劣等感に苛まれる勇者
俺達が召喚されてから一週間経った。
この世界でも時間、日にちは同じだったので、そこで困ることはなかった。
そのおかげで、太陽光で充電できる時計は役に立っている。
この場所での正確な時刻は、必ず12時になる鐘の音であわせた。
まあ、それだけの期間毎日訓練すれば職業レベルも、スキルレベルも上るってもんだ。
まあ、俺は別だが。
一宮 泰値 (16歳) 男
職業
勇者 Lv.1 (0 / 5) 異世界人 Lv.1 (0 / 5)
HP:228 (+40) MP:55(+40)
STR:76(+40)
VIT:62(+40)
INT:105(+40)
MND:152(+40)
AGI:88(+40)
DEX:74(+40)
LUK:160(+40)
APP:219(+40)
能力
絶対数値制
スキル
料理 Lv.15 (MAX) 掃除 Lv.15 (MAX) 計算 Lv.35 (MAX) 調理 Lv.8 (0 / 200) 作法 Lv.12 (0 / 60) 刀 Lv.2 (0 / 50) 格闘 Lv.1 (0 / 5)
称号
・異世界からの勇者 ・文武両道 ・マルチリンガル
俺は、召喚された日以降全く変化のない自分男ステータスを見る。
確かに、個人差があり早い人だと職業レベルが10程上っている人もいれば、1しか上ってない者もいる。
しかし、全く変化ない人はいない。
俺以外だが。
「おいおい、まだ考えてるのか?無駄だから、止めとけよ。お前は上らない雑魚だったんだよ」
現在絶好調の古邪裕二が笑いながら近づいてきた。
彼は現在召喚された勇者の中で一番成長が速いんだそうだ。
訓練しているはずなのに、体型が肥満のままなのが泰値には疑問だったが。
「うーん。そうなのかな?まあ、何とかならないか頑張ってみるけどね」
「無駄なのにな。それより」
古邪がニヤニヤしながら近づいてくる。
そして、反応するが遅く蹴りをくらった。
「また、俺の経験値稼ぎ頼むわ」
なんでも、ステータスには反映されないが日本などのあちらの世界で学んだ技術はある。
この世界では(レベル的に)強い敵な程、職業レベルが上りやすい。
そして、(技術的に)強い敵ほど、スキルレベルが上りやすい。
そのため、スキルレベルを上げるためにこうしてやってくるのだ。
俺の方は全く上らないのにな。
そう心の中で、悔やむ。
泰値も、表向きは気にしてないようにしているが内心はもの凄く荒れていた。
人が離れていく、喪失感。
他の人がどんどん離れていく、劣等感。
そして、それに伴って湧き上がってくる、焦燥感。
すべてが、心で暴れている。
何も、元の世界でもただ運動が出来たわけでも、勉強が出来たわけでもない。
いままで積み上げてきた下地があり、それに努力で上乗せし、日々の細かいことの一つ一つことも改善する根気があったからこそのものだ。
こんな、なにもしても全く数値が変わらないと嫌気もさしてくる。
他の人からも、役に立たないヤツだと思われる恐怖も沸き起こる。
なにより、こんな時に守れない。
みんなが不安を抱え、疑問を抱え、悲しみを抱え、悩みを抱えているときに支えることも、ましてや助けることすら出来ない自分に辟易するし、呆れてくる。
古邪の攻撃をギリギリで回避しながら考える。
考えていても、動けるのは経験と努力の賜物だ。
ん?数値が変わらない……?
もしかして?
その後、やっと古邪に開放され疲れた体を動かしてある人物の元へと移動した。
「ステータスの数値ですか?」
「ああ、俺はレベルの横に数値が見える。これは他のヤツも同じか?」
「いえ、それはないですね。絶対数値制……つまり、数値でそのレベルの熟練度や経験値の状態を見ることが出来る能力ですか」
今話しているのは、召喚されたところで会った女の子だ。
この国の第三王女である、セシリー・リア・エルドレッド。
図書館で本を読んでいると話しかけられ、その後話すうちに仲良くなったのだ。
他の人は自分の能力を話したりしないが、俺はリアに自分の能力を話したのだ。
まあ、自分じゃ能力が皆目検討もつかなかったというのもあるが。
ちなみに、二人だけのときは堅苦しくせず、リアと呼び捨てが良いとあちらから打診されたため、二人のときは呼び捨て、タメ口で話している。
「ああ、ステータスが変化しない理由はわからないけどそんな気がしてきた」
「うーん……召喚によって得る能力は勇者達の生命線です。これがないと、ほとんどの者は魔王を倒すなんて使命を達成できないでしょう。その能力が、そんなものではない、と私は思うんですよ」
「なるほど」
確かにリアの言う通りだ。
勇者を呼ぶのは魔王を倒すため。
それが、レベルの上らない能力、ただ数値が見えるだけの能力じゃ達成できるはずもない。
「数値ねえ」
もう一度、ステータスを見て考える。
数値、つまり数字の値だ。
レベルの横にある、多分次のレベルまでの数値。
ステータスにある、HPなどの数値。
しかり、どちらも変化なし。
HPなどの方は、レベルアップ以外でも訓練などであげることが可能なはずなのに上る気配もない。
スキルレベルも、そのスキルを使か、その訓練をするたびに上るはずが全く変化なし。
「わからない」
「まあ、またなにかあれば来てください。お力になれることは少ないですが、何かわからないか情報を集めたりのことは出来ますので」
リアは申し訳なさそうにそう言う。
何をというと、古邪達の事だ。
俺に攻撃を吹っかけているのは知っているが、古邪は一番の有力勇者ということもあり見過ごされている。
リアも、何回もそのことを言ったが聞き入れてもらえないようだ。
あまり言いすぎるとリアにも被害が行くのではと思い、泰値が止めさせたが。
「気にするな、大丈夫だから」
表面上は、気楽そうに笑い、嘘をついた。
心の衝動を抑えつける。
そんあ、全く根拠もないことを平然とつげる。
それは、傍目には自棄になったように見えたか。
それとも、既に心が壊れた廃人に見えたか。
とにかく、泰値は部屋の外へと出る。
用事は終えたので、当然のことだ。
「くそっ」
その声を、泰値の本音を聞くものは誰もいない。
召喚されてから1ヶ月が経った。
未だ変化を見せない、ステータス。
古邪などの成長が速い人には、勝てなくなった。
そして、古邪達の鍛錬は今ではほとんど泰値がサウンドバックになるだけっだ。
スキルの強化というより、ストレスの解消、憂さ晴らしに近い。
殴られて、もうほとんど伸びなくなったスキルレベルを確認もせずに日常に戻る。
全体的に伸びるのが遅くなってきた。
そのため、やっとこの時がやってきた。
『 実戦 』 だ。