レイル・クラウド
第二の人生を歩み始めて、早五年が立ちました。
私、クリスティナ・アミュレス、五歳でございます。
・・・・・・・・・5歳以前の出来事?
それは黒歴史なので伏せさせてもらいます。
乙女の秘密なんです。反論は受け付けません。いいですね?
い い で す ね ?
さて、今日私は五歳の誕生日を迎えると共に、封印(?)された力が多少覚醒します。
ちなみに、現段階で解放されている能力は、
・世界に関する基礎知識
・媛神姫鏡の加護
・寿命以外では死なない肉体(不完全)
この三つ。
そして、今日解放されるのは、
・莫大な魔力(一部)
・全属性適正
・高い身体能力(一部)
・寿命以外では死なない肉体(完全)
この四つ。
これでようやく自分で魔法を使えるようになります。
これまでは、貰った知識と、様々な魔法書を読み漁って得た知識を頼りに独自に作り出した魔導機構とかで、それっぽいことをやっていました。
魔導機構と言うのは、
まぁ、様々な魔法を緻密な計算に基づいて組み合わせ、より大きな魔法による事象を起こす方法です。
更に簡単に言えば、機械の様なものです。
魔法を歯車やパーツとして組み上げ、1つの大きな魔法として昨日させます。
得られる事象は凄まじいのですが、魔力の消費も凄まじく、尚且つ全ての魔法が発動し、魔導機構が完成するまで結構な時間を要する上、
僅かでも計算が間違っていたら、即暴発と言うなかなか危険な代物です。
ま、私の場合計算に狂いはないんだけどね。ふふん。
↑
無い胸を張る。
ただのほほんと幼児やってた訳じゃないってことです。
主に前世の知識を利用して新たな魔法理論の開発や、魔法の作成とかやってました。
幼児のやる事じゃないね!!
そんでまぁ、後は人探しとかしながら過ごしてました。
まぁ、人探しと言うか、
この世界で将来、英雄になるであろういわゆる選ばれし者達を探していました。
と言っても、探し始めて一年くらいだし、都合良く何人も見つけることは出来なかった。
身体も小さいし、魔法もまともに使えない上、
まだ不死ではないからあまり出回って事故や事件に巻き込まれないようにしていたので、かなり行動に制限がありましたが、
結果として、英雄候補を一人見つける事が出来た。
まぁ、一人見つかっただけでも十分だろう。と妥協しておきます。
せざるを得ません。仕方ないよね!!
見つけたのは私と同い年の男の子。
この世界で四大貴族と言われている、風を司るの貴族の子なのだが、何と双子の兄妹だった。
しかし、兄の方は産まれてすぐに地下牢に隠されていて、その存在は表に出されていない。
初めから居なかったものとして扱われている。
その理由は、至極簡単。
魔力が無かったから、である。
だが、その代わりなのかは不明だが、妹には凄まじい魔力が宿っていた。
赤ん坊の状態から、迸らんばかりに魔力を放出していたのだ。
生まれてすぐはそれは大変だったようで、かなりの騒動となったらしい。
それもあって、騒ぎに乗じて兄は隠されてしまい、その存在は極数人しか知らない事となったようだ。
私は偶然にも(転移の術式が暴発したお陰で)彼を見つけてから、三日に一度のペースで彼に会いに行った。
無論、この事は誰も知らない。
知るのは、私と彼のみ。
「レイル……」
暗い地下牢で、彼の名を呼ぶ。
彼の名は、レイル・クラウド。
風を司る四大貴族の跡取りになるはずだった子だ。
「クリス……また来たのか……」
弱々しい声が、牢の中から響いた。
「また、酷くやられてるね……」
牢の中では、ボロボロになったレイルがぐったりと横たわっていた。
彼の父親、アイザック・クラウドは完璧主義者。
自分の息子に魔力が無いとわかるや否や、レイルを地下牢にブチ込み、虐待を繰り返していた。
本当ならその場で殺していたのだが、レイルの母、レイラ・クラウドがそれを止め、難とか生かされているような状態だ。
「すぐに治してあげるから……」
私は魔法を使い牢の中に入った。
まだ能力が覚醒していないとは言え、常人程度には魔法は使える。
まぁ知識のおかげで常人より魔法は使いこなせている様な状態だ。
少ない魔力を効率良く運用し、魔法自体にブーストを掛け効果を底上げしている。
また、余剰魔力もストックしている。
とは言え、毎日のように様々な場所へ転移したり、魔法の研究や練習等で使っているので、ストック量はお世辞にも多いとは言えない。
魔導機構による転移をしていても、やはりその消費魔力量は少なくはないのだ。
限りある魔力だが、レイルの治療の為になら出し惜しみなどしない。
それに必ずレイルの治療用に専用の魔力ストックも準備してある。
抜かりはない。
「“癒しの指輪”」
回復魔法の魔導機構の回路を組み込んだ指輪から淡い光が放たれ、レイルを包み込む。
光りに包まれたレイルの身体中にある生々しい傷や痣が徐々に治っていく。
そして、傷や痣が完全に治る前に、魔法を止める。
本当は一刻も早く全ての怪我を治してあげたいのだが、
これだけの怪我がたった1日で全快しては、流石にアイザックに不自然に思われる。
非常に歯痒いが、これもレイルを守る為。
全ては私の幸せの為。
つまり私の私利私欲の為だ。
「いつもありがとう。」
ムクリと身体を起こし、お礼を言うレイル。
金色の髪と、翠色の目が綺麗なイケメンくんだ。将来が有望過ぎて楽しみでならない。
まぁ、今はショタだけど。
私も今はロリだけど。
私は彼に会ってから、彼に私の知識を与え続けてきた。
彼が英雄となるために必要になるであろう様々な知識。
候補であるとは言え、私は彼が英雄になるであろうという確信があった。
彼には、秘められた力がある。
感じるのだ、何かとてつもなく強い力を。
成長すれば私に匹敵するであろう、そんな力を。
「あのね、レイル。
今日はあなたにプレゼントがあるの。」
「プレゼント?」
私はポケットから薄紫色の魔方陣の刻まれた石の付いた指輪を取り出した。
指輪自体にも沢山の魔方陣が刻まれている。
これは、ある術式を発動させるための魔導機関であり、
レイルの真の力を解放させるための鍵でもあり、
レイルの力を制御、封印するための鎖だ。
「綺麗な指輪……」
レイルは指輪を眺めながら呟いた。
「今はまだ指輪が大きいから、ネックレスみたいに首から下げててね。」
私は、術式の刻まれた細い白銀色のチェーンをレイルに渡す。
このチェーンには、一度装着したら私とレイル以外には外せないという術式が刻まれている。
後は千切れないようにチェーンを強化してある。
「こんな高そうなもの、貰っていいの?」
「レイルのために作ったんだから、遠慮なんてしないで。
・・・・・・・・・大事にしてよ?」
「大事にするよ。
絶対、大事にする。」
レイルはチェーンを指輪に通し、それを首に下げた。
キラリと指輪に付いた石が輝いた。
「それを持っている限り、私がレイルを守るから。
絶対、絶対守るから……」
「どういうこと?」
「それじゃあ、そろそろ行くね。」
私は指輪とチェーンの魔導機構が発動したのを確認すると、転移魔法を発動させた。
「えっ?
ま、またね。」
またね、か。
「また……」
私はその場から姿を消した。
頬をつたる涙を、彼に見られないように………
また、必ず。
私が再び彼に会う事は、恐らく何年も先になるだろう。
何故なら彼は明日、捨てられるからだ。
そこいらの道端や街外れの森なんかではない。
凶暴な魔物が無数に生息する、国指定の立ち入り禁止区域にだ。
今の私に、そこに行く力は無い。
今宵、五歳を迎えても、だ。
本当は今一緒に彼を連れて逃げ出したい。
だけど私には子供1人を養う事も出来ない。
力も、財力も、何もかも足りない。
それに、レイルが今いなくなっては、今までレイルの存在を隠していたアイザックが黙ってはいないだろう。
だからと言って、彼をここでみすみす失うわけにはいかない。
だから今日、あの指輪を託した。
彼を、レイルを護るために。
もしも彼が本当に英雄になるべき存在なのならば、きっと生き延びてくれるだろう。
そしていずれ、私の前に現れてくれる。
その時まで、私は彼を信じ、待とう。
いつか再び出会えるその時まで・・・・・・・・・