2-1 太陽を掴んだ後の話-3
「よし、新入り!オレ様がオマエを鍛えてやる!」
そう言ってきたのは正に歴戦の戦士、と言った風貌の男だ。ドラゴンの刺繍の入ったタンクトップのような服を着ている。名は「ゴウリ」。
そしてここは、「天国酒場」という、先ほどの城下町内の酒場だ。
「『天国酒場』の『ゴウリ』に話しかけてみろよ」
今日大学でアリマから教えてもらった「チュートリアル」の受け方だ。
「ゴウリ」はベテランの魔法拳闘士、という設定のNPC(ノンプレイヤーキャラクター。実際に人が動かしていない、ゲーム内のプログラムに沿って行動するキャラクターを指す)だ。
「このオレ様の教えを受けたい、というオマエのような新人魔法拳闘士は後を絶たん!それで、ここのマスターに頼んで、この酒場の地下を修練場にしてもらったのだ!さぁ、行くぞ!」
そんな「ゴウリ」のセリフとともに画面がほとんど一瞬で映り変わった。――ここが修練場らしい。
他のプレイヤーの姿は見えない。アリマに聞いた話だと、一人専用の特殊マップになっているらしい。
これなら、周囲の目線を気にすることなく「チュートリアル」を通して練習できる。
「ステータスの確認をしろ!」「スキルの設定をしろ!」「スキルを使ってみろ!」
などの基本的な操作確認から丁寧にやってくれた。僕は既にこのあたりはアリマに教わっているが、良い復習になった。
「チュートリアル」は課題を出され、それを達成することで先に進んでいく。
ここから、『木人形』というモンスターというか、ただの的を使った課題に入っていく。
「[左ジャブ]を『木人形』に当ててみろ!」「[左ジャブ]→[右ジャブ]→[左ハイキック]のコンボを決めろ!」等の課題をこなしていく。
「よし、いいぞ!じゃあ次は『キャンセル』について教えるぞ!」
――お、ついにアリマに教えてもらっていなかった要素を教えてもらえるらしい。
「ゴウリ」の説明を要約すると……
このゲームでは「スキル」を使用することでキャラクターを動かしていくのだが、その動作を「キャンセル」することができる。
例えば、[左ハイキック]を使用して、キャラクターの左足が上がり切るその前に[左ジャブ]を使用すれば、[左ハイキック]の動作を一瞬で停止して、[左ジャブ]につなげる、と言った風に。
スキルによる動きの途中に、違うスキルを使うことによって、その動きをキャンセルして違うスキルにつなげられるのだ。
実際の戦闘に当てはめて考えれば、例えば[右ストレート]を使用した時に、対峙していた相手に自分の[右ストレート]より早く攻撃されてしまう、だとか、回避されてしまうことが予想できた時に、[右ストレート]を[ジャンプ]でキャンセルすることで、[右ストレート]の動きによる本来できてしまう隙を潰しながら、[ジャンプ]が出来る。そうすればより効率よく戦えるだろう。
「キャンセル」が行えるタイミングは、スキルを使用してから、実際に攻撃の判定がでるまでの間。
例えば、[右ハイキック]ならキャラクターの足が上がりきるまでの間。[ファイアーボール]なら火の玉が実際に発射されるまでの間。
これを生かせば、[右ストレート]を打つと見せかけてキャンセルして[左ハイキック]を打ってみたり、[右フック]を打つと見せかけてキャンセルして[回避行動]につないで相手の攻撃を避けたりできる。
この「キャンセル」を使うことが、このゲームでの戦いのコツだ。
しかし、この[キャンセル]を使った戦闘は、正直かなり手が忙しい。大きな動きをする[スキル]をキャンセルするのは簡単だが、[右ジャブ]などの小さく、早い動きのスキルをキャンセルするのは大変だ。
瞬時に状況を判断して[スキル]を使用しなくてはならない。
その「キャンセル」についての課題は、「[左ハイキック]を『キャンセル』し、そこからさらに[右ハイキック]を使用しそれも『キャンセル』して[ファイアボール]を放て!」というものだった。
こんな風に連続でスキルを「キャンセル」していくと、「キャンセル」した回数や「キャンセル」したスキルの消費SPが増える程、「キャンセルボーナス」というものが得られ、この課題の例だと、「キャンセル」した[右ハイキック]と[左ハイキック]の分のボーナスが、[ファイアボール]に加算され、普通に[ファイアーボール]を撃つより高いダメージの火の玉が出せるのだ。
……こうして文章にするとかなりややこしいが、やってることは単純だ。スキルを使っている間にそれを取りやめて、他のスキルに繋げられる。『キャンセル』を使えば使う程、スキルの威力が上がっていく。
まぁ、要するにそれだけだ。……それだけなんだけどそれを上級者がやるともうよくわからんことになる。
後にこのゲームのトップランカー同士の戦いの動画を見たが、もう指の動きがどうなってるのか想像もつかないほどの「キャンセル」によるフェイント合戦だった。マジヤバい。
瞬時の判断力と入力のスピード、まさにプレイヤースキルが物を言う、刹那の時間の中でで争う壮絶な戦いだ。
そんなところがこのゲームの戦闘の魅力でもあるし、難しさでもある、らしい。
「キャンセルボーナス」の他にも、例えば「ダウンボーナス(相手が倒れている時に攻撃を加えるとダメージが大きくなる」や「カウンターボーナス(相手のスキル動作中に攻撃を当てるとダメージが大きくなる)」等があり、相手の動きをよく見ることが重要だと教わった。
「よし!これでオレ様がオマエに教えられることはもう何も無い!行け!新入り!大いなる冒険へ!思うがままに!」
――「チュートリアル」が終了した。確かに、アリマの言う通り、良い復習になった。このゲームのシステム自体も、そこまで複雑というワケでは無い、ということも再確認できて安心した。
しかし、このゲームの戦闘が奥深い、というのは昨日のゴブリンとの戦いでも身に染みたし、スキルの数もこれからどんどん増えるだろうし、「キャンセル」システムに各種ボーナスシステムによって、複雑ではないけれど底が浅いワケでは無い、ということがわかった。
アリマが自信を持って進めてくる訳だ。ここまで戦闘システムがキチンと練られているゲームも中々無い。非VRでも続いている要因の一つなんだろう。
やりこんでいけば面白くなるかも知れないな、コレ。
例えば……「プロゲーマー」という職業が存在する。その「ゲーム」のテクニックで人々を魅了するのだ。
――そう、例えゲームであっても、それを極める、となったら大変なことであるし、そのプレイヤー達の技術が見る者を興奮させることは確かにあるのだ。
「スキルシーカーズリンク」でも、極めていけば見る者を魅了するようなプレイができるのかも知れないし、実際にそういう事態が起こっているのかも。
――もし僕が、そこまでのレベルになったら、きっと楽しいだろうな……キツくもあるだろうが。
……しかし、これからどうしたものか。「教えられることはもう何も無い!行け!」とか言われてもな。
また『初心の草原』で「ゴブリン」相手に遊んでくるか、それとも違う場所に行ってみるか……
こんな風に妙に自由度が高いと逆に何をすべきか迷ってしまう。
そんな時だった。
この「チュートリアル」をやっている最中にも[極死の太陽]について問う「ダイレクトメッセージ」が何件か届いていて、それを確認していると、一通のメッセージが目に留まった。
その一通と言うのが、「『SSL(後に知ったが、スキルシーカーズリンクの略らしい)研究所』管理人、リクワより」と署名されたメッセージであった……




