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片想いの王妃  作者: 雪見だいふく
3/4

三話目

「あと…昨夜はあなたを怖がらせてしまいましたね。少し強引でした」

陛下は、昨夜の出来事を思い出しているのか目を閉じた。

私の脳裏にも昨夜、陛下に抱き締められたことを思い出し、自分の顔が真っ赤になることが分かる。


「しかし、謝りません。昨夜、申し上げたことは全て本音です。私は、あなたの側にいたい…」

陛下は、私の俯かせている顔を見詰め、少し距離を縮めてきた。

私は、ドキッとし掛け布団を胸元に手繰り寄せる。陛下は何故か、私の側まで移動し、片手を伸ばし私の髪をなぞった。

一房取り、手のひらで髪の柔らかさを堪能し、頬まで持ち上げ、同時に頬と髪を撫で上げる。

私は、陛下の行動に驚き、思わずチラッと陛下を盗み見る。

陛下は、普段の穏やかな暖かい表情ではなく、射ぬくような力強い瞳で私を見下ろしていた。

私は、恐れのような感情から体を震わせ、両手に力を込めた。


(陛下はリズベル様をよく見ておられます)ーサラの言った言葉が、頭に響き私は益々狼狽え、動揺する。

(どうして…何で…こんなこと)

陛下はまだ私の髪を撫で、頬に添えて指を這わしている。

「私に触れられるのは嫌ですか?…リズベル、震えている」

「っ…」

私は、ふるふると首を横に振り否定した。

「リズベル…では、何故震えている?どうして、泣きそうな顔をしているんだ…」

陛下は、私の目元に指を添え、目元に溜まった涙を拭う。

「っ…違います…」

陛下は、切なそうに目を細め、私をじっと見下ろしていた。陛下の視線に耐えきれずに、私は目を閉じるがリズベルと囁かれ、そうっと目を開ける。

「私が嫌い?」

陛下は、消え入るような小声で囁く。まるで、答えを知りたくないみたいに…

私は、ふるふると首を横に振った。

「では、もっと触れて良い?」

陛下は、もう片方の手を私の太ももの横に置く。ギシッとベッドが音を立て、私は怖さから先程よりも強くふるふると首を横に振る。

「何もしない。ただ、あなたに触れたいだけだ」

陛下は、掛け布団を胸元に手繰り寄せている、私の片手を握り締め、自身の口元に持っていく。私は、驚きから手を引っ張るが思いの外、力強く握り締められた。

「っ…や…」

陛下は、私の怯えに一瞬怯むが、やがて私の手の甲に口付けを落とし、指先、手のひら、手首と口付けを優しく這わす。

私は、恥ずかしさから溜まっていた涙を溢し、掛け布団にポタリと落とし、染みを作った。陛下は、それに気付き私の片手を離すがグッと肩を引き寄せられ、あっと思った時は、陛下の胸元に顔を埋めている状態だった。

「泣かないで…無理強いしたい訳じゃない……ごめん。私が悪かった」

陛下は、ぎゅうっと私を抱き寄せお互いの体が密着する。背中と腰に腕を巻き付かれ、抵抗出来ず、私は陛下の胸元のシャツをそうっと握り締める。

陛下は、ピクッと反応しさらに腕に力を込めた。

「っリジー…怖がらないで…私は…もう余裕がないんだ…あなたが私を見てくれないから……」

陛下は、言い掛けるがふと無言になる。

そして、少し腕の力を緩めると、私の顔を間近で見下ろし、切羽づまった声で囁く。

「リジー…言って…私をどう思っている?無理矢理あなたをこの国に、嫁がせて憎い?それとも…[陛下…]」

私は、陛下の言葉を遮り、陛下をおずおずと仰ぎ見る。

「私は、陛下のことは憎んでいません。むしろ、感謝しています」

「…え?」

陛下は、ポカンと目を丸くしている。

「私は…父が苦手でした。私を国の道具としか思っていない方で、いつも私は存在しないものとばかりに、扱われていました。しかし…父から嫁ぎ先が決まったと言われ、私は安堵しました。ようやく、故郷を離れられるのだと…故郷には、私にとって嫌な思い出しかありません。ですから…私は陛下の元へ嫁げて幸せです」

リズベルが少し微笑み、私は驚いたように彼女を見る。今まで、私に笑顔を向けるなどなかったからだ…

「じゃあ、私は自惚れても良いですか?私は、あなたを好きでいても良いですか?」

「え?」

私は、陛下の言葉に驚き、目を大きく見開く。

「私は、もうずっとあなたに恋い焦がれていました。あなたを一目見て…おそらく一目惚れです。だから、あなたに強引に迫ってしまい、怖がらせてしまいましたね。あなたは、私たちに対してあまり信頼を許さない印象を持ったので…」

「それは、違います!……陛下とマリーン様の仲睦まじいところを見て、陛下に心を許せなかったのです…申し訳ございません」

「リズベル…それは、やきもちを妬いてくれたのですか?」

「え!……ええ…と……」

私は、返答に困るが陛下の嬉しそうな表情に、思わずこくんと頷く。

「リズベル!……嬉しいです。……あなたが好きです」

私は、陛下の初めて聞く告白に、赤面し視線を俯かせるが…陛下は、やんわりと私の顎に指を添え、優しく上向かせた。

「リズベル…あなたは?」

陛下と視線が合うと、真っ赤になった顔を見られることになるが、陛下の瞳は真剣で私の答えを待っている。

「っ………私も…陛下をお慕いしています」

言い終わった後も、さらにカアッと顔に熱が上がるのが分かり、心臓が狂ったように速く脈打つ。

「リジー…顔が真っ赤です。かわいらしいな…」

「っ…」

陛下の甘さを含んだ声に、私は益々いたたまれない。

「リジー…今更ですが、こう呼んでも良い?」

私は、首を縦に振る。

「リジー…口付けをしても良い?」

陛下のお顔が私の鼻先まで近付き、陛下の息がかかる。私は、かああっとさらに顔を真っ赤にし、肯定も否定もできなかった。

ただ、陛下の熱の籠った瞳を見詰めることしかできなかった。

「リジー…嫌じゃなかったら頷いて…我慢できない…」

陛下は、余裕がない低く掠れた声で私の返事を催促する。

私は、陛下の声に、表情に、溺れたように意識が朦朧とし何が何だか分からなくなった。

そして、焦れたのか私の返事を待つことなく、陛下のお顔が間近になり、唇を重ねてきた。


触れるような一瞬の口付けだったが、陛下はすぐに角度を変え、再び唇を重ねてくる。

今度は先程よりも深く重ね、軽く強く啄む。私は、意識が朦朧としただ、陛下の唇の感触だけ感じていた。

「リジー…リジー……」

陛下は、口付けの合間に私の愛称を呼びながら、唇を深く重ねてくる。今までの陛下の感情が流れ込むような、強く深い口付けを何度も繰り返す。

「やっ…も…は…」

私は、息が苦しくなり陛下の胸を両手で押し返すが、陛下の溢れた感情は止まらない。

私の抵抗も、両手で押さえ付け、強く私の体を締め付ける。


ようやく、長い口付けが終わったと思ったら、陛下は私の顔中に口付けの雨を降らす。

額、目、頬、顎、耳…

耳にチュッと音を立てると、首筋に唇を這わす。ゾクッと体が震え今までに体験したことのないものが、体中に起こっている気がした。

「いや…陛下、止めて……」

私は、その体の震えが何なのか分からず、先程よりも強く抵抗した。

陛下は、ピクッと反応し私の首筋からお顔を上げ、私の涙で潤んだ目を見詰め狼狽える。

「リズベル…私は…何を…リジー……すみません、怖い思いをさせてしまいました」

陛下は私の涙でいっぱいの瞳に、少し乱暴に指で拭う。

「リズベル、泣かないで下さい…本当に申し訳ありません…」

陛下は、私の瞳を見詰めながら謝る。私は、陛下からの口付けの雨に、意識が朦朧としていたが、だんだんはっきりとし、はっとなる。

「い、いいえ…大丈夫です…」

「しかし…泣いている…私は、あなたと気持ちが通じ合って嬉しくなり、止まらなくなりました。あなたに無理強いしたくないのに…」

「陛下…あの…私が抵抗したのは恥ずかしかったからです。今まで、このようなこと経験したことがないものですから…」

私は、俯き加減で真っ赤になりながら、ぼそぼそと話す。

「リズベル…では、嫌ではなかった?」

陛下は、少し嬉しそうに私の顔を覗き込む。私は、顔を上げられなかったが小さく頷いた。

「リズベル…!では、あなたの希望を言ってください。私も言いますから」

「え…」

「私に何か、してほしいことはありますか?」

私は、陛下の間近にあるお顔を直視できず俯いていたが、少し顔を上げ、陛下を仰ぎ見る。

「え…っと………」

私は、突然のことで何も浮かばなかった。陛下は、私が嫁いで来てから十分すぎる程、良くしてくれたからだ。私が悩んでいると…

「では、私からでも良いですか?…名前で呼んで下さい!テオ…と」

陛下は、私の両手を包み込み懇願した。

「え…あの………て…ぉ…」

私は、真っ赤になりながら、囁く。

「もっと」

陛下の嬉しそうなお顔がだんだんと崩れ、無表情になっていく。そして、徐々にお顔を近付けてきた。

「……て…ぉ…」

「もう少し」

「…………テオ」

「……もっと呼んで」

「え…テオ…」

「まだ…もっとたくさん…」

「テオ…テオ……テ…ん!」

私は、解放してほしいのにもっともっとと、陛下が催促するため涙が滲み、目を瞑ったところ…陛下に深く口を塞がれた。

「もっと…」

陛下が唇を少し離し、熱い息を吐きながら囁く。

「…テオ…も…止めて……」

「~っかわいい…リズベル…はあ…誰にも見せたくない…ずっとこうしたかった……愛している、リズベル」

涙を浮かべる私の目に口付けをし、ぎゅうっと陛下は私を抱き締める。

「へ、陛下!」

「テオ」

陛下は、私を抱き締めながら私の言葉を訂正する。

「…テオ…あの、もうお離しください…」

「もう少し…」

陛下は、しばらく私を離さず私の髪を持ち上げ、弄ったり口付けしたりしていた。

「テオ…」

私は、陛下の今までにない密着と触れ合いに、動揺していた。

「リジー…まだお願いがあります。寝室を一緒にするか、もしくは私の隣室で寝てください。毎夜、あなたの顔を見てから眠りたいです。お願いします」

「え!」

私は、陛下は冗談を言っているのかと思ったが真剣なお顔を見て、言い掛けた口をつぐむ。

「冗談ではありません。本気です。本来は一緒に眠るのだと思いますが、私に度胸がないせいであなたに言い出せませんでした。しかし、気持ちが通じ合った今、一緒に眠りたいです!リジー、良いですか?」

「……はい、私も陛下と一緒に眠りたいです」

「リジー!では、今夜から是非、一緒に眠りましょう!…やっとあなたと眠れるのですね…嬉しいです」

陛下は、私を強く抱き締め私を自身の胸元に押し付ける。

私も陛下の胸元の、服をきゅっと握り締め、陛下の香りに包まれ安心感にほっと息をつくのだった。


これから、夫婦としての時間を取り戻し互いに補い、慈しみ合い、支え会う王と王妃の物語ー


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