「気になるようだったら僕の方から謝っておきますよ?」
「あぁ……すいません、ありがとうございます……どうも私、SSLのことになると熱くなっちゃって色々なことに気が付かなくなるみたいで……今見たいな感じに……すいません……」
急にしょんぼりしてしまった。
意外と表情がコロコロ変わるな、この人。
テレビに出てた頃は、むしろいつも冷静そうだったのだけど。
ちょっと可愛い……ギャップ萌えというヤツだろうか。年上に大して可愛いって思うのも変な感じだけど。
……だから、何考えているのか、僕は。
「あ……そういえば、私が何で格闘家からSSLプレイヤーになったのか、って話でしたね……すいません、脱線しちゃって……」
「いえそんな。僕も脱線させちゃうような質問してましたし……」
しばらくして落ち着いたノハナさん。
「お、おほん。じゃあ、ちょっと話してみますね」
「……お願いします」
ノハナ・サエ……女子総合格闘家の「女王」は、その活躍の場を奪われてしまったあの事故から、どういう風にして……SSLという場所に辿り着いたのか……
彼女に憧れていた僕としては、どうしても気になってしまうことだ。どんな話が聞けるんだろうか。
「どこから話始めましょうか……やっぱり、あの事故からですかね……」
期待と不安の入り混じった思いで、ノハナさんの話を聞き始めた……




