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2-4 太陽に引き寄せられて-5

 ――無理矢理に、偶然に手に入れたチャンス。そこに、この僕、「ユウ」の象徴とも言えるスキル――[極死の太陽]を放つその瞬間……一筋の黄金の光が、一瞬見えた気がした……


 結論から言うと……




 「勝者:サエ」


 という通知が画面に表示されていた。


 「・・・・・・・・・・・・」


 一瞬、あの最後の展開に、自分の頭が追いつかなかった。



 太陽を放った、と思ったその瞬間、突然に「ユウ」の()()に「サエ」さんが現れたのだ。「太陽」は「ユウ」から前へ飛んでいくので、背後の「サエ」さんを焼き尽くすことはできなかった。

 そのまま背後からの[極みの拳]で、「ユウ」は思いっきり殴り飛ばされ、そのまま倒れた。


 あの「太陽」を放つ瞬間。その一瞬で……「サエ」さんはあのスキルを使ったのだ。


 [一筋の黄金]……これもまた、彼女にしか使えないスキル。目で追いきれない程の圧倒的なスピードで移動する、「グランドチャンピオンカップ」でも使われたモノ……


 それで、一瞬にして「ユウ」の背後を取ったのだ。それと同時に、「太陽」の範囲からも逃れたのだった。




 結果、僕は「サエ」さんに手も足も出なかった。無様な試合だ。あの[極死の太陽]なんて反則級のスキルまで使ったのに、それでも届かなかった。

 しょうがないさ、と自分に言い聞かせるように、思う。

 相手はチャンピオン。僕は初心者。こうなるのが当然だ。


 

 でも……何故だろう。僕は……悔しかった。どうしようもなく悔しかった。「ユウ」が倒されたこと光景が目に焼き付いて離れないような感覚に陥った。

 どうしてだろう……僕はこんなに負けず嫌いだっただろうか――


 「……『ユウ』さん、ありがとうございました」

 

 「サエ」さんからのボイスチャットで我に返る。


 「あ、いえ……すみません、せっかく誘ってもらえたのに、こんな、こんな……何もできなくて……」

 

 ――おい、どうした、カギノユウヒ。もっとしっかり喋れ。

 自分にそう言い聞かせる。どれだけ負けたことに動揺してやがるんだ、お前は。こんなの最初から分かり切ってた結末だろうが。


 「いえいえ――とても……とても楽しかったです、『ユウ』さん」


 ――何言ってんだ、この人は。完璧に圧勝しておいて……一瞬、そう思うも、その声の調子に何のお世辞も嘘も無い、誠実な響きが込められているような気がして……その意味がわからなくて、僕はもごもごと、


 「……はぁ……ど、どうも……」


 と返すのが精一杯だった。


 「『ユウ』さん、『ユウ』さん、本当に楽しかったですよ、ええ。何も出来なかった?いえ、あの一瞬の意地、闘志には思わずブルっと来てしまいました。ええ、ええ……やはり貴方は、素晴らしい」

 「・・・・・・・・・・・・」


 一体全体、この人は何を言っているのか。試合は「サエ」さんが僕を圧倒し、圧勝しただけの筈だ。素晴らしい?素晴らしいだと?「あの一瞬」?あの一瞬ってどの一瞬だよ?

 だけど相変わらず、その言葉は誠実な響きで、「サエ」さん自身の考えそのままを、なんの嘘も無く「サエ」さんが喋っている、という印象で、余計に困惑した。それに、少し興奮しているような口調だ。


 僕は、何もできなかったはずなのに……「サエ」さんが喜ぶようなことは何もできなかった筈なのに……


 「ねぇ、私、あの戦いでちょっとだけ、わかったことがあるんです、聞いてもらえますか?」


 ……何だか、「サエ」さんの興奮がどんどん増しているように見える。


 「なんで、そんなに……僕、何もできなかったでしょう?」

 「何もできなかった、ねぇ……なら、あの必死な回避は?あの[スタンタックル]は?そして、あの死に物狂いの[極死の太陽]は?ふふふ、どうやら、貴方より私の方が貴方のことをわかっているかも知れませんよ?」


 何だ何だ……どうなってるんだ。何でこの人嬉しそうなんだ。まるで大はしゃぎしたいのを必死で我慢しているような、爆発寸前のような危うさのテンションをボイスチャット越しに感じる。口調も妙に馴れ馴れしいし。


 「貴方はねぇ、自分で思っている以上に[極死の太陽]……その、この世界で貴方にしか使えないそのスキルに入れ込んでるんですよ。そして……そのスキルが使える「ユウ」にもまた、入れ込んでるんですよ。だから、私相手に初心者であるにも関わらず投げやりにならずに戦えたんですよ。――貴方はね、随分負けず嫌いになってるんですよ、きっと。そんな謙虚そうに話しておいて、実際は本当に私に勝つつもりだったんでしょう?嗚呼、予想通り……いや、予想以上です」

 「え、えーと……」


 たかだか一回戦っただけだというのに、まるでプロファイリングの専門家でも気取ったかのように、僕自身に対して自分の見解を話しだしてる……

 この人、もしかしてちょっと変なのか?いや、チャンピオンになるような人だし、ちょっとアクの強い性格してるのも自然なのかも……


 「ちょいちょいちょい!待ってくれよ、『サエ』さん!そんな『ユウ』ばっかりよー!俺は?俺はどうでした!?」


 アリマが痺れを切らしたのか、ちょっと強引に会話に割り込んできた。……正直ちょっとホッとした…のだが。


 「ん、あぁ……あの『鞭』面白いですよね。ハイ、楽しかったです」


 と明らかにテンションダウンした声が「サエ」さんから発せられた。


 「ん、おう?……は、はぁ。」


 そのあまりの対応の違いに面食らうアリマ。


 僕も意外だった。僕よりアリマの方がよっぽど「サエ」さんと「戦い」になっていたし……

 なんで僕には興味津々で、アリマには素っ気ないのか……その違いがわからない……何だ、この人。


 「それでですねぇ、『ユウ』さん!貴方はですねぇ――」


 またも僕に向き直り、さらに勢いを増してさっきの戦いについて語りまくってくる「サエ」さん。

 興奮しきっているのか、僕が初心者だと言うのを忘れているのか、「SSL」の聞いたこともない用語をバンバン使いながら捲し立ててくる。もうこっちの反応なんてお構いなしに。

 

 なんというか、これは……ものすごく、「オタク」っぽい……と言ったら偏見だろうか。

 もう言いたいことが次から次へと溢れてくるようで、話が止まる様子が無い。困った。


 助けを求めるように、アリマに視線を投げかけるも、「こりゃ、処置無し」とも言わんばかりに肩をすくめられた。


 「……[極死の太陽]を実際に見て、興奮しちゃったんじゃね?ほら、アレ、派手だしよ」


 ――本当に、それだけなのだろうか……


 

 

 興奮気味の「サエ」さんのマシンガントークの内容はほとんど頭に入ってこなかった。

 ほとんどボケーっと聞きながら適当に相槌を打っていた僕だったが、

 急に話の流れが変わったので、我に返った。


 「あーっ!!しまったっ!!リアルで用事があるの忘れてました!!」

 「え、大丈夫ですか、それ?」

 「うぅ、怒ってるかな……すみません、今日はこれでお開きということで……」

 「あ、あぁ、ま、また……」

 「はいはーい、お疲れでーす」

 

 長い間ほっとかれて拗ねてしまったアリマの挨拶も重なり、このまま解散、と気が緩んだその時だった。


 「あ、『ユウ』さん!もしよろしければ、今度二人で会いませんか、リアルで!」

 「え、えぇ、はぁ!?」


 リアルで会う……つまり、ゲーム外で、実際に顔をつき合わせて会うこと……「オフ会」というやつだ。

 だけど、普通そんなの、今日あったばかりのよくわからない相手に提案することではないような気がする。普通。

 僕は今まで他のオンラインゲームをやっていたけれど、それでも「オフ会」なんて一回行ったことがあるか、という感じだ。


 「ごめんなさい、またご連絡しますので!それでは、『ユウ』さん!」

 「あ、えーと!?」


 本当に急ぎだったようで……そんな言葉を最後に「サエ」さんは、あっさりログアウトしていった。

 「サエ」さんがゲーム画面からふっと姿を消した。


 「行っちゃった……」


 しばし茫然となる僕。リアルで会う?ホントに?

 

 「――なんつーか、実際会ってみるとアレだな、『サエ』って相当変な奴だよなぁ?」

 

 アリマがそんな感想を漏らす。


 「うん……確かに、変だ……」


 だけど、とりあえず、これだけは言える。


 「多分あの人もSSLが大好きなんだよね……」

 「……ふん」


 ちょっとアリマが不機嫌気味だ。まぁ、後半はほっとかれっぱなしだったからな……


 「わり、カギノ……もう俺疲れたわ……帰って寝る」

 「あぁ、うん……それじゃ。……今日はこんな感じになっちゃったけど、また遊ぼう、アリマ」

 「おぅ……んじゃな」


 やはりちょっと不機嫌な様子で、アリマはログアウトして、僕の部屋を去っていった。

 まったく、「サエ」さんもちょっとは「ジクト」に配慮してくれれば良かったのに……

 まぁ、アリマは勝手についてきたのだけど……それでももうちょい、気を使っても良かったと思うのだけど……

 ――そんなことが思い浮かばないくらい興奮してたのか?最後はリアルで会おう、なんて言ってくるし……


 

 ……濃すぎる一日だった。自分もいつの間にか疲れ切っていた。

 僕は自然と、ログアウトの操作を行っていた。なんというか今日は……もういいです。お腹いっぱいだから。もう。


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