2-2 スカウターの実験場-4
「リクワ」さんの話を聞いて、自分がどういう状況に置かれているか――
「……なんとなく分かってきた気がします」
「うん。ところで話は変わるのだけど。[スカウター]って、カテゴリー的にはバフ・スキルって分類になるんだけど」
「いや話変わり過ぎですけど!?」
……ちなみにバフというのは、『味方や自分の能力を上げるもの』と言う意味だ。例えば、このゲームには「怪力」というバフ・スキルがあって、そのスキルを使用すると5分間、自分の使うスキルのダメージが上昇する。[左ジャブ]のような直接相手を攻撃するものではない、補助的に使うモノ、と認識してくれれば良い。
「ま、まぁ聞いてくれ。[スカウター]も大体のバフ・スキルの例に漏れず、使用してから5分間、効果が続く。その間、自由にキャラクターを動かして、戦闘ができるんだ。すると、どうなると思う?」
「……?」
「うーん、わかりにくいか。まぁ地味な話だから仕方ないけど。例えば対人戦をやってる時だったらさ、相手がスキル使ってきたら、それ全部詳細わかっちゃうんだよね。まぁこのゲームの対戦のスピードじゃあ、戦ってる最中にスキルの詳細一々チェック、なんてほぼできないけど……まぁちょっと一瞬目を通すくらいはできるワケ。そうやって相手がどんなスキルを使ってくるのか、っていう情報をちょっとずづでも知っていくことで、たまーに……ふとした瞬間に得た相手のスキルに完璧に対応して、反撃できることがあるんだよね」
……わかりづらい。
「えーと……つまり頭脳派っぽい、なんていったら間抜けですけど……そういう戦い方が出来るってことですか?相手のスキルを検証して、その情報を得ることで、それを活かした戦い方があなたにはできる」
「まぁ、『出来ることもある』ってぐらいなんだけど……まぁそんな感じだ。悪いね、言葉がいまいちまとまってなくて」
「はぁ……」
この「リクワ」さんは「研究所」なんてサイトを運営してて、科学者みたいな恰好をしているから、なんとなく、話は常に冷静に行うような印象をもっていたのだけど。なんだか今のこの人は、言いたい事がまとまってない癖に、思い付きで喋ってるような、そんな雑な印象を受ける。
「でね、この[スカウター]って対人だけじゃなくて実はモンスターにも有効でさ。どれだけHPが残っているのか、とか、今からどんな攻撃を繰り出してくるのか、っていうのがわかるんだよね。そういう情報を集めて、知識を得て、それに則って相手の動きを見切りながら戦ってると、、なんというかこう……『戦況はボクの手の平の上!』みたいな、そんな良い感じの気分になることがあるんだよね。なんか性格悪い感じするけど」
「……えーと……ご、ごめんなさい……結局、何が言いたいんですか?」
「ご、ごめんよ。なんというか、[スカウター]って僕にしか使えないスキルだからさ、さっき言った[スカウター]を使った戦い方って、この世界で僕しかできないんだ。……そう、『僕しかできない』って考えると、それが凄く……楽しいし、興奮するし、誇らしいんだよね。……そう、たかがゲームだって言うのに、ね」
自分にしかできないこと。それがあるのが、楽しい。興奮する。誇らしい。
それは、分かる気がする。
自分も、[極死の太陽]っていう、「自分にしかできないこと」が、「自分にしかできない」からこそ、なんだか好ましいんだ。
「……そう。『ユウ』君もキミにしか使えないスキル、それも凄まじいものがある。それを使った戦い、ゲームって、すごくキミにとって楽しいと思うんだ。……だからさ、これから色々と大変かも知れないけど、このゲームを辞めないでくれ。絶対に損しないと思うんだ」
この人は、本当に……
「『リクワ』さんは、本当にSSLが好きなんですね」
「……うん。ファンサイトまで作ってしまうぐらいだ。ほんと、たかがゲームなのに何やってんだか、って思うことはある。笑っても良いよ」
「オンラインゲームが『たかがゲーム』って言い切れないって言ったのは、『リクワ』さんじゃないですか。笑いません」
この人は本当に、SSLを愛しているからこそ、僕が[極死の太陽]を巡るトラブルが原因で辞めたりして欲しくないんだろうな。
何というか、普通に……
「……良い人ですね」
「あ、あはは……照れるね、どうも……」
要件は終わった。そろそろお開きだ。
「探求の洞窟」を出て城下町に戻るための「スクロール」を「リクワ」さんは用意していて、それを使って、戻ってきた。
「今日は空振りに終わってしまって悪かったね」
と「リクワ」さんが謝ってくる。だけど、僕にはこの人を責める気持ちは無い。
「気にしないでください、色々教えてもらえて、楽しかったです」
「……ならいいけど、ね。あぁ、そうそう、もしかしたらまたキミの[極死の太陽]を検証させてもらうかも知れないけど、いいかな?」
「え?」
「[スカウター]以上の検証スキルを手に入れたら、試してみたいんだ」
「そんなの、あるんですか?」
「どうかな。でも、可能性は無くもない。[スカウター]を手に入れる前は、僕はスキルの検証に[観察眼]というスキルを使っていたんだ。だけど、[観察眼]だと今日みたいに検証ができないことがあったんだ。[観察眼]は[スカウター]の下位互換のスキルだったんだね。そこで、僕は仮説を立てた」
「ふむふむ」
「検証スキルにももっと色々種類があって、その中には[スカウター]以上のモノもあるんじゃないかってね。……今日、決めたよ。[極死の太陽]を検証できるくらいのスキルを探し出してみせる」
「……あるかどうか、わからないのに?」
「ない、と言い切れないのも、このゲームの魅力の一つだ」
画面の向こうで、「リクワ」さんがニヤリ、と笑った気がした。
「ドキドキするね。ボクはさながら宝物を探す冒険家だ。これほどのロマンもそうそうない。だから、重ねて言うけれど、『ユウ』君、[極死の太陽]の使い手よ、ボクはキミにリタイアして欲しくない。ボクが[スカウター]以上のスキルを手に入れるまで、待っていてくれ」
その言葉に、どう答えようか、悩んだ。
検証は失敗し、未だに[極死の太陽]は僕一人だけの特別なスキルだ。
この「太陽」がはこれからどんなトラブルを引き起こすのか、全く予想がつかない。
そんな状況で、簡単にこのままこのゲームを続けていくと言っていいものか……
多分、ここで「続けます!」と言えば「リクワ」さんは喜んでくれるだろうけど。
それは決して、誠実ではない。
「……さぁ、これからどうなるか、わかりません。続けられたら、続けますよ」
だから、この言葉が、僕の最大限の誠意だ。
「……そうかい。ま、間に合うように頑張るかな。じゃあ、今日はありがとう。願わくば、また会えますように」
「――はい。また会えたらいいですね」
そう言って、僕らは別れた。
また会えるのか。そんな事は、誰にもわからないけれど、今日と言う日が、月並みな言い方をすると「良い経験」だったのは間違いない。
そんな今日を共に過ごした「リクワ」さんに、感謝を……




