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3-1 《?今回はマジ?》-1

 「あぁ、うん……それじゃ。……今日はこんな感じになっちゃったけど、また遊ぼう、アリマ」


 ……気遣ってるつもりか。俺の名前を呼ぶカギノが一瞬憎たらしくて仕方なくなる。が、そこは俺は大人だ。きっちり感情は抑えて、


 「おぅ……んじゃな」


 別れの挨拶をする。ほんのわずかの揺れも無い、しっかりとした声だった、と自分では思う。


 カギノの部屋を出る。俺もまた、カギノと同じく一人暮らしをしている。そのアパートまでここから歩いてせいぜい20分ぐらい。気軽に来られるから、よく遊びに行く。

 俺がカギノの部屋に行くこともあるし、その逆もよくある。

 カギノ、俺達はなかなかうまく友達としてやってきたよな、と普段考えないようなことが頭をよぎる。


 ガァン!!


 ――音がした。と、思ったら自分がそこらに設置されてた飲み物の自動販売機を思いっきり蹴りつけた音だった。

 ほとんど無意識の内の行動だった。


 自分でも予想以上にイラついているらしい。よくあの場で……カギノの部屋で爆発させなかったな、と自分を褒めたくなる。



 「ん、あぁ……あの『鞭』面白いですよね。ハイ、楽しかったです」



 あからさまに適当なテンションの「サエ」の言葉がフラッシュバックする。

 あの時は、あまりにもあっさりだったもんで、怒る気にもなれなかったが……


 「――舐めやがって……っ!」


 ガァン!!


 ……また音がした。またも俺の足は勝手に自販機を蹴りつけていたらしい。

 くそ、いい加減落ち着け。俺はもう大学3年生だぞ?


 「ガキじゃあるまいし……」


 本当に……落ち着くべきだ。たかがゲームだろ?……それなのになんでこんなにイラついてんだ……

 

 そう思うと、自然とその成り行きを考え出すようになっていた……



 

 SSL(スキルシーカーズリンクの略)に本気になったきっかけはあの戦いだ。「グランドチャンピオンカップ」第4回、決勝戦。その当時俺はこのSSLにそこまで本気になっていなかった。今時VR技術を使ってないのと、その風変わりなシステムで、とあるゲーム総合サイトで「通好みの傑作」なんて紹介されてたもんだから、俺もその「通」とやらを気取りたかったのか、一年程前からちょいちょいプレイしていたぐらいだった。

 

 俺はその頃、ゲームはやっぱりVR技術による表現が無いと物足りない、と思っていたから、SSLは数あるプレイしているゲームの中の一つでしかなかった。

 だが、あの決勝戦……「ゴウカ」と「サエ」の戦いはあっさりとその認識を変えてしまった。


 あの戦いを、俺はミーハー気分でゲーム内の観客席に自分のキャラクター、「ジクト」を座らせ、観戦していた。だからリアルタイムで見れたんだが……


 ――ただ、凄まじかった。本当に同じゲームをやっているのか、と信じられない気持ちになったぐらいだ。

 手どうなってんだ、と問いかけたくなる、超スピードのぶつかり合い。

 頭どうなってんだ、と問いかけたくなる、緻密な駆け引き。

 そして……ただの観客の俺にすらわかる程の、意志のぶつかり合い。


 単純に、すげえ、と思った。

 ゲームだろうが何だろうが、「極めたヤツ」同士の戦いってのはここまでアツいものかと、度肝を抜かれた。

 あいつらときたら、まるでお互いに綱渡りをしてるみたいに強烈なプレッシャーを掛け合っている。

 

 「ゲームだからって舐めんじゃねーぞ、戦いってのはこういうもんだ!」


 そう言われたような衝撃を受けた。

 ゲームの画面を通して、二人のエネルギーが俺をビリビリと震わせているような気がした。

 ずっと鳥肌が立ちっぱなしだった。


 そして、二人の中でも特に……「サエ」はとんでも無かった。

 お互いに絶対に譲れない、負けられない、って意志は確かに感じるのに、一発でも食らえば終わりの場面でリスクを恐れない、いや、これ以上なく恐れた上で、それを克服しながら攻勢をかけた「サエ」の姿は目に焼き付いて離れなかった。


 あんな風になれるだろうか、と思った。無理だろ、と思ったが、しかし、それでも諦めきれなくなって、俺はSSL以外のゲームを全て辞めて、SSLのPvPに打ち込んでいた。

 打ち込めば打ち込むほど、「戦い」の面白さがわかってきた。すると、このゲーム、SSL自体の面白さもまるで歯車が噛み合うように理解できるようになってきて、いつしか今までやってきたゲームの中で一番本気で取り組んでいた。


 だから、俺は言ったんだ。


 「おい、カギノ、カギノぉ、今回はマジだって!」


 カギノはいつもどこかつまらなさそうな顔して、見てると「何のために生きてんだ、お前!?」って言ってやりたくなるようなヤツだ。


 俺はこんなに楽しいことやってんのに、お前はつまんない人生過ごしてんのかよ。


 身勝手な見方だとは頭のどっかで思う。だけど、俺はカギノのそんな態度を変えてしまいたくて、SSLに誘ったんだ。

 今までだって衝動的にゲームに誘ったことはあるが、そのどれもが俺自身も少しすれば飽きちまうようなもんばかりだった。だけど、「今回はマジ」だったんだ。


 ――今思えば、「今回もいつも通り」だったら、どんなに良かったか。




 ゲームのシステム上仕方ないとは言え、初心者のカギノが、まだ何もわからねぇ内に、SSL内で最大の規模のスキルを手に入れちまった時……最初はただただ「こんなことってあるのかよ」って呆然とするだけだった。

 このゲームじゃあ、たまたま入手したスキルが、「今まで発見されていなかった」スキルで、しかもそれが公式のHPにプレイヤーネームと一緒に公開されるから、「一夜にして時の人」になれるロマンがある。

 俺も[毒手:蛇の鞭]を手に入れた時はちょっとした有名人になったもんだ。


 だが、あの[極死の太陽]はあまりにも……今まで発見されたスキルと比べて、規模が違い過ぎた。

 

 今までは、誰かが新しいスキルを手に入れても、「そんなのもあんのか!」ぐらいの反応だった。なんせ、大体のヤツがそれに匹敵するぐらいのスキルは持ってるっていう、バランスのとれた状態だったからな。


 だけど、今回はあの「太陽」の存在を知った時に、SSLプレイヤーの誰もが……「太陽」に匹敵するスキルなんて持っていなかった。正真正銘、規格外のバランスブレイカー。それが、同じ条件どころか、どうやら始めたばかりの初心者のヤツが持っている……そんな状況で、SSLプレイヤーの大多数が、「嫉妬」しないはずが無かった。


 ……そこには、俺も含まれていた。俺はSSLに真剣に取り組んでいたからこそ、友人だろうが何だろうが、初心者がSSLを揺るがすようなスキルを手に入れる、なんて……その事に対して、素直に友人として祝福できるワケもなかった。


 自分からこのゲームに誘った癖に、しばらくカギノとSSLをプレイするのを避けるようになってしまった。

 ……「デートの約束」がある、なんて言い訳も使っちまったな。そんなの特に無かったのにな。


 その間、ずっとHPの掲示板を見ていた。[極死の太陽]と「ユウ」がどう扱われてるのか、ずっと見ていた。

 あわよくば、[極死の太陽]の入手方法が出てないか、ずっと監視するように眺めていた。

 

 ……嫉妬むき出しの書き込みを見ると、胸がすっとした。ああ、そうだよな、むかつくよな、って大きく画面の前で頷いた。

 そういう書き込みは結構あった。俺はその一つ一つをチェックして、チェックし続けて、ふと……


 「よし、もう、いいだろ……」


 という気分になれた。嫉妬むき出しの書き込みには、共感もできるが、みっともねぇな、という気持ちも抱いた。

 その手の書き込みは、いつしか鏡のように、俺の嫉妬心を見せつけるように思えてきたのだ。


 あぁ、みっともねぇ、俺。


 しばらくカギノと距離をとって、「ユウ」への嫉妬にまみれた掲示板にどっぷりと、嫌というほど浸かって、ようやくそう思えたのだった。


 冷静になった俺は、考えた。

 どんな凄えスキルを手に入れたからって、このSSLっていうゲームを楽しめなきゃ意味が無い。

 「ゴウカ」だって、あの「サエ」だって、[極死の太陽]なんて持ってねぇけど、凄え奴らだろ?ああいう奴らと並ぶのに、必ずしも「太陽」なんて必要ねえ。むしろ邪魔だ。

 カギノだって得したばっかじゃねえ、あいつはあいつできっと苦労してる。これからまともにSSLを楽しめるかどうかわからねぇ状況になっちまってるじゃねえか――


 そう、完璧に割り切った。


 俺は胸張ってカギノと一緒にSSLで遊んでやろうじゃねーか。

 SSLはこんなに楽しいんだ、それをこんなトラブルで辞めることになっちまうなんて可哀想じゃねえか。

 だったら、友達の俺が支えてやらんとな。「太陽」がなんだってんだ。そんなもんで、あいつは何も悪くないのに、友達の俺まで嫉妬するなんて救いってのが無さすぎるだろうが。


 だから、もう「大丈夫」だ。



 「大丈夫」な、筈だったんだが。


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