2-3 探求者は今日もゆく-2
もう少しSSLについて知りたくて、ファンサイトや動画サイトでSSL関連のものを探したりして過ごした。アリマに連絡するのはもう少し後で良いだろうし。今で午前の10時。自堕落なアリマは恐らくまだ寝ている。
そうやってSSLについてネットで調べてみると、何となくわかってきたことがある。今までほとんど触れなかったが、SSLはPvP(Player versus Player)……つまり、実際の人間同士の対人戦がアツい、らしい。前のログインでの「チュートリアル」で学んだように、このSSLの戦闘で重要な要素の一つにスキルの「キャンセル」があり、それを駆使したフェイント、駆け引きが超高速で展開されるSSLのPvP戦は見る者を魅了する……らしい。
プレイヤーによって手に入るスキルが違う、というこのゲームの性質上、プレイヤー達の戦い方が似通う、なんてことはまずないようで、プレイヤー毎に自分の持つスキルから自分で考え、独自の戦法をひっさげ、戦いに挑んでいく。その多様さがSSLのプレイヤー達を飽きさせない。いつしか、自分が戦うよりも他のプレイヤー同士の戦いを見ることに夢中になってしまい、観戦専門としてSSLに関わる人もいるらしい。
自分も動画サイトにアップされたSSLのPvP動画を見ることにしたが、確かに見ているだけでも楽しい。
同じゲームをやっているとは思えない程、皆戦い方が違う。その多様さだけで、十分に面白い。
HPにステータスを多く振っているのか、相手の攻撃を敢えて受けながら、じっとチャンスをうかがい、相手の僅かな隙を根気よく狙うスタイルのプレイヤー。
魔力のステータスを集中的にあげているのか、その一発の破壊力に賭けるような戦い方をするプレイヤー。
遠距離攻撃で相手を近づかせないように戦うプレイヤー。
逆にとにかく突っ込んで、接近戦で仕留めようとするプレイヤー。
色々な戦い方のプレイヤーがいたが、一番多いのは、SPに集中的に、というより全てのステータスポイントをSPに割り振り、スキルを連発しながら戦うスタイルのプレイヤーだ。
スキルを使える回数を増やすことで、余裕を持って「キャンセル」を駆使し、相手を惑わし、隙を見て連続でスキルを叩き込み、勝利する。
それが一番の主流らしい。
僕が動画サイトで見た動画の中で、一番見ていて楽しかったのは、去年の年末に行われたある戦いの動画だ。
このSSLでは、定期的にPvPの大会が開かれるらしく、年末には、その中でも一番大規模な戦い、「グランドチャンピオンカップ」が開催されるらしい。
その年の「最強」を決める大会だ。
その決勝戦の動画がアップされていたのだ。
ミュージシャンのドームコンサートのような、円形のステージと、それを囲む観客席。
そんな衆目の注目の中、ここまで勝ち上がってきた二人が戦うのだ。
SSL運営側の人間が実況役を務め、かなりの盛り上がりを見せていた。
観戦者達のチャットが途切れなく表示され、チャットログの流れはすさまじいものになっていた。
「うおお、来た来たぁ!」
「決勝キター!」
「『ゴウカ』、勝てよー!」
「『サエ』!『サエ』!『サエ』!」
「これは見逃せんなw」
実況役の音声が響く。
「まずはファイナルAブロックを勝ち抜いてきた、『ゴウカ』選手の入場です!」
その言葉と同時に、『ゴウカ』氏がステージに現れる。
ボロボロの真っ黒い道着には一面に威圧的な文様が描かれ、非人間的な肌の色、鬼のような形相の顔、逆立つ白髪、真っ赤な目……怖い。怖すぎる。夜道であったら漏らす。
そんな容姿の『ゴウカ』氏。正に戦いの鬼。最強を決める大会で決勝まで来るだけある。強者のオーラが動画でもわかる。
「そして、ファイナルBブロックを勝ち抜いてきた……前回『グランドチャンピオンカップ』覇者の『サエ』選手、入場です!」
そうして現れた『サエ』氏は、美しい女性のキャラクターだった。真っ白なローブのような服を身にまとい、長く美しい黒髪をなびかせてステージ中央に歩いていく。
『ゴウカ』氏の恐ろしい容姿と比べると、美しいがなんとも儚い印象を抱く。しかし……
「『サエ』選手はこの前回の『グラントチャンピオンカップ』で優勝した選手です!今回も決勝まで勝ち残ってきました!これは史上初の2連覇なるか!?それとも『ゴウカ』選手がそれを阻止するか!」
どちらかというと、『ゴウカ』氏が挑戦者のような扱いらしい。『サエ』氏はその儚そうな印象に似合わず、相当な実力者らしい。
ふと、『サエ』という名に見覚えがあることに気付き、動画の再生を一端止める。
どこで見たんだっけか、と思いながら、少し考えると、思い出した。
公式HPの『発見済みスキル』の一覧だ。
<スキル名:[極みの拳]/発見者:サエ/消費SP:80/発見日時:2037/12/31・22:00>
確かに、そう公開されていた。ということは、この『サエ』氏が、[極死の太陽]の次に消費SPの大きいスキル、[極みの拳]の持ち主なのか。
……しかし、動画が撮影された時刻を見ると、この時点ではまだ『サエ』氏は[極みの拳]を手に入れていないらしい。
[極みの拳]の入手一時間前くらいの動画だ、これは。
「さぁ、第4回、『グランドチャンピオンカップ』ファイナル!!――レディー……ファイッ!!」
開始の合図だ。格闘技の試合で聞くようなゴングの音が鳴る。
その瞬間から、両者は動く。
『ゴウカ』氏も『サエ』氏もSPに偏重したステータスらしく、スキルを連発し合う。
突進した、と思えばキャンセルして回り込む動作へ。
右腕で殴り掛かったと思えばキャンセルして左足での攻撃を仕掛ける。
防御を固めている、ように見せかけて、跳躍して奇襲を狙う。
バックステップした、と見せかけて魔法を撃ち、攻めを継続する。
目まぐるしく展開する攻防。
熱狂する観客達。
「やべえ反応!」
「いまどうなったんだ!?」
「状況は『ゴウカ』有利か!?」
「馬鹿、もう『サエ』が逆転してる!」
「反撃避けた!」
「レベル高過ぎィ!wもうワケわかんねー!w」
チャットも白熱する。
その場のテンションが動画でもはっきりわかる。
しかし、この二人、どんな操作してるんだろ?
このスキルの連発とキャンセル、フェイントの超高速の攻防。
手が忙し過ぎるだろう。初心者の僕にすら、そのレベルの高さが窺えた
自分もこんなことができるだろうか?と考えて、「絶対無理だ」とすぐ悟った。
「凄まじい攻防ですねー!流石決勝戦!両者、いまだに有効打がありません!」
実況の言う通り、二人ともまだ、お互いの攻撃を一発も受けていない。
追い込まれても、するりと縄を抜けるように危機を脱し、攻撃を避けていく。
この時点で既に20分が経過していた。しかし、二人の集中は全く途切れていない。
「持久戦の様相になってきましたねー!これは我慢比べになりそうです!どちらが先制するのか!?」
実況役の解説にも力が入る。
「紙一重でお互いの攻撃を避け続ける二人の戦士!!凄まじい、とてつもなさ過ぎる!なんという両選手の集中力!」
「反応オカシイ……まじこいつら人類か」
「人間辞めとるw」
「いけー!やれー!」
「もうすぐ30分だぞwヤバいw」
「これもうわかんねえな」
「『ゴウカ』、やれ!決めろ!」
「『サエ』ー!連覇だ連覇!」
観客席は興奮のるつぼに叩き落されている。
――戦闘時間が30分を超えた頃、ついに状況が動いた。
「あぁっ!」
『ゴウカ』氏のフェイントを加えながら繰り出した、高速突進からの炎に包まれた掌底打ちがついに、『サエ』氏を捉えた。
「ついに入った攻撃!先制は『ゴウカ』選手!そして追撃、追撃!」
掌底打ちに怯んだところにこれも炎に包まれた足での踵落し、さらに飛び蹴りのコンボが『サエ』氏に突き刺さる。
「一気に『ゴウカ』選手優勢……っとぉ!?」
さらに突進して繰り出された突きを、『サエ』氏が受け流し、そのまま流れるような蹴りでのカウンターを決める。
「返したぁ!前回覇者の意地か!!」
『サエ』氏のカウンターによって一端攻防が途切れる。
だが、すぐにまた試合序盤のような一歩も譲らない攻防が再開される。
「うおおおお『ゴウカ』ぁ!きたこれ勝ったな!」
「まだわかんねーだろうが!」
「いやでもさっきのコンボは痛い!」
「『サエ』もよく返したなアレ……」
「HPは『ゴウカ』有利か」
「このままいけー!」
「『サエ』負けんな!史上初の連覇がかかってんだぞ!」
『ゴウカ』氏のコンボでHPをかなり持っていかれた『サエ』氏だったが、追撃はしっかりカウンタ―して返した。凄い神経だ。30分の攻防の末にあんなコンボ食らったら自分だったら心が折れている。冷静に追撃をカウンタ―し、また同じように一歩も譲らない攻防に戻る、なんて普通の神経じゃない。
……――しかし、「サエ」氏もまったく堪えていない、ということでは無いらしく、針の穴を通すような精密さで撃ち込まれる『ゴウカ』氏の攻撃が少しずつ当たり始める。
「やはりさっきのコンボを食らったのが焦りに繋がっているか!?『サエ』選手、僅かに、本当に僅かにですが……『ゴウカ』選手に押されている!」
画面の中で『サエ』氏が光に包まれた足で高速のハイキックを繰り出す。だが……自分にも少しわかってきた。
このハイキック、甘い。焦って繰り出してしまったのだろうか。
その隙を逃す『ゴウカ』氏では無かった。素早い足払いをヒットさせ、『サエ』氏を転倒させる。そこに踏みつけ攻撃で追撃する。
「ああーっ!!また『ゴウカ』選手の攻撃が決まってしまったーっ!!さらに追撃迫る!」
サッカーボールキックのような『ゴウカ』氏の追撃は『サエ』氏が地面を転がるように回避したため、外れたが……
「これは痛い!『サエ』選手のHPは残り僅か!」
画面上部に表示された選手二人のHP。『ゴウカ』氏の方はカウンタ―の一発分、僅かしか減っていないが、『サエ』氏のHPは残り僅かだった。
「これはもう一発でも良いのが決まれば終わりでしょう!『サエ』選手、史上初の『グランドチャンピオンカップ』連覇の夢は叶わないのでしょうか!?」
実況が『ゴウカ』氏の圧倒的優勢を伝える。
しかし、それでも『サエ』氏は『ゴウカ』氏に向かっていく。攻防が再開される。
いつしか僕は、手のひらに汗を握っていた。
心臓がドクドクと鳴る。
『ゴウカ』氏が仕留めるか。
『サエ』氏が意地を見せるか。
二人の視線の間で激しく散っている火花が、僕にも見える気がした。




