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2-3 探求者は今日もゆく-3

 去年の「グラントチャンピオンカップ」……その決勝戦。戦いはいよいよ佳境に……という場面をずっと後になってから動画サイトで見ている僕。

 まだ始めたばかりの自分でもわかるぐらいのハイレベルな戦いに、動画越しでリアルタイムでないのにも関わらず、僕は完全に魅了させられていた。


 チャンスをものにし、残HPの差で圧倒的優位についた「ゴウカ」氏。

 窮地に立たされながらも、それでも前回覇者としての意地を見せようとする「サエ」氏。


 壮絶な攻防がまた始まる、と思った瞬間――


 「おおっと!?コレはまさか!?」


 「サエ」氏の姿が突然消えた――いや違った、一筋の黄金の光になって、高速で移動している!


 「ここに来てサエ選手、[一筋の黄金]を使ってきたぁ!コレはこのSSLで彼女だけが使えるスキル!『サエ』選手この局面まで、奥の手を隠していました!」


 早い……!目で追いきれない。「サエ」氏の体は黄金に包まれ、目にも止まらぬスピードで観客席に囲まれたステージを駆け回る。

 そして、あっという間に「ゴウカ」選手の背後をとり、裏拳のような一撃を食らわせた。

 「早い!『サエ』選手、一発返した!」



 しかし、「ゴウカ」氏も対応する。「サエ」氏の裏拳からの追撃を、ステップのような動きでかわし、素早くその剛腕を振るう。

 その反撃は、またも黄金の光になって高速移動した「サエ」氏にかわされたものの……


 「『ゴウカ』選手、落ち着いている!戦いの終局に繰り出された『サエ』選手の奥の手にも揺るがぬプレイング!」


 観客も戦いに合わせるようにヒートアップする。


 「キター![一筋の黄金]!」

 「やっぱ『サエ』かっけえ」

 「てかアレで崩せねえのかよ!」

 「『ゴウカ』どんだけメンタルお化けなんだよw」

 「あのままコンボになったらわかんなかったのにな……」

 「[一筋の黄金]でも崩せなかったら無理じゃね……」

 「これ決まったな」

 「いや!『サエ』ならやる!勝つって!」

 「でも『ゴウカ』にもまだ()()があるだろ」


 一旦距離が離れたその瞬間を「ゴウカ」氏は見逃さなかった。

 「ゴウカ」氏が腕を振るう。するとそこから、真っ黒い炎に包まれた、円盤状の何かが打ち出された。


 そのスピードは黄金の光になっている「サエ」氏には届かない。だが……


 「『ゴウカ』選手も奥の手を隠していた![煉獄円斬]、これも唯一無二のスキル!この世界で「ゴウカ」選手だけが使えるスキルです!」


 その円盤は、「サエ」氏をどこまでも追ってきた。一直線に飛ぶだけじゃない、標的に当たるまでどこまでも誘導する飛び道具らしい。


 「これは『サエ』選手厳しい!この円盤は獲物を切り刻むまで追ってくる!それをかいくぐって『ゴウカ』選手に攻撃を当てるのは至難の技です!しかも『サエ』選手のHPは残り僅か!一回でも当たってしまえばそのまま終わってしまうでしょう!」


 黄金の光になった「サエ」氏があまりにも早すぎるので相対的に見てわかりづらくなっているが、この[煉獄円斬]も十分に早い。いくら[一筋の黄金]で「ゴウカ」氏に接近して攻撃を当てても、その間にこの円盤は「サエ」氏に届いてしまう。そうなったら、勝負は決まる……


 「あーこれは『サエ』詰んだ」

 「だめだ、これはもうだめだわ」

 「よっしゃ『ゴウカ』勝ち確!」

 「チクショー!駄目なのかよ『サエ』ー!」


 観客たちのチャットも大方が「ゴウカ」氏の勝利を予測するものになっていった。

 僕も、素人目からしても、ここからの逆転は無いだろう、と思えた。


 しかし、「サエ」氏は諦めていなかった。[一筋の黄金]で限界まで「ゴウカ」氏との距離を取る。


 そこで、一瞬、「サエ」氏の動きが完全に止まる。

 

 僕にはソレが、「サエ」氏が覚悟を決める為に必要な、ほんの一瞬の静寂に見えた。


 迫る[煉獄円斬]。それが彼女に到達する直前に――


 彼女は黄金の光になって、「ゴウカ」氏に一直線に突っ込んだ。


 一瞬だ。大きく距離を開けていたのに、一瞬でその距離をゼロにした。そのまま繰り出された「サエ」氏の蹴りは「ゴウカ」に直撃する。

 そこに「サエ」氏はさらに突きを繰り出すが、これは躱される。

 「ゴウカ」氏は反撃の蹴りを繰り出し、さらに[煉獄円斬]が追い付いてきて、「サエ」氏に迫る。

 二重の攻撃。しかし――


 「――か、かわしたぁ!『サエ』選手、「ゴウカ」選手自身の攻撃と[煉獄円斬]を同時にかわしたぁ!」


 しかも、躱してすぐに「ゴウカ」氏につっこんでいく。双方の攻撃と回避が入り乱れる攻防がまた開始される。だが、今までと違うのは「サエ」氏はどこまでも追尾して邪魔をしてくる[煉獄円斬]を紙一重で躱しながら、「ゴウカ」氏自身の行動にも対応している。しかも、「サエ」氏は先ほどよりもむしろ激しく攻撃している。

 とにかく、前へ、前へ。あと一撃で倒されることなど気にもしていないかのような、怒涛の攻撃を見せている。


 ステップして避けて、ボディブロー。

 跳躍して避けて、飛び蹴り。

 

 回避は最低限にし、攻撃の回数を増やし、「ゴウカ」氏を攻める、攻める、攻める!


 「なんてことでしょうか!あと一撃!あと一撃で倒されるこの状況で!『サエ』選手、これまで以上の大攻勢をかけてきたー!!」


 「ヤケクソかよ!」

 「マジで!?」

 「絶対無理!そんなんで勝てるわけねぇ!」

 「うっわ……全部紙一重で躱してやがる……」

 「『サエ』も大概メンタルヤバいな」

 「『ゴウカ』押されてんじゃん……」

 「マジ?マジで逆転あるコレ!?」


 観客たちの誰もが驚愕を隠せない。リスキー過ぎる。一歩間違えれば即お終いのこの状況で、「サエ」氏は一歩も引かず、攻勢に出ることを選んだのだ。

 ひたすら前に進みながら、攻撃を繰り出し続ける「サエ」氏。

 だが、それに対抗する「ゴウカ」氏の反撃は紙一重で躱し続ける。何度も襲い掛かってくる[煉獄円斬]すらもギリギリで避け続けながら。

 圧倒的な勢いで攻勢をかける「サエ」氏の攻撃が少しずつ、少しずつ「ゴウカ」氏のHPを削っていく。

 今までこの戦いを見てきた者なら、分かる。「サエ」氏の覚悟の大攻勢に、「ゴウカ」氏は完全に浮足立ってしまっている。「追い詰めたはずなのに、何故……」そんな思いが、画面越しに伝わってくる。



 「ゴウカ」氏のHPも危険な域に入ってきた。


 「このまま行けー!」

 「行ける!行けるぞ『サエ』!」

 「押し切れ!押し切るんだ!」

 「勝てー!!『サエ』-!!」


 しかし、あと一歩、というところで。


 「サエ」氏が不意に、ステップで距離をとり、攻撃の手を緩めた。

 

 「!!?」


 観客の動揺が手に取るようにわかる。それは一瞬の出来事。だが、この唐突な攻勢の終わりの不可解さは、その僅かな時間ですら、理解することができた。

 これを好機と見たであろう「ゴウカ」氏は一瞬の躊躇があったものの、逆に攻撃を仕掛けるため、さっきまでと逆に、「サエ」氏に突っ込んでいった。[煉獄円斬]もそれと同じく、獲物を捉えるために迫る。


 ――それが、「サエ」氏が仕掛けた、一瞬の油断を誘う罠だとも知らずに――


 黄金の光がきらめいた。「ゴウカ」氏が[煉獄円斬]と共に突っ込んだその先から、「サエ」氏の姿が消える。

 だが、それも一瞬のことだった。「ゴウカ」氏のすぐ真後ろに「サエ」氏が現れる。


 「!!!」


 会場内の誰もが息を呑むのがわかるようだ。ノータイムで放たれたのは渾身の回し蹴り。直撃し、大きく揺らぐ「ゴウカ」氏の体。


 そこに、「サエ」氏の右腕が、フルスイングで振るわれる。


 ――ガァン、という攻撃のヒットした音が響き渡る。


 吹き飛ばされる「ゴウカ」氏。消え去った[煉獄円斬]……


 「サエ」氏がその一瞬の勝負所で、「ゴウカ」氏を完璧に制したのだ。




 「・・・・・・・・・・・・」




 しばらく、会場内は沈黙に支配された。


 

 

 「勝った……」


 誰かがチャットする。


 「勝った」

 「勝ったな」

 「勝っちまったよ」

 「勝ったんだ……」


 「『サエ』の、勝ちだ」


 誰かのその一言が合図になったように、SSL運営の実況役が声を張り上げた。


 「決まった……!決まりました!大逆転!大逆転です!こんな戦いがかつてあったでしょうか!?優勝は、『サエ』選手ですーーー!!!」


 「うおおおおおおおおおおおおお!!」


 もしこれが本当の格闘技の試合なら、観客の大歓声が響き渡る所だろう。

 しかし、これはネットゲーム内。生の歓声は聞こえない。しかし……


 「やりやがったー!!」

 「最高!『サエ』最高!」

 「マジか!マジか!」

 「おおおおおおおおおおおおお!!!」

 「やべえ超興奮したwww」

 「ヤバい。今までで一番ヤバい」

 「すげえ、すげえわ。ホントに」

 「あそこから勝つとかw嘘だろww……もう何も言えん」

 「これは凄すぎ!『サエ』強過ぎ!」

 「お前がナンバーワンだ!」

 「史上初の連覇きたぁぁぁぁぁ!!!」


 観客たちが、チャットで表示される文字を使って、最大限の驚愕、賛美、歓喜を表現する。

 

 「第4回、『グランドチャンピオンカップ』、優勝は『サエ』選手でした!!第3回に続いて、史上初の連覇を達成しました!!素晴らしい偉業を達成した『サエ』選手に敬意を表します!――それでは皆様、次回の大会でお会いしましょう!さようなら!」


 ――そこで、動画は終わった。

 

 「す、すごい……」


 思わず声が漏れていた。とんでもないものを見てしまった。

 チャンピオン、「サエ」その名前は僕の脳味噌にしっかりと刻み込まれた。

 ゲームで、こんなに興奮できるものなのか。

 そう、こんなに興奮できるものなんだ。このギリギリの綱渡り。ソレを制した「サエ」の姿は、十分に、見る者を魅了するものだった。


 「自分には絶対無理」という諦めに似た思いと、

 「自分にもできるだろうか」というドキドキする思い。

 それが混じり合う。興奮して部屋の中を落ち着かなく歩き回る。

 いるもんだな、ゲーム、って世界にも、こんな凄い人が……


 ――なんだか急にSSLがやりたくなってきた。

 自分も、あんな風に、なんて思っている訳ではないけど。

 それでも、胸の鼓動が止まらない。

 久しぶりだ、こんな感覚は。

 ゲームに本気になれそうなのは、久しぶりだ――


 もう待ちきれない。ホロフォを操作して、アリマに連絡をかける。


 「アリマ、SSL、やろうよ!」


 

 アリマ、本当に「今回はマジ」だったよ。SSLはマジで凄いゲームだ、認めてやる。

 だから、今すぐ、あの世界に飛び込もうよ。


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