2-3 探求者は今日もゆく-1
――今日もまた、やかましい目覚まし時計の音で目が覚める。
ベットから這い出て、服を着替えて、顔を洗い、髪を整え、いつも通り大学に行こうとしたところで、ふと気づく。
「……出掛けるか、ってアレ……?」
壁に掛かったカレンダーを見る。――なんとなく予想がついたが、確認のためホロフォを起動して日付を見る。
「……今日、休みじゃねーか」
うっかりしてたよ。いつも通りの流れに乗って行動して、授業も無いのに大学にのこのこ出ていくところだった。
「こんなことなら、目覚ましかけなきゃ良かった……」
……一人暮らしになるとどうも独り言が多くなるな。大学入学と同時に一人暮らしを始めた僕。朝起きても誰もいない孤独感にも随分慣れたつもり。
せっかく起きたし、今日は特に予定も無い。もうしばらくしたら、アリマに連絡をとって、SSLで思いっきり遊ぼう。今日は休みで特に時間もあるしね。
昨日は「リクワ」さんと話していたら時間は瞬く間に過ぎ去ってしまった。結局、スキル検証が終わって解散した後は、何もせずにログアウトした。あ、でも掲示板に書き込みはしておいたっけか。
「[極死の太陽]の入手方法についてはよくわかりません。私は始めたばかりの初心者です。[極死の太陽]はレベルが2に上がった時のスキル習得で、偶然手に入れてしまったものです。なので、このスキルの入手方法について、これ以上の情報を提供できません。申し訳ありません」
昨日のダイレクトメッセージの処理の時と同じ文面を、掲示板に投稿しておいた。これでダイレクトメッセージがあんまり届かなくなるといいのだけど。ここまでしてまだ僕にダイレクトメッセージを送ってくるプレイヤーとか、大概メンドクサイ相手に違いない。そして、今までオンラインゲーム、MMOをやってきた経験からすると、そういう人は一定数はいる。
色々な人間が集まってきてるからなぁ。粘着質なヤツだっていたりするし。
「このゲームを辞めないでくれ」
「リクワ」さんの言葉が脳裏に浮かぶ。――そう上手くいくかどうかは、もう天のみぞ知るってところです、なんて思う。
まぁとりあえず今日は遊ぶぞ。結局あんまり今まで戦闘してないしな。
ふと時計を見ると、8時30分を指していた。
「アリマは……まだ寝てるだろうな」
僕をこのゲームに誘った張本人のアリマは、休みの日はなかなかに自堕落に過ごす。昼頃まで起きてこないだろう。もうちょっとしてから連絡を取ろう。
その前に、ちょっと調べ物というか、色々してみるか。
まずは公式サイトの掲示板を見に行く。[極死の太陽]について、僕が正直に語った投稿の反応を確認しておきたかった。
「マジで初心者かよ!」
その通りです。
「ランダム入手かぁ……」
そう、本当に偶然です。
「本当かコレ?嘘ついてんじゃねーの」
嘘ついてどうすんだよ。まぁそう思われるのもわからんでもないけど……
「本当にランダム入手しか無かったら手の打ちようがないですね……」
「うらやましすぎますー!」
「こんなもんランダムで入手させんなよなぁ……」
「いや、やっぱり何かあるはず!もっとコイツを問い詰めろ!」
「だからやめろっつーのw」
「ダイレクトメッセージの返事もこんな感じでした」
「昨日『リクワ』と「天国酒場」にいたぞ」
「『リクワ』って『SSL研究所』のやつか!なら[極死の太陽]の検証したのかな」
「じゃあ入手条件もわかるはず!」
「今見てきたけど[極死の太陽]は検証できなかった、って『お知らせ』に書いてあった……」
「マジかよ、[スカウター]無効するとかますますむかつくわクソ」
「落ち着けよwみっともないw」
「初心者ってのはマジらしいぞ」
「初心者にこういうスキルを入手させるのはゲームバランス的にどうかと思います、修正を」
「いや、こういうことが起きるのもこのゲームの魅力だから。そうやって何でも修正要望だすのはどうかと思うわ」
「偽善者ぶってんじゃねーよお前。俺はやっぱ初心者が自分よりヤバいスキル持ってたらムカつくわ」
……なんだか、これからもめんどくさそうな感じになりそうだ。
ここで焦ってまた投稿なんてしたら、言葉の拳でボコボコにされそうだ。
やっぱり、極力刺激しないようにしよう。その内忘れてくれるまで、おとなしくしておくのが一番だ。
[極死の太陽]も人前であまり使わない方がいいかも。
次は『SSL研究所』にアクセスしてみた。掲示板の情報通り、トップページの「お知らせ」に[極死の太陽]について書かれていた。
「先日、[極死の太陽]の持ち主とコンタクトを取り、そのスキルの検証を試みましたが、検証不可という結果になってしまいました。なので、とりあえずはこのスキルの目視でわかる情報のみ公開することにします」
『SSL研究所』のメインコンテンツ、『スキル考察』を閲覧してみる。
スキルの一覧と、そのひとつひとつに対する仔細な情報が掲載されている。
[極死の太陽]の項目を見てみる。
「巨大な火の玉、そう、まさに太陽、と言い表せるような物体を出現させ、敵に向かって発射するスキル。あまりにも巨大なため、対人戦で使われた場合、回避はほぼ不可能では無いかと思われる。画面を埋め尽くす程だった……かなりタフな『ミドリヒトガタ』を一撃で葬っていたので、単純なダメージも相当なものと思われる。欠点をあえて挙げるならば、スキル使用から発射までのタイムラグは少し長い感じはする、ぐらいだろうか」
……対人戦でも有効、というのが「リクワ」さんの見解らしい。実際にやったら随分強引な手段に思われるだろうな。ただただデカいから、回避できない、とか……
あと、『ミドリヒトガタ』ってタフだったのか。それももう少し知りたくて、調べることにする。
「SSL研究所」では、スキルだけでなく、今まで「リクワ」さんが訪れたフィールドや出会ったモンスターについても同様にまとめられている。
モンスターの項目では、各攻撃のダメージや、行動パターンがものすごく詳細に書き込まれていて、「リクワ」さんのSSL愛を感じる。モンスターの体力は、[スカウター]によるものだろう、正確な数値が出ていた。
『ミドリヒトガタ』の項目を見る。HPは5000……って5000!?プレイヤーの体力とか初期は500、ステータスポイントを全部HPに割り振ったとしても2000なのに……
「『探求の洞窟』に出現するモンスター。このモンスターは体力がかなり高い。管理人が出会ったモンスターの中で最高のものだ。しかし、攻撃しなければこちらに危害を加えてくることも無く、攻撃パターンも単純で、攻撃力も低い。まさに、検証、実験にはピッタリだ」
なるほどなるほど、確かに実験体にはぴったりだ。最高のHPを持ちながら、攻撃は貧弱、と。
しかし、その唯一の取柄である最高のHPですら太刀打ちできない[極死の太陽]の大技っぷりには改めて戦慄した。
つまり、本当に「使ったら勝ち」なスキルだった訳だ。
無茶苦茶極まりない。知れば知るほど、デタラメなものを手に入れてしまった。
それも偶然、というのが質が悪いというか、何と言うか。
……とにかく、複雑な気分だ。




