2-4 太陽に引き寄せられて-4
一体、どうしろってんだ……
あれよあれよと対戦の設定が終わってしまい、今、PvP専用フィールドに、僕……「ユウ」とチャンピオンの「サエ」が向かい合っている。
「……よろしくお願いしますね、『ユウ』さん」
「は、はい……よろしくお願いします……」
経験者のアリマですらあの様子では、僕では絶対に敵いっこない。何も出来ずにやられる未来しか想像できない……
「おい、『ユウ』!一矢でも報いてやれよ!」
「む、無茶言うなよ……勝てっこないよ……」
「お前には「アレ」があるだろーがよ!「アレ」さえぶっ放せれば勝機はある!つーか勝てるだろうが!」
「む、むぅ……」
確かに、「アレ」……[極死の太陽]をここで放てば、ここのフィールドの広さ全てをカバーできる程大きいから、絶対に当たる。そしたら、確かに勝てる。
そうだ、冷静に考えればあのトンデモスキルなら……確かに、勝てるかも知れない。
ただ……[極死の太陽]のことについては「サエ」さんも調べているかも知れない。「SSL研究所」でも言われていた……「スキル使用から発射までのタイムラグ」という弱点は知られているかも。
そうなると予想されるのは……
ガァン、というゴングのような音が響いた。試合開始だ。
それと同時に、「ジクト」の時と打って変わって、「サエ」さんは「ユウ」に向かって一気に距離を詰めてきた。いきなり飛び蹴りで急襲してくる。それをなんとか[ステップ]でギリギリ回避する。
(やっぱり、接近戦で[極死の太陽]を打つチャンスを潰す気か!)
接近戦なら、[極死の太陽]が使用されてから実際に「太陽」が発射されるまでの隙を付ける。
「サエ」さんはまるで「ユウ」に張り付くように動き、次々と攻撃を繰り出してくる。
僕は、[ステップ]を連発して躱そうとするしかできない。だけど……
(うぅ、技量が違い過ぎる……!)
こっちがひたすら回避しようとしているのに、的確な攻撃で追い込まれ、当てられていく。
「――お見せします。[極みの拳]を……」
しかも[極みの拳]……SSLで「サエ」さんにしか使えない、強力であろうスキルまで使うことを宣言される。
なんなのこの人。僕もしかして嫌われてる?内心「[極死の太陽]なんて手に入れてんじゃねーよ生意気な」とか思われてる?勘弁して。
とりあえず回避だ、と無我夢中で僕から見て右へ[ステップ]で回避しようとするが……
「っぶ!?」
「サエ」さんの強烈な左フックが待っていた。その腕は黄金のオーラを纏っていた。
「――これが、[極みの拳]です」
ソレを思いっきり食らい、ふっ飛ばされる「ユウ」。ダァン、と音を立てて倒れる。
何々なんなのあの強そーなの……黄金のオーラに包まれた拳って。あらカッコいい。って感心してる場合じゃなかった。
「ユウ」が起き上がった頃には既に「サエ」さんはもう眼前に迫っていた。慌てて後ろに回避しようとしたが、それを追うように放たれたストレートに捉えられた。その拳もまた、黄金のオーラを纏っている。
「何これ!?毎回違うのか!?」
さっきは左のフックのような動きだったのに……
「はい。設定したボタンを押してから離すタイミングで動きが異なります。さっきの『ジクト』さんの「鞭」と同じようなタイプのスキルです」
丁寧に答えてくれる「サエ」さん。だけど、知ったところでどうしようもない。
回避した先に、毎回黄金の拳が待ち構えている……
そんな錯覚を起こす程に、こっちの動きは完全に読まれていた。
必死の回避もヤケクソ気味に放った反撃も、全て完璧に対処された。
黄金の拳が「ユウ」に次々と叩き込まれる。
(こんなの、どうしようもない!)
そう思わざるを得なかった。[極みの拳]は毎回その動きを変えながら黄金の拳を打ち込んでくるスキル。「サエ」さんはそれを完璧に使いこなしている。
戦いの経験、技量で、僕は「サエ」さんに圧倒的に差をつけられている……そんなのは当たり前だが、改めてそれを痛感させられる。
この人に勝てる要素は、僕には何一つない……
何もできずに終わるのか。
(くそっ……)
流石に、何もできずに終わるなんて、あんまりじゃないか。わざわざチャンピオン自らに誘われたっていうのに……
……あの「グランドチャンピオンカップ」の動画が不意に思い起こされる。
あの動画を見てから、確かに僕は「サエ」さんに憧れていた。ゲームで、見る人あそこまで熱くさせることができるのか、と。その「サエ」さんが今目の前にいる。
……それは、凄い幸運なんだと思う。本来僕は、「サエ」さんにダイレクトメッセージまで送られるようなプレイヤーじゃない。ただただ偶然、[極死の太陽]という超級のスキルを手に入れた。その「太陽」のおかげで、こんな機会に恵まれた。
そうだ、僕らは、本来起きることのない出会いのもと、いまこうして戦っている。
「サエ」さんが何を思って僕と戦いたかったのかは、わからない。だけど……
このままじゃ、終われない……!それだけは確かだ。……多分!
実力じゃ絶対に敵わない。もう相手の攻撃を無理に予測して、回避しようと考えない。こんなやり方、きっと褒められたものじゃないけど――
もう何も考えず、無心で左に[ステップ]した。「サエ」さんはこっちの動き、考えを予測して[極みの拳]を繰り出してくる。なら、もうなにも考えずに動くしか、まぐれすら起らない……!
「避けてくれっ!」
繰り出されたのは黄金の拳による左のストレートだった。僕から見て左へ[ステップ]していた「ユウ」は、「サエ」さんの左腕のストレートを、本当にたまたま……回避できた。
「なっ!?」
予測の上で繰り出した攻撃を回避された「サエ」さんが驚きの声を上げる。ごめんなさい、ただのまぐれです……!
その一瞬の隙に、無我夢中で[スタンタックル]を当てる。ぶつかった相手を一瞬動けなくするタックルだ。
「しまった……!」
――こんな無理矢理な勝ち方はどうかと思うけれど、それでも……
僕は「ユウ」に、このスキルを使わせないまま負けさせるのは、なんというか……どうにも我慢できなかった。
きっと、このスキルは「ユウ」の象徴なんだと、勝手に僕は思っているから。
[スタンタックル]の効果で「サエ」さんは一瞬、動けない。
その隙に後方に向かって[ステップ]を連発。距離を無理矢理取る。
――間に合え……!
これ以上素早く動いたことがこれまでの人生であっただろうか、と思えるぐらいのスピードで、[極死の太陽]を設定したボタンを押す。
「ユウ」が人差し指を天に向ける。その指先からこのフィールドを埋め尽くすほどの「太陽」が生成される。
「――行けぇっ!」
全てを焼き尽くす、「太陽」が今まさに「サエ」さんに向かって放たれようとしていた――




