リゼルヴァ・フォン・サダルスード・ベーレンアウスレーゼ
四大貴族、大地を司るアース家の現当主、グランシェード・ジ・アースによって、全てを奪われた忌まわしき日から約三年の月日が流れた。
8歳になった私は、魔法や戦闘技能の研鑽を積み重ね、姫鏡さんに貰った力も相まって、賢者や達人の域に達していた。
「行くの?」
今の今まで私を育て、支えてくれた毒の沼に住む、泉の女神ことヴェリエルが、心配そうに私を見つめる。
『グルルゥ……』
ヨルムンガンドも心配そうに小さな唸り声を出し、擦り寄ってくる。
「今から準備しないと間に合わないからね。
大丈夫、二度と会えなくなるわけじゃないんだから。」
そう、私はこれから魔法学校に通うためにいろんな準備しなくてはならない。
現状、恐らくクリスティナ・アミュレスと言う人物は死んだことになっていると推測出来る。
つまり今の私には所謂戸籍と言うものが無く、存在しない事になっているだろう。
身分の証明も無い状態では魔法学校へは入学出来ない。
まぁ、仮にクリスティナ・アミュレスが生きている扱いをされていたとしても、8歳の子供1人ではやはり入学は出来ないだろうし、グランシェードに見つかれば、また命を狙われる危険があるので、今後アミュレス家を名乗る事は出来ない。
なので私はこれからの為にもそれなりの力を有した家を作らなければならない。
もしくは、何か大きなバックボーンが必要になる。
「そうよね……
だけど、やっぱりちょっぴり寂しいわね。」
「ヴェル姉……
大丈夫だよ、たまにはここに来るから、ね?」
私は別れを惜しみながら、二人(?)の元から離れ、1人旅立った。
不安はある。
正直言って恐い。
何よりグランシェードに見付かる事が何よりも恐い。
それなりに力は付けたが、相手は四大貴族だ。
個の力だけではどうしようもない相手だ。
完全にトラウマになっているな、と苦笑いする。
大丈夫、あの日から私の容姿はかなり変わってしまっている。と言うより、完全に別人のようになっている。
長かった黒髪はグランシェードの魔法によって斬られ、短くなった。
背中には大きな傷跡も残っている。
まぁ、魔法で認識出来ないようにも出来るし、その気になれば完全に治す事も出来るから問題ない。
あと、黒かった髪は恐怖によるストレスのせいか、色が落ちて真っ白になってしまったし、
アメジストみたいな紫色だった瞳は、毒とかのせいで紅く変色してしまった。
自分で言うのも何だが、誰だお前!と言いたく成る程の変わり様だった。
初めてその姿を見た時のショックは大きかったかった。
黒髪は日本人だった私としては、馴染み深いものだったし、思い入れもあった。
まぁ、一番のショックはだったのは、ロングだった髪がショートになってしまったことなんだけどね。
髪は女の命。
毎日手入れを欠かさずに大事に伸ばしていたと言うのに……
この怨み、晴らさずでおくべきか………
とか何とか思い出したりしながら、私は何処か街へ向かうべく背中から純白の翼を生やし、飛び立った。
私の作った空を飛ぶ魔法だ。
宙に浮かぶ魔法はあるが、空を飛ぶという魔法はほとんど無い。
箒や杖に乗って飛ぶ、なんて言うのも無いことは無いが、ソレは特別な魔導具や魔法具を用いたものによるものだ。
て言うか、移動するなら転移魔法があるからわざわざ空を飛ぶ必要が無いのかも知れない。
転移魔法は行ったことのある場所にしか使えないが、普通に暮らして居れば行く場所は限られているし、
公共の転移魔法陣も都市部ならば設置されている。
村などでは移動すると言ってもせいぜい隣村や町などへの行き来くらいだし、大抵そう言うのは行商であったりと荷物もたくさんあるので、空を飛んで移動なんて発想は無いのだろう。
浮かぶだけならそこまで大した魔力は使わないが、飛ぶのなると話は変わってくるが、無理と言うわけではない。
だが荷物もとなると並の魔法使いではまず目的地まで魔力が持たない。
私は魔導機構による制御と、魔力にものを言わせて飛行を行っている。
そうやって数時間近く空を飛び続けすっかり日も暮れてしまったが、この辺りで最も大きな国にやってきた。
名は……、サン・ミゲル。
太陽の国なのだそうだ。
名前に惹かれたのは言うまでもない。
「とりあえず、ギルドに行かないとね。」
ギルドカードはそのまま戸籍になるらしい。
とは言え、低いランクのカードでは意味が無い。
高ランクのカード、具体的には二つ名持ちになれば貴族相当の扱いを受ける事が出来る。
学園に行くには戸籍もお金め必要だからね。
「でもまぁ、さすがにこの容姿でギルドに行くのはマズいかなぁ…」
ギルド登録は七歳から可能だけど、
私は上位のランクを狙ってるから今の容姿だといろいろ不都合がある。
・・・・・・・・・変装とか、スゴい燃える。
まぁ、とりあえず年齢偽装の魔法かけて……
18歳くらいでいいかな?
後は……、よし、認識阻害魔法をかけたフードコートでも羽織ってよう。
決してめんどくさくなったわけではない。
変声器も一応、必要だよねー。
でまぁ、変装を済ませてサン・ミゲルのギルドに来たんですが……
真夜中だと言うのに騒がしいことこの上ない。
近所迷惑だろ。マジで。
どんちゃん騒ぎし過ぎでしょ。
街の中でも特に目立っている真紅の閃光と言う私立ギルドにやってきました。
ギルドには私立とか国立、王立といって、
個人運営のギルド(私立)やら国の運営するギルド(国立)、王様が運営するギルド(王立)がある。
立場順だと私立<国立<王立となる。
優遇もやはり基本的には私立が一番悪いのだが、例外もある。
その例外がこの真紅の閃光というギルドで、何と国立ギルド以上の権力、権限、財力を保有している。
さすがは世界中の強者が集まると言われているギルドだ。
正直化け物ぞろいと言っても過言ではないだろう。
ギルドの扉を開き中に入る。
中は酒場のようになっていた。
まぁ、某カプコンのモンハンの集会場を大規模にしたものと考えてもらえば良いだろう。
ただまぁ、三階くらいまで酒場になってる辺り、かなり違和感を感じる。
ちなみにこの建物、なんと七階建てだ。
この街の建物のほとんどは平屋か二階建てで、三階建ての建物は王族関係であったり、国の重要な建物だけしかない。
このギルドの建物が如何に異常なのか、よくわかるだろう。
さて、ギルド真紅の閃光の建物の説明をしよう。
まず一階には酒場の他にクエストボード(依頼状の張り出される場所)とか受付、治療施設、闘技場がある。
んで二階だが……
本来ここは酒場ではなかったが、いつの間にか一階の酒場が二階の休憩所まで広がっていた。
三階も然り。
(三階も休憩所だった。)
そして四階から六階は宿泊施設を兼ねている。
七階にはギルドマスターの部屋や会議室がある。
ちなみにこのギルド、七階建てだけではなく、
地下まで存在する。
宝物庫やら食糧や酒の貯蔵庫等々。
あと牢屋や地下闘技場もある。
なんつーか、かなり設備が整ってます。
てゆーか、色々と頭おかしいんじゃないかと思う。
とりあえず、酒場はスルーして真っ直ぐ受付に向かう。
が、
「おいおい、テメェみてぇなヒョロッこい奴がここに何の用だ?」
いかにもな噛ませ犬キャラが私の前に立ちふさがった。
かなり酔っ払っているようだが、
そのゴリラ・ゴリラ・ゴリラ(マウンテンゴリラ)を彷彿とさせる筋肉剥き出しの身体が、強者のオーラを醸し出している。
「どいてくれないか?
私はこのギルドに登録しに来たんだ。」
「テメェみてぇなヒョロッこい奴が真紅の閃光に入るだぁ!?
ゲラゲラゲラ!!
寝言は寝て言いなぁ!!」
汚らしく笑うゴリラに苛立ちを覚える。
周りからは「おい、誰か止めろよ。」とか、
「無理だって、あいつランクAだぜ?」だとか聞こえてくる。
「テメェみてぇなのはお呼びじゃねぇんだよ。
パパとママの所へ帰りなぁ!!」
シッシッと手で追い払う仕草をするゴリラ。
ほう、つまり私に死ねと申すか……
モブキャラに構ってやる暇も無いが、これだけ言われて黙っていてやる程、私は出来た人間では無い。
「黙れ脳筋ゴリラ…
それ以上舐めた口を開くと、その脳足りんの頭を撥ね飛ば?」
とりあえず、瞬動でゴリラの背後に回り込み首筋にナイフを突き立てる。
寸止めなんてヌルい事はしない。
死なない程度に肉を切り裂く。
「お、おいおい、軽い冗談じゃねぇか……
本気になるなよ姉ちゃ、いや兄ちゃん、いや……」
酔いが醒めたのか、冷静になったゴリラは両手を上げて無抵抗の意思表示をする。
「二度目は無い……」
首からナイフを離して、筋肉ダルマを蹴り飛ばす。
そして静まり返った酒場を通り受付までたどり着く。
「ギルド登録をしたい。」
「登録ですね。
ではこの登録用紙に必要事項を記入して下さい。」
先程の騒ぎは完全にスルーして、受付嬢はハガキサイズくらいの用紙を差し出してきた。
なになに、
・名前:
・年齢:
・性別:
・属性:
・使い魔:
・魔武器:
・得意武器:
・戦闘タイプ:
etc
地味に書くの多いな。
こういう登録系の記入事項って必要なのはわかってるけどめんどくさいよなー。
まぁ、書くけど……
・名前:リゼルヴァ・フォン・サダルスード・ベーレンアウスレーゼ
・年齢:18
・性別:ご想像にお任せ
・属性:全部
・使い魔:居ない
・魔武器:無い
・得意武器:何でも
名前は偽名だが、一応はこの名で高ランクを目指す事になる。
そして、クリスティナの身元を保証する為のバックボーンとして確立していかなければならない。
「リゼルヴァさんですね?」
「リゼル、リゼ、リザ、好きに呼んでくれて構わない。」
なんか愛称だけ聞くと女性みたいだな。
「わかりました。
ではリゼルさんとお呼びしますね。
私は私立ギルド、真紅の閃光の受付を担当していますミーナ・レグナードです。
よろしくお願いしますね」
「こちらこそ。」
「えぇと……」
ミーナさんは登録用紙の確認作業?をしている。
「年齢は18、性別は・・・・・・・・・ご想像にお任せ、ですね。
まぁ、性別を隠されている方も珍しくはないので大丈夫ですね。」
いや、変装時の性別どっちにしようか迷ってるんだけど結局決められなかっただけなんだよね。
「属性は全部……
って、全部って全部、……ですよね?」
「もちろん全部です。」
派生属性も含め全部。
まぁ、あくまでも使えるってだけで、得意不得意はある。
「まぁ、後で確認しますから、嘘はバレますけどね~」
うわ、信じてない。
まぁ仕方ないか。
全属性適正なんてそうそう無いからな。
「使い魔、魔武器ともに無し……
得意武器、何でも、ですか……」
「余程特殊な物じゃないのなら、槍でも弓でもほとんどの物は扱えるよ。」
「お若いのに凄いですね」
何でもとは書いたが、剣や刀とといったものを使うのがほとんどだ。
「それでは奥の部屋へどうぞ、身体能力の検査とか魔力の検査とかいろいろあるんで」
「わかりました。」
ミーナさんに連れられ、一階の闘技場に案内される。
~闘技場~
「身体能力の検査とか、主に何をすれば良いんですか?」
「ギルドマスターと戦うだけですよ?
検査の判断はマスターが決めます。」
ちょ、何その検査。
「ちなみにこの検査でギルドランクが決ります。
頑張れば最初からSランクも夢じゃないですよ!!
ちなみにSランク以上はある程度の実績が必要になります。」
なるほど、それはなかなか良いシステムだ。
上位ランクを狙う私には実に好都合。
「何はともあれ、先ずはドキドキの魔力検査からですよーっ♪」
「……何をすれば?」
「この水晶に魔力を流してください。
そうしたら、それぞれの属性ごとに光ります。」
まぁ、よくある奴だよね?
「こうかな?」
水晶に魔力を流した瞬間、
ドロリ!!
「………」
「………」
水晶が、融解した。
魔力を流して数秒、光が強くなったかと思ったら、物凄い勢いで溶けてしまった。
「え、あ~……
きっと古くなってたんデスネ……
えと、確かに全部でしたネ。」
融解する寸前まで水晶は6色の光を放っていた。
ちなみに、この光は基本属性の四色と特殊属性の二色だ。
派生属性はその元となった属性の光を放つので光だけ見ても派生属性の有無はわからない。
「次はいよいよギルドマスターと戦ってもらう訳なんですが……」
「あれ、魔力量とか量らないんだ?」
「魔力量なんてどうやって量るんですか?」
そりゃそうか。
んん?
魔法何発撃てるかで量れるんじゃ……
って、それだと量る度に魔力が空になるか。
「では、マスターを呼んでくるのでしばしお待ちを」
ミーナさんはそう言って闘技場から出ていった。
「よぉ、お前が登録希望者だな?」
ミーナさんが闘技場から出て行ってすぐに転移魔法陣から長い紅髪に右目に眼帯をした男が現れた。