2-1 太陽を掴んだ後の話-2
「めっちゃ来てるよ……」
ゲームにログインすると、画面に「ダイレクトメッセージが158件届いています」という通知に出迎えられた。
事態を考えて、少なく済んだとみるべきか多いとみるべきか、まだまだこのゲームの事を知らない初心者の自分ではよくわからないが、とりあえず、正直かなり面倒だ。
まぁ、公式サイトに400万ID突破、つまり400万人がこのゲームのプレイヤーとして登録している、と言うことから考えると、少ない、のか?
そもそもわざわざダイレクトメッセージまで寄越してくるのも少数派だと思うが……
仕方なく、メニューから「コミュニティ」の項目を開き、そこから「ダイレクトメッセージ」を選択すると、丁度普通のメールソフトと同じように、受信したメールの件名がズラリと並んでいた。
「どうしたもんか……」
と言っても、メンドイから全部無視!とかすると後々面倒だし、とりあえず見ていくしかない。
とりあえず、全部のメールを地道に一つ一つ見ていった。
「[極死の太陽]、あんな凄いスキルを発見するなんて……おめでとうございます!どうやったら手に入れられるんですか?もしよろしければ教えてください、お願いします!」
みたいな丁寧な口調のものが一番多かった。
「初心者ってマジ?その癖にそんなモン手に入れてんじゃねーよ、生意気だから。そーいうの。早く入手方法掲示板かなんかで公開しろよ」
なんて喧嘩腰のものもある。
「マジふざけんなお前クソボケどうやったら手に入るか教えろ馬鹿。じゃねーとどうなっても知らねーぞ」
……とかいうほとんどヤケクソな恐喝のようなメールもあった……
もしかすると、ああいう強力なスキルを手に入れたことで、他のプレイヤーから嫉妬の対象になってしまったのかも知れない。
丁寧な口調でメールをしてくれた人も、内心嫉妬で歯をギリギリさせていたりするのかも知れない。
一番簡単なのは、[極死の太陽]の入手方法を公開してしまうことだ。
前にもアリマが話していたが、このゲームのスキルの入手方法は主に3つ。
レベルアップでのランダム入手、特定のアイテムの使用、特定の行動の達成、だ。
後者2つならすぐにでも公開して、この騒ぎに決着をつけたいところだが……
残念ながら、[極死の太陽]はレベルアップでのランダム入手、つまり偶然手に入ってしまったものだ。
だから……
「[極死の太陽]の入手方法についてはよくわかりません。私は始めたばかりの初心者です。[極死の太陽]はレベルが2に上がった時のスキル習得で、偶然手に入れてしまったものです。なので、このスキルの入手方法について、これ以上の情報を提供できません。申し訳ありません」
と言った旨の文言を、一斉送信した。
これでダイレクトメッセ―ジが100件越えするとか、掲示板が大騒ぎになるとか、そういう事態がちょっとでも収まればいいのだけど。
何となく、そう上手くいかない気がしてきた。今までもオンラインゲームをしたことはある。ネットと言う場所は正論さえ言えば全部丸く収まる、と言うような単純な場所では無い。月並みな言い方だが、色んな人がいる。だから、色んなトラブルが起こる可能性がある。
これからも、この[極死の太陽]のせいで、妙なトラブルに巻き込まれる恐れがある。
……でも、まぁいいや。どうにもならなかったら、このゲームを辞めてしまえばいいだろう。
これがネットの匿名性の便利なところだ。
あんまり酷い手合いのものがいれば、このゲームの運営会社に報告して、処理してもらうのも良い。
くよくよ考えても仕方がない。とりあえず、やってみたいことがあったので、試すことにする。
まず、ボイスチャットの設定の変更だ。
このゲームでは、プレイヤー間でのコミュニケーションの取り方は大きく分けて3つある。
まず、さっきの「ダイレクトメッセージ」要はメール。
次に、これが一番多いのだけれど、「チャット」。
「キー・ボード」や「音声認識入力」といった文字入力ツールを使い、文章を入力して、発言する。
発言はプレイヤーキャラクターの上部に吹き出しのような形で表示され、周囲のキャラクターに見られるようになる。画面右下に表示されている「チャットログ」にもログが残り、確認できる。
まぁこの「チャット」にも種類があり、「パーティチャット」や「ギルドチャット」、「1:1チャット」等の種類がある。オンラインゲームの知識がある人には想像しやすいとは思うが、まぁ詳細についてはその都度説明しよう。
最後に、「ボイスチャット」だ。昨日アリマとやったみたいに、ホロフォ自体の「ボイスチャット」機能を使うという手もあるが、これは少なくともどちらかの「電話番号」を知らないとできない。
そこで、このゲーム内だけで使える「ボイスチャット」機能が存在する。
使用すると、自分の話声が直接ゲーム内の相手に聞こえるようになる。
方法は、相手のプレイヤーキャラクターを選択して、「ボイスチャット申請」を行う。申請が許可されれば、ボイスチャット開始だ。設定を変えれば、複数人でも行える。
で、今回は、そのボイスチャットの設定をちょっと変えたい。設定がデフォルトのまんまだと、そのまま自分の声が何の加工も無く相手に届くのだけど、自分のキャラクターは女性だ。……こういうオンラインゲームが巷に溢れかえってるこのご時世、本来の性別と違う性別のキャラクターを使っている、なんて珍しい話じゃないし、別になんとしても性別を隠したいワケでも無いけれど、何となく。雰囲気作りというか、ロールプレイというか……まぁアリマ以外のプレイヤーとボイスチャットまで使ってゲームをする機会があるかどうかもわからないが。
僕の作った「ユウ」は、設定できる最大の身長と、威圧的な程の筋肉と、怖い装飾のついたビキニアーマーという逞し過ぎる女性だ。
それに合わせて、「ワイルドな女性」をイメージして、ボイスチャットの設定を変更して、実際に出力される音声を変える。
――これで、ゲーム内のボイスチャットを使った時に、僕が喋れば、その声は「ワイルドな女性」のように加工されて、相手に聞こえるようになる。
こうやって、男が女のように、女が男ように振る舞うことができる。
慣れている者がすれば「本当は男」とか「実は女」なんてバレないようになってくる。
なので、ゲーム内で好きになった相手は同性でした、なんてよくあるちょっと悲しい笑い話だ。
次は、見た目をもうちょっとこだわって設定したくなった。このゲームでは、容姿は後からいくらでも変更できる。
今「ユウ」のいる城下町の各所にある、ふわふわ浮いている青色の宝石に近づくと、「宝石メニュー」というものが表示される。
その中から「キャラクタークリエイション」を選択すると、画面が最初にキャラクターを作った時と同じ画面に映り変わる。こうして、再設定が可能だ。
この前は適当に設定して待ったが、今回はちょっと本腰入れて設定した。眉毛の形や、目の形や色、鼻の形や高さ、口の大きさなど、設定する項目は多くあるが、その一つ一つを確認しながら設定を変更していく。
そうして完成した「ユウ」の姿は、さらに凛々しく、逞しい女性の顔になっていた。髪は真っ赤なロングヘア―で、あまり手入れされていないような、ちょっとボサボサになっているものを選んで、ワイルドな印象を強めた。
肌の色も褐色にして、ますますワイルドだ!
――うん。こうして見るとなんだか愛着が持てるな。決して可愛い、なんて女性じゃないが、カッコいい女性だって悪くない気もする。
アリマには、「まぁちょっとだけ続けてみようかな」なんてすかしたようなこと言ってる癖に、なんだか妙に入れ込んでるな、なんて他人事のように思いながら、「ユウ」の姿の変更を終えた。




