ジーク・リード
突如、魔法陣から姿を現した赤髪の男は、血のように真っ赤なマントを羽織り、まさに赤一色だった。
スゴく目に悪い。
「……どちら様でしょうか?」
「はっはーっ♪
聞いて驚くなよ!?
俺の名はジーク・リード!!
このギルドのマスターさっ!!」
ビシィッと決めポーズを取るギルドマスター。
要はアホですね。
「おいおい、そんな目で見るなよ。
興奮するじゃないか。」
ヤバい、コイツ変態だ!!
てゆうか、さっきギルドマスターを呼びに行ったミーナさんは……
バアァァン!!
と勢い良く闘技場の扉が開く。
「酷いじゃないですかマスター!!
どうして私が呼びに行く前にここに来てるんですか!!」
肩で息をするミーナさんが涙目で訴えてきた。
走ったせいか顔も赤みがさし、そのワガママボディも相まって非常に煽情的だ。
「いやいや、全属性持ちの登録希望者が来たもんだから、待ちきれなくてな。
後、ミーナの慌てふためく姿を見たかった。
……確信犯だ!!」
清々しい程のサムズアップ。
あ、ミーナさんが涙を流して崩れ落ちた。
何気酷いなこのギルドマスター。
「んなことより、全属性持ちってのは本当か?」
「あ、はい。
確かに全属性持ちでした。」
ふらふらと立ち上がるミーナさん。
小鹿の如くぷるぷるするものだから、その豊満なおっぱいがぷるんぷるん揺れている。
この乳ブルジョワめっ!!
「そりゃあいい。
久々に楽しめそうだ。」
「そ、それでですね…
実は水晶が融けてしまいまして……」
でろんと融けた水晶玉だったものを恐る恐る差し出すミーナさん。
「あ~……
ミーナくん減給ね。」
それを見たマスターはポツリと絶望を口にした。
「そっ、そんなっ!?」
再び崩れ落ちるミーナさん。
目は虚ろで口から魂的なものが溢れ出ていて、ちょっと見るに耐えない。
「冗談だ。
アレの在庫はまだあるからな。
よし、じゃあ早速始めようか?」
「お手柔らかにお願いしますね」
「本気で来いよ?
まぁ、言うまでもないか…」
「もちろん本気で行きますよ。
あ、まだ名乗っていませんでしたね。
私は……、遥か東方の國より来た奇術師、リゼルヴァ・フォン・サダルスード・ベーレンアウスレーゼです。」
そう言って、両袖から刀を引き抜く。
「仕込み刀……、成る程、黄金郷の出身か。
いいね、楽しめそうだ。」
ギルドマスターはそう言って、虚空から木刀を取り出した。
え?木刀?
「俺のお気に入りの武器、レーヴァテインだっ!!」
スゴい名前負けしてるっ!!
てゆうかその木刀、“五寸釘”って銘が打ってある。
いや、その銘もどうかと思うけどなぁ……
やっぱりここのギルドマスターは頭がおかしい。
「いくぜ?“燃え盛る炎の剣”」
マスターが呪文の様なものをを唱えると木刀から炎が噴き出した。
成る程、レーヴァテインは本来木の棒。
木刀でも再現可能ということか……
てゆうかアレは魔武器の類いかな?
木刀のアーティファクトとか、作った奴絶対頭おかしいでしょ。
それを使う奴も頭おかしいけど。
「何か近づきたくないんですが、まぁ・・・・・・・・・」
ここからでも肌を焼くような熱気を感じるほどの熱量だ。
暑いの嫌だし、近づきたくはないんだけど、刀を構えた以上、接近するしかあるまい。
別に刀に拘る必要はないんだけど、なんとなく、ね。
ガキィィィン!!
瞬動によって一気に間合いを詰め切り合う。
「おぉう、まさか接近戦に持ち込むとは…
普通ならみんな距離を置くぜ?」
ですよねー。
私もコレが実戦なら、すぐさま魔法にシフトして遠距離戦闘に持ち込む。
「私は普通じゃありませんからねぇ……」
「はっはっ♪
いいねいいね、気に入ったよ。
だが、その選択は間違いだ……ぜ!!」
木刀、レーヴァテインを包む炎が爆発的に大きくなる。
炎は二人を飲み込むように広がっていき、視界を赤く埋め尽くした。
ちょっ、何考えてんだこのギルドマスター!?
「わわっ、やりすぎですよマスター!!」
遠くで焦った声を上げるミーナさん。
屋外ならともかく、室内でコレは無いだろう。
それに、初心者相手にやりすぎではなかろうか。
「この程度の炎、通用しませんよ?」
爆発のせいで大きく飛ばされてしまったが、私は全くの無傷だった。
被害と言えるようなものは、多少ローブが炙られた程度だ。
「手加減したとはいえ、まさか無傷とはな……
何をした?」
「言ったでしょう、私は奇術師だと!」
実際には、あの木刀から炎が吹き出した時点で、水属性の障壁を展開していただけだ。
「それにしても、凄い熱量ですね。」
たった1回斬り合っただけだと言うのに、仕込み刀が熱で変形してしまっている。
「ははっ、悪ぃな刀ダメにしちまって」
悪びれもなく木刀を担いでケタケタ笑うギルドマスター。
木刀を担いだ肩から煙が出ているが、黙っておこう。
「って、あっちぃ!?
肩が焦げるっ!!」
アホですね。
「今度はこちらから行きます
“重力砲”」
重力を操る能力を使い、重力を圧縮した弾丸を撃ちだす。
「面白そうなもん使うじゃねぇか、よっしゃ来い!!」
空間を歪ませながら放たれたそれは、見事にマスターに当たった。
てゆうか、マスター、わざと当たったね?
ギュギュギュギュグオオォォォォォッ!!
およそこの世のものとは思えない、何とも言えない効果音が辺りに響く。
「うおっ、なんだコレ!
ヤベェ、リアルにヤビャルファッ!?」
超重力フィールドに取り込まれたマスターがビチャッってなった。
やば、殺しちゃった?
アレの加減わかんないからなぁ……
まぁ、あのマスターの事だ、多分平気だろう。
「え、あ……
マス……ター?」
ミーナさんはと言うと、かなり混乱した様子だ。
目の前で人がビチャッってなったら、誰だってそうなるか。
と言っても既にコチラからは何事も無かったかのようにミーナさんの後ろで欠伸してるマスターの姿が見えている。
志村~!うしろ、うしろ~!
「ふぅ、マジに死ぬかと思ったぜ……」
「ひひゃっ!?」
何食わぬ顔で背後に佇んでいたマスターに驚くミーナさん。
「初めて見る魔法だったから試しに食らってみたが、予想以上にヤバかったわ
マジ死ぬかと思ったわ」
ちょ、何この人。
頭おかしいわ。
「オーケーオーケー。
試験終了だ。
てゆうか俺が疲れた。」
「お、おう」
なんつう理由だ。
いろいろテキトー過ぎんだろ、やっぱ頭おかしいわ。
「リゼルヴァ・フォン・サダルスード・ベーレンアウスレーゼ。
お前にランクSの称号を与える。
二つ名は……、そうだな〈正体不明の奇術師〉とかどうだ?
お前、普段はその格好なんだろ?」
その格好ってのは、フード付きローブの事か?
確かに認識阻害も付いてるから、あながち正体不明って表現も間違っちゃいないな。
「それでかまいません」
「よーし、ミーナくん残りの手続きよろしくぅ。
俺はこの後会議(と言う名目のサボり)だから。」
「ふえっ?
あっ、はい。」
「……、えっ、マジでこれで終わり?」
「じゃ、後はテキトーに頑張ってくれよ~」
マスターはヒラヒラと手を振ると、転移魔法でどこかへ消えた。
こうして私は、よく分からないけど、ランクSの〈正体不明の奇術師〉の名を襲名した。