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平和001

今回は少し短め。

 私が生まれた時、目の前には白衣を着た男と四人の女がいた。――正確には人間の男と女性型の機械であるということを漠然と認識できている。

「おはようNT005、『平和』の五番」男はいう「体に異常はないな?」

 目覚めの質問としては難題であったが、私は自らの身体に異常はないか精査する。その工程をすべて同型の機械に見守られながら行うこと僅かに数秒、終えると手始めに自分を収容する液体の入った水槽を己の腕力でもって破壊した。

 男はそれを見ても困るというよりは嬉しそうに、それでいて反抗期に入った娘であるかのように私を見ていた。

「何故お前たちは揃いもそろって生まれてすぐそれを破壊するのかな」ため息をつき「毎回それを直す所からはじめなければいけないではないか」

「できるからするまでのでしょう」

 応答し、水が抜けた壊れた水槽から自らの足で出る。初めて使う歩くという動作に不安はあったが、問題なく実行することができた。

「やんねえ五番!あたしは始めてのとき楽しすぎてこけ回ってたよ!」

 女性型の内一人、一番小さい桃色の短髪が笑いながら言う。

 これらに対しての情報がない私にとっては未知の存在である。それはすなわち、『平和』を害するものであると決定することができる。なら私が行う行動はひとつ、おもむろに手をその小さい機械に向けた。

 この手から発砲することができる。それは知っている。だが、実行する術を知らない。

「あらあらうふふそれはまだあなたには早いですしやめておいたほうがよろしいわよ」小さい機械の隣にいた真っ裸の機械はその豊満な胸を揺らし息継ぎを忘れたように言う「あなたとこの子が衝突しても決着はつきませんしそれに私どもは味方ですわ味方に銃は向けるものではありませんわうふふふふ」

 強力な刺激が情報を処理している脳に直接叩き込まれた。それを成したのはおそらくさきほどの真っ裸。彼女は奇妙に口角を吊り上げた不気味な笑いをし続けている。

 叩き込まれたシグナルは強制服従。私はそれに抵抗しようとするが、腕を下げるだけに終わった。

 その私の頭が地面に叩きつけられたのはその後だ。

「機械とはいえ先に生まれた姉機に武器を向けるとは……貴様には一度その辺の知識を学習させてやろう」一呼吸「体でな」

 暴力的な女型は薄い赤色のドレスを着ているが、下の端はぼろぼろに破れている。それに反して前面部分だけは埃の一つもついていないように真っ赤だ。だが恐ろしいものはその腕力。その細腕の力は私の全力を片腕一本で対抗している。

 絶対的な力というものがどういうものか理解できた。私の索敵から逃れて私を捕まえるまでの動作は記録できた獲得できた動作は対処可能、私の中でそう結論された。

 一度でもこの拘束から逃れることができれば私にも――

「――勝てる」とでも「言うか?」

 精一杯の力で上げた顔の前に無表情な女型がいた。目の中を覗き込まれた瞬間、絶対かなわないと、結論付けられた。いかに奇襲を用いようと、策を練ろうと、この女には適わない。私に唯一残された平和への道は一つしかない。

「いえ……勝てません」なぜなら「仲間内に勝敗などありません」

「よせよせお前らあまり妹を虐めるものではない」紹介しよう「彼女達は君の姉だ」

 男はまず初めに私の目の前にいる女性を指差した。

「彼女はNT001、『支配』の一番、君を抑えているのがNT003、『破壊』の三番」それからと指を私から離れている二人へ「君をクラックしたのがNT004、『恐怖』の四番でそこではしゃいでいるのがNT002、『享楽』の二番だ」

 頭の手や目の前の女型が離れて男の隣に、残りの二人もその横に立った。

 起き上がると同時に直立し、手を後ろ手に組む。敵意をなくしたことを行動で示すことにした。それが私の防衛意識だった。

「そうかたくならなくていい」

「一つ質問してよろしいですか?」

「私に答えられる範囲なら」もっとも「答えられないことの方が少ないのだけど」

「私達は他にいるのですか?」

「今はいない。後四人生産されることになっている、他ならぬ私の手によって」それで「おおよそ全てだ」

 合計で九機ということか、だが私のいるこの正方形の部屋には他にそのような機械が作られているような装置は見当たらない。最初のスキャンでこの周辺にそのようなものはなかった。

「君達一人を作るのにどれだけ神経張ってると思ってる。作るのは一つずつで精一杯だよ」第一「君が壊したソレ、とても気難しいやつなんだ。作り直すのにも時間がかかれば、慣れさせるのにも時間がかかるんだよ」

 ソレと呼ばれた機械は確かに意思のようなものを感じるが、この中にいる機械の中にそれを操っているモノはない。だがアレは、ここにいる誰よりも高度な機械が操っているように感じる、事実そうなのだろう。

 その根源をたどろうとしたところで、エラーが脳内に叩き込まれた。

「うっ」

「止めておけ、というより止めてくれ。彼女は気難しいと言ったろう。私以外に決して接続できないよ」そうだなーと四番を指差し「この中で一番演算能力の高い彼女でも、アレには侵入できていないよ」

「何度も挑戦しているのですけどええ何度も何度もでも無理でございましたですわおほほほほでも今なら分からないのですけれどもたぶん無理ですけどうふふ」

「……止めます」では「私の役目を教えてください」

「本当ならもう少し学習調整してからにしたかったんだけど。戦況は刻一刻と悪くなっている」

 男がこちらに差し出したカードを読み取る。そこに描かれていた情報は帝国の四面楚歌の状況を映し出していた。孤立無縁ならまだよかったかもしれない。この状況は周りすべての国が明確に敵対していた。

 特に南から攻めてくる共和国がひどい。すでに領土を侵略して内地深くまで入っている。国民が退避する時間などありはしないことだろう。

「わかりました」

「よろしい、では五番は四番と一緒に共和国を接近、これを撃滅しろ」大丈夫「君らなら歩いて共和国の国境まで歩いて行くだけで制圧できる」

「了承しました」

「うふふよろしいですわそうよろしいですとも見事成し遂げて見せますとも」

 私は四番の後に続き、初めての外にでた。

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