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1-1 2038年にもなって-1

 「おい、カギノ、カギノぉ、今回はマジだって!」

 

 大学の食堂で肩を揺さぶられる。

 ――もう何度目だろうか、こんなことは。

 仕方なく、いつも食事の手を止める。

 全く。飯が冷めるじゃないか。

 ただでさえいつもいつも同じカレーライスを食っているんだ(量と値段のバランス的に、僕としては食堂のメニューの中ではこれ一択だ)。少しでも美味しく食べたい。飽きている味だけどな。


 「うるさいなぁ、君のそのノリはいつもと同じさ。……また退屈なゲームを紹介されるんだろう、僕は。わかってるから。わかってるから、もうやんなくていいでしょこのやり取り」

 「はぁー!?いつも俺がお前に紹介するゲームは珠玉の一品ばかりだし!それに『つまらない』『飽きた』ってお前が言うのはなぁ……」

 「『お前の感性が腐ってるからだ』……でしょ?――そーだよ、もう腐ってるんだよ、僕の感性ってヤツは。それでいいだろ?」

 

 全くもっていつも通りの展開だ。

 僕に捲し立てるように話しかけているのは、同じゼミの、アリマ・サイだ。アリマとは、この大学で初めて受けた講義でたまたま隣の席に座っていた、というだけの、実にありきたりなきっかけで知り合った、「友人」、というより「悪友」だ。

 アリマは割と明るい性格で、見ず知らずの人にも積極的に話しかけるようなヤツだ。だから、友達、知り合いも沢山いるが、何故か特に僕に絡んでくる。

 

 「なんかほっとけねーんだよなぁ、カギノは!」


 というのが彼の談である。ほっといてくれ。


 「――そう、お前の感性は腐っている!だからこそだ、その感性を甦らせる至高のゲームをプレイしなければならん、うむ、きっとそーだ!」

 「そうかい。アリガトウアリガトウ」

 「棒読みだなぁオイ!」


 どうでもいい。本当に心からどうでもいい。だけど今まで、アリマからゲームを勧められて、断り切れた試しが無い。結局一回はやる羽目になる。……そして無駄な時間を過ごすことになるのだ。

 もうそんなのコリゴリだ。いい加減この無駄な習慣は断ち切るべきだ。

 僕は意図して、話題を変える。


 「そう言えば、前に教えてもらった……あれなんだっけ、VR技術を使った……」

 「VRなんていまやどのゲームも使ってるっつーの!それだけじゃわかんねー!」

 「うっさいなぁ……あの、銃で打ち合うゲーム。――思い出したぞ、『ガンズ・ガンズ・ガンズ』。あれさ、アリマまだやってるの?」

 

 そう言ってやると、アリマは、う、と息を詰まらせた。


 「あ、あれはなぁ……なんつーか最近課金の強要具合が露骨になってきてなぁ……ちょい休止中というかなんというか」

 「……飽きたんだろ。アリマ、お前飽きっぽいもんな。んでもってハマるのは早いけど。まさに『熱しやすく冷めやすい』ってヤツ」

 「う、うっせーな!」

 

 さらに追い打ちをかけてやる。


 「それに、アリマ。今月から僕らは大学3年生だ。そろそろ、就職活動ってやつも考えなきゃいけない時期だ。ゲームなんてやってる意味あんの?」

 「それこそうっせー!そんなメンドイのは後から考えりゃいいだろ!大体まだ早えよ、シューカツなんてよ!4年の最後らへんで本気出せば……」

 「今のご時世、そんなんで就職できると思ってんの?ちょっとは新聞とか、タメになるもん読みなよ」


 今僕らが生きる時代。2038年。ここ数年は就職率は低迷の傾向にある。今まででもほとんど例の無い大不況で、新卒を採用する余裕のある企業は少ない。

 ……だからこそ、早め早めに行動しなければ。

 ……まぁ、僕も気が乗らないけどさ。


 「やっかましいわ!新聞だぁ?んなもん俺は読んでねー!興味もねぇ!あんなもん悪いニュースばっか書いてるんだ、読んでると気が重くなるっつーの!そんなモン読んでるからお前の感性は腐っていくんだ!お前がいっつもつまんなさそうな顔してるのはマジメぶって新聞なんて読んでるからだ!あぁやだやだ、お前の顔見てたらほっとけなくて仕方ねえよ、これは福音ってやつを授けるしかねーなぁ……そう、『スキルシーカーズリンク』をな!」

 「ウチは宗教お断りです」

 「やっかましいわ!説明くらい聞け!今回はマジ!ホントマジ!」


 こうやってマシンガンのように言葉を撃ち込みまくってくるのがアリマのやり方だ。無視してもお構いなしで向かってくるその姿勢に、結局僕は話を聞かされることになる。


 「……僕の家にあるVRスーツはホコリを被った状態だよ、アリマ。テキトーに放置したせいで、どこか壊れているかも知れない。面倒だよ」


 現代の……特に2030年を超えたあたりからのゲームは、先ほどアリマが言った通り、殆どが全てが、VR、つまりバーチャルリアリティ技術を駆使して作られている。

 プレイヤーは頭部にゴーグル付きのヘッドセットがついているのが特徴的な、センサー付きのボディスーツ……名称はそのまんま、「VRスーツ」を着て、ゲームをプレイする。

 ボディスーツの各所のセンサーにより、プレイヤーは「本当にゲームの世界に入ったような」感覚を味わうことになる。


 草原に吹きすさぶ風の感覚。

 鉄製の武器を持った腕の感覚。

 炎の魔法を食らったときの熱い感覚。

 銃を撃った時の反動の感覚。


 それが体感できるゲーマーの、いや普段ゲームなんてやらない層の人達も魅了した、VR技術を使ったゲーム。


 ……まぁ、流石に僕も、初めてVRのゲームをやった時は感動したさ。

 でも今やVRは「当たり前」なんだ。

 いくら技術的に凄いからって、そればかりになるといい加減飽きが来る。

 

 ――そう言えば、僕も高校生まではゲームが好きだった。

 小学生。初めてVRを体験する。感動で長時間プレイし過ぎて、母親に叱られた。

 中学生。小学生の時と大体同じ。VRに慣れが出てきて、色んなゲームタイトルを片っ端からプレイしまくった。

 高校生。確かにVRは凄い。だけど、なんだかもう惰性でやってる気がしてきた……


 そんな感じで、大学生になってからは、アリマに誘われてでしかゲームをやっていない。


 「んーそうかそうか、VRスーツをまた引っ張り出すのが面倒、ソレがカギノの言い分か。くっくっく……!」

 「何その笑い方。気持ち悪い」


 率直に言ってやると、また、う、と息を詰まらせたアリマだったが、めげなかった。

 

 「……よぉし、ならカギノ。聞いて驚けや。今日俺が紹介する『スキルシーカーズリンク』はなぁ……なんと!このご時世に!敢えて!VR技術を使ってねーんだよ!」

 「……えぇ?」


 それは確かにちょっと珍しい。


 「しかも、だ。VRという圧倒的な魅力を捨てているにも関わらず、プレイヤー数は着実に、じわじわと伸びているんだぜ……これって凄くねーか!?純粋なゲーム性だけで認められつつあるってことだ!」


 

 ……仕方無い。アリマのテンションは有無を言わさない様子だし、気に食わないけれど個人的にもちょっと興味が湧いた。

 「スキルシーカーズリンク」……今時VRを使わないゲーム。一体どういうゲームなんだ?


 

 ま、やる、とは決まってないけどさ。

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