2-3 探求者は今日もゆく-5
このゲームのフィールドは、一つ一つが広大だけれど、それでも探索していて飽きが来ないように、地形が細かく変わっていたり、意味ありげなオブジェクト等が配置されていて、プレイヤーの興味を引き続けるような作りになっていた。
例えば、「光り輝く草原」をひたすら北へ進んでいた僕は、何か巨大な瓦礫の山を発見した。
「なんだ?唐突にこんな……」
興味を惹かれ、瓦礫の山の周りをぐるぐる移動しながら、それを調べていると、ただの瓦礫じゃないことが何となくわかった。
「もしかしてこれ……元は人型だった、とか……?」
頭らしい部分とか腕っぽいパーツを発見して、そう推測する。
「ゴーレム」というやつだろうか?それも、とんでも無く巨大な。
こうやって瓦礫の山になる前は、その巨大な体で、この草原に君臨していたのだろうか?
「もしそんなのと戦ったら……勝てないだろうな」
そんな想像を掻き立てられるオブジェクトを発見しては、ワクワクした気分になった。
その前の「初心の草原」にはこれまた意味ありげな墓石なんかが配置されてあって、「赤の騎士副団長、カタキ、ここに眠る」なんて書いてあった。……このSSLにもストーリーというか、設定みたいなのがあるのかも知れない。そういうのも想像するのもまた面白かった。
例えば、これなら副団長なんて肩書の癖にこんな「初心の草原」に墓石が置かれているなんてどういう事情だろう、とか。
思えば僕は昔は想像力豊かな少年だった気がする。ゲームの物語から色々想像というか妄想をして、楽しんでいた。
またその頃に戻ったみたいで、それは何だか嬉しい。
ゲームが楽しかったあの頃に戻れたみたいで……
「光り輝く草原」をさらに北に進んでいくと、それにつれて少しずつ草花のサイズが大きくなってきているのを感じた。木々の本数もどんどん増えてきた。多種多様な植物と木々で埋め尽くされそうになっているフィールドをさ等に進む。これでは草原というよりもむしろ「森」と言う感じだ。
視界が狭い。何度か隠れていたモンスターに突然襲い掛かられることもあった。まぁ、それでもそいつら自体は弱いのでなんとかなったが。
そこからさらに抜けると、画面が切り替わった。違うフィールドに入ったのだ。「深き秘密の森林」という名前の場所らしい。
さっきよりもさらに視界が狭い。植物の多種多様さは先ほどの草原よりさらに増し、何やら真っ赤で巨大、そして毒々しそうな花のつぼみがあったりして――
「うおっと!?」
――急にその赤い花の花弁がグワッと開き、噛みつくような動きをしてきた。とっさに[ステップ]でバックして躱す。
「何だ何だ!?」
見るとその花弁の。内側には猛獣のような牙がついている。怖い。怖いから。
どうやらモンスターのようだ。上部に名前が表示される。「人食い大花」らしい。
こんな不意打ちを仕掛けてくるヤツまでいるとは……なんだかヤバいところに入り込んでしまったか。
植物なので燃えやすいだろう、と思い[ファイアーボール]を放つと、あっさり直撃し、燃え上る「人食い大花」。その隙に[スタンナックル]を叩き込み、そこから[ラッシュ]でタコ殴りにしてやると、あっさり倒せた。
「み、見かけ倒しだったな……」
だけどあんな風に不意打ちされるのは怖い。この森林は、植物だらけで本当に視界が狭い。さっきの「人食い大花」の奇襲を避けられたのは運が良かったというかなんというか。
びくびくしながら森林の中を進んでいく。すると、ボロボロのバックパックが転がっていたり、人間らしき白骨を見つけたりする。そういう物体に近づくと、例えば、こんなメッセージが表示される。
「この森林に挑んだ者の成れの果てだ……彼らと同じ結末を辿らないようにしなくては」
……怖いわ。この森林を探索していた冒険家がいた、という設定だろうか。その無残な白骨死体を見ると、この森林の危険さがわかるような気がした。
「……上等だよ」
これも冒険だ。危険の無い冒険なんて退屈だろう。このまま進んでやる。
……周囲を警戒しながら少しずつ少しずつ進んでいく。
――そうそう、こういうのだよ、と一人で勝手に納得する。
危険を顧みず、冒険を続けるこの感覚……これがゲームの醍醐味ってやつじゃないか。
……警戒はしていたものの、この視界の悪い場所で突然受けるモンスター達の奇襲にはいちいちビクってなった。突然飛び出してくる「フォレストタイガー」、ただの木だ、と思っていたらモンスターだった「ミステリーツリーフォーク」、木々の間を飛び移りながら翻弄してくる「ウィンドモンキー」等々……
多様なモンスターが僕の前に立ちはだかり、襲い掛かってきた。
その度に戦い方を考えて、戦っていった。
「フォレストタイガー」の俊敏さには手を焼いた。素早い[ジャブ]を中心にして立ちまわり、隙をみて大技を叩き込む素早い状況判断を強いられた。
「ミステリーツリーフォーク」はあからさまに弱点が炎だったので、「ファイアーボール」を使って戦う。しかし、調子に乗って接近戦に持ち込むと根っこを次から次へと突き出してきて、怒涛の攻撃を仕掛けてきた。
「ウィンドモンキー」はいつも木々の間を飛び回るように移動していて、なかなか隙を見せない。
時折木々から飛び降りながらそのまま鋭い爪で引っ掻き攻撃を仕掛けてくるので、それを紙一重で避けて[ストレート]を食らわせ、そのまま押し切った。
しかも、いつもいつも一対一というワケではない。時には2~3匹に囲まれて、窮地に陥った。
忙しく手を動かし、モンスターの攻撃をかわしながら攻撃を叩き込んでいく。
画面をよく見て、彼らの一瞬の隙を見つけ出して、撃破して窮地を脱すると、少しではあるが達成感を感じた。
「な、なんとかなったぞ……一対一じゃなくても戦える……!」
やっぱり、今日あの「ゴウカ」氏と「サエ」氏の戦いを見ておいて良かった。
あの二人のどちらかと戦うよりかマシだ、というより、極めればあんな凄い動きが出来る、というお手本のようなものを見れたから、自分も窮地に立たされても、諦めずに戦えた。
このゲームでは、いくらレベルアップしても単純な意味では強くなれない。スキルが増えるだけ。アクション重視のゲームなのだ。本当に重要なのはレベルでは無く、状況判断。プレイヤーの技術、スキルだ。相手の動きを見て、上手に対応していくのがこのゲームでの戦いの芯になる部分なのだ。
ちなみに、[極死の太陽]は極力使わないように、という方針にしている。フィールドそのものを変容させてしまう程のスキルを乱発するのも、オンラインゲームという、周りに他のプレイヤーがいる可能性があるゲームでは、あまり褒められた行為じゃない気がする。
急に自分のいる所が炎に包まれたら驚かせてしまうだろう。……いや、そういうハプニングもこのゲームの魅力なのかも知れないけれど。
それに、「使えば勝ち」な[極死の太陽]に頼り過ぎてしまうと、僕のこのゲームでのプレイヤーとしての技術が上達していくのが遅くなってしまうかも知れない。それは、ちょっと嫌だ。
「ゴウカ」氏や「サエ」氏程にはなれないにしても、自分ももっと上手くこの「ユウ」を動かせるようになりたい。……あんな凄い戦いを見たからか、あの二人のファンのような気持ちになっているらしい。
もっと上手くなりたいな、と思わせてくれた戦いだった。あんな風に動ければどれだけ楽しいんだろう、なんて考えた。あの二人の域に達するには、相当な努力が必要だろうけど……とりあえず今は、このゲームを楽しみながら、自分のプレイヤースキルを上達させたい。少しずつでも。
だから、[極死の太陽]は本当にどうにもならない時の為の最終手段だ。と決めることにした。
全く、たかが、と言わずとも……いつの間にかこのゲームに随分に入れ込んでいることに気付くと、ちょっと我に返りそうになるが……
「とりあえず、今は楽しい」
そう、今はそれで良い。また前と同じように飽きてしまったり、トラブルに巻き込まれて辞めてしまうことになったら、またその時考えれば良いんだ。
「深き秘密の森林」をひたすら北に進んでいくと、また画面が切り替わった。森林を抜け、フィールドが変わったのだ。
するとそこには……
「こ、これは……!凄い、綺麗だ……!」
森林を抜けた先にあったのは、海の見える砂浜だった。「果て無き海の砂浜」という場所らしい。
どこまでも広がる青空と、その下に見える広大な海が遠くに見え、下には輝く砂浜。
丁寧に作られたグラフィックが、僕を魅了した。
今までの視界の悪い場所から、開けた場所に出られた解放感で、すっきりとしたいい気分になった。
「しかし、本当に色んなフィールドがあるんだなぁ……」
のどかな草原、植物だらけの森林、輝く鉱石のある洞窟、そして、海の見える砂浜。
それらの一つ一つが丁寧に作られていて、それぞれでドキドキするような体験があって、しかもまだまだそんなフィールドがあるのだろう、と思うとますます冒険心に火が付く思いだ。
――あぁ、本当に久しぶりに、時間を忘れてゲームをしていた。いつの間にかなかなか良い頃合いの時間になってしまっていた。名残惜しいけど、今日はここで終わりにしよう。
持ってきていたスクロールにここの位置を登録した。次はアリマと一緒に、というのを考えていたので、スクロールは2つ用意していた。それぞれにここの位置を登録しておこう。「果て無き海の砂浜:スクロール」が二つになったことを確認する。
SSLでは、最後にログアウトした場所がどこだろうと、次にログインした時はまたあの城下町だ。だから、冒険を中断する時はこうやって、スクロールを使ってまたそこから再開できるようにするのが定石、らしい。
「次はここからさらに進んでみようか」
そうやって次の予定を決める。今度はアリマも来られれば良いな。
……本当に「リクワ」さんが言った通り、こうやって当てもなく冒険してるだけ楽しい。
次はどんな場所に辿り着くんだろうか。また新しいスキルが手に入ったりするだろうか。
そんな、ゲーム本来の面白さをとことん追求したのがこのSSLなんだ、と思った。
……まぁ、自分はゲームの批評家じゃあないけどね。それでも敢えて批評するならそんな感じだ。
VRという大きな魅力を切り捨てても、ゲーム本来の面白さをとことんまで追求すれば、こんな風に人を魅了するゲームは作れるんだな……なんて、ね。
本当にゲームとしての部分がしっかり作られているから、SSLは今時VRじゃないにも関わらず、多くの人々に認められているんだろう。
まぁともかく、このSSLというゲームは、僕にとってちょっとぐらいはきちんと取り組んでも損は無いらしい。そんな風なことをしみじみと考えながら、ログアウトした。




