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3-2 その人は女王様-1

 「……マジで会うことになっちゃったよ……」


 あれから「サエ」さんから本当にオフ会……ゲーム外で会うことに関しての相談のダイレクトメッセージが届いたのだった。

 正直、かなり戸惑った。

 いきなりオフ会、しかも一回会っただけの人と……と考えると、やっぱり不安になる。

 しかし、勢いにのまれて、結局OKしてしまった。


 このあたり、アリマとの関係にも似てる気がする……勢い良く来られると、ついつい頷いてしまう……

 そんな性分なのかも知れない。


 「良かったぁ!『ユウ』さん、どの辺りに住んでます?」

 「七ノ蘭……って言ってわかります?」

 「わかりますわかります!というか、私もその辺りに住んでるんですよ!じゃあ七ノ蘭駅前の「ファーザーバスケット」って喫茶店、わかります?」

 「わかります。何度か行ったこと、ありますよ」

 「じゃあそこにしましょう!日時は……」


 近くに住んでたのか……どんな偶然だよ。

 そんな偶然もあり、すいすいとオフ会の予定が決まり、あっさりと会うことが決まってしまって、いつの間にかその約束の日になっていた。正直、全く感情がついてこない。

 あのチャンピオン、「サエ」とオフ会……何を話せばいいのやら。




 「えーと……白い服で……黒のロングヘア―……隅っこの席で……本を読んでいる……」


 メールアドレスも既に交換済み。「サエ」さんから来るメールを手掛かりに、「ファーザーバスケット」の店内に先に着いている「サエ」さんを探した。

 というか、白い服に黒のロングヘア―ってSSL内の「サエ」さんとおんなじじゃないか。リアルの方もゲーム内の「サエ」さんにそっくりだったりするのか……?


 そう思っていると、「サエ」さんからのメールに書かれていた通りに、白いワンピースに黒髪のロングヘア―の女性を見つけた。隅っこの席で、何か本を読んでいるが、時々ちらちらと落ち着かなくホロフォ(ホログラム・フォンの略)の画面を見ていた。

 メールに書かれていた特徴の他に、目を引いたのは……

 

 彼女は車椅子に乗っていたことだった。


 (ケガ、したのかな……)


 メールに書けばすごくわかりやすい手がかりだと思うが……書かなかった、ということはやっぱり気にしているのだろうか?言葉には気をつけないと……そう思いながら、意を決して、声をかけた。


 「――『サエ』さん、ですか?」

 「ひ、ひゃい!さ、『サエ』です!そうです!」


 ひゃい……声をベタな感じに裏返らせて、ぐるん、と勢いよくこちらに首を回してきた。

 目と目があった。


 「えっと、ゆ、『ユウ』さん、ですよね!来てくださってありがとうございます!」

 「・・・・・・・・・・・・」


 僕は、言葉を失っていた。

 それは、彼女がとても美人だったから……だけでは無い。


 ――僕がとても良く知っている顔だったからだ。

 一瞬、見間違いか?と思ったが、車椅子に乗っている、ということからも考えて、多分間違いない……


 「・・・・・・・・・・・・」

 「あ、あの?ゆ、『ユウ』さん、ですよね?」


 呼びかけられて、ふと我に返る。い、いかんいかん。


 「……あ、す、すみません……そうです……『ユウ』です……」

 「ああ、良かったぁ!本当に来てくださって……私、嬉しいです!」

 

 勢いよく頭を下げて礼をしてきた。

 で、そのあと頭が上がり、顔が見えるようになると、そこには凄く屈託のない満面の笑顔が浮かんでいた。

 一々反応がオーバーで、なんだか漫画か何かのキャラクターみたいだな、なんて場違いなことを思った。

 

 ……どうするか。いや知らないふりするのもなぁ。

 彼女は、僕の記憶が正しければ……ある分野で凄まじい活躍を見せ、一時期とても有名だった人物だ。

 しかし、彼女は7年前くらいに事故に遭い、彼女は活躍の機会を失ってしまった……


 もしかしたら、失礼にあたるかも知れない。初対面の人間に過去のことを話されるなんて……だけど、どうしても気になる……確認しなければ、そっちばかり気にかかって、今からのオフ会に集中できないだろうし。

 

 「すみません、もし勘違いだったら申し訳ないんですが……」

 「はい?」

 「……貴方は、以前、総合格闘家をされていた、ノハナ・サエさんではありませんか……?」


 そう言うと、彼女はぽかん、とした顔をした。


 「私の事、知っていらしたんですか……?」

 「むしろ知らない人の方が少ない気がするんですけど……」

 「でも、もう何年も前のくらいの話ですよ、それ」

 「ま、まぁそうですけど!なんというか……その、変装とか。しなくていいんですか?その……有名人だと思いますし、騒がれたりしませんか?」


 そう言うと、彼女……ノハナ・サエさんは寂し気に微笑んだ。


 「――大丈夫ですよ。私が格闘家だったのはもう何年も前の話です。髪型もその頃とは全然違いますし。意外と、堂々としてればそんな声かけられたりしませんよ。それこそ、貴方みたいに顔を見ただけで私がノハナ・サエだってわかる人の方が少ないですよ、今や、ね」

 「いや……その……ちょっとファンだったって言うか……なんと言うか」


 そう、格闘家だった頃のノハナ・サエは相当な人気だった。僕も、テレビの前で彼女の美しさ、強さに惚れ惚れとしていた……なんて思うと気恥ずかしいが……

 とにかく、当時は相当な騒ぎだったのだ。

 

 「ふふふ……それは、ありがとうございます」

 「い、いえ……」


 


 17歳で女子総合格闘の世界に「現役女子高生格闘家」としてデビューした彼女は、その凄まじい強さと、凛とした美しい容姿で、あっという間に世間で騒がれる存在になった。

 ――特に、目が良い。鋭い印象がある。強い意志を感じさせるソレに惹きつけられ、当時の僕も彼女のちょっとしたファンだった。テレビで試合の中継がある時は、必ずチェックした。 

 ……まぁ、それはともかく。

 ノハナ・サエは「ある事故」に巻き込まれて格闘技界を引退するまで、一戦も負けなかった。

 それどころか、試合は全てKO勝ち。全試合、相手を完全に圧倒しての勝利を重ねてきた。


 その彼女についた異名は……ずばり、そのまんま……「女王」。


 その頃人気が下火だった女子総合格闘界は、ノハナ・サエの存在によって、一時期社会現象とも言える盛り上がりを見せていた。


 ――しかし、彼女が20歳の頃だった。彼女が、女子総合格闘の最大規模の大会、「ヴァルキュリア」の決勝戦に挑む前日。

 誰もが、明日には彼女が名実ともに「女王」になるのだ、と信じて疑わなかった。だが……

 よりにもよってその日、飲酒運転されていた自動車と衝突し、ノハナ・サエは大怪我を負い、それは彼女の足に重大な障害を与えることになり……

 彼女は二度とその足で立つことが出来なくなり、車椅子で生活することを余儀なくされた。

 

 そして……ノハナ・サエはそのまま格闘界から姿を消した。


 それが2030年……いまから7~8年前の話だ。



 その彼女が、今……SSLをプレイしていて、しかもチャンピオンになっているなんて……

 一体全体、どういう経緯があったんだ?あんまりつっこんだら失礼かも知れないが……どうしても気になってしまう……


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